欲望を満たす為に
「ふふ~ん☆ ......【絶劍】」
オリバーの勝利の笑みは一瞬にして歪む。
「はぁ......」
突入した【願き者の源水】と異空間全域。全て上下で分離した。斬撃による切り口を起点に切り裂かれた。分離したモノはゆっくりと元へ戻る。【願き者の源水】は全員爆散。宿主となっていた生徒会の役員は全員倒れ込んだ。
ヴァルゴを隔離した球体も破られた。破壊された球体は一つではない。リーナの球体もシフォンの球体も全て粉々に砕け散った。
「な、何をした......」
絶句。自分の視界ではあり得ない現象が起こっていた。夢を見ているようだった。しかし起きているのは紛れもなく本物。従えていたモンスターも全滅。決して逃げ出せない隔離世界も消滅した。
「大したことはしていません。ただ邪魔な空間を次元ごと斬ったまで」
「意味が分からない」
驚き、たじろいでしまったオリバー。
「私の本来の力が徐々に戻りつつあります。加えて空間魔法も脆弱。空間断裂も簡単でした」
恐怖するオリバー。
「理事長はちゃんとした空間魔法を渡していないですね。多少自分用に手を加えたみたいですが、所詮は劣化版。抜け穴が多い。現に私の身体は動く。異空間に創れるのは自分が模倣した場所だけ。場所に置かれた物体は動かせない、壊せない。まだまだありますが......聞きますか?」
どうやらオリバーはそれどころではないようだ。目が明後日の方へ向いていた。
「人を会話する時は目を見る、ですよね」
オリバーの身体は地面に伏せる。押しつぶされる圧がオリバーを襲う。
立ち上がることはできない。動くのは顔だけだった。
「以前レオがやっていたことを実演してみました。昔なら問答無用で息の根を止める一択でしたので」
一歩前に進む。
「なるほど......身体は行動不能にさせ、口だけ動けるようにコントロールする。これは尋問にもってこいですね。色々と幅も効く。必ずお嬢様のお役に立てますね♡♡」
「く......狂ってる」
「悪魔ですので......まぁ、”元”ですが。それに......何か勘違いをしていませんか」
オリバーを見下すヴァルゴ。
「私にとって他の人間などどうでもいいのです。私はあくまでユミナ様の為に行動しているだけ」
今の言葉には少し語弊がある。昔のヴァルゴなら確かに人間など無価値な存在と一蹴していた。しかしユミナと出会いヴァルゴの価値観も少し変わってきた。今では従者の者たちと和気藹々と過ごし、ユミナと親交がある人間とも友好関係を築いていた。だが、それ以外の人間は未だ興味唆られる存在ではないのがヴァルゴの見解だ。
これは星霊全員に当てはます。ユミナと出会ったことで星霊たちの考えも少しずつ変化が生じてきた。
「ユミナ様の命令で学園の生徒の真似事をしているに過ぎません。貴女は私を自分の騎士になりなさいと言いましたね。以前も別の女子生徒から言いましたが、ハッキリと伝えます」
嫌な圧が増す。
「私が仕えるお方は未来永劫ユミナ様のみ。他の者に付き従うことは決して致しません。時間の無駄なので......」
ヴァルゴを睨むオリバー。
「......っ!!」
「敢えて言い方を悪魔風に言い換えるなら......私が見定めた王はユミナ様だけ」
「......王?」
ヴァルゴは”それも知らないのか”と思わせる表情を出していた。
「悪魔は欲望に忠実です。自分の欲求を満たすために人間を利用する。欲深い悪魔の中でも一部の悪魔は別の行動理念があります。それが自分が認めた者を王にする」
ヴァルゴは語らなかったが、悪魔が見定めた王は一人でなくてもいい。複数人いても問題はない。何故なら王同士が争う様子を眺めるのもまた欲望。最後の残った王が決まったら悪魔は満たされる。
「他の悪魔なら貴女を見つけるかもしれません」
オリバーに掛かっている威圧を解く。
「な、何故......?」
「私がこの場で貴女を捕まえても行方不明の生徒は恐らく戻らないでしょう。それに解決するなら私の主が解決した方がいい。なので、貴女を逃します」
不敵な笑みを溢すオリバー。
「私を見逃した事を後悔させてあげるわ。貴様が大事にしてるユミナは私が直々に殺してやる。覚悟しておけ!!」
首を傾げるヴァルゴ。
「ユミナ様と戦う? 構いませんが貴女の方も覚悟してくださいね」
笑みを相手に向けるヴァルゴ。
「ユミナ様を育てたのは私だと言うことを............」
ヴァルゴは上を向き、しばし考え込む。
「訂正しましょう、私たちがユミナ様を育てました。誰にも負けない女王に君臨するために」
ヴァルゴが言ったと同時にオリバーは消えた。オリバーが消え去ったことで異空間は閉じた。
「ヴァルゴ様......」
久々にヴァルゴに敬称を付けて話すリーナ。『お互いユミナの従者になったので従者同士に上下関係はない。なので敬称は言わなくていい』、と昔ヴァルゴがリーナに言った。しかし今でもリーナはヴァルゴを敬称付きで呼びたい衝動に駆られている。
ヴァルゴは倒れているシフォンを抱き抱えた。倒れ込んでいる4人を見る。
「まずは生徒を保健室に運びましょう」
「はい!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ヴァルゴと真犯人がプレイヤーをほったらかしにして急展開を進めていた同時刻。ユミナちゃんはというと――――――
「女に寄生するヒモは私が粛清殺る!!!!」
雄叫びならぬ雌叫びしながら、【願き者の源水】へ攻撃を繰り出していた。
「良かった......息はある」
テイラー・ブロッサム先輩の生命力を奪っていた【願き者の源水】。水モンスター覇権武器、婥約水月剣で楽々討伐した。【願き者の源水】を倒したことでテイラー・ブロッサム先輩との繋がりは無くなった。
「あっちは......大丈夫そうだよね?」
2体の【願き者の源水】と戦闘を繰り広げているカステラとクイーン。
意外にもカステラが前衛で戦っているのに驚いた。
「『火楽の理想郷』」
カステラの武器、無の理想郷に赤いエフェクト。【願き者の源水】の内部が沸騰する。
もがく【願き者の源水】。すかさずクイーンが接近する。
「【焚炉で慈悲深き処女神】」
徐々にクイーンの速度が上がる。一速、二速、三速のようにギアチェンジするかのように、加速度的に移動しるクイーン。
一気に肉薄し、義賊の短剣と大怪盗の短剣を構える。
「【暁女神】、【月女神】」
暁を模した東雲と月光が二振りの剣に宿る。
夜が明け始めた太陽と白く光る月が織り成す幻想。
剣が舞う。クイーンが踊る。【願き者の源水】に攻撃の隙を与えない。
クイーンは武器と同じ怪盗に関するスキルを使い続けていると思った。が、私と同じ女神系統のスキルに進化していた。しかも今の所私とスキル名が被っていない。嬉しさ半分、残念半分の感想。
「一気に行くよ」
「了解」
「【死の理想郷】」
「【愛の女神】」
二人の攻撃が直撃。【願き者の源水】は爆散。エリザベス・ラゲナリアが解放された。
「次!」
ジェニファー・ホリホックとラクエル・クリュザンテーメの【願き者の源水】に攻撃を仕掛ける二人。
二人の戦闘を眺めつつ私は周囲を観察していた。
「これだけの爆音。カプリコーンは気づくよね」
星霊は力が戻りつつある




