リアルフレンド、ゲームの世界へ。その4
サブタイのサブタイ
百合王女、メイドになる
◆◇◆
「で、どこ行くの?」
用事を一つ終わらせた私たち。次なる用事はブッシュとリズム、四人での冒険だ。
「洋館行かない!」
アクイローネって、洋館マニアだったのか。
「......また」
私の嫌そうな顔に二人は首を傾げる。
「前にも行ったことあるの?」
「あるよ。ホラー要素全開な洋館。あとは......」
アクイローネの頭を鷲掴みする。
「ふふふっ! あの時の借りを返さないとね」
「は、離しなさい......イ”テ”テ”ェエ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”!!!!!!!!!!!!!」
【星霜の女王】のジョブ性能とレベル100オーバーになった私の腕力を舐めないことね。
それと捕食者の影爪を装備しなかったことに感謝しなさい。巨大漆黒籠手での攻撃力も高い上に付属で鉤爪も生成できる捕食者の影爪。鋭利な先端を持つ【リッキープレイド】なら頭にめり込むだけじゃ済まない。頭蓋骨まで貫通だ。
忘れない、忘れてはいけない。アクイローネがヴァルゴ、アリエス、タウロスを唆した事で私がどれだけの辱めを受けたのか。
「頭が変形するぅううううう!!!!! ごめんなさい、ごめんなさい。出来心だったんです〜〜〜〜」
「あ————————!!?」
「そ———い———事———か!?」
私とアクイローネのやり取りを見ている二人は完全理解した顔を出す。
......
..................
..............................
ふん、これくらいにしてあげるわ。
喫茶店の床に倒れているアクイローネ。傍にはチョコレートソースで”ユミナ”と書かれていた。
「証拠隠滅ないと」
「ゲーム内のユミナちゃん。怖いわ......」
「凶暴性が増したな......」
外野はうるさいです。黙って観戦していなさい。血文字は足で消すか......救世の光、分類ではヒールだった......チッ!
「三途の川が見えた」
回復ポーションを飲むアクイローネ。
「三途の川如きで何疲れているのよ。プレイヤーなんて肉盾になれるだけでも上等なのに」
私なんて......数えるの辞めたわ。覚え切れない数々の死を経験したんだから。
「天を向いて、涙目になってる」
「よっぽど地獄を味わったんだね、アクイローネに」
「ちょっと—————————!!? 冤罪だわ!!?」
アクイローネの「ユミナの従者に三人で襲えば、ユミナも喜ぶし、楽しいわよ」と事の原因を話した所、ブッシュとリズムはアクイローネから離れていった。
◇◆◇
「人形を探して欲しい」
NPCの少女からのお願い。即ちクエストだ。《スーリ》に住むミリエラという少女から受注できる《愛しのドール人形》。初心者向けのサブクエストとなっており、無くした人形を回収してミリエラに届ける。
「《スーリ》から北西にあるボロい屋敷か」
目的地の地図までくれるとは、なんて良心的なクエストだ。場所も判明してるなら自分で行けば良いのに、と考えが働く。
「ゾンビ祭りだからね」
屋敷には人型ゾンビや動物ゾンビが大量に湧く。か弱い少女一人では対処できない。そこで私たちの出番。初心者レベルのクエストだし、戦闘が苦手なプレイヤーへの腕試しとしても利用される。
「唯一の対応は......ゾンビ軍団か」
攻略サイトにも手順が記載されている。目的の人形は広い屋敷にランダム配置される。ランダム配置の候補もリストアップ済。これほど簡単なクエストは早々ない。
目的の洋館まで歩く私たち。
「ねぇ〜 ユミナ」
「うん? 何かしら??」
「さっきのカフェで盗んだの......そのメイド服」
「んな訳あるかぁあああ!!? 自前よ」
タウロスが製作したメイド服装備。【名称:貴族の嗜好】。
白と黒を基調とした半袖ドレスにミニスカートタイプのメイド服。防御力も高く、ミニスカなので機敏に動けるのもポイントが高い。ヴィクトリア朝の古き良きクラシカルで厚着ロングスカートメイド服は、ボルス城のメイド長でもあるクラスが装備している。名前は確か......【絶対遵守な従順の衣装】だったはず。
〜装備欄〜
頭:貴族の嗜好:【カチューシャ】
上半身:貴族の嗜好:【エプロン】
下半身:貴族の嗜好:【フリルスカート】
足:貴族の嗜好:【ヒールパンプス】
〜武器欄〜
右武器:星刻の錫杖Lv.10 (EM:500→450)
左武器:
〜装飾品〜
①:覇銀の襟飾
②:メイドの白手袋
③:メイドの白靴下
④:※使用可能
⑤:※使用可能
⑥:※使用可能
⑦:※使用可能
今までのアクセサリーは覇銀の襟飾以外取り外した。メイドが高級な指輪やイヤリングを着けている訳がない。代わりにロンググローブとレース柄のニーハイソックスを装備した。覇銀の襟飾は見た目は造花付きのブローチだし、多分大丈夫だろう。
「可愛いけど......何故?」
「えぇ? 屋敷にメイドは定番でしょう??」
何を当たり前のことを!?!?!
メイドをロールプレイするなら当然の結果だ。
「ねぇ、おかしいの僕たち?」
「いや、正常は私たち。錯乱しているのはユミナだよ」
「......でも、似合う」
あのぉ〜 ブッシュさん。マジマジ見るのは良いけど。スカートを捲るのは辞めてくれません。
男性プレイヤーはいない。リア友で構成されている女性パーティーだから許すけど......
「そんな破廉恥装備つけてれば、ユミナの従者ヤバかったんじゃない」
リズムの言葉は正しい。試しに【貴族の嗜好】を装備状態でボルス城を歩くと、案の定、全従者は致死量レベルの鼻血を噴射。赤面の遺体がゴロゴロ転がっていたよ。
『私たちを殺す気ですか—————————っ!!!』と怒られました。
「鼻血音が実際に聞けるとは思わなかったよ」
「だろうね......」
「三人の分もあるけど、着る?」
「遠慮するわ」
「左に同じく」
「以下同文」
「つまぁんない〜」
「着いたわ!」
地図を確認するアクイローネ。前面には巨大な古びた屋敷があった。
(雰囲気............あるね)
ほらぁ、メイドっていいじゃないですか
『おかえりなさいませ、ご主人様!!』(満面な笑顔で接客するユミナちゃん)
「お嬢......みんな、息してねぇ」
ユミナや全従者は、この哀れな事件を忘れない。
「血塗られた宴」として語り継がれるのだった。




