魔法使いの最後
エヴィリオン・ヴィクトールの肖像画どころか銅像まで魔法学園に存在している。学園の創立者だし別に疑問に思うこともなかった。
魔法歴史の担当教師、パンテーン・オーヘバン先生。パンテーン先生のクエスト:《ヴィクトール魔法学園の歴史》を受注して、校内を回りながら歴史の授業を行うのがクエストの内容。でもな〜 パンテーン先生が説明で使用した肖像画や銅像はもっとお年を召された方だった。決して目の前にいる若い見た目ではなかった。
「オフィュキュース......」
「何よ、ユミナちゃ〜ん」
「さっき私に言ったこと覚えている?」
「うん?」
「『人を貶めるのはやめてよ』。そっくりそのまま送り返すよ」
「心外ね、こちらの本は知り合いじゃないわ」
指を指すオフィュキュース。エヴィリオン・ヴィクトールを語る半透明人間はいなかった。
なんかヴァルゴと喋っていた。
「では、アナタが星霊......乙女座か」
「はい、やっとお話ができました」
「私と話?」
「星刻の錫杖を修復してくださったことへの感謝を」
「星刻の錫杖か。私の賢者時代、最大の難問だった。しかし私の腕では完全な復活はできなかった。だが、アナタを見る限り、唯一石化を解く魔法を持つ星刻の錫杖は復活したようだな」
「はい、あちらのお嬢様が星刻の錫杖を復活させてくれました。私の恩人で、愛しきお方です」
「......ユミナ?」
自称エヴィリオン・ヴィクトールが私とオフィュキュースを交互に見入る。
「念の為に確認するが、ヴァルゴさん。どっちだわさ?」
ヴァルゴは体を私に近づけた。テーブルに置かれた私の手を恋人握し、私の肩に頭を置くヴァルゴ。
「こちらが私が敬愛するユミナ様です!!」
「ちょっと、恥ずかしいから退けてよ。重い......」
「お嬢様、手でも女性に対して”重い”はダメですよ」
「それは、ごめん。じゃあ退けてよ!?」
「いやです。最近、お嬢様が他の女にかかりきりで私は『お嬢様欠乏症』末期です」
「『かかりきり』って昨日、一緒に寝たじゃん」
「少ないです。逆効果です。もっと触りたい欲が爆発しました」
「よほど興奮しているわね。『清浄なる世界へ』!!!」
「お嬢様......私はバッドステータスにかかっていません」
「かかっているわよ。『ユミナ様に興奮』の状態異常に」
「ぶぅ〜 いじわるがすぎませんか」
「頬を膨らませても、ダメです。えっとー......何か?」
私とヴァルゴのいつもの日常に呆れる顔と微笑み顔をしていた者たち。
「私はこんなことのために......いや、これでいいのか......」
「恩人から恋人に......それにしても人間と星霊は婚姻できるのか?」
オフィュキュースの言葉は聞こえなかった。自称エヴィリオン・ヴィクトールは私たちを凝視するなりアホな事を言い始めた。こ、婚姻って......やめてよ。
私に近づく自称エヴィリオン・ヴィクトール。
「なるほどな〜 お前さんが。ユミナとか言ったな」
「はい、自称エヴィリオン・ヴィクトールさん」
「紛い物ではない。私は本物のエヴィリオン・ヴィクトールだわさ」
「そうですね、”本物”さんですか。アハハ......」
「信じていない目だわさ。なら証明させよう」
ウィンドウが表示された。自称エヴィリオン・ヴィクトールからのクエストだった。
《エヴィリオン・ヴィクトールの魔導師への道》
「そこまでムキにエヴィリオン・ヴィクトールを名乗らなくても......」
しかし、”魔導師”か......魔術師と似たような職業だよね。”はい”っと!!
「では、早速行うだわさ」
「待ってください。明日でいいですか?」
「明日......そうか、もう夜も進んでいるな。いいだろう、では明日からお前さんを最高の魔導師にしてやる!!」
なんか前にも似たような場面があったような......
瓦礫の中を、足を止めずに猛ダッシュする私。【チャージング・アクセルフォース】、【暴走の代償】を起動している。一瞬は逃げ切れたが、周囲の僅かな変化を見逃さず私は発見され、今尚走っている。
クッソォォ、自称エヴィリオン・ヴィクトールめ。いや......これは私のせい?
”魔導師”になるクエストを早速受けようっと意気込んだは良いもののエヴィリオン・ヴィクトールに却下された。”魔導師”の前に”魔術師”になってこいと......ならば初めからそう言えと私は拳を強く握りながら、自称エヴィリオン・ヴィクトール(爆笑)を睨んでいた。
ヴィクトール大図書館にいく前に”魔術師”を取得できるクエスト、《魔への分岐点》。魔法モンスター100体を退治するのがクエストの内容。内容だけ見れば討伐系なので簡単なのではっと思う。しかし当然ながらただ倒すだけではないのが《魔への分岐点》。
まず、モンスターへの攻撃は必ず呪文のみ。片手剣やナックル武器が使えないし、攻撃スキルの使用不可が嫌だけど、予想できたこと。魔法使いから魔術師になるんだから魔法を使わないとなんのための上位職業なのかっていう疑問になる。なので今まで習得した魔法でモンスターへ攻撃している。
使用できるスキルは移動系統のみ。魔法威力を倍増してくるスキル系統は使用不可となっている。己が研鑽した呪文以外使用できないというのが《魔への分岐点》の条件。
合格には100体魔法モンスターの討伐。攻撃は習得した呪文のみ。一回でも呪文以外の攻撃した場合......不合格となる。杖を棍棒のように振り回すのも殴る打撃武器として使うのもダメらしい。因みに不合格になっても入学や永住試験と違い再挑戦ができる救済措置があるのが唯一の救い。
「ここまで成長させてきて......よかった。ありがとう!」
言語理解しているのはフィールド内で私だけなので完全なる独り言。
ヴィクトール魔法学園で数多のクエストをこなしてきた。中にはプレイヤーの魔法レベルだけを上昇させてくれる訓練クエストもあった。結果、私の呪文は”V”と”E”にまで到達した。オニキス・オンラインの魔法使いが習得する呪文は独自のレベルと敵への攻撃範囲が上がるシステム。
例えば、初期呪文の火の玉『ファイヤーボール』。
少し威力が増え、少し射程距離が伸びる『ファイM』。
『ファイM』を二倍にした威力と射程距離が5メートル伸びるのが『ファイD』。
『ファイD』を三倍にした威力と射程距離が10メートル伸びるのが『ファイG』。
『ファイG』以降は単体でも威力が高い、加えて対象を中心とした攻撃範囲も広げれる。
『ファイG』が変化すると『ファイV』となる。
今までは敵一体に目掛けての攻撃だった。しかし『ファイV』に移行してから半径5メートルの範囲にいる敵も同じく火の玉攻撃を与えることが可能になる。敵を火傷状態にもできる。小全体攻撃。
『ファイV』が変化すると『ファイE 』となる。
半径15メートルまで拡張した全体攻撃。火傷から炎上の状態異常を与えることが可能。中全体攻撃。
そして、魔法使いの呪文レベルが最大となる『ファイヤー・C 』。全体範囲攻撃は半径30メートルまで拡張。威力も魔法使いの中でも最高峰。炎上から大炎上の状態異常を与えることが可能。
さすがに『C 』には至ることはできなかったけど、『E 』でも十分。
「これで......5体一気」
至近距離からの『アイE 』。氷山の一角のようなぶっとい槍で胴体を貫通、状態異常:凍結も加わり、身動き取れず倒された。
間髪入れずに魔法モンスターが迫る。名称にも明記されているが魔法を扱う不思議なモンスター。プレイヤーと同じように火や水などの魔法を放ちながら自身の物理攻撃を繰り出してくる。バックステップで攻撃を回避しているオランウータン似のモンスターは鋭い爪で私に攻撃しながら、隙あらば土魔法で私の足を止め、動きを封じる行動を起こしてくる。
後ろから別の手長猿モンスター。
横へ回避して『ファイE 』を放つ。獄炎の大玉が地上に落ち、燃え盛る瓦礫フィールド。
悪趣味かもしれないが、私を攻撃してきた2体と奇襲攻撃を企てていた3体も巻き込まれて炎のカーテンで黒ずみ姿で踊っていた。
「キリがない......」
ずっと鑑賞する趣味はないので後ろから猛然と走ってくる......いや、突っ込んでくるサイとカバ?
サイのツノは雷を帯びている。カバ? は大きく口を開く。開いた口には標準装備の歯が毒毒しかった。捕まえた者を鋭利な歯で深く刺してからの毒を体に注入するってことかしら......エグくない?
「逃げたいけど......加速スキルが」
リキャストタイムが待ちの加速スキルたち。自前のAGIとSTMで頑張るしかない。
逃げようとした瞬間、瓦礫の山から、天井を這って近づく集団。前後左右上に私を取り囲むモンスターの連合軍団。
「か弱い乙女に必死すぎない......」
私の言葉が引き金になったのか一斉に群がってくるモンスターの壁。
「やって......やるわよ!!」
右手の星刻の錫杖。左手の熱火の魔法棒。二つの杖武器にそれぞれ呪文を込める。
宇宙空にひらめく雷光が走り、周囲へ激しく轟いた。真っ赤な炎を模したタクトに吹き荒れる嵐。混ざり合う火と荒れ狂う風は暴風炎と化す。
「待たせたね、こっちは準備完了よ」
私は殺到するモンスターたちに逃げの選択を排除して前へ動く選択を取った。
退けて未来を掴む。