滑稽な踊りを有難う、お礼としてチャンスをやろう
洞窟を進む私たち。
たどり着いたのは薄暗い部屋だった。
辺りを見回す。カプリコーンの話では自分と一緒に捕まった生徒は100人。内30人は外へ脱出してる。と、なれば端っこに複数体の【花嫁】が監視している生徒は70人の生徒。全員怯えていた。目立った外傷はない。
『いらっしゃい、皆さん』
オリバー・リーディエントが部屋の奥から言葉を掛けていた。オリバー・リーディエントが立っている場所は祭壇に似ていた。
近くに二年生の監督生、ジェシカ・フォンテ、ソフィア・シカーダシェル、リタ・ウィロー。そして、三年生の監督生、シャリー・エラーブル、レイチェル・ライラックが立っていた。恐らく全員、【願き者の源水】か類似モンスターが宿っていると考えられる。
部屋の天井、壁から床に至るまで、先ほどまで歩いていた洞窟とは違った。ちゃんと整備されていた。
空間の中央に置かれた椅子と魔法陣。椅子の数は全部で7つ。重厚な石製に椅子と同じ数の少女が掛けられていた。
「先生、今日はとても熱い授業をありがとうございました」
「気にいってくれた嬉しいわ」
微塵も嬉しそうな表情を出していないオリバー・リーディエント。
「折角来ていただいたけど、儀式は完了しているのよ」
うん? 儀式は完了?
突然、巨大な魔法陣が光る。同時に7人の少女が前へ倒れ込む。
生徒が離れたことで椅子の背もたれが顕になる。7つの椅子、全部に人型の化物が刻み込まれていた。
彫刻なのにコチラを嘲笑う表情を浮かべているようだった。
より一層、輝くを見せる魔法陣。魔法陣から稲妻が飛び出し鳴る。
「この魔法陣はね、悪魔召喚の魔法陣よ」
「悪魔召喚......」
「悪魔と契約しているのよ、私。透過能力も悪魔から授かったのよ。以前は完璧に顕現出来なかった。でも今回はちゃんと生贄がある」
魔法陣から召喚されたのは、犬に似た二足歩行の化物だった。毛色は墨を薄めたようなやや薄い灰色をしていた。身体は巨大で、顔が一番小さい。大きく発達した両腕にメリケンサックに似た武装をしていた。化物の背中には羽が生えていた。だが、小さな羽でデカい図体を飛ばすのは困難だ。
凶暴な目で私たちを見下ろす。
「オレはグラシャラボラス。オレを呼んだ者は誰だ」
「私よ」
声のする方へ顔を向けるグラシャラボラスという悪魔。一瞬オリバーを見て怪訝そうな表情を浮かべていたが、瞬時に普通の凶暴そうな顔になっていた。
「声からして、オレが力を授けたオンナか」
狂気に彩られた表情のオリバー。
「そうよ! やっと会えたわね。早速で悪いけどアイツらを倒しなさい!!」
オリバー・リーディエントが悪魔に命令を出した。一名以外、臨戦態勢になる。
だが、悪魔の行動は予想外のものだった。
「断る」
悪魔———グラシャラボラスの声は広い儀式場に良く響いた。余韻は長く続かなかった。声は途端に消え去る。代わりにグラシャラボラスの声が一瞬にして消えた影響で余計に儀式場の静寂が長く続いていた。
「な、なんでよ」
狼狽し、グラシャラボラスに話しかけるオリバー。
「あ゛ぁ! 『なんで』だぁぁああああ!!! 契約もしていねぇぇ奴にこき使われる筋合いはないぜぇええオレはなぁ」
「わ、私は貴方と契約しているでしょう」
「悪魔の護謨止まりの奴と契約を結んだ覚えはないぜぇ。オレは面白そうなヤツを見つけたから、暇つぶしに力を授けただけだぜぇ」
「ひ、暇潰し......」
オリバーの身体が崩れ落ちる。
「じゃあ私は何の為に......」
絶望のオリバーに悪魔の囁きが聞こえた。
「だが、ここまで楽しませくれたんだぁ。チャンスをやるぅ」
「『チャンス』?」
「そこの6人。全員を皆殺ししたらちゃんとした契約を結んでやる。下僕でも奴隷でも好きにオレを使えぇ」
再び狂気の表情。今度は私たちに向けたものだった。
「うふふ!! アハハハハハハ! いいわぁぁああああ!!!! 私の計画を悉く潰した奴らを懲らしめたいと思っていたのよ」
私たちを囲むモンスター達。
「結局こうなるのか......」
オリバーが指を鳴らす。監督生全員が倒れ込み、【願き者の源水】が生まれた。オリバーの命令に忠実なモンスター。戦闘が開始した。




