表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

9話:静かな決意

敵軍が撤退し、戦場に静けさが戻った。夕陽が落ち始め、茜色に染まった空が広がっている。郁姫は陣地に戻り、部下たちの様子を見守りながら、安堵の息をついた。兵士たちは疲れた表情を浮かべながらも、戦い抜いた達成感に包まれていた。


「皆、お疲れ様。よく戦い抜いた」


郁姫の声に、兵士たちは振り返り、敬礼をした。彼女の優しい表情と声に、少しずつ緊張が解けていくのがわかる。郁姫は一人ひとりに目を向け、感謝の気持ちを伝えながら歩いた。


「少佐、こちらも無事に守り切れました」


副官が報告に駆け寄ってきた。彼の顔には疲れが見えたが、それでも微笑みを浮かべている。郁姫は彼に頷き、感謝の言葉をかけた。


「よくやってくれた。皆の力で、この戦いを乗り越えられたことを誇りに思う」


その言葉に、副官は少し照れた様子で頭を下げた。郁姫は周囲を見渡しながら、兵士たちの様子を確認した。負傷者の手当てを受ける者、仲間と勝利を祝う者、それぞれがこの短い平穏の時間を過ごしている。


「私たちは、こうして小さな勝利を積み重ねながら前に進んでいるんだな……」


彼女は小さく呟き、戦場の跡を見つめた。そこには、激戦の痕跡が残っている。彼女の心の中にも、戦いの疲れと共に、かすかな虚しさが広がっていた。


その時、遠くから一人の少年兵が郁姫に駆け寄ってきた。彼は緊張した面持ちで、何かを伝えたい様子だった。郁姫は彼に微笑みかけ、優しく声をかけた。


「どうしたの?落ち着いて話していいよ」


少年兵は少し戸惑いながらも、勇気を振り絞って言葉を発した。


「少佐、今日は本当にありがとうございました。自分も少しでも役に立てたでしょうか……?」


その言葉に、郁姫は優しく微笑んだ。彼の真剣な表情に、彼女は自分の過去の姿を重ねて見ていた。彼女もまた、かつてはこうして先輩たちに認められたいと必死だった。


「もちろん、君は立派に戦ってくれた。みんなの力があってこそ、今の私たちがあるんだ」


彼女の言葉に、少年兵は安堵の表情を浮かべ、深く頭を下げた。


「ありがとうございます……少佐の言葉を胸に、これからも頑張ります!」


彼の言葉に、郁姫は頷き、彼の肩に手を置いた。


「焦らず、君のペースで成長していってほしい。守りたいものを心に抱いて戦うこと、それが本当の強さだよ」


少年兵は感激した様子で敬礼をし、元気よくその場を離れていった。郁姫はその背中を見送りながら、自分自身の成長を感じていた。


「私は、彼らに何を残せるだろうか……」


彼女はふと立ち止まり、自分の手を見つめた。剣を握り、数え切れない戦いを繰り広げてきたこの手は、守るための力でもあり、傷つける力でもある。それをどのように使っていくべきか、彼女は自問自答していた。


その時、副官が再び郁姫に近づいてきた。彼の表情には、少しばかりの不安が浮かんでいる。


「少佐、これからの方針についてお伺いしたいのですが……敵軍の動きが完全に止まったわけではなく、まだ予断を許さない状況です」


郁姫は彼の言葉に頷き、再び地図を広げた。彼女の目には、冷静な判断と未来を見据える決意が宿っていた。


「今はまず、負傷者の治療と補給を優先する。敵が再び動き出す前に、こちらも体制を立て直す必要がある」


彼女の言葉に、副官は力強く頷いた。彼女の冷静な判断力と指導力は、部隊全体を支える柱となっている。


「そして、これから先の戦いに備え、情報収集を徹底しよう。敵の次の一手を見極めることが重要だ」


副官はその言葉に敬礼し、すぐに行動に移った。郁姫は再び空を見上げ、茜色に染まる雲を見つめた。


「私は、まだ戦い続ける……でも、それは無意味な戦いではない。私たちが守るべき未来のために」


彼女は深く息を吸い、静かに吐き出した。彼女の中には、新たな決意が芽生えていた。過去を背負いながらも、彼女は今の自分を見つめ直し、未来へと歩みを進めようとしていた。


茜色の空の下で、郁姫はその決意を胸に、再び戦いへと挑む覚悟を固めていた。彼女の戦いは、まだ終わらない。守るべきもののために、彼女はこれからも剣を握り、前へと進んでいく。


「私は、必ず守り抜く……皆の未来を」


彼女の瞳には、希望の光が宿っていた。戦姫として、そして一人の人間として、彼女は揺るぎない決意と共に歩み続ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ