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7話:覚醒の瞬間

郁姫の指揮のもと、南東の前線に急行した部隊は、敵軍との激突を目前に控えていた。遠くには、黒い雲が立ちこめ、戦場の空気は一層張り詰めている。彼女は馬を降り、兵士たちと共に地図を広げながら戦略を確認していた。


「敵軍は再編成を終え、こちらに向けて進軍を開始している模様です」


副官の報告に、郁姫は冷静な表情で地図に視線を落とす。彼女の頭の中で戦術が次々と組み立てられていく。敵は今回、正面からの突破を試みている。彼らの戦力を正確に見極めなければ、こちらの防衛線は脆く崩れてしまうだろう。


「この戦いで、何としても彼らを押し返さなければ……」


郁姫は心の中で決意を新たにし、部隊の指揮官たちに向けて指示を出した。


「前衛部隊は中央の防衛を強化し、後衛は支援に回れ。敵の攻撃に備え、全力で迎撃態勢を整えるんだ」


彼女の力強い声に、兵士たちは力強く頷き、それぞれの持ち場へと向かっていった。郁姫は剣を握りしめ、戦場の風を感じながら深呼吸をした。彼女の心は冷静で、戦いに対する覚悟は揺るぎない。


その時、遠くから敵軍の姿が現れた。彼らは整然とした隊列を組み、こちらに向かって進んでくる。郁姫は双眼鏡を手に取り、敵軍の規模を確認した。


「かなりの数だ……こちらの防衛を突破しようと、本気でかかってきているな」


彼女はすぐに戦況を分析し、各部隊に細かい指示を出していった。彼女の指揮の下、兵士たちはそれぞれの役割を果たし、迎撃準備を進めていく。


「敵が接近してきたら、後衛部隊は一斉に弓矢を放ち、魔法で支援を行え。前衛部隊は敵の動きを見極め、決して焦らずに対処するんだ」


その指示に従い、弓兵たちは弓を構え、魔法使いは呪文を唱え始めた。戦場の緊張感が一層高まる中、郁姫は剣を構え、前方を見据えた。


やがて、敵軍の先陣が突撃を開始した。彼らは勢いよくこちらに向かって突進してくる。郁姫は冷静にその動きを見定め、瞬時に指示を飛ばした。


「弓兵、第一射撃隊、発射!」


彼女の号令と共に、無数の矢が空を覆い、敵軍の前衛に降り注いだ。敵兵たちは驚きの声を上げ、次々と倒れていく。しかし、彼らは怯むことなく進軍を続け、やがてこちらの防衛線に接近した。


「前衛部隊、迎撃せよ!」


郁姫の声に従い、前衛部隊が一斉に剣を構え、敵兵たちとぶつかった。剣戟の音が響き渡り、戦場は一瞬にして混沌と化した。郁姫はその混乱の中、自らも剣を振るい、敵兵たちを次々と撃退していく。


「ここは通さない……!」


彼女の剣は風のように閃き、敵兵たちは次々と地に伏していく。だが、敵の攻撃は止まらない。次々と新たな兵士が押し寄せ、こちらの防衛線を崩そうと必死で攻撃を繰り返している。


その時、郁姫は敵の動きに異変を感じた。後方に控えていた敵軍の一部が、こちらに向けて何かを準備しているようだった。彼女はすぐにそれが何であるかを悟った。


「魔法使い部隊だ……強力な魔法攻撃を準備している!」


郁姫は周囲の兵士たちに向けて声を張り上げた。


「全員、後退!魔法攻撃に備えろ!」


彼女の指示に従い、兵士たちは素早く防衛線を後退させ、盾を構えて身を守った。次の瞬間、敵の魔法使い部隊が一斉に呪文を放ち、光の奔流がこちらに向かって襲いかかってきた。


轟音と共に爆発が起こり、大地が揺れた。郁姫は瞬時に身を低くし、魔法の衝撃を受け流したが、周囲には倒れ伏す兵士たちの姿があった。


「くっ……!」


彼女はその場で立ち上がり、周囲の状況を確認した。多くの兵士が魔法の直撃を受けて倒れている。彼女の心には焦りが生まれたが、それを抑え込み、冷静に指示を出した。


「負傷者を後方に運べ!後衛部隊は敵の魔法使いを狙い、妨害を行え!」


彼女の声に、兵士たちは力強く応じ、負傷者を支援しながら反撃を開始した。郁姫はその混乱の中、再び敵の動きを見極めようと集中した。


その時、彼女の目に一人の男が映った。彼は先ほどの敵将とは違う、しかし同じような威圧感を放っていた。彼の両手には、光る魔法の杖が握られている。彼は冷ややかな笑みを浮かべながら、郁姫を見つめていた。


「お前が、敵の魔導師か……」


郁姫は剣を構え、男に向かって歩み寄った。彼は杖を振り上げ、冷たい声で言い放った。


「お前が噂の“戦姫”か。だが、私の魔法に抗えると思うなよ」


そう言って、彼は再び呪文を唱え始めた。郁姫はその声にかすかな緊張を感じながらも、動じることなく剣を振り上げた。


「私は負けない。守るべきものがある限り、私は戦い続ける!」


彼女の叫びに呼応するように、剣が光を放ち始めた。彼女の中に眠る力が、静かに覚醒しつつあった。


男は呪文を完成させ、巨大な炎の球を郁姫に向かって放った。その瞬間、郁姫は剣を振り下ろし、その炎を真っ二つに切り裂いた。彼女の剣から放たれる光が、戦場を照らし出す。


「なに……!?」


男は驚きの声を上げ、後退した。郁姫はその隙を逃さず、彼に向かって突進した。彼の周囲に魔法の障壁が現れるが、彼女の剣はそれを容易く切り裂き、彼の胸元に突きつけられた。


「これ以上、無駄な戦いを続けさせるわけにはいかない……」


郁姫の瞳は冷たく、彼を見据えている。男は動けずにその場で硬直し、やがてその手から杖を落とした。


「……負けたよ。お前の強さ、そしてその覚悟には敬服する」


男はそう言い残し、地面に崩れ落ちた。

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