そういう奴なのだよ
「さてと、今から憎たらしい岩柱を倒しに行きますか」
やる気の私にヴァルゴは鉱物を取り出した。何、くれるの?
・石柱の核心
岩響の巨山の心臓部分。投げると爆発してしまう。
「ヴァルゴ。もしかして……奴の?」
「安心してください。速攻で息の根を止めましたので」
ヴァルゴさん......嬉しい笑顔だと信じでいいんだよね? 信じるよ、いや信じさせてください。てか、ニッコリ顔で怖い言葉を言わないでくれます。まさか伏兵がいたとは。
「お嬢様……杖がまだ震えているんですけど」
「そういえば。ヴァルゴはいるのに??」
未だに震えている星刻の錫杖。いつか床貫通してしまう勢いだった。
「もしかして……」
一つの可能性があった。星刻の錫杖を持ち、目的地を向かう。
「人多い……人混み嫌い」
「私が肩車して差し上げましょう!」
胸の位置で手を置き、自信満々に言うヴァルゴ。
「気持ちだけ貰うよ」
この世の終わりみたいな顔しないでよ。仕方がないじゃん。こんな人が密集している場所で目立つ格好していたら、それだけで私の心のMPが消えてしまうんだから。
「人がいない所ではやってもいいけど……」
「では、早速、路地裏に行きましょう!!」
「いつかね〜」
教会の入り口。
大勢の人たちの目線は一つ。ヴェールをかぶっている聖女さんにだった。
聖女さんは手を振っているだけだった。ときどき、何人かが聖女さんの祝詞を間近で聞いていた。なんでも聖女のスキル。
【慈愛の聖声】を受けた者は一定時間、HPとMPが消費されない効果があるらしい。若干、私の【星なる領域】と似ている。
【星なる領域】の場合はHPが減らない。もしかしたら今度スキルのレベルが上がるとMPだって減らなくなる可能性がある。人権スキルになるかもしれないな〜
星刻の錫杖が指し示す方角は教会の中だった。
なんとか入れないのか模索中の所に誰かが背中に触れた気がした。人が大勢いる場所だ。単に当たったんだろうと無視していた。でも、何度も私の背中をつっつくもんだから振り向いた。
もし女性プレイヤーに嫌がる行為をしているプレイヤーなら私の正義の鉄拳を喰らわす。
「えっ……!?」
ほんの数時間前に見た格好と類似していた。深緑のローブを羽織っており、付属しているフードを被っているシスターが後ろにいた。
「もしかして……せいごもっ!?」
シスターは自分の手で私の口を塞いだ。
「大きな声を出さないでください、ユミナ様」
えっ? だって……高速で教会の入口にいる子と目の前の子を見た。
「とにかく、移動しましょう!」
人気がない裏路地に到着した。フードを取って表れたのは見知った金髪の女の子。
私の前に立っていた。
「少しぶりですね、ユミナ様……」
「えっと……お久しぶり? ですね。アシリアさん。でも、どうして」
「実はお願いがあるんです」
「『お願い』? ですか」
「街を一緒に散策してください」
『《続:修道女の道案内》を開始しますか? はい・いいえ』
一度ある事は二度目も起きてしまうモノって事かな。
「そっか、一度も……」
「はい。まさに鳥籠の中のお姫様です」
フードを被っているアシリアさんはため息をしていた。
『聖女の巡礼』で街から街へ仕事をしているアシリアさん。危険が及ぶと考えた大司教……アシリアさんの上司みたいな立ち位置の人の指示で何人もの護衛が常に張り付いている。
しかし……
「窮屈だったんだね」
「聖女としてのお仕事は大好きです。でも、少しはと……」
「と、言う事は……教会にいたヴェールの人は?」
「あれは……私の影武者みたいな人です」
アシリアさんは腕を捲り、金色のバングルを私の見せてくれた。
「はめているバングルの能力で、私に成り変わる事が可能なんです。姿も声も。さすがに思考までは変える事ができないらしいですが……」
なんか物騒な単語が聞こえた気がしたけど、厄介ごとは十分間に合っているのでスルーした。てか、影武者にみんな熱狂しているのかと思うとなかなかに面白い絵面だな〜
にしても……
「しかし、よく分かりましたね。人混みの中から……」
「偶然です!」
「それは嘘ですね」
私の左腕をガッチリホールドしているヴァルゴが異を唱えた。
「聖女のスキルには……自分が求めているモノを見つけ出せる【聖女の賜針】があるはずです。【聖女の賜針】を使えばお嬢様の居場所が簡単に分かります」
図星を突かれたようではなく衝撃的な事実に直面した顔をするアシリアさん。
「ど、どうして貴女様がそれをご存知なのですか」
聖女が扱うスキルや魔法の全貌は一部の教会関係者しか知らない。
癒しの力や加護を与えるとか。中には信徒を動かす事も可能とする魔法があるとか。外への流出を避けるために秘匿扱いされているらしい。社外秘みたいな内容を私に教えていいのだろうか? 『ユミナ様でしたら、大丈夫です』とは言っていたけど……
「……私の仲間の中に教会出身がいただけです」
「もしかして……」
「ねぇ、アシリアさん。一つ聞きたい事があって」
話を逸らす事にした。このまま進むとヴァルゴが星霊だと気付かれてしまう。アシリアさんは大丈夫だろうけど、後ろにいる教会連中が悪用するかも知れない。
「教会の中に石像とかありませんでした?」
「石像ですか……あっ!?」
『ヴァーシュ』の教会の地下には不思議な扉が一つある。年季の入った扉には南京錠が付いている。南京錠を開ける鍵の所在は神父も知らず、まさに開かずの扉状態だとか。
壊して備蓄入れの倉庫にしようという計画もあったらしいが扉を一向に壊す事ができず、半ば諦めを迎えているらしい。
わずかな隙間から覗く事に成功して、石像らしきモノがあったと報告が上がっていたらしい。扉の奥に石像の他に何があるのか誰も知らないとか……なるほどね! 行ってみる価値はあるわね!
「もしかしたら、あるかもしれません」
左腕はヴァルゴによって封印されている。ので少々不恰好だけど、残っている右手でアシリアさんの手を握り、しっかりとアシリアさんの目をみて懇願した私。
「地下にある部屋、見てみたいです!」
顔を真っ赤にしていたアシリアさんに目を逸らされてしまった。キラキラ目が効かないとは……なかなかやりよる。
「こ、困ります……そんな……」
う〜ん。やはりダメなのか。だよね、教会の中なんて重要設備が多いだろうし、一般人に見せるのは聖女の立場であっても許可できない。私の今度のスケジュール的にはマズイ展開。
いったん、引くか……いや、引いたら折角の星霊の居場所が途絶えてしまう。
さすがに教会へスニーキングミッションを起こす度胸はない。見つかれば教会から敵認定されてしまう。
なので、穏便に私の目的を完遂するには前に出るしか選択肢がないのだ。
「私、不思議なモノが大好きなの。一度見てみたいです!」
我ながらアシリアさんとの距離が近いと思う。危うく唇と唇が当たってしまう所だった。しかし間近で見てみたけど、お人形さんみたいで可愛いなと感じてしまうアシリアさん。確かにプレイヤーが熱を出すのも頷ける。
「お嬢様、そこまでです」
ヴァルゴによってはがされた私。なんかさらに腕が締め付けられている気がした。
「アシリア様が困惑しております」
アシリアさんの方を見ると自分の胸を抑えていた。
「胸の動悸はなんでしょうか……病気?」
心配になったので顔を近づけ、様子を見る事にした。
「アシリアさん……平気?」
「はひぃ!?!?! わたしはだいじょうぶでしゅうぅ」
慌てているアシリアさんも可愛い。でも、そんなに距離を離されると少し傷つく。
落ち着いたアシリアさん。咳払いを一つ。
「先ほどはお見苦しい姿をお見せしてしまう、申し訳ありませんでした」
「私もなんだか、ごめんなさい。変なお願いしてしまって……」
「いえ、そのことは……」
「気を取り直して、街に見て回りましょう!」
少しの刻、アシリアは一人になる。誰にも聞こえない声量で呟いた。
「これが俗に言う……恋なのでしょうか。ダメダメ、私。ユミナ様には……」
ユミナの隣にいる麗しい女騎士。ユミナの従者でもある彼女は明らかに従者の枠を超えている。
以前、自分がユミナに耳打ちした内容は6割が応援。3割がユミナの反応を見るためのいたずら心だった。
案の定、ユミナの表情が可愛かった。
そして、残り1割は……自分にもこのような感情があるとは思わなかった。聖女である立場の人間にそのような邪な感情を芽生えてしまっては教会、ひいては信徒の皆様に申し訳が立たない。
彼女を初めて見た時にはそこまで大きいモノではなかった。
しかし、ユミナと彼女さんとのやりとりを見てしまった時にそれが膨らんでいった気がした。
そして、今も戯れているお二人を目撃して私に芽生えた感情が爆発してしまった。
「嫉妬なんて……どうすればいいのでしょうか……」




