ワタシ ハ シリマセン
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時間は少し戻る。陽も沈み夜の景色へうつり変わる。
礼拝堂の扉が開く。
「誰もいないね」
礼拝堂の中へ入る幾つものの足音。皆警戒していた。
観音開きの重厚な扉が閉まる。
礼拝堂の奥に配置されている巨大な天使像。ガラスの天蓋から降り注ぐ月の光で、天使が下界から降臨したように見えた。
「異常はないか」
内部を調べ始めた。だが結果は異常は見られなかった。
私は上を見る。天使像を凝視した。
白い石で造られた天使像。創立何年か知らないが、経年劣化が見られない綺麗な石像だった。
優しい微笑みは夜と静寂な礼拝堂では畏怖と感じてしまうだろう。
足元に隠しスイッチが無いか天使像を触りながら確認。窪みもない、一部色が違うギミックも見られなかった。
メニュー欄の【星霊】を押す。先ほどと同じ。カプリコーンの現在位置は礼拝堂地下。礼拝堂に入る前、周囲をくまなく探したが地下に続く隠し通路や起動ボタンも発見できなかった。
「何やっているのですか、お嬢様?」
ヴァルゴが私の行動を不思議がる。私が天使像に向かって祈りのポーズをしていたからだ。
「”天使からのお迎え” 学園で広まっている噂話を実施しようと思ってね!」
”天使からのお迎え”。礼拝堂にある天使像に祈りを捧ぐと天使が降臨するとされていた。
目を閉じ、数分祈りを捧げたが目立った変化は現れない。
「わざわざ噂話として拡散されているなら、”天使からのお迎え”にも役割があると踏んでいるのよ」
「役割ですか......」
ヴァルゴ以外は私と同じように祈りのポーズを取る。顔を伏せ、両手を握り、片膝をつく。ヴァルゴがしないのは、『”元悪魔”ですが、流石に天使への祈りは遠慮します』らしい。
「変化ゼロです」
一人だけ立ち、周囲を確認しているヴァルゴが現状を報告。
てっきり祈りを捧げれば石像が動くとか、隠し通路への道が開かれるとかギミックを想像していたが不発だったみたいだ。
星霊の現在位置に不正は出来ない。ならば確実にカプリコーンは礼拝堂地下にいる。となれば必ず地下へ進むギミックは存在する。
私はただ呆然と、天使像を見上げた。
ゲームなら必ず攻略法がある。ヒントは提示されている。
入れない地下。噂話。祈り。校則。そしてここがアグネス女学園であること——————
「アグネス女学園では天使像は神聖な物に等しいんだよね」
「そうですね。それが?」
ニヤリッ! 仮定を事実にするために。
鬼蜂の拳を装備。私が拳武器を装備した瞬間にヴァルゴとリーナは嫌な予感と完全に理解していた。クイーンとカステラは”まさか、ね”と疑念を向けていた。
跳躍。天使像の真上で体勢を変える。鬼蜂の拳を構え、真下へ放った。
鬼蜂の拳が天使の頭部に触れると下に向かって亀裂が生まれる。亀裂は大きくなり胴体、足元へ侵食し出す。やがて衝撃に耐えれなくなり、巨大な天使像は砕け散る。
堂内が騒然となる。轟音。石像が石像だったカケラとなり床へ落ちていく。大量の煙が舞う。
リーナはため息。ヴァルゴは額に手を当てていた。
「はい! 見っけ!」
天使像の下。隠し階段が出現した。
「さてと、行きますか!」
私たちはお互い頷き合うと、隠し階段へ足を向けた。
時間は現代に戻る。
「で、階段を下り終えたら一面ガラス張りの空間に出れたのよ。カプリコーン達が触手と戦っている場面を目撃してね。大声を出しても聴こえていないから、おもいっきしガラスを割ってカプリコーンを助けたわけ!」
水で形成された触手が消滅していくのを見届けながら経緯を説明した。
「なるほど。私の方からは唯の壁でしたが、ご主人様側からは内部が見える構造だったのですね」
「生徒たちはヴァルゴ達誘導で安全よ」
「良かったです。ご主人様、ありがとうございました。しかし......」
カプリコーンが洞窟を確認する。無骨にくり抜かれていた洞窟が更に悪化の一途を辿っていた。
クレーターの跡。斬撃の跡。破壊の痕跡しかなかった。
「いやぁ〜 カプリコーンがボロボロだったもんで、私の中の変なスイッチが発動しちゃったみたい」
「【自我が消滅した静かなる殺戮者】を使っていないだけマシですが、流石にやりすぎです」
「......それはごめんなさい」
私が言ってから数秒もしない内に二人の間に笑い声が生まれた。
「それにしても、良く天使像の下に隠し階段があるとわかりましたね」
「初めは仮定だったけどね」
私が学園に編入した時点で行方不明の生徒が10人いた。※カステラのアホはカウントしない。
【花嫁】を討伐して救出できたのは3人。残りの7人は何処にもいなかった。
シフォン会長が囚われていた異空間でも7人の生徒はいないとヴァルゴとリーナの証言がある。7人を一か所に、誰にも気づかれない場所。
そしてカプリコーンが礼拝堂の地下にいる点。間違いなく7人は地下に隔離されている。
問題は地下に行く方法。犯人さんからすれば場所が気付かれても侵入されたくない。
そこで犯人さんはアグネス女学園のルールに目を付けた。天使像は学園では神聖な物。神聖な石像を祈りを捧げても触らない。
貴族、将来的に淑女として世へ巣立つ女子生徒が規則を破ろうとは思わない。生徒のみならず教師陣も初めから囚われている場所候補から除外していた。
「まさか神聖な石像が、生徒を監禁していた場所へ通じるとは考えないよ」
「そうですね。私としては複雑ですが......」
「後でアクエリアスに修復してもらうから、許して」
階段を降りる音が聞こえた。
「30名ほどを礼拝堂の外へ避難させました」
「ありがとう!!」
「騒ぎを聞きつけて理事長が走ってきましたので生徒を託しました」
「......あ、ありがとう」
「美人理事長が状況限界突破して変顔だったけど、詳細知りたい?」
「......いえ、遠慮します」
「全教師が失神した報告いる?」
「............ワタシ ハ シリマセン」
外に出たくないな。はい、切り替えました。起きたことを、あれこれ、考えても仕方がない。




