【特別編】ユミナ様と花嫁たち
時系列は気にしないでください
ジューンブライドネタで〜す!
「う〜ん」
腕を組み、悩む私。
長いこと頭を抱え項垂れるユミナを心配するアシリア。
「どうしたの? ユミナ」
今私とアシリアはドランの背中に座っている。しかも空中で。理由はちゃんとある。アシリアが一回空でデートしたいとユミナに行ってきたのが始まり。私の計画では稀代の女王に変身してからアシリアを抱き抱え大空デートを考えていた。しかしアシリアがそれを拒んだ。
『ユミナの隣でゆったりと過ごしたいの』
嫁に言われれば従うのがユミナである。去年から有給を前借りし放題だったドランを呼び出した。
意外にも今日に限って従順なドラン。前に龍の秘儀で逃亡したドランをヒメノと一緒にタコ殴りがトラウマなのだろう。甘いな、ドラン。ヒメノと考えた制裁はタコ殴りからのドランの身体をぶつ切りを決めていたのだ。
「で、何を考えているの?」
「『スラカイト』ってジューンブライドある?」
首を傾げるアシリア。
「ジューンブライド?」
オニキス・オンラインをプレイして一年が経過していた。去年の6月はまだヴァルゴが従者になった時期だった筈。今は多くの従者と結婚をした。まだまだ結婚していない従者がいる。で、今は6月。
「今の時期に結婚すると幸せになる言い伝えがあるんだ!」
「へぇ〜 そのような伝承があったのですね」
アシリアに聞く前にいろんなNPCに聞いて回った。【表の世界】は習慣がないのは確認済み。【裏の世界】では知っている者もいたけど、そこまで重要視はしていなかった。
「私たちは結婚していますし、関係ないのでは?」
「甘いわね、アシリア」
「えぇ!?」
拳を握り締める。
「お嫁さんの花嫁姿はいつだって綺麗なのよ!!」
私の声が空に響き渡る。聞いていたのはポカンとした表情のアシリアと無金強制労働のドラン。
「は、はぁ〜」
座り素早く画面を操作。スクショの項目をタップ。
「因みにこれがアシリアの花嫁姿」
紅潮し出すアシリア。
「ちょ!? 見せないでください!?!?!?」
「えぇ〜 なんで? 可愛いじゃん」
アシリアの純白ウェディングドレス姿はもうねぇ〜 うつくしいのよ!
当時は貴族NPCたちが失神で倒れ込む事態に陥っていた。
聖女のウェディングドレス姿。究極の美であった。
「もう一回見たいな〜」
懇願する私に引き攣る表情のアシリア。
「ま、まぁ......もう一回くらいなら着ても良いですよ」
録音アイテムをアシリアに見せ付ける。
「はい言質取りました! もう修正は聞きません」
「け、消してください!!!!!!!!!」
「イヤだねぇ〜」
イチャつぎながら空の逢瀬を楽しんだ。
◇◆◇
ネオ・ボルス城の周囲は騒々しかった。澄み渡るような大空にドラゴンは飛び、花火は打ち上がり、バルーンが宙に浮上していた。
「う〜ん」
「どうしましたか、お嬢様」
頬をかく。
「いやぁ〜 みんなの花嫁姿を見たいと言ったのは私だけど......」
目の前に広がる光景は絶景であるが、珍妙な景色でもあった。
視える世界には多種多様なウェディングドレス姿があった。アルファベットのAのように、上部が小さく裾が広がっているドレス。プリンセスタイプの華のあるドレス。大人っぽい印象のあるマーメイドドレス。他にもスレンダータイプやエンパイアタイプ、ミニ丈、白無垢などなど城内外で飛び交っていた。
「なかなかに凄い光景だよね」
「自分の姿を見て、それを言いますか?」
「ヴァルゴに言われたくない」
私はミニ丈ドレス、ヴァルゴはマーメイドドレスのウェディングドレスを着ている。
「それにしても......」
ヴァルゴが周囲を見渡す。
「様々な種族が入り乱れている。皆の幸せな顔は全てお嬢様の功績ですね!」
身体を伸ばす。ヴァルゴに言われたのが妙にむず痒かった。
「———嬉しいッ」
私は城のベランダに出た。視線の先には城前大広場がある。今広場を埋め尽くすように居並ぶ無数の人々がいた。全員が女性で、私の従者。何千万の彼女たちは皆ウェディングドレス姿。
私は思わず息を呑んだ。綺麗で最高だったから!
全員私を想い、世界一美しい花嫁たち。今、オニキス・オンライン......いや現実を含め一番幸せなのは私たちだ!
私が声を上げた。
「みんなぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
歓声が響く。
『ユミナ様ぁああああああああああ!!!!!!!!!!!!』
「みんなは私と結婚して......幸せですか」
『幸せです!!!!』
笑顔だった。彼女たちは全員、自分は幸せだと心の底から感じている。
自分を救ってくれた主と永遠の契りを交わせる。これほど嬉しいことはない。
みんなの姿を見惚れていた私。
涙がでてきた。涙を拭う。私のテンションが最高潮へ。
みんなと同じように自然な笑みを浮かべながら勢いよくベランダから跳んだ!
空に純白が舞う。
私は素直な想いをぶち撒けた。
「ありがとう............ッ!! 私もみんなを愛しているわ!!!!!!!」
護らないといけない。みんなの幸せを。
地を割る勢いの大歓声に包まれた空間。
愛が渇くことはない。
私たちだけの結婚式が始まった——————




