新米の女王と荒天竜の女王
「『甘い毒霧』!!」
忌まわしき蛇星杖の先端。薄い霧らしきものが発生した。場内に広がる霧。私たちのもとにまで届く。瞬く間に私たちを覆う。
私は自分の体がひり付くのを感じる。ステータスを見ると自分のHPが徐々に減っているのを確認した。
毒か……しかもかなり強力な毒。
状態異常。主に毒や麻痺で敵の体に異常を発生させるメジャーな手段。毒なんて全ての状態異常の中でもポピュラーなもの。効果もお馴染みのモノ。毒の攻撃を受けた者は少しずつダメージを受ける。毒を強化して猛毒とかにすれば更にダメージ量が増えてしまう。毒攻撃を一回でも受ければ治すまで必ずHPを削られる。もう一つは麻痺だね。毒と違ってHPが減ることはないけど厄介なのは自分の行動が出来ない点。所謂、行動不能なところ。麻痺なんてあの髪の蛇たちが持っていたら一気に麻痺状態に陥ってしまう。他にもマイナス作用が多くあるけどまぁ、そんなところだよね。でも、状態異常と言っても悪いことばかりではない。自身のステータスを上昇させるバフ効果も厳密には”異常”の分類。
「一気に殺さないわ。じっくりじっくり苦しみなさい! じわじわっと殺してあげるから!!」
確かに強力な攻撃。数秒この霧に触れていただけで自分のHPが半分も持っていかれた。私だけじゃなくヴァルゴも同様だった。霧で前が見えないが、高笑いしているあれが早くも勝ちを確信し次なる自分の行動に想いを馳せていた。と分かるくらいは姿がシルエットだけでも目に見えていた。
「本当に……残念なお人だね。『清浄なる世界へ』……」
私とヴァルゴの周りを天から眩い光が石像を包み込む。天井があってもお構いなしの月光色。光は淡い青色へと色を変える。場内にある悪い物質は全て浄化されていった。空気が清潔になり、新鮮さを取り戻した。てか、新鮮な空気ってなんだろう? まぁ、良いか!
私とヴァルゴにステータスの毒が抹消された。『清浄なる世界へ』よ、ご苦労であった。今度から空気清浄機と……やめておこう。さてと……
私は星刻の錫杖をオフィュキュースに向ける。
「毒なんて……効かないわよ、オバさん!!」
オフィュキュースは形態変更を使用した。ヴァルゴも同じスキルを持っていることに驚いたが星霊全員の共通スキルなら納得がいく。
オフィュキュースは人型から巨大な蛇へと変身した。私たちの方へ胴体を滑らすように這い出す。迫るのが床の振動で伝わる。
「丸呑みよっ!!」
巨大な蛇となったオフィュキュースが私たちに近づいてくる。無駄にデカくなった
太い胴体を、くねらせ動き回る。
大きく後ろに跳ぶ。同時にオフィュキュースは口を開く。
「アンタにこれを出すとは思わなかったけど。【想像波形】・【神秘融合】......『ヴェノム』・『ショット』」
口から放出されたのは毒々しい塊。回避するが、それを邪魔するように大玉を連続で発射された。
毒を受けても『清浄なる世界へで無かったことにできる。しかし......
『清浄なる世界へ』が有っても無限ではない。
「しまった!?」
【EM】の残量が残り”5”になる。『清浄なる世界へ』は優秀だが【EM】を大きく消費してしまう。本来なら今の時間帯は夜。月も出ているので即エネルギーを回復できる。だが、古城の中。更に外は生憎の悪天候。月は地面を照らせず、私の星刻の錫杖も力を発揮できない。
「頼みの綱はおしまいね〜 【神秘融合】......『ヴェノム』・『レイン』」
天井から蛇の形をした毒が降ってきた。まるで毒の雨。逃げ場はどこにもない。
ヴァルゴは無数に放ってくる毒蛇の雨を速度上昇スキルの『ライトニング』で必死に躱し、私を捕まえて一時的に避難行動を取ろうとするが、豪雨の如く毒蛇は降ってくる。
徐々に私のHPが消えていく。残り三割になった。なお加速してHPが減っていく。絶望の一歩手前にいる私だったが、ニヤリと笑う。
「おしまいはまだじゃないかしら!! 【簡易の偽月】」
私の頭上に満月が生成された。星刻の錫杖と私のHPが三割きったことで使用できる【星霜の女王】専用スキル ......【簡易の偽月】。
「月があればこっちのモンよ!!」
月光を浴びた星刻の錫杖に生気を吹き返したように輝く。
まだ、戦える。『回復』で回復し、全快になった段階で『回復の舞』も発動。
一分毎に10%HPを回復してくれる魔法。通り雨のように五分と短い時間しかその場に出せない。
「【接触禁止】」
蛇の姿から人型となるオフィュキュース。身につけていた『蛇遣い』シリーズの装備が変貌を遂げる。
頭部の黒髪は変色を起こし、青色の蛇が生えてきた。肩から腕には緑色の蛇が巻きついていた。
黒一色の装備から紫メインのドレスになる。所々に天鵞絨色……暗めの青味を出している緑色が装飾されていた。下半身が蛇の時は妖艶なラミアを彷彿とさせる姿。
忌まわしき蛇星杖を私に向けて発した。
「『レイン』!」
オフィュキュースの今の髪の毛である蛇たちが伸びる。長く伸びる髪の蛇は一斉に私に向かう。どの蛇も獰猛な目つきと牙を持つ。私を噛み砕くためなのかそれとも腹に収めるためなのかわからないが危険度マックスなのは変わりない。
一匹が迫る。牙の先端から液体が垂れていた。あれに触れてはいけないと緊急信号が私の体全体に送られた。星刻の錫杖とヴァルゴとの好感度によるステータス補正で咄嗟の回避にも対応できた。牙も液体も当たることはなかったが追撃とばかりに数匹の髪の蛇が突っ込んでくる。
「嘘でしょう……」
蛇たちから逃げていた私は驚愕していた。私が先ほどまでいた床部分が朽ちていた。
「あの液体は……モノを溶かす性能があるみたいね」
酸攻撃をしてくるなんて……敵が持っていい攻撃手段ではない。お手軽に相手を損壊させる性能があるんだから。酸攻撃が当たれば、損壊前に火傷を起こす。体内では火傷の状態異常。体外では体が腐ってしまう。牙から滴る液体が全て『酸』だけなら良いのか悪いのか複雑な顔を出した。
それが判明したのでますます蛇たちの攻撃を受けるわけには行かなかった。1匹なら注意深く見れば良かったけど、全ての髪の蛇が敵。つまり私を溶かす攻撃を有していた。
なので、一点を凝視するのではなく、全体を見ないといけなくなった。今尚、伸びている髪の蛇たち。本体のオフィュキュースは高みの見物を決め込んでいる。
絶対に超至近距離でグーパンチしてやる。などと意気込んでみたのは良いけど、正直この蛇たちがうざいしめんどくさい。
逃げてきたが段々、追い詰められていく私。
「あらあら、床が穴だらけね」
意図的だろう。私が必ず回避すると見越しての蛇攻撃。次なる布石として敢えて蛇の牙を床に触れさせたと考えられる。牙が少しでも床に当たれば、時間経過で勝手に床に穴が空く。そうなれば逃げている人間……私の行動も自動的に低下してしまう。それだけではない。
「サンダー!!」
後方から迫る蛇へ稲妻を放つ。二匹を黒焦げにして倒したが、残りの髪蛇は攻撃の手を緩めない。
床に空いた穴が複数あれば下を潜って別の穴から飛び出せる。奇襲攻撃も可能になる。加えて何匹戦闘不能になっても無数の蛇がいる。
「次の行動が決まったわ!」
お読みいただきありがとございました。
お久しぶりです。
体調面と1章の最後の戦いを何度も修正しており、投稿が遅くなりました。
申し訳ありません。
皆様も体調に気をつけてください。
・甘い毒霧』→敵に濃度の薄い毒を浴びせさせ、じわじわと痛めつける
・【神秘融合】→様々な魔法やスキルを組み合わせることが可能。
しかし、組み合わせたモノがどのような形になるのかも想像しないと発動できない。
そのための補助剤が【想像波形】。漠然とした考えをより明確にイメージしてくれる。
実は【神秘融合】と【想像波形】の獲得条件には......無数の試行錯誤が必要となる。”何かを得るのは何かを捨てないといけない”......そういえば、どうしてユミナにモンスターが群がるんだろう? 何かを保持していて、相当恨んでいるとかじゃないとあんなに怒りを露わにしないと思うんだけどな〜
・『ヴェノム』→毒液を放つだけの魔法
・『レイン』→小型の蛇を大量に出現させる魔法。毒は付与されていない
・『ヴェノム・レイン』→蛇全身に毒が纏い雨の様に出現する混同魔法。体内にも毒が付与させるので食べてしまうと毒に侵せれる可能性がある。
・【接触禁止】
星霊のみが扱うことができる。最終攻撃手段スキル。己の意思で能力を活性化させて、星霊になる以前の種族に戻ることができる。限定的な時間しか維持できず、再利用は一ヶ月後となる。また一ヶ月に一回は必ず使用しないと能力が弱体化をしてしまうデメリットが存在する。