リアルフレンド、ゲームの世界へ。その1
次話、3月12日19時に更新します!
「「せつな様! 真凪様! 私たちにゲームを教えてください!!!!!」」
私と真凪は呆然としていた。
学校の帰りに真凪の家に集合した私たち。みはるちゃんと奏から”大事な話がある”、と深刻そうな相談を受けていたからだ。ファストフード店では、内容次第でダメと思う。なので、学校から近い真凪の家が候補に上がった。
コーヒーを飲む。
土下座している二人を見た。
「それは構わないけど。なんで?」
私が言うのも変だけど、ゲームなら別に自由に始めてもいい。それを態々、教えてほしいと頼み込んだんだ。よっぽどの理由がないと説明がつかない。
「実は......」
みはるちゃんが携帯端末を見せる。動画だった。う〜〜〜〜ん..........あぁ〜
「......なるほど」
動画の内容はとあるゲームで闘技場でプレイヤー同士の決闘シーンだった。意外と高画質で素直に感心している。決闘シーン後の展開も動画には映し出されていた。
「この女騎士さん......会いたいの」
頬を染めるみはるちゃん。楠木みはるは、学校ではおっとり癒し系で通っている。加えてお菓子作りは天才的な才能を度々披露している。具体的に言えば、家や部活で作ったスイーツはどれもプロ級で芸術的センスも満点だ。もちろん、味は最高。実は私たち三人しか分からない楠木みはるがある。
「イケメン美女に惚れてしまったか......」
1Lのコーヒー牛乳を開ける真凪。ストロー、ぶっとぉおお!!?
「うん。控えめにいって、サイコーッです!!」
みはるちゃんは女性に目がない。それもイケメン顔の美女に。イケメン美女が登場する漫画やドラマは睡眠を忘れてしまう位、熱中してしまう。
「調べたら、『オニキス・オンライン』はせつなちゃんと真凪ちゃんがやってるの思い出してね」
自分だけではいつ、目的の人物に会えるか分からない。そこで、先に始めている私たちの協力があれば早く会えるかもと考えたわけか。一応、筋は通る。
「で、奏は?」
「う〜〜ん。特に理由はないんだけど......三人がやるなら、やってみるのもいいかなって〜」
九条奏は体を動かすのが大好きな女の子だけど、マイペースな女子高生だ。時々自分の世界に没入する癖はあるけど。
この四人の中で、一番のマイペースは一本目のコーヒー牛乳を飲み干した新藤真凪だけど......
(うわぁ〜 二本目、開けてる......)
私と真凪は小声で話す。
「ねぇ、どうする?」
「良いんじゃない。リア友と一緒にゲームするの楽しみだし」
「真凪は良いかもしれないけど」
「まぁ、せつなの場合はそうもいかないか」
「ニヤニヤ顔、やめてくれないかな」
コイツは知ってる。みはるちゃんが惚れてしまった女騎士が私の従者でもあるヴァルゴだってこと。
相変わらず、ウチのヴァルゴさんは罪な女だ。本人は興味ない、どうでもいいの一点張りだけど。
ヴァルゴが見ているのは後にも先にもユミナ、ただ一人なのだ。
「女騎士様に会うのが最優先事項よ。でもね、調べたらこのゲームで生産職があるのも知ったの」
「みはるちゃんは生産職になりたいの?」
「うん。珍しい食材で料理。少し興味が出てきたのよ」
「了解! 私と真凪が二人を立派なプレイヤーにさせるわ!!」
そんなこんなで私たち四人でオニキス・オンラインを始めるのだった。
◇
目を覚ます。見知った天井だ。
「さて、と」
集合場所は始まりの街でもある『スーリ』。
「出掛けるのですか、ユミナ」
「ごめん。起こした?」
隣で寝ていたのはラブ。他は誰もいない。二人っきりの空間。
「大丈夫です」
「少しスラカイトに行ってくるよ」
「分かったわ。お供は必要?」
「いいよ。友人と気ままな冒険してくるだけだし」
「分かりました。お気をつけて、ユミナ」
唇を重ねた。ラブからのいってらっしゃいのキス。
「行ってきます! ラブ」
扉を閉じ、外へ出た。
「ねぇ〜 みんないつまでやってるの」
寝室から出た私。出迎えたのは従者なんだけど......
何故か全員廊下の端に一列。深々とお辞儀をしていた。目を凝らすと全員、震えているのが分かる。
以前発生した記憶障害事件。記憶が戻った全従者は私に全力の土下座をしてくれた。皆記憶がなかったとは言え、私に無礼を働いたと後悔の念でいっぱいだった。自害を選んだ者までいた。特に星霊は生命の覚悟を決めていた。いつでも処刑の準備はできている。そんな態度だった。
アシリアも私に謝罪した。離婚と言われても受け入れると。泣くじゃくるアシリアを抱きしめ、許した。全従者も同じだ。今回の件は私たちでは回避できない事案だ。みんなを咎めても意味がない。
「私は、すべて許す。そう言ったよね。だから気にせずいつも通りに過ごしてよ〜」
このやりとりも何十回目だ。でも全従者はやめない。自分たちができる責めてものの償い。
二度目はない。魂に刻み、全従者は主を見送った。
これは長丁場になるな......
そう思いつつ、私は目的を目指す。
と、言っても、直接を目指さない。ファストトラベルアイテムの『異空間転送の把手』。このドアノブを壁に当てるだけで自分が行った場所に行けるアイテム。でも、自分が一度でも行った場所じゃなければ効果は発動しない。プレイヤーなら必ず通る始まりの街、《スーリ》。ボルス城から《スーリ》に行ければ良かった。でも、できない。
『異空間転送の把手』を入手してから、一度でも行った場所が記録される。私が『異空間転送の把手』を始めて入手したのは三番目の街、《ティーグル》を通過した後。なので、面倒いけど『ラパン』から行くしかない。
「いや、待てよ」
『異空間転送の把手』を設置して、専用ウィンドウが展開されている。ウィンドウには『異空間転送の把手』を入手してから、私が訪れた街やフィールドエリアの名称が列挙されている。名称をタッチすれば、即座に移動が可能になる。
《ラパン》をタッチする寸前に手を止めた。
《ティーグル》の街に一番近いのは《叫棺の洋館》。始祖の吸血鬼、アイリスの屋敷だ。ただ、《叫棺の洋館》を選択すると、アイリスの寝室に出てしまう。
「............まぁ、アイリスなら笑って流してくれるか」
闘技場でのユミナの戦闘シーンの動画。拡散され、大変なことに......




