困難な状況の中で、平静な心を守ることを忘れてはいけない
「これタマゴだったのね」
私の横に転がってる二つの球体。同じものを数分前に見かけた。十中八九シャックスの能力。タマゴが孵化してしまうと私の両腕の機能は敵に完全に奪われる。
しかし、ヤバいな......
プレイヤーへの配慮なのか、《状態異常:【部位封印】》はずっと私の視界に映っている。けど、腕が使用できない以上、ステータス画面も操作できない。回復アイテムも出せない。装備も変更できない。使い魔たちも呼び出せない。悪魔兵も指輪型のグリモワール内に保管されているので無理。
今動かせる部位は両腕以外。腕は二の腕辺りまで動かない。星刻の錫杖は握れない。腕に装着している怒龍の籠手は外れないけど、動かない。腕での防御は見込みが無い。アクセサリーは全て手がないと発動しないタイプが多い。いくら強力なアクセサリーでも、発動条件を達成できなければ、唯の装飾品。
覇銀の襟飾は左側の胸元に装着されているけど、手で引き抜かないといけない仕様上、現在両腕が機能しないので、実質的に扱うことが不可能。
ラッキー・アニモシティは一つ一つの攻撃が非常に強力だが、当たらなければどうって事ない。部下の身体機能を上乗せした結果、身体が膨張している。細かい技は出せず、全てのモーションが大振りと化してしまった。奴の性格上、変化したからってバトルスタイルを変えるとは思えない。なら、基本は自分の身体を活用した攻撃方法、周囲の物を投げる攻撃方法。
で、悪魔のシャックス。ラッキー・アニモシティと契約した悪魔だ。これまで遭遇した悪魔の行動と照らし合わせるなら、シャックスも余り攻撃しないと考えられる。契約者の命令一つで行動パターンが変更される恐れがあるけど、長年の習慣はそう簡単に拭いきれない。ラッキー・アニモシティはシャックスを戦闘に投入しない。
一旦はラッキー・アニモシティだけに集中する。シャックスに関しては、いつ私の身体の一部が封印されるか計画するくらいで十分だろう。
............それにしても、条件は何だ?
いきなり過ぎて警戒を怠った。まさか両腕が封印されるとは思わなかったわよ......
で、私の両腕を封印した理由は分かる。敵の攻撃手段を減らす。後は結構な頻度で私の情報が出回っているからかね〜 強力な攻撃も、見た目変化も腕を使わないと発動しない。なら、封印すれば完全に敵を制する、と考えるのは至極当然だ。
敵の動きを封印するなら、全身にすれば確実。なのに私の両腕だけ......?
何かあるはずだ......この二人にあった時から。私が行った行動の中に......
「ふん! やはりお前は何か違う」
「女は毎秒変わる生き物よ」
「絶望的状況でも折れない心。普通なら両腕が機能しなくなればパニックするしかない。貴様のような小娘も例外ではない」
「生憎、他が動く。それだけで十分よ」
「益々奇妙な娘だ」
壊れたテーブルを掴み、私目掛けて投げてきた。回避。
(やっぱり......っ!)
予想通り、二つ目が投擲済み。転輪の翠蹴で蹴り返す。ラッキー・アニモシティは帰ってきたテーブルの一部を片手で掴む。
「テーブルを果物みたいに潰してるよ......」
テーブルを断言できる要素がなくなった物はラッキー・アニモシティによって放り投げられた。
【加速スキル】......【勝利翔】、【宵明星】、【嫦娥】を起動。
一気にラッキー・アニモシティの元まで肉薄した。逃げてばかりではこちらが不利になる。
【足技スキル】......【狩猟時間】、起動。
月光が脚を照らす。脚で攻撃する時、大幅に補正が入るのと攻撃はヒットすると敵のウィークポイントが視える効果がある。
ラッキー・アニモシティの胴体、真っ直ぐ蹴る。中断突き蹴り。
「足癖が悪いな......」
止められた。脚はラッキー・アニモシティの掌で止まった。
「......反応できるのね」
「部下から奪った身体機能の中には目も含まれている」
動体視力を上げたか......
次話、明日18時ごろに投稿します




