糖の結晶化というより色気たっぷりのフェロモン持ち
私たちは叫棺の洋館に向かうため森の中を歩いている。
通学二日目であって少し新鮮さがなくなった。なんか夜の行動が主になっているかもしれない。通学路にいるのは凶暴化している獣系モンスターや叫棺の洋館付近になるにつれて、友人になりつつあるお化けモンスターが登校している。
ヴァルゴやアリエスに素材などを預かってもらっている。オフィュキュースと戦ったディラオド古城や叫棺の洋館で入手したアイテム類を売却したら、中々な高値で売ることができた。売ってくれたNPCさん達、私に緊張した顔立ちだった。まぁ~そのお陰で私の懐がポカポカ陽気並みに暖かいから良しとしよう!
今の私は成金ユミナ。当面のお金はなんとかなった。だけど、お金は使わないと利用価値はない。タウロスの鍛治費用が高い。『幽天深綺の魅姫』と同レベルの装備品を何個か依頼すれば一瞬で懐が寂しくなる。この先、未発見の場所があるとは限らないし、いつでも確実にアイテムが取れる可能性もない。金策の最終目標は、何もしなくてもお金が入ってくるシステムを作ること。
「それにしてもヴァルゴの願い......これで良かったの?」
「アイリスとはもう一度、会わないといけません」
「だって......」
「お嬢様はいつから煩悩丸出しになったんですか」
「アンタが元凶でしょう!? アリエスといいヴァルゴといい。全く、人を性欲魔人みたいに言わないでよ」
「『魔人』ですか......またいつか戦いたいものです。アイツら、どいつもこいつ戦闘狂でしたから」
「オッーイ。話、聞いてる〜」
「あれは聞いていませんね、絶対に」
「だな、自分の世界へ行ってるぜ」
「これからシリアス場面があるにも関わらず......」
「と、ところでユミナ様」
「うん?」
「よ、よくお似合いです!!」
「そうだな、お嬢は素材が良いからなんでも着こなせるな」
「二人ともありがとう!!」
タウロスが製作してくれた『幽天深綺の魅姫』。今は夜なので紫メインのドレスとなっている。静寂に包まれているフィールドに一際、キラキラしているドレス。
前が短くて、後ろが長いドレスでもある『幽天深綺の魅姫』。インナーミニロングとかマレットドレスとか色々言い方があったはず。これまで着たこともないタイプの服なのもあってか少し恥ずかしい気持ちがある。
なんというか人を魅了させてしまう潜在的なものを持っている。こういう惑わすタイプのドレスは体に絶対的な自信を持っている者が着てこそ真価が発揮される。おまけに前が短いスカートと素足が見えていることで余計に羞恥さが倍増していた。
「私......そこまで美脚じゃないのに」
「何をおっしゃいますか、お嬢様」
「あっ、戻ってきた」
「お嬢様の肢体は全ての女性を魅了する力があります。今でも私はドキドキするし、お嬢様の脚は究極美であると私が証明します」
「美脚のライセンスがいる時にお願いするね」
私はその場で一回転した。後ろのドレスが風を巻き起こしたことでなびいている。風が弱くて良かった。世の中にはイラズラな風というものがある。乱数をことごとく成功に導き、女性のスカートを捲し上げる。そんなラッキー展開が起こらなくてホッとしている私がいた。
『純白の霊奏』は布を上げて装備している。この場所では隠れる理由もない。白兎のバンドで手に入るMATは今の私のステータスでは微々たるもの。それにタウロスが丹精込めた装備品を使わない手はない。
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〜装備欄〜
頭:純白の霊奏(CHR:400)(VIT:100)
上半身:幽天深綺の魅姫【月下気紫】
下半身:幽天深綺の魅姫(AGI:500)(CHR:1000)
足:バードラン(AGI:15)
右武器:星刻の錫杖Lv.5:【ENERGY MOON】75/80
左武器:
装飾品
①:オフィの指輪:蘇生回数:0/3
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「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。これは、インフレ激化しすぎ問題」
新たに手に入れた装備品を装着して思ったことが口に出てしまった。
性能が良いもので上位プレイヤーの上になりたい欲は私にはない。元々の目的が別にあるから。
でも、強すぎるのも考えもの。
それに外付けの装備品に星刻の錫杖で増えた強制ステータス増加効果も加わって敵モンスターには負けないレベルにまで達している。
装備欄三箇所が目立つ分、足の貧弱具合が限界突破している。滞空ができる点はデカいけどそれ以外の性能に霞んでしまう。ドレスにブーツ、合っているようで合っていない。ドレスといったらヒールだと勝手に思っている。走る向きではないし慣れないと歩きづらい点があるが、ドレスとの一体感が良い。せめて一つは欲しい。ヴァルゴの願いが完了した後、タウロスに足装備を作ってもらう!!
「お嬢様。願いを破棄することは可能ですか」
「どうしたのよ、いきなり!?」
「教会に行きましょう!!」
「いや、なぜゆえ!?!?」
「私の一生になってください」
「これから会う吸血鬼が可哀想になってくるぜ」
「アタシたちでヴァルゴに教育するのはどうでしょうか、ユミナ様」
「それもそうね」
「「「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」」
「何故、お嬢様含めて三人がため息しているんですか? 激おこです」
ヴァルゴはプンスカしていた。威圧感がない怒りのヴァルゴは可愛い。心を開いている者にしか見せない表情というのか。
嬉しい反面、残念さが際立つ。
「私の憧れ返して欲しいな〜」
「お嬢様が遠い目をしているのは気のせいですよね」
「ねぇ、タウロス」
「無視された!?」
「どうした、お嬢」
「幽天深綺の魅姫を装備して実感したんだけど。モンスターの行動が遅くなるんだけど」
「まぁ、それだけお嬢に見惚れている証拠だよ」
「行動不能になってくれるのは重宝されると思うけど......毎回、モンスターが向かってくるのは嫌だな」
「それは心配ないだろ」
「うるさいぃぃいいいいいいいいいいいいっ!!!!!! 双天打ち!!」
うわぁ......獣系モンスターが見事なサイコロステーキになっていく。彼岸の星剣と赫岸の星劍で器用に網目状に斬撃を飛ばして細切れにしている。逃げる思考はないのかな......いや、私のCHR値が優先されているのかもしれない。なんか木に塗られているハチミツな気分。私に夢中状態だから確定で切断させられているモンスターたち。なんかごめんなさい......
「私の本職、トラップ装置なのかな」
「モンスターが強者に逃げるのはわかりますけど、確殺されるのに向かってくるのは......」
「本能の赴くままってやつか......人気者だな、お嬢は」
湧出がなくなったのか騒がしかった森が再び静寂を取り戻した。
予期せぬ乱獲で獣系統や昆虫系統のモンスターの素材類が地面に溢れている。
「いいわね、ヴァルゴ。自重しないと次からは本当に無視するからね」
「はい............分かりました」
ササクさと大量素材類を回収して、古びた洋館に辿り着いた。
魔人:『オニオン』では女型6体と絶対的女王1体がいる。
悪魔の中でも恐ろしい集団。
遭遇したら、絶対に逃げれない。勝つか負けるかの選択肢しかない。
魔人たちは力を持っていない弱者にはやる気のなく容赦のない攻撃。力を持っている大物には嬉々として全力攻撃をしてくれる凶悪な存在。
プレイヤーとの遭遇率は極めて低確率。現状、条件も不明瞭。




