用法用量を守ろうね
「ただいま!!!」
私は玉座の間の扉を大きく開けた。
部屋にいたのはアリエスだけだった。それほど時間は経っていないのに懐かしいのはクイーンさんとの戦闘が濃厚だったからなのかな。
懐かしんでしまうのは、ヨォーギャンの洞窟の第五層。洞窟の主とも呼べる、『アグロームヌイ・イジミロイノリー・スクラート・パクリッティ・ヴゥルカーン』が原因。
..................もう、長かった。ボスモンスターの名称も長いが戦闘も非常にうざかった。
全身がマグマに覆われているクソモンスター。パンチで腕に付いているマグマが飛び散る。マグマが地面に接触すれば、溶けてマグマだまりができる。行動範囲は『アイG』で凍らせて広げたり、マグマの流動の中でも移動を可能にしてくれた功労者、『リキッド』。低確率で自分を液状化に変化できる呪文。
これで移動の問題は解決と思っていた矢先に......
アイツ、体を丸めてから回転突撃してくる。手に溜まっているマグマをポンポン投げてくる。足をジタバタして地面を地震並みに揺らすなどなどの迷惑モーションの数々を披露。
現状、最悪でキングオブキングのクソモンスターの称号は『アグロームヌイ・イジミロイノリー・スクラート・パクリッティ・ヴゥルカーン』で間違いない。
私一人ではどうすることもできなかっただろう。ステータス的な意味合いではなく、戦闘経験的な意味。フィールドの変化、ボスのモーション、自分のステータスの状況。やらなかきゃいけないこと、覚えなきゃいけないことを挙げるとキリがなかった。本当にクイーンさんがいてくれてよかった。
以前使っていた義賊の短剣と大怪盗の短剣もよい性能を持っていた。二振りの刀身ではボスモンスターに至近距離まで詰めないと当たらない範囲だった。戦闘で使ったのが一度見た、巨大な青とシルバー色のハンマー。
名前は『破王双藍』。長い柄と巨大で均等な金槌。凶悪無比な見た目の武器を涼しい顔で振り回していた時には恐怖を覚えた。
驚いたのは、『破王双藍』が金槌から双剣に変形できたこと。
【覇藍の友】と【玉藍の愛】。
特定の条件で発動できる『破王双藍』の武器能力らしい。使用者の音声認識でキーワードを言えば、発動するとか。まさか......金槌が縦に真っ二つに割れて、柄が刀身へ。折り畳まれた金槌の内側に、双剣用の持ち手が内蔵されてるなんて......びっくりしたよ。
折り畳まれた金槌本体は、ハンマーとしては使用できないが盾の役割で使っていた。
スタイルは剣と盾を持つ王道なのに、超長い刀身を持つ双剣に二つの盾が付属している特徴となっていた。
もう一つの『金始刀【閃】』って金色の太刀もおかしかったな、いろんな意味で......
本当にクイーンさんって......謎な人だよ。
「お帰りなさい、ユミナ様」
「ただいま、アリエス」
私の姿を見たアリエスは猛スピードで近づき抱きついてきた。
柔らかい......(嬉しい涙目)
抱きつくなりすりすりしたり、嗅いだりしていた。
「ユミナ様の温もり......はうぅ」
「二時間くらいじゃん」
「二時間もです。待っている間は悠久の刻の感覚でした」
「それは......心配かけたね。ごめんなさい」
更に強く抱きしめられた。
「これで許します!!」
「ねぇ、二人は?」
「タウロスは工房です」
「武器や防具の感想言わないと!」
「で、ヴァルゴですが......」
「うん? 何かあった?」
「口で説明するよりも実際に見た方が早いですよ」
『見た方が早い』??? まさかね......
私たちは王の寝室。つまりユミナの寝室にたどり着いた。
「あれ? 鍵がかかっている」
「はぁ〜 失礼します、ユミナ様」
アリエスが扉を叩く。
「ヴァルゴ、ユミナ様が帰られました。開けなさい」
ゆっくり開く扉。
「あっ、開いたちゃあああ!?!?!」
僅かな隙間から飛び出した腕。腕を掴まれた私は扉の魔物に喰われた。
「ずるいわよぉぉおお!!! 開けなさい、ヴァルゴぉおおおお!!!」
謎の腕に吸い込まれた私はそのままベットに倒れ込む。
「痛い......何よ」
私に馬乗りしているのは......腕の魔物。もといヴァルゴだった。
「いきなり何するのよ、ヴァルゴ」
「ヴァルゴ? 誰ですか、ワレは城の女王を喰べるモンスターである」
「はいはい、モンスターね」
「喰べる場所は......ここですね!」
「本当に私の首、好きだよね。実は吸血鬼だったとか」
「悪魔です。ち、違います......おっほん、私は飢えたモンスターです」
「言い直さなくてもいいんだけど......」
「それにしても、ユミナ様」
「芝居、辞めたんだね。で、何?」
「今日はまた一段と人を誘惑する見た目ですね」
「うん? 見た目......しまった!?!?」
私の装備は普段の幽天深綺の魅姫ではなく、炎蘭の艶衣。つまりプレイヤーも魅了してしまう魅惑の真っ赤なチャイナドレス。
「今、変えるから。その目は何?」
「本当にユミナ様は私の心を惑わすお方ですね」
「だから、変えるから。指を絡ませないでくれるかな。動かせない......」
「いやです。ユミナ様の体は私のです。勝手な行動は認めません」
「私の体は私のだよ。急におバカキャラにならないで」
「実は更なる段階を踏もうと思うんです」
「じ、実に嫌な展開......」
「安心してください。ユミナ様が私にしてくれたことです」
「うん? 何かやったっけ」
「接吻です。つまりキスです」
「ブハァ、何言うのよ。はしたない」
「はしたなくはないです。神聖な行いです。それにユミナ様も自分から私にしてきたではないですか、何回も」
「悪魔が聖なる行いしていいのかな。それに、あれはその場のノリっていうか」
「つまりは、いつでも、どこでも、いかなるところでも私はユミナ様の欲望の捌け口だと」
「言葉を選んでくれないぃぃいい!?!?!?!?」
「ご心配ないです。今から私が行うのは......ユミナ様がやったようなお子様のキスではありません」
「はぁ〜 『お子様』ね〜 それはそうと嫌な予感。ねぇ、まさかだと思うけど、それって......」
「大人の、です」
「は、離してぇええええ!!! まだそれはいい。顔を赤くするなぁああ!!」
「大丈夫です、一瞬ですので」
「その後、じっくりいくんでしょう。ヴァルゴはいつもそうじゃん!!」
「よくわかっていますね。さすがは私の主です」
なんで倫理警告が出ないんだ......
安心してください。ボルス城の城内のある部屋は防音が完璧。中から音を拾う手段は扉を開けるか、窓を開けるかの二択である。
◆
突然ですが、みなさんはケーキを食べたことがありますか?
ポピュラーなチョコレートケーキ。ど定番のショートケーキ。板というタルトの上でおしくらまんじゅうになっているフルーツたち、フルーツタルト。私も大好きなモンブラン。他にもベイクドチーズケーキ、数多の種類のケーキが存在する。
フォークがテーブルに落ちる音が響く。その後、顔面からテーブルへ突っ伏す。一つの音ではない、続々と増えていく音たち。
今テーブルに置かれている顔が全部で三つ。顔は上がることはない。体も動かすことはない。
「もう食べれない。助けて......」
「てか、なんでこんなことになったんだっけ」
「みはるに言ってよ」
三つの顔は最後の力で横を向ける。視線の先にはキッチンで鼻唄混じりでスイーツを作っている私の悪友ナンバー2でもある楠木みはるがいる。
「は〜い!! 新作だよ!」
みはるちゃんが持ってきてくれたのはガトーショコラケーキを元にアレンジを加えたホールケーキ。
「「「もう..................勘弁してください」」」
巨大金槌:破王双藍
長双剣:覇藍の友
:玉藍の愛
必殺技:魔魂封醒:【檄戦嫩絆】
大太刀:金始刀【閃】
???:耀金妃叛銃
必殺技:魔魂封醒:【壮速燦絆】
いつでも切り替えが可能な変形機構武器。とあるユニーククエストをクリアしたクイーンしか所持していない武器。




