触れる理由は見つかったか?
「あのさぁ、アリエスのことなんだけど」
私の脳内は三十分前の記憶を呼び起こす。
本当なら叫棺の洋館からは出られない。いや、出られるには出られる。入り口の扉を開ければすんなりと外に出られる。が、さすがはお化け屋敷というべきなのか。一階エントランスにある出入り口のドアノブ。ドアノブに触れた者は威力の高い呪いを受けるトラップが仕掛けられていた。前に叫棺の洋館に入ったアクイローネが速攻で死亡したのはこれが原因。「ティーグル」から六つ目の街となる「セルパン」に生息しているモンスターにも敵に呪怨攻撃をしてくる厄介な奴もいるらしいがちゃんとした対策。呪いを打ち消す聖水などを準備していたらそれほど脅威にはならない。だ、叫棺の洋館は余程恨みが強いのかモンスターだけではなく屋敷全体が”呪い”と化していた。プレイヤーやNPCは100%呪いを跳ね返すスキルや魔法を所持していないと詰んでしまう。
私は過労死魔法があるので出入り自由。ヴァルゴの持つ黄道スキルで解除されている【カミノケ】は星座で言うところの”かみのけ座”。効果は周りにあるモノを黒髪にしてしまう能力らしい。道に落ちている葉っぱや石ころなど触れると髪の毛に変化され、自由に扱うことができる。一見すると使い所がないスキルだと思うがヴァルゴの身代わりになることができる点。周りにあるモノを髪の毛に変化させヴァルゴの腕に貼り付けて置けば例え、大ダメージを受けても変化中の髪の毛が代わりになってくれる。更に自由に動かすことができるので集めた毛量によって重たい物を拾えるなど動かせる手が増える。
ヴァルゴは【カミノケ】を使って罠がありそうな場所や物、それこそ出入り口のドアノブは全て【カミノケ】で対応していた。アクイローネは呪いを打ち消す魔法やスキルを持っていないためタウロスと行動を共にしていた。
で、問題はアリエス。私とクイーンさんが一階の捜索を終え、一度休憩しようとみんなを待っていた時に、二階から降りてきたアリエスがいた。
階段を降りていたアリエスに幽霊モンスターが迫っていた。階段の板部分からは無数の幽霊の腕が、天井にあるシャンデリアや壁からお化けモンスターがアリエス目掛けて一斉に飛び出していた。
加勢しようとアリエスの元に向かうが床から出現したオレンジ色に染まっているお化けモンスターが立ちはだかり、コイツを倒さないとアリエスのところには行けなかった。
少しずつこの叫棺の洋館に出現するお化けモンスターの動きに慣れてきた。いくつかのタイプがいて、それに応じて、私たちは行動を変えていた。
今、私とクイーンさんの前で暴れているモンスターは大柄の体にハンマーを持つお化け。
その巨体を活かして突進してきたり、野球のヘッドスライディングの要領で倒れ込むようなモーションを入れてくる。
体の方に注意していると持っているハンマーの餌食になる。流石はハンマー。重量級の武器だけのことはあって当たればダメージ量がエグい。星刻の錫杖のお陰で全ステータスがプラス100。この付与効果がなければ死へ一直線コースとなっていた場面が多々あった。
今も振り下ろされたハンマーを後ろへ跳躍し回避。叩きつけたハンマーを持ち上げ、自分も独楽のように回転しながらハンマーをスイングした。このお化けはどこでハンマー投げのスイングを目撃したのかは謎だが、ただ叩き付けられるよりもダメージ量は多い。回転中は近づけないので遠距離での攻撃が有効。
光魔法の【シャイン】
後方から聖なる光を帯びた細い線を大回転中のお化けに放った。当たったのか微妙な判定。
お化けモンスターに決定打を浴びせれるのは現状、【シャイン】しかない。MPにも余裕があるのでマシンガンの如く連発していった。
回転行動を中止したお化けは再び、振り上げのモーションに入る。僅かに開いた間。その隙に距離を詰め、胴体部分に『魔法使いの右手』が加わった【シャイン】を放ち、ハンマー持ちお化けはポリゴンとなり爆散した。
「急いで......アリエスの元に??」
アリエスに目を向けると彼女は光となっていた。
アリエスを覆う薄い膜。アリエスに手を出すお化けモンスターは、間にある膜に接触。当たった手から腕へ、最後は体全体に神々しい白い線が体全体を侵食しモンスターは次々、爆散して残ったのは素材だけだった。
素材を回収していたアリエスは悲しい表情を浮かべていた。
「これは......触れられるのに......」
......
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そして、回想終了。
全員合流した後、クイーンさんのセーブハウスで休憩している。もうすぐしたら再開する予定となっていた。
「ユミナ様が聞きたいこと内容は分かります。しかし、それを私が言ってしまうのはアリエスに申し訳ないです」
「それは分かるんだけど......」
「ユミナ様は私の本当の姿を見てもいつも通りに接してくれました。後は......」
「......そうだね。後は私がしたいことをする。いつも通り、のね!!」
ヴァルゴにピースサインをする。ヴァルゴもまた、嬉しそうに微笑した。
「それで十分です」
一旦、ログアウトした。
白陽姫ちゃんと一緒に食べようとしたが部屋をノックしても返事がなかったので寝ていると思い一人で軽い食事を済ませて再びログインした。
......
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........................
「やっぱり、アリエスってスベスベだよね」
ビクついているアリエスの腕を頬擦りしていた。
叫棺の洋館の一階を探索中の私とアリエス。一度探索済なら見る必要はないと思うだろうが、意外と見落としている場所もあった。エントランスから左側のすぐの部屋には散乱していた物を退かすと換金用の金貨などを発見した。お金はいくらあっても腐ることはない。素材集めと並行してお金集めもやっている。叶うことなら一度に大量にお金が増える方法があれば問題ないんだけど......簡単には見つからない。
「あの、アタシは......」
アシリアさんの時も感じていたけど、金髪美少女っているだけで心が浄化されていく気がする。しかもアシリアさんもアリエスも聖女の職業。人を綺麗にすることが出来る存在なのだ!!
現実ではあり得ない事だが、アリエスに触れると自分に運気が巡っていくような至福状態に陥ってしまう。
「満たされるってこうことなのかな......!」
「アタシに触ると......」
「私が触っちゃ、ダメ?」
「いえ、ダメと言う訳ではなく......ユミナ様のお体にさわります」
「それを言うなら、アリエスの方が深刻な顔になっているけど」
そんな顔は出していませんアピールをするアリエスはお化けモンスターが出てこない数点の絵画を『ウラニア』の無限倉庫へ放り投げた。
「アタシは大丈夫ですので......」
「アリエス......主としてハッキリ言うね」
「......はい」
「抱きついていい?」
驚愕の表情を浮かべるアリエスだが、回答を出させる前に私は抱きついた。
「柔らかい......!?」
本当に元人間? 前に星霊にはならないと固く誓ったが、もしも星霊になることで女性として上に受けるなら、考えものだ。
「ダッ......メ......です!!」
アリエスが突き放したことで私は尻もちをつく。
主人に対して愚行をしたことにオロオロするアリエス。手を出して私を立たせようと行動を起こすが徐々に自分の手を引っ込めていた。
「申し訳ありません」
あぐらをかく。女の子には少々はしたない格好だけど、他に誰もいないことだしまぁ、いいかの精神で姿勢を直さずアリエスを見た。同時に私はステータスを開く。
HPが九割も減っていた。ある意味、アリエスが突き放してくれたお陰で死亡することはなかった。
ダメージ量が休憩前に戦ったハンマー持ちのお化けモンスター以上だった。
持ち前の回復魔法でHPを全快にして、消費したMPは新たに手に入れた【星霜の女王】専用スキルでもある『月光からの愛』。消費する【EM】は10ポイントとまあまあ高いけど、消費されたMPを完全に一回で全回復してくれるのはメリットしかない。10ポイント分消費した【EM】も『簡易の偽月』で回復できる。なんだろう......セルフメディケーションしているみたい。
大きく両腕を広げる。
「ほら、この通り私は元気だよ。だからそんな深刻そうな顔はやめてよね」
「失礼を承知で言うことをお許しください、ユミナ様。これでわかったでしょう、アタシに触れた生物は皆、危篤状態になります。今回は軽症でよかったものの次はそうはいきません。主を殺したとなればアタシは......この世に居場所はありません。だから、二度とアタシに触れないでください。アタシは大丈夫ですから」
「それで幸せなの?」




