【特別編】ろくろ首お姉さんからの依頼
今日は怪談の日らしいです!
竹の径。広大な竹林の中に細い道。石畳で造られた散策路は奥へずっと伸びていた。
長く成長した竹を眺めながらユミナとリズムは歩いていた。
今回はリズムのお願いでクエストを協力することになった。【和ノ國:ヨシワラ】に住むNPC、ろくろ首の”ゆづき”からの依頼。依頼内容は【お客さんから奪われた白粉を取り返す】。ヨシワラが平和になってからは比較的安全な環境となっている。だが今でも悪態つくお客さんは一定数存在する。花魁のろくろ首も被害者の一人。
「ろくろ首って首が長いタイプとは違うのもいるんだね」
「一般的に首を伸ばすが有名だな」
依頼を出したろくろ首は首と胴体が分離するタイプのろくろ首だった。
「原型は首が抜ける方だったらしいよ〜」
分離タイプのろくろ首は夜に首と胴体が分かれる。花魁として生きているろくろ首の”ゆづき”はこの性質を利用してお客さんを楽しませていたとか。首と胴体を分離させてお客さんと遊ぶ。マ、何をしているのか未成年には知るよしもないけど〜
「見えてきた」
「......随分ボロい屋敷」
おんぼろ屋敷とはこのことかもしれない。人が住んでいるのが疑わしいレベル。屋敷を囲む塀も亀裂が目立つ。正面に聳え立つ木製の門は両開きタイプ。けど、片方が取れていて門として機能していない。屋敷は2階建の木造建築。屋根は植物か苔の茂みが大量に生えていた。外から見える障子も所々破けている。雰囲気があると言えばそうなる。何かデそうな感じが漂っていた。竹の葉が風で煽られる。古びた屋敷と組み合わさり陰湿で不気味な空間が出来上がっていた。
「幽霊とか出ないよね」
「幽霊系モンスターは出現するよ」
「えぇ!!? 帰りたい......私ヨシワラ関連のクエスト苦手なのよ」
「嫁や恋人が多いユミナ御愁傷様。僕は一人で行くから、その場でじっとしてな〜」
「ま、待ってよ!!?」
先に進むクノイチ姿のリズムを追って私もおんぼろ屋敷へ入った。
土間は草木が生え地面が見えない。石板を登る。中央が畳。両端が木材でできた道となっている。
「ねぇ、アイツら?」
「聞いた人相と違うから無視だね」
居間にいるエンカウント中のモンスターたち。どれも妖怪系のモンスターに分類される。【和ノ國】がリリクロス大陸にある以上レベル帯も高い。即戦闘と覚悟していたが、私たちに攻撃を仕掛けてくるモーションはない。
「でも、どうせなら」
そう言ってリズムは腰に納めている小刀を抜き、静かにモンスター共に背後へ忍び込む。音もなく背後から一刺し。居間にいたモンスターはリズムが全て処理してくれた。
「相変わらずリズムの隠密スキルは凄いね」
居間に落ちているドロップアイテムを拾う。江戸時代に使われていた道具がドロップ品なのだろうが、ボロい屋敷にPopしている関係か、ドロップアイテム全てが壊れている物ばかり。
拾ったアイテムをリズムに渡した。
「クノイチたる者見つかったら終わり」
どうしてリズムがクノイチの職業を入手したのかは知っている。何かに熱中するのは良いことだ。
「回収終えたし、進もうか」
「三方向か」
正面に見たことがない家紋の襖。左右にも同じ家紋の襖。左右の襖だけ片方のみ家紋があるのか分からないけど。
「盗んだ奴の場所知らないの?」
「ろくろ首の話ではこのおんぼろ屋敷に居る、としか」
「じゃあ地道に探索するしかないね」
「「それじゃあ、こっち」」
私は正面。リズムは左を指差した。
一瞬の沈黙。私たちはお互いの顔を見る。拳を引き臨戦態勢を取った。
「「最初はグー」」
「「ジャンケン——————」」
「「ポンッ!!」」
私はパー。リズムはチョキだと......
「イェ〜イ!! 僕の勝ち」
屈辱だわ
「いつまで四つん這いになってるんだよ。ほら、行くぞ」
重い足取りでリズムが選んだ左ルートへ進んだ。
時間にして2時間が経過していた。間取りとしてはかなりの部屋数。勿論出現するモンスターも多かった。私とリズムのレベルや装備で苦戦することはなくサクサク探索は進んでいった。
二階から一階へ降りる私たち。
「「居ない」」
そう、二階を隈なく捜索し終えた感想は件のモンスターが出現しなかったのだ。
「一階にいないから二階かもと期待していた時期はあったわ」
「隠し扉も無いし、完全に詰み」
「どうするよ、このままだと二人で肝試ししただけになるよ」
「何か隠しギミックがあるのかも」
「隠しギミックね〜」
最初の居間まで戻った私たち。違和感が生まれた。
「......リズム、件のモンスターはオスだよね」
「そう聞いているけど」
賊藍御前を装備し、2枚並ぶ襖目掛けて投げた。前を先端が3つの刃が三角錐の濃藍の矛にして投擲したから2つの刃は2枚の襖に刺さる。中央の刃は襖と襖の間に突き刺さった。
ぎゃああああああああああああ!!!!!!!!!
男性の悲鳴が屋敷に響く。襖の家紋が動き出していた。涙まで流す動きを取っている。
「はい、見つけた!」
「どうして?」
「初めに来た居間とさっき到着した居間と違う部分が出てね」
「それが家紋だと?」
「家紋の角度。左右統一されていない。左だけ15度斜めに傾いている。リズムが隠しギミックがあると怪しんでいたから、もしかしてね!!」
居間の襖が全て倒れる。床が揺れる。何者かが迫る音。人間ではない。
「「......障子?」」
居間に入室してきたのは複数枚の障子だった。障子は一人でに歩き、未だ涙目の家紋付き襖へ。
倒れた襖にもデカい目ん玉が出現。自動的に障子へ移動を開始した。全ての襖は障子へ吸収され、他の障子も一つへ合体し出した。
「障子に目がいっぱい」
統合した障子。マス目一つ一つに二つ目。障子は横繁障子。縦11、横4のマス目。全ての目玉が浮かび上がった。
集合体恐怖症の人には悪夢だろうね......
「あっ!! コイツだ」
賊藍御前を畳に刺した。
『お許しください!!!!!』
「攻撃しないであげるから、ろくろ首の”ゆづき”さんの白粉、返して」
「............はい」
目目連を模したNPCで名前は”目黒”さん。どうやら”ろくろ首の”ゆづき”のことが大好きで彼女が使っていた物が欲しいという中々にストーカーチックな行動に走ってしまったことが犯行の動機。白粉は畳を剥がすと木箱に保管されてあった。白粉だけではなく、いろいろな道具も見つかったことから常習犯だと確認できた。
”目黒”さんは町奉行所の屈強な鬼たちに連行され事件は解決した。
「はい、ゆづきさん」
夜の時間帯。ヨシワラに移動し、ろくろ首の”ゆづき”さんに白粉を渡した私たち。
「ありがとね。まさか別の物まで盗まれていたとは」
「なんか......徐々に物品を盗む快感が忘れられなくなり、一番使っていた白粉を今回のターゲットにしたみたいです」
「そうなんか。金払いがいい人だったけど、油断してたわ。二人ともありがとう」
クエストクリアの音楽が鳴る。
「リズムちゃんの報酬はこれ」
リズムが受け取ったのは巻物。広げて見つめるリズム。頬が崩れニヤニヤ顔になる。ヨダレは見なかったことにしよう......
「確かに受け取りました。じゃあね、ゆづきさん、ユミナ」
そう言い残し、窓から去ったリズム。きっと今から観察するのだろう......友人として控えてほしい気持ちもあるけど、私も人のことを言えないので口を閉じている。
「ユミナちゃんは、これからどう?」
誘われた。ろくろ首の”ゆづき”さんは異性・同性もイケる口だ。未成年の私にはセーフティーがかかるから先の展開へ進むことはできない。因みに”YES”を選択すると揶揄われるイベントが発生します。『大きくなったらまたおいで』みたいな言葉を言われる。
「いえ、遠慮しておきます」
「ウチじゃ満足できないんか〜」
「こうなるので」
窓から1本の鎖。私に巻かれる。終わったな、ユミナちゃん。
だからヨシワラ関連の通常クエストを受けたくなかったんだよ......
「ユミナ。ここにいたのですか?」
ニコニコ笑顔のアシリアが跳躍して二階の部屋に入ってきた。
「..................アシリアさんもお元気で何よりです」
状況を察したゆづきさんは部屋から退室。
「少しお説教が必要ですね⭐︎」
私がその後、どうなったのかは誰も知らない。
ユミナちゃん、フォーエバー
どんまい(爆笑!)




