欲望の乙女座と戸惑う牡羊座と牡牛座
2章開始です。
よろしくお願いします!
夏というのは初めての経験をしてしまうもの。
特に青春真っ盛りの高校生。どのように過ごしても人生はなんとかなってしまう。
そんな人生にも予定外のことがある。私、ユミナもその一人。
現在、私は身動けずにいる。
幾多の試練を乗り越え、夏休みに到来した私は早速、『オニキス・オンライン』......私は『オニオン』と呼んでいる。
まぁ、そんな私が今夢中になっていて趣味でもあるVRMMOにログインしていた。
で、ほんの数秒前に戻りますけど......動けずにいます。
理由は至ってシンプル。同性殺しの見事なプロポーションを誇っており、このゲームでは私の従者である女騎士ヴァルゴが私の体の上に跨っているからだ。
全身を騎士の鎧を身を包んでいるが今のヴァルゴはインナーのみの姿をしていた。装備は全て外している。このゲームが全年齢で本当に感謝。圧倒的感謝である。
もし、あれな指定レベルまでつり上がったゲームならきっとヴァルゴの状態は今とは段違いだと思う。
絶対にインナーなんて着ているはずがない。
なので、それだけが唯一の救い。
眩しく白い砲台と凶悪なミサイル、それ以外の部分もヴァルゴの体は妖艶さを全身に纏っている。
私とヴァルゴが接している部分。触れ合う感触もリアルなのがこのゲームである。
私がもし異性なら理性が外れていたかもしれない。この時ばかりはヴァルゴと同じ性別で助かった。
「............ヴァルゴ、いい加減に離れて欲しいんだけど」
「お断りします」
キリッとした顔で私の言葉をバッサリ斬ったヴァルゴ。
なんで......ベットの上で『何故、私が離れないといけないんですか? 不思議な事を言うんですか、お嬢様?』を私に思わせてしまう位に真面目な目をしているのかよく分からない。
「ヴァルゴ......貴方、私の従者なのよね」
首を傾げるヴァルゴ。
「はい、そうですが......」
青紫色の髪が艶っぽく見える。髪の先端が私の顔に触れる。同じように、徐々にヴァルゴの体が降りていく。私に迫る勢いだった。やけにスローモーションに見えてしまうのは幻覚なのかもしれない。
私は両手でヴァルゴの猛攻を静止させた。
「なら、主の命令は聞くもんだと思うんだけどっ!!!!!!!」
「ちょっと、何言ってるのか私はわかりません」
「なんて都合の良い耳なのかしらね、ヴァルゴさん〜」
筋力でヴァルゴに敵う訳がないのであっさりと押し負け、ヴァルゴは私にピッタリと抱きついてきた。
「ようやく、お嬢......ユミナ様が目を覚ましたんです。エネルギー補給をしないと私は動けません」
「私は栄養補助剤か何かなの?」
私の耳元で囁くヴァルゴ。
「私にとっては食事と同じ位置付けです!」
「っておい!? 私はいつから捕食される側になっていたのよ!?!?」
「いただきます!」
不意に首筋にキスをされる。
「一旦、離れてよ......熱いから。あと重いんだけど......」
「いくらユミナ様でも言って良いことと悪いことがあると思うんですけど」
いや~、それは悪いと私も常々感じているけど、今のこの状況を見ると悪いのはヴァルゴの方だけど。
「『熱い』ですか......私のがユミナ様に伝わっているなら上々です」
「変態発言しないでよ」
「大丈夫です。私がもっと癒して差し上げます」
会話が成立しないし、なんて無駄にポジティブ思考なのかしら、この脳内ピンク一色の騎士さんは......
距離を取りたいけど、体はまるで言うことが効かない。私の体の上には巨大な岩が乗りかかっている感じがする。
「そういえば......ユミナ様?」
「な、何よ。やっと離れてくれるのかな」
「それは無理です。いえ......胸、成長しましたか?」
「あっ?」
私の目に殺意が宿る。
ヴァルゴの唇を奪う。突然の私の行動で情緒が不安定になるヴァルゴ。
「急にやめてください」
「どうして、そんな質問をしたのかしら? ヴァルゴさ~ん」
「ユミナ様は年頃の女性です。更に成長期真っ盛り。私と出会って、日が経ったので少しはと思いまして......」
「ヴァルゴ......そんなに貴方が私の罰を受けたいとは思わなかったわ」
「どうして......怒っているんですか!?!?」
「へぇ~ 自覚ないんだ」
「「自覚」ですか? 今日はユミナ様もお疲れのようですね」
「お疲れてないわ!!」
ベットで転がり合い、戯れる私たち。
「私だって欲しいのよ。んん? ヴァルゴさんにはこの悩みが分からない様ですね。持つものと持たざる者の格差を......ヴァルゴさんの暴力的なミサイルを貰っても良いんなら、希望通りになるわ。という訳で引きちぎってやる!! 覚悟はできてる?」
「私の胸は分離できませんが? まぁ、それはこの際置いときましょう。主の興奮を静めるのも従者としての責務。私が過去に身に付けた妙技でユミナ様を楽しませてあげます」
そんな艶かしい声で顔を下ろさないでくれます。顔を近づけてナニをしようとするのよ。
でも、負けない。圧倒的武力を有しているヴァルゴに一矢報いる。待ってなさい、貴方の主は凄いのよ、と実感させてあげるから。
そんなキャットファイト?を開始した私たち。
自分達のことに全神経を使っていたため、部屋の角で小槌が叩く音に気づかないでいた。
ほどなくして、音はなくなる。音を出していた者はメンテナンスが完了した物に不備がないかの確認をした。
アイテムを修理する場合、鍛冶職の者の前には修理までかかる時間や破損箇所が一目で分かるようにステータス画面と類似した半透明な画面が表示される。鍛冶職の者はそれを見つつ行動を行う。
しかし、その者は過去の習慣で無意識に目視でアイテムを見渡していた。
問題ない顔を見せたその者は隣にいる金髪の少女に手渡しをする。
「ほい、修理完了!!」
「ありがとう! タウロス。いつも良い仕事するわね」
「なぁ~ あたいはアイテムを修理や製作するのは楽しいからあまりこう言いたくないんだけど」
「うん?」
「そのメガネ......また壊れるぞ」
「そしたらまた修理してね!」
「いや、そうじゃなくて......」
「気遣いは嬉しいけど、あたしはこれを手元に持っておきたいのよ。あたしが聖女から星霊に就任するときに、育ての司教からいただいた大切なメガネだから、口煩かったけど......もうこの世にはいない、鬼で鬼畜だったけど......それでも忘れたくなくて、背後から冷たい視線が来るかもしれないし......」
「なぁ、それって本当に尊敬しているのか?」
ニッコリ笑う元聖女でもあるアリエスを見て、鍛冶職のタウロスは肩で呼吸した。
「分かったよ、いつでもいいな。完璧に直してやるから」
「頼りにしているわ。ところで......この夢はいつ終わるのかしら?」
「どうして夢と思うんだ?」
「あたしの話、聞いていなかったわね」
「うん? 何か言ってたか? アイテムを扱うときはそっちに注意を向けてしまうから聞いていなかったぜ」
「そうでしょうね。明らかに空返事だったし......じゃあ、もう一度言うわね」
アリエスは指を指した。
それに釣られて、タウロスは示された方角の光景を目撃する。
「タウロス。夢だよね、これ」
『大体、急に私を襲おうなんて。誇り高い騎士道精神が泣くわよ』
『お嬢......ユ、ユミナ様がいけないのでしょう。不意打ちに私の唇を奪うんですから......それはこの攻めには、別の目的もありますけど』
『だから、その別の目的を教えなさいって何度言えば分かるのよ。いい加減に喋りなさい、命令よ!』
『いくらユミナ様でもそれは出来ない相談です』
『また私に秘密?』
『こ、今回は本当にダメなんです。言うなれば女と女の友情です』
『私とは、友情ではないと......』
『ユミナ様の場合は、主と従者です......いえ、この際ハッキリ言います。ユミナ様の一番になりたいんです』
『何を今更なことを言っているのよ』
『それは......OKと認識しても良いのでしょうか』
『当たり前でしょう。ヴァルゴは私の一番の従者なんだから......』
『わ、分かってないじゃないですかぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』
『て、蠱惑的な顔で何舌なめずりをしているのよ。怖いんだけど......』
『ユミナ様にはわからせる必要があります。私は心を鬼にして実行します』
『欲望のままに行うの間違えじゃないのかしら。急に手つきが、いやらしい......離してよ』
『ユミナ様がいけないのです。乙女の純情を弄んで......反省してください』
『サカっている奴に何、言われても説得力ないからね』
目を点にしたタウロスとアリエス。お互いがお互いの顔を見ていた。
「アリエスの言う通りだな。あたいたちは夢を見ている」
「そうでしょう。あのくそ真面目で融通が効かないヴァルゴが、あんな姿を晒すなんて」
「だな。周りには一切隙を作らなかったあのヴァルゴが、実は裏で色欲まみれなことをしていたとか想像できないわぁ~」
「あたしたちは無意識にヴァルゴをそういう風で、いて欲しいと考えていたのかもしれないわね」
タウロスとアリエスはそのまま体をベットに預けた。
「まぁ、短い時間だったけどこうしてまたアリエスと話ができて、あたいは嬉しかったよ」
「あたしもタウロスと会話できて楽しかった。元に戻ったらまた石化状態になっているけど、諦めずに時を待ちましょう」
「それまでくたばるなよ」
「そっちこそ。それじゃあ......」
「「お休み」」
タウロスとアリエスは再び眠り始める。目が覚めたときには苦しい虚無の時間が待っている。でも、諦めない。だって、自分以外の星霊も頑張っているんだから。怖いものなんて何もない。
だが、そんな心配をする必要はなかった。
「アリエス、タウロス。二人とも、助けて......」
呼ばれた気がした。体を起こし、声のする方へ目を向ける。
青紫髪の女性に跨がられ、自分たちに助けを求めている桃髪の女の子。
「「もしかして......これって、現実!?!?!?!?」」
目の前のありえない光景に衝撃を受ける牡羊座と牡牛座だった。
ほんの少しだけ未来のお話