寮室は特注部屋?
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初日の学園生活は終わる。スレッタさんとは仲良くなれた。明日からの学園生活は少しだけ楽しくなった。
カプリコーンと廊下を歩いていると—————————
「一際目立つ9人だね」
女子生徒9人。赤・青・緑のリボン。各色に3人ずつリボンを身につけている。
アグネス女学園では生徒が学年を判別できるように三種類のリボンがある。赤色のリボンは一学年。青色のリボンは二学年。最後の緑色は三学年の生徒。
今期の三学年が卒業し、新一学年が入学すると、緑色のリボンを身に纏う。これが女子生徒たちのリボンの違い。
当然目立つ9人もそれぞれリボンを付けている。
しかし他のNPCの女子生徒とは一線を画す雰囲気。顔や容姿は勿論美少女・美女だけど、制服が異なる。自分色に染めた服装と言えばいいのか改造していると表現すればいいいのか判断しづらい。
兎に角敢えてこの厳格なアグネス女学園で改造制服を着ている。改造制服に別々金色の花バッジ。明らかに重要キャラに間違いない。
「カプリコーン。明日は彼女たちのことも調べよう」
「かしこまりました、ご主人様」
「もしかしたら、シフォン・ニア・ウィステリア生徒会長の事も分かるかも」
「そうですね。現状事件に一番迫っているのは生徒会長だけです」
目立つ9人に背を向け、私たちは女子寮へ移動した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほへぇ〜 立派な建物!」
到着した場所。歴史あるネオ・ルネッサンス様式の大きな建物。外壁は赤煉瓦、窓枠は白色を基調とした宿舎。この建物こそ、アグネス女子学園の女子寮。
「あっちにも寮がある?」
西側に同じ様式の建物が二つある。
「彼方は二学年と三学年の寮ですね」
「別れてるんだ〜 ここにも天使像がある」
女子寮の入り口前にデカい天使像が建っていた。ヴァルゴの情報では礼拝堂の天使像に祈りを捧げる。この寮の天使像は関係ない。
玄関に入る。
「意外とラフだね」
「ですね。学校にいる時は格式ある服装で肌を露出するのを控えていました」
女子寮内部。女子生徒は皆、制服を着ていない。自前の服。パーティーで着るような綺麗なドレスではない。素朴な寝巻き風を着用している。
「授業では礼儀正しくちゃんと生活。寮内では身体を緩める。メリハリをつけるためですね」
カプリコーンが紙を見ている。私たちの部屋が記載されていた。
「ご主人様?」
後ろを振り向き、首を傾げた。
「き、緊張する......」
「何を今更......ここ以上に女性が飛び交う城で生活しているのに」
「いつもの生活とは違うよ。なんて言うか......イけない空間に入り込んだ気分だよ」
「落ち着いてください、ご主人様。堂々と歩けばいいですよ」
「そ、そうだよね」
私たちは歩き出した。妙に視線を感じる。
「......ここですね」
寮の三階。一番の角部屋。この部屋が私とカプリコーンの部屋。
部屋内部は二人一部屋。貴族階級関係なく共同生活を強いられる。
プレイヤーも例外ではない。プレイヤーが二人の場合もあれば、一人プレイヤーと一人NPCで割り振られている。私の場合は他の生徒はいない。カプリコーンと一緒に共同生活となる。
ストレージに入ってる『部屋の子鍵』を取り出す。隔絶された女子学園。女子寮が安全でも、他者が入れないようになってる。
施錠を解除する。扉を開けた———
「えぇ!?」
部屋内部に先客がいた。ヴァルゴとリーナだ。なんで???
「どうして二人がいるの?」
『驚いた?』
上げ下げ窓から声が聞こえた。鳥? いや、白鳩かな。
それに聞き覚えがある女性の声。
「理事長......?」
「成功~!! 理事長が個人的に寮に出向くのは色々と都合が悪いからね。講して鳩に憑依して会話しているって訳~!!」
扉を閉め、椅子に座る。
「この部屋は完璧な防音設備を設けている。大爆音で大声を出しても外には漏れないわ。衝撃も100%吸収できる素材を床・壁に組み込んである」
「は、はぁ〜」
「他の部屋は普通だけど」
「あ、ありがとうございます。でも、何故?」
「アーちゃんからの頼みだね」
「アシリアから?」
「ゴホンッ! アーアー。『ユミナが他の女子生徒と一緒に部屋で共同生活すると絶対に学園の風紀が乱れます』。『乱れる位なら多少身銭を切っても問題ありません』と。後は......『どっかの色欲大怪獣ヴァルゴもユミナと一緒の部屋に居れば、学園が崩壊するリスクは極端に減ります』。『なので4人部屋に改造します』だったかしら!」
理事長さん。アシリアの声マネ上手いな。
「アシリアはヴァルゴを何だと認識しているのですか?」
「この部屋の設備。アシリアのお金で整えたんだ......」
部屋の周囲を確認する。映画館くらいあるかな。四人で生活しても余裕がある。防音の他に、王族レベルの調度品の数々。巨大な縦鏡。キッチンもある。腕を振りますか!!
「で、安定の巨大なベット」
天蓋付きのベットが一際目立つ。ま、アシリアの策略だね。
「絶対に敷地面積おかしいよね」
これだけ広い部屋。一部屋の面積で構築するのは不可能。
「私が『空間魔法』で弄ってるから心配しないで〜」
心配しないで、と言われても......
「他人に知られなければ、良いか」
「この部屋は自由に使ってね。それじゃあ、お休みなさい!」
そう言って、理事長兼白鳩は飛んで行った。
私はベットに横たわる。リスポーン更新完了。
「さて、寝ますか」
私の言葉に3人が驚く。いや何故?
「お嬢様、大浴場行かないのですか?」
「私は良いよ。今日は激動続きで疲れたわ」
アグネス女学園には寮専用の浴場が設置されている。案内書を閲覧したとき、行ってみたい欲はあったけど。3人に言った通り、今日は疲れた。お風呂タイムは明日でもいい。
両腕を掴まれる。引き摺られた。
いやぁだぁああ...!
「3人で行けば良いじゃん!!?」
「今日の不純を洗い流さないと。明日も不運が続きますよ」
うっ。それを言われると......
「私やカプリコーンなら大丈夫だけど。ここ一学年の寮よ。ヴァルゴとリーナが居たら不味いじゃん」
「心配いりません、ユミナ様。既に学園掲示板に貼られています」
「......もしかして。二人がこの寮にいても問題ない?」
「はい! 理事長からの特例です。誰も文句は言いません。ただ......お友達になった方々は心底残念がっていました」
リーナは吸血鬼で王族。一緒に生活したい生徒も大勢居たのだろう。
「私も同じでした。クラスメイトの方々、生きる屍みたいな表情でした。不思議で、別の寮で生活してもクラスメイトには変わらないのに......実に不可思議です」
私の相棒さんは相変わらず、だね......
リーナはクラスメイトの心情を理解している。ヴァルゴはクラスメイトの心情が理解できていない。正確に言えば、思考がストップしている。興味がない、と解釈すれば早い。
「さぁ、行きますよ。ご主人様」
「カプリコーンは良いの? 私以外に肌を見せるんだよ。しかも従者と違って全く関係のない不特定多数の人に」
「............ちょっと何言っているのか、カプリコーンは分かりません」
コイツ!!? 私とお風呂入りたさに信念を曲げやがったな。大天使の意地はどうした!?!?!?
3人を相手するのはコチラが圧倒的に不利。私は黙って一階の大浴場に連行されていった。
おい! やべぇーぞ!!? 次話、お風呂回だ!!




