スキルを盗む怪盗紳士は師匠を探している その3
サブタイのサブタイ
奪う者
「今はデート中。より密着したいですし、ユミナ様は私の......恋人だと見せつけたいのです」
「私もサジタリウスと腕を組めて心地いよ。ありがとう!」
こうして私たちは3人カップルとして宝石店へ入店。............のはずだった。
「ぎゃああああ!!!! 前が見えない!?!?!??」
突然私の顔に大量のメッセージが表示された。
「イモナちゃんの顔が消えたわ!!?」
「ユミナ様......大丈夫ですか?」
流石のアクエリアスもサジタリウスも私を心配してくれた。
「大丈夫大丈夫。私は特に異常はない」
仮想体に異常はない。VR機器の故障でもない。ちゃんとした正常な動作だった。
「フレンドからの大量のメッセージだから心配しないで」
メッセージ画面をずらした。改めて届いたメッセージを読み始めた。
どうやら送り主は一人じゃないようだ。だが内容はどれも同じ文面だった。
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【緊急】
【サングリエ】に奪う者が出現した。
現在逃亡中、プレイヤーが追跡している。
見た目は黒の怪盗服。
隙を突かれてスキルを奪われないように。
十分気をつけること。
※このメッセージを読んだプレイヤーへ。
状況を知らないプレイヤーにメッセージを送るように。
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「全員、同じ内容だ......」
メッセージをめくっても文面は同じ。てか、奪う者とは?
何者かは知らないけど、黒色の怪盗服に警戒しとけば良いのね。
とりあえずメッセージの送り主以外のフレンドに一斉送信した。
「うん? ヴェインさん?」
送信が終わった後、ギルド:シューティング・スターのリーダー、ヴェインからメッセージが届いた。
私はヴェインのメッセージを読み終えた後、アクエリアスとサジタリウスに命令した。
「二人とも手伝って」
私の顔を見て状況を理解した二人。
「「かしこまりました、ユミナ様」」
「レオとピスケスも呼び戻す」
私たちは走り出した。星刻の錫杖を装備。
「......『宇宙最大の大いなる意志』」
(待っていて......クイーン。必ず助ける!)
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クイーンが奪う者と間違われている。
頼む、逃げているクイーンを助けて欲しい。
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クイーンは今、【サングリエ】に並ぶ建物の屋根を走っていた。
「待てッ! クソ怪盗」
クイーンの後ろから追いかけるのは彼女と同じプレイヤー達だ。だが、クイーン自身は彼らを知らない。当然追いかけているプレイヤー達もプレイヤーだと気付いていない。追跡してる者の情報をちゃんと精査しないのも愚者の存在意義。メッセージを一言一句読めば分かる事実だ。けれども、仕方がないのかもしれない。クイーンを逃がさんと猛スピードで走る者達は自分が時間を掛けて獲得したスキルを奪った怪盗を追っているのだから......
「だからぁ!! 私は奪う者じゃない!!」
クイーンにしては珍しく声を荒げていた。それもそのはず。アグネス女学園から帰ってきてから、身に覚えのない冤罪を掛けられている。ギルメンが必死に他プレイヤーに弁解しても風貌が類似している以上、容疑者として疑いはぬぐえない。
クイーンは後から知った。確かにここ数日、【サングリエ】の街、周辺のフィールドでプレイヤーやNPCのスキルが奪われる事件が多発していて、奪われたプレイヤーから見た目は怪盗服を着ていた異常者だと。だが、正体が怪盗であっても色合いはクイーンとは真逆。純白の怪盗服を装備しているクイーン。対照的に異常者は漆黒の怪盗を身に付けていた。これは襲われたプレイヤーも証言している。被害が拡大しないようにメッセージにも『黒の怪盗服』と記載してある。
にもかかわらず、クイーンが追われている。理由は非常にシンプル。混乱乗じて、クイーンの持つユニーク武器を手に入れようと動くプレイヤー達がいるからだ。現在クイーンを追跡している連中の中にも煽動役のプレイヤーが紛れ込んでいる。本当に奪われたプレイヤーに敢えて疑心暗鬼になる情報を提供した。結果、正しいメッセージが送られても、色合いが異なっていてもクイーンは追われている。
「本当にしつこいわね」
【サングリエ】をパルクールの要領で逃げ続けた。攻撃するのは簡単。しかし、多勢に無勢。いくらユニーク武器を上手く扱えても、大量のプレイヤーには全て対処出来ない。
(せめてほんの一瞬、隙が生まれれば......)
屋根には隠れる場所はない。一度下に降りて隠密したい。それには追ってくる連中の視界を一瞬でも悪くするしかない。だが、クイーン自身には連中の視界を奪う術を持っていない。ジョブが怪盗であっても閃光弾や煙幕弾は今所持していない。アイテムが尽きたのも一つの理由だが、製作依頼途中で追われてしまった。ショップ販売アイテムでもいいが、この状況では購入出来ない。怪盗服を解除すればいいと思うだろう。しかし、クイーンの怪盗服を再装備するには条件が存在する。初めて装備可能に条件達成したのも奇跡に近い。諸々の理由からクイーンが別の装備に切り替える手段は消え去っている。
「くっ」
徐々に詰まる距離。
「ちっ」
舌打ちするクイーン。前方から走ってくる一団がいたからだ。
「見つけたぞ!!」
「挟み撃ちだ!!!」
隣の屋根群に飛ぶ準備に入る。が、出来なくなった。
「やらしいヤツがいるな」
クイーンの足に矢が刺さっていた。両足に1箇所ずつ。明らかにクイーンの行動を制限した。明確な敵意。姑息なことに人混みの中から射貫かれた矢。誰が放ったか特定は難しい。
膝をつくクイーン。不意に下を向く。
「ッ!!?」
下にいた白い軍帽を被っている少女に見覚えがあった。小学生位の身長、美空色のツインテールの女の子。肩だしミニスカの白い軍服。白い礼装の上に掛かっている黒マント。金色の正肩章が付いていた。
風でマントが勢いよく靡く。
少女は上を見上げ、クイーンに対して口を開いた。声は出ていない。口パクだった。
クイーンは少女の口の動きで何を言っているか解った。
(”合図を待て”?)
モールス信号を使おうと思ったが、知っている者がいる予想を立て、口パク案が採用された。
(読唇術は......はい、気にしない〜)




