リアルフレンド、ゲームの世界へ。その14
サブタイのサブタイ
異次元プレイヤーは所持品も異次元
洋館を脱出した私たちは、《愛しのドール人形》のクエストを受注した少女NPC、《スーリ》に住むミリエラに目的の人形を渡した。人形をもらったミリエラは大変喜んでいる。対照的にアクイローネ、リズム、ブッシュの三人は悲しい顔を浮かべていた。
因みに私もクエストクリアしている。この事実を知った時、三人とも微妙な顔を浮かべていた。やることをやらず忽然と消えたメイドが我が物顔で登場し、苦労もせずミリエラから報酬を貰う。
居た堪れない空気になったから、自腹で何でも奢ることにした。
他人の金で買うショッピングはさぞ、楽しいかろう。
《スーリ》の街を散策し、通常アイテムショップ、ちょっとアクイローネが知ってる裏メニューを扱ってるアイテムショップにある品物を大人買いさせられた。お金には余裕がある。アイテムがいっぱいになったので貸し倉庫の支払いまで私持ち。しかもリズムとブッシュの二個分。アクイローネは『また、今度奢ってね!!』、と不適な笑みを出していた。
「......解せない」
ため息を出す私にリズムは声をかける。
「なぁ、ユミナ」
「何かしら、リズムさん」
「周りの視線が痛いんだけど......」
私たち四人の向けられる視線。それは《スーリ》にいる多くのプレイヤーからだ。
きっとゲーム内アナウンスはこの辺のプレイヤーも把握している。プレイヤーネームを確認したのち、アイツが『ユミナ』かと認識している。しばらくは《スーリ》に足を運べない。
「強い心を持たないとこの先、生きていけないわ」
「ユミナはまたやらかしたからね」
「さっきのゲーム内アナウンス?」
「高難易度をクリアするたびに、名指しで公開処刑されるんだ」
あれね〜 本当にやめてほしいシステムだよ。
苦労してクリアし、隠したい情報もあるのに、全プレイヤーに公開されては隠居するしか方法がない。運営によるイジメか??
「僕らがゾンビと戦っている間に、ちゃっかりクリアしたってことか」
「逃げたしね」
「逃げてません〜 強制イベントだったから仕方がないじゃん。クリアしないと脱出出来ないし、成り行きよ。成・り・行・き!!」
「成り行きで高レベルのダンジョンをクリアする女、ユミナちゃん」
「ねぇ〜 二人とも大丈夫だったでしょう」
首を縦に振るブッシュとリズム。
「「理解しました!!」」
アクイローネの言葉を理解できないのはきっと私だけ。
「......何の話よ?」
あぁ!!? 無視された......
「で、どうするのよ」
ゾロゾロと人が増え始める。狙いは私かもしれない。なんか群衆の後ろに見覚えのあるプレイヤーたちがいる。掲示板などで情報を得た高レベルプレイヤーの気配はちらほら。
「解散しますか」
パーティーを解消する。フレンドだからいつでも気軽に連絡が取れる。
「賛成!」
「ユミナちゃんに巻き込まれたくないし」
「同じく」
「......アンタたちね」
「でもさぁ、流石にこの群衆は無理じゃない」
「あー大丈夫。迎え呼んでいるし」
「「「迎え??」」」
《スーリ》に着く前に、宇宙最大の大いなる意志で迎えを呼んでいる。ボルス城がある『リリクロス』と私がいる『スラカイト』まで距離はある。全速力でお迎えに来ますと言われたが、こうも早いと逆に感心してしまう。
上空が影に覆われた。人々は恐怖する、巨大な蟹に。
鋼鉄の蟹から人が飛び降りた。複数人。着地した者たちは全員女性だった。
私たちの周りを囲むように並ぶ。偉い人を守るボディーガードように。私たち4人に迫るプレイヤーはいなくなった。
3人は警戒する。
「大丈夫。私の従者よ!」
「「「えっ!!?」」」
正確にはキャンサーの、だけど。
『プレセベ』内部にキャンサー同様アンドロイドが1000体保管されている。キャンサーを長として、キャンサーの命令に忠実。
高度を下げる蟹。発生する強風に私の周りにいたプレイヤーは捌けていく。
真っ赤な機械蟹が私の前に着陸する。三人は私の後ろへ下がっていた。
お尻部分が開く。踵を鳴らしながら降りてきたのはキャンサー。
「お待たせしました。ユミナ様」
「ありがとう、キャンサー!」
ゴスロリの美女。人工的に造られた妖艶な女性に周囲のプレイヤーたちは釘付けになる。
「じゃあね、三人とも」
巨大蟹型宇宙戦艦『プレセペ』に搭乗し、私は《スーリ》を脱出した。
上空高く飛んで行った空飛ぶ巨蟹。三人は思い思いを口に出す。
「ユミナ。流石にロボは予想していないよ〜」
「アイツ......一人だけ世界観違わない」
「今度会うときにあの美女さんもユミナちゃんに紹介してもらう!」
◆◇◆◇◆
ボルス城に着くまで鳴り止まないフレンドからの大量メッセージ。今日は疲れたので全てを無視した。
「ただいま〜」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
私のベットに座っていたのは薄着のヴァルゴだった。アリエス・ピスケスは寝ていた。
「遅くなったから拗ねてる?」
枕をギュッと抱きしめている頬を膨らますヴァルゴ。か、可愛い♡
「拗ねていません」
「ハイハイ。拗ねていない拗ねてない、よね〜」
ベットに寝転がる。アリエスとピスケスを抱き枕にして元気チャージ。
「あぁ〜 疲れたぁあああああ」
「はしたないですよ」
「良いじゃん、自分の寝室だし。何やっても許されるのよ!!」
「全く、貴方は......」
ヴァルゴの隣に座る。
「ねぇ、ヴァルゴ。ソロモンって覚えてる」
目を見開く。主から、主が知り得ない名前を聞いたからだ。
「懐かしい名前ですね。えぇ、覚えていますよ」
拳を握り、キレ気味になるヴァルゴ。
「何度殺そうとしたことか」
あれ? 思っていた展開と違う。
「王と名乗っていますが、何もできない木偶の坊。聡明と持て囃されていましたが、基本情報収集は私たち悪魔が、集めた情報を得意げに話していました。不祥事は全て私たち悪魔が処理していたし、被害を拡大する天才でしたよ。『全ての原因、ソロモンにアリ』。我々の間では決して忘れてはいけない言葉です。リリス様の手前処刑するのは何とか思いとどまりましたが......。あ——————思い出しただけで殺意が湧きあがります。殺したい」
なんかごめんなさい。
「ですが......」
哀しい顔を浮かべる。
「リリス様同様、私や他の悪魔の幸せを本気で願い、一生懸命でした」
「そっかー」
「今は何処で何をしているのか知りませんが。再会した時にはお嬢様を紹介します」
「な、何故?」
不意にキスされる。一日の疲れが吹っ飛ぶ感覚に陥る。生きてて良かったぁあああ!!!!!!!
「私の一番大切なお方です、と」
「光栄だな!」
良い雰囲気を射抜く濃密な邪気。後ろから睨む大量の視線が。
起きたアリエスとピスケス。いつの間にか部屋に、ベランダに出現した私の従者たち。
最近みんなの隠密力が高く、音もなく現れるから心臓に悪い。
私は笑顔でみんなへ所へダイブした。
「みんなぁああ!!!!!!! 疲れたから癒してぇえええええええ!!!!!!!!!」




