スキルを盗む怪盗紳士は師匠を探している その2
サブタイのサブタイ
別に......イモナちゃんと腕を組みたいわけじゃないんだからねっ!
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今、ユミナは【サングリエ】にいる。絶賛デートの真っ最中♡。今日のお相手はレオ・ピスケス・アクエリアス・サジタリウスだ。
デートだったんだけど............
サジタリウスの背中に乗っている私にサジタリウスが質問した。
「宜しいのですか、ユミナ様?」
「う〜ん、何が?」
「レオを置いてきて」
「良いよ。酔っても闘えるのがレオさんだから〜」
まったく、せっかくのデートなのにいきなり公道で酒盛りを始めるのはどうかと思うけど。
「それに、ピスケスが見張っているから大丈夫よ」
念の為にピスケスをレオに付けた。レオが酔っ払って暴走したら、実力行使しても止めるように指示を出している。
レオのことは一旦記憶から消して、話題を変えた。
「特に変化していないね〜」
【サングリエ】の街並みを確認。目立った変化はなかった。
「............イモナちゃん。数日で街並みが激変したら、流石に怖いわよ」
「それもそっか〜 アグネス女学園だと日々、変化していたから感覚が抜けないな〜」
昨日アグネス女学園から帰還した私。同行した3人以外、お詫びとしてデートを実行。
何分恋人が多いので、時間制限のデートになっているけど......
「ユミナ様。私たちは嬉しいですが、ご自分の準備も取り掛からないといけませんよ」
「そうよ、イモナちゃん。今度こそアシリアちゃんに殺されるわよ〜」
身震いし出す。
「こ、こぉこぉこぉ、こわいこと言わないでよ......だだだあっだ、大丈夫よ、渡航の準備なんて前日にやれば何とかなるから」
「「......心配だな」」
1週間後に開かれる次の聖女候補のパーティー。会場は豪華客船。アシリアも私にチケットを渡した後に仕事で【サングリエ】へ戻ってしまった。旅の準備だけしてください、とだけ言われたが心配でもある。
アシリアのパートナーとして出席するが、同時にアシリアの護衛も任された。
理由はいくつかある。毎回聖女候補を狙って殺し屋が送り込まれるらしい。アシリアが候補時代も発生していた。
候補者を狙うわけはシンプル。自分が推してる候補者以外を消し去ること。別の候補者がいなくなれば、自然的に推してる候補者が聖女になる。
推してる子が聖女になれば、裏から支配できると計画を企てている者たちは万々歳。アシリアもいくつもの死闘で聖女に就任した。
本来なら1週間後のパーティーで狙われるのは次の聖女候補たち。アシリアを狙う理由はない。だが狙う理由はある。今でもアシリアを聖女として認めていない輩がいる。未だ懐柔されない少数の貴族たちだ。
開催されるまでの1週間、ボルス城に引き篭もる提案は勿論伝えた。でも、聖女の仕事を放り投げることはできないと断固な姿勢のアシリア。
頑なに言われてしまっては私が折れるしかない。折衷案として数名私の従者を護衛に付けた。私の従者は全員リリクロス大陸を余裕で活動できるステータスを有している。加えて星霊仕込みの戦闘訓練により隙がない。護衛としては過剰戦力だが、アシリアの命には代えられない。
『アクエリアス様、サインください!』
私たちに近づくプレイヤー。二人組の女性だった。どうやらアクエリアスのファンみたいだ。
「良いわよ!」
流石アイドル。慣れた手つきでサインを書きつつ、雑談をするアクエリアス。
「「ありがとうございます!!」」
色紙を抱きしめ、去っていく女性プレイヤーたち。
笑顔で手を振るアクエリアスに私は言った。
「変装しなくていいの?」
「別にしなくていいわ。変に変装すれば一発で分かっちゃう。それに私に臆することなく声をかけてくれた子たちを無碍にできないわ」
「アクエリアスが良いなら、私は止めないけど。気を付けてよ、中には邪な考えをする人だっているし。近付いた瞬間にナイフで刺すとか考えられるから」
「イモナちゃんは、本当に物騒な思考をするわよね。忠告は有難いけど......」
「ですね。一切迷いの無い発言なのが余計怖いですが。誰に似たのでしょうか?」
「そんな事言って良いのかな〜 サジタリウス〜く〜ん」
「えぇ!? ど、どういう意味ですか?」
私はサジタリウスから降りた。そして歩き始めた。
「もう乗らない〜」
「先ほどの発言をお許しください、ユミナ様。ユミナ様の発言は正しいです!!!」
即座に涙目のサジタリウス。
「よく出来ました!」
そう言って再びサジタリウスの背中に乗った。
後ろからサジタリウスのお腹に手を回した。そのまま背中に頬擦りした。
「あ〜 サジタリウスのお腹、暖か〜い! 気持ちいい〜!!」
「私のお腹でしたら、幾らでも触っていただいて大丈夫ですよ♡」
サジタリウスは人馬だ。女性の上半身と馬の下半身が一つになっている。今私が頬擦りしている背中が人間部位で、乗っているのは馬の部位となっている。戦闘中は戦闘防具を装備して乗っている部位にも重装甲が装着されている。
しかし今はデート中。装甲は装備していないので馬の部位に長いスカートが被っている状態だ。因みに上半身は白のノースリーブにネクタイ着用となっている装いだ。
「ハァ〜 また一人、イモナちゃんに堕ちたわね」
宙を浮いているアクエリアスは同胞が陥落したことに深いため息を吐いた。
アクエリアスも巨大サイズから人間サイズの人魚姫へ。普段のアイドル衣装は辞めて、スクエアネック&オフショルダーの甘めランタンスリーブブラウスをお洒落に着こなしている。アクエリアスは下半身がお魚の尾だが、小物を活用して綺麗に魅せている。
「人聞き悪いこと言わないでよ〜 てか、アクエリアスはとっくに私に堕ちているわよね」
「だぁれがぁあああ、イモナちゃんに籠絡されたですってぇええ!!! 私は軽いオンナじゃありませんわ〜」
そう言って早歩きならぬ早泳ぎを始めたアクエリアス。
「ユミナ様。アクエリアスはずっとあの調子ですか?」
「そうだよ。初めて出会ってからあの調子」
自分がユミナのオンナになったことが今でも信じられず言動はおかしくなる一方だった。情緒が変になり、自分の精神や身体が自分じゃない感覚を味わっているアクエリアス。その証拠にチラチラユミナを見ていて、様々な場所にぶつかるポンコツぶり。認めたくないのにユミナとデートできて嬉しそうに身体を動かしていた。本人は全くの無自覚状態。
「イモナちゃん。ここに入るわよ」
アクエリアスが指さしたのは宝石店。
「良いよ。3人で入ろう!!」
サジタリウスとアクエリアスの身体が変化する。二人とも星霊だけが持つスキル、【形態変更】を発動。脚が人間の脚へ変更された。
お店の中で宙に浮いたり、馬のまま来店は印象が悪いと判断したのだろう。
「えぇ!? 二人とも??」
完璧に人間の風貌になった二人は私の両サイドに立っていた。右はアクエリアス。左はサジタリウスだった。二人は私の腕に自分たちの腕を絡ませた。
頬が赤いアクエリアス。
「勘違いしないでよね。イモナちゃんが迷子にならないために仕方がなく腕を組んでいるだけだから!! 決して私がイモナちゃんと腕を組みたいと願ったとか考えていないから」
「はいはい!!」
嬉しそうなサジタリウス。
「今はデート中。より密着したいですし、ユミナ様は私の......恋人だと見せつけたいのです」
「私もサジタリウスと腕を組めて心地いよ。ありがとう!」
こうして私たちは3人カップルとして宝石店へ入店。............のはずだった。
「ぎゃああああ!!!! 前が見えない!?!?!??」
突然私の顔にフレンドからの大量メッセージが表示された。




