時間が溶けるくらいに広い室内
叫棺の洋館:一階
入ってすぐはエントランス。真っ直ぐ進めば二階に上がれる階段がある。
私と臨時でパーティーメンバーになったクイーンさんと上には進まず左右に広がる通路から探索することにした。
階段を登る提案もあったんだけど、階段になんか地縛霊みたいなモンスターが数体、棲みついていたので後回しにした。
叫棺の洋館:一階右側廊下
絵画が動く。中世の服装を着ている男性だった。目が移動する。
二次元から三次元に飛び出してきた男性の頭、腕。
「がアァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
「キャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!! 悪霊退散!!!!!!!!!!」
『ダブルアクセル』、『初速の行進』で動く壁画へ近づき、超至近距離からの【ファイディ】。豪炎の球を放つ。絵画だったとしても所詮、額縁と絵だけで構成されている。基本は木と紙だ。
燃えやすい代表みたいなモノたちが高火力の火の玉に当たればどうなるのか。
端から中心にかけて燃えていく。【ファイディ】単体では敵を倒せないと踏んで、MATに補正が入る『魔法使いの右手』。私を襲った罰で、敵がダメージを受けると恐怖状態にさせる『血祭り』を起動。
絵の中にいた男性は私をこの世の中で出会ったことがない恐怖と認識したのか。燃え盛る中、断末魔を叫ぶのだった。
ドロップしたのは焦げた額縁。素材として使い道は多分ない。それどころか換金用としても価値は低いと考えられる。
鳥肌が立つ感覚は搭載されていないはず。段々ワザと驚いているのと思われているかもしれない。
イタズラをするのに命かけているわね。お化けだから命もへったくれもないけど。
なんか、したっけ? しかし、床も壁もあちこち汚い......
今回のメインは素材とアイテム回収。だから、素材はモンスターから回収できるけどアイテムはこの洋館の至る所にある。廊下にあった花瓶や額縁、燭台などは目に見えて”これ取れるな”とあからさまなアイコンが出現している。
問題は目で見えない点。部屋の中にあるタンスや木箱の中。絶対に開けないと中身を確認できない仕様となっている。まぁ、ゲームなんだからそういう演出を取り入れるのは仕方がない。でも、幽霊洋館では話が別。
この洋館内を歩いていてもお化けモンスターは常にアクティブモードになっている。洋館に入った時点で洋館内に生息しているモンスターに認識されているかもしれない。歩く度に驚かされる。自分で私を驚かすモンスターもいれば洋館内にある物を気付かれないように落としたり壁に投げて音を発生させたりして私を恐怖のどん底に落とそうとしていた。
そして、こんな中身が分からない物体なんて罠があるに決まっている。
一応、【採取】があるが、これは宝箱の中身に”何か”ある。輪郭だけ確認できるが、正体は開けないと判明できない。
「お化けはいない......良し」
一階に設置されていた部屋を片っ端から探索していった。
ある部屋で宝箱っぽいモノを発見して、中身に異常がないのかスキルを使用して確かめていった。
『採取』で私の目から見える景色はサーモグラフィーで表示される映像や画像のよう。
お化けがいなくてもやっぱり開けるのは勇気がいる。
「燻んでいるけど......ネックレス?」
物色した結果宝石も出てきた。私とて女の子。宝石を持つことに憧れもある。
更に宝石類は換金アイテムとしても利用できる。
この洋館は未発見の場所。ということはたくさん集めておけば、ゲームライフが豊かになる。一気に金持ちプレイも可能になる。そうとなればガンガンかき集める。ニッシシ!
一階の最奥、つまり行き止まりに到達した。
そこには鏡があった。巨大な鏡が縦に存在していた。
鏡に映った私とクイーンさんの顔が歪む。正確に言えば悪巧みに成功してニヤニヤした狡猾な顔。
ほら、鏡からお化けが出てくるとかも定番。後は鏡の世界に誘われる動きなどなど、恐怖体験はある。
鏡から出てきたのはドレスを着た女の子。片目が髪で隠れているが中々に可愛らしい顔立ち。
一応、モンスターの位置付け。『反転した不憫少女』なる白髪ロングヘアーの少女はしくしく泣いていた。
モンスターと分かっていても......やりづらい気持ちが勝っている。
「大丈夫?」
顔が上げ、私の顔に手をかける『反転した不憫少女』。
さっきの定番ネタで別のがあるのなら、鏡の世界に誘われる動きなどなど、恐怖体験もある。つまり、今私が受けている攻撃がまさにそれ。
(間に合わない......)
「すまないが君に構っている場合じゃないんだ」
私と『反転した不憫少女』の間に入ったのはクイーンさん。
『反転した不憫少女』の額にナイフ形状の武器を突き刺したが、ダメージはなかった。
即座に左にも武器を装備して鏡を細切れにしていった。
「本体に攻撃が出来ないのなら魂魄しているモノを叩けば......倒せる」
鏡だった破片が地面に落ちる。同時に『反転した不憫少女』も成仏したみたいに天に召されていった。
なんか本当にやりにくい。召されるのはゲーム的演出だろうが叫棺の洋館で出現するモンスターのほとんどが『反転した不憫少女』と同様の演出が組み込まれているとしたら、確かに精神攻撃には有効かもしれない。
おのれ、運営。お化け耐性がないプレイヤーに追加で外部攻撃を仕掛けてくるとは......侮れない。
それにしてもクイーンさんが持っている武器は自分が着ている怪盗服に因んだ名前もそれに合わせているとか。
怪盗服の名前は白銀の幻鍵。
怪盗服の名称に関しては何故これなのか不明らしい
白銀の幻鍵はステータス全体が上昇するが俊敏値の上昇値が一番高い。そこは小説に出てくる怪盗を参考にしていると思う。
スキル構成も加速系と思考系が多いらしい。イロモノとして敵の体に自分の手を手刀か武器の剣先で指すことで行動不能にするスキルを持っているらしいが本当かどうか眉唾ものとなっている。
クイーンさんの戦闘スタイルは二刀流で武器は義賊の短剣と大怪盗の短剣。
義賊の短剣の攻撃を当たったら高確率で敵は催眠状態に陥るとか。大怪盗の短剣の場合は敵の攻撃力低下、命中力低下が付属している。敵としてクイーンさんとは戦いたくない。
私には清浄なる世界へがあるから義賊の短剣の攻撃が仮に当たったても問題なく解除できるが、大怪盗の短剣の方が当たればお手上げとなる。
「さぁ、ユミナ。探索を再開しよう」
クイーンさんの後を追う私は絶対にクイーンさんを怒らせないよう、胸に誓うことにした。
それにしても、みんなの気配がなかったけど......どこにいるのかしら?
クイーンさんが持っていたセーブハウス道具。後半の街では高額だが外でも安全にログアウトできるアイテムがある。
所持者が決めた者だけ入れるので侵入はされない。巨大なテント。サイズはよく分からないけど、60平米があるとクイーンさんが教えてくれた。上から見たら六芒星の形だとか。
中央はリビングとなっていて、リビングを中心に五つの部屋と出入り口一つが配置されている。部屋にはキングサイズのマットレスが置かれていた。プレイヤーはここでセーブ&ログアウトもできる。テントの耐久性は火や水などの耐性もあるので余程の攻撃を受けなければ問題なく中で生活ができるとか。
休憩中の私の隣には......まぁ、いるよね。
「エネルギー回復中♡」
甘い吐息を出しながら私を抱き枕みたいに抱くヴァルゴ。
がっちりと抱きつかれ私を離さないようにしており、足は絡みつく。
抱きつかれる前は干からびたミイラみたいな顔になっていたけど、すぐにいつもの美白に戻っていた。
どういう現象だ、と不思議な光景に苦笑していた私。
「みんなに刺されるわよ」
絶賛私が提案したゲームを行っている。ヴァルゴの行為は無条件で褒美を貰っているように見える。
それを止めなかった私も同罪か......
「それにつきましては問題ありません」
「えらく自信があるわね」
「当然です、私が今『ユミナ様欠乏症』となっているので不足分を補うには本人に抱きつかないといけないと力説しましたので」
絶対にアリエスとタウロスが呆れ顔になっていたのが容易に想像できる。
ここで自分たちが否定的な言葉を出すと癇癪を起こした子どもみたいになり、暴れるヴァルゴが完成する。そうなったヴァルゴを止める手立てはない。私に抱きつけば安いものかと了承したのだろうが、私の人権はないのかと思ってしまう。
「てか、私はサプリメントなのね」
「”さぷりめんと”が何なのか分かりませんが、こうして抱きつけば私はまだまだ頑張れます」
ヴァルゴ......栄養補助剤はあくまで補助としてしか機能していない。ちゃんとした栄養を確保するのは必要な物を食べないといけないんだよ。
あれ? そうなると私......いつかはヴァルゴに食べられる未来があるのか......流石にそれはないか。
ゲームのレーティング的に問題あるし......そういえば、倫理的な警告が出ないな。プレイヤー同士なら確実に警告ウィンドウが表示される。内容は......ほとんど18禁指定の行動。ヴァルゴと共に行動していて何度か指定を超える場面があったが警告ウィンドウは発生しなかった。もしかして、NPCとは出ないのか。それならそれでいいけど。後から運営によるアカウントバンされた時には、心がへし折られるだろう。
「それはそうと、順調?」
「お楽しみください、お嬢様!」
「一個聞いていい?」
「なんですか?」
「四人は共犯関係」
「『共犯関係』ですか?」
「あー......全員を同率一位にするためにみんながアイテムや素材を回収調整しているのかなって」
「そんなことある訳ないじゃないですか」
そっか、一先ず安心した。杞憂だったかもしれない。
「それにユミナ様を抱いていいのはこの世で私だけです」
「語弊のある言い方を改めてくれない」
「そうですね、これ以上暴走してしまうとまたユミナ様からお叱りを受けてしまいそうですし」
「分かっているなら、今この瞬間からやめてほしいけど......まぁ、いいか」
ヴァルゴはユミナを見つつ、安堵の表情を浮かべる。
(危なかった......アクイローネの言っていた通りでしたね。危うくバレるところでしたがなんとか危機は回避できました。御免なさい、ユミナ様。一人で楽しむのもアリですがみんなでユミナ様を楽しむのもアリだと気づいたんです)
贖罪として主を抱きしめるヴァルゴだった。
クイーンには別の武器種が存在する。




