システム障害=記憶障害。その8
次話、6時更新します!
観客はドン引きしていた。ユミナの対人戦闘に恐れ慄く。
ユミナをリアルでもゲームでも知っているクイーンですら、顔が引き攣っていた。
「クイーン。フレンドさん、ちょーー怖いんですけど!!!?」
「前に殺人ギルドのリーダーとの戦闘でも思ったけど、相手したくないわ」
「百合姫ちゃんって、魔法職じゃなかったけ?」
「バリバリの武闘派じゃん!?!?」
「えげつねー」
「カタギの人間だよね?」
「いや、絶対にあっち系の人だろ」
ギルメンが思うのも無理はない。一挙一足に無駄がない。確実に相手を殺しにかかっている。闘技場のルール上、この場でプレイヤーをキルしてもアイテムは没収されないし、デスペナルティも発生しない。そして、レッドプレイヤーになることもない。今まではお遊び程度の感覚で闘技場は利用されてきた。
しかし、先ほどの戦闘。一分も満たしていない闘い。周りは思った。
絶対外に開放してはいけない魔物が誕生してしまった。
「流石、私のユミナだな」
置いていかれないようにしないと。クイーンは心に決めるのだった。
◇
う〜〜〜ん。困ったぞ。
有意義な時間になると思ってあらゆる行動パターンを考えていたのに......
「一パターンしか実行できなかった」
ヴァルゴやレオだと即座に対応してくる。あの二人は基本、可笑しい部類だから。戦闘のイロハを教えてくれたヴァルゴは当然、私の行動は予測できる。あらゆる武器種のメリット・デメリットを教えてくれたレオも全速力からの足技も難らく回避する。
あの二人を負かすために日々、研究。ようやくお披露目できる、かもと思っていたのに......
落胆する私に迫る影が一つ。砂埃で人相は分からないが私には分かる。
「よくここまで来れたね。海を走ってきたのかな」
「姿が見えないのに、分かるのですね」
声の主は特に驚いてはいなかった。
姿を現したのはヴァルゴだった。いつもなら抱きしめるけど、今はできない。
「やはり......」
ヴァルゴは周りを見渡す。観客席にいるプレイヤーもヴァルゴの登場に歓喜していた。
「うるさいですね。殺しますか」
クレーマーよりも酷い。もう少し猶予があってもいいと思うけど......
「で、ヴァルゴ。何しにきたの?」
「真実の究明と貴女に会いに来ました」
「......世界、変わってるでしょう」
「信じがたい話ですが、貴女の言うことが正しかった」
ヴァルゴは私と離れ、調査を開始していた。目的は世界の変化。
星霊として活動していた時代からあまりにかけ離れた地形と生命体の文化になっていたからだ。
「私が生きていた時代はもうない。そして、これも信じられませんが......」
近づくヴァルゴ。
「私は、貴女の従者だと言うことも真実なのでしょう」
「一応、正解と言っておくわ」
「ですが、」
「......自分が人間に従事するわけがない。そうでしょう?」
「私の過去を知っている素振りですね」
「本人から聞いたから。真名も、ね!」
「............なるほど。では、確かめさせて貰います」
私たちは距離を取る。
「何かある度に私たち、戦っている気がするな〜」
「未来の私も、私と変わらないのですね」
音速を超えた移動。音が後からやってくる。同時に火花が散る。
「ほぉ!」
「何千回と受けているからね!」
初撃の攻防。
彼岸の星剣の切先を捕食者の影爪の巨大な籠手で防御。右手に持つ裁紅の短剣でヴァルゴの脇腹を攻撃。しかし、これは赫岸の星劍で防がれた。
「次撃もお見事!」
「おっかない鬼教官に叩き込まれたからね!!」
さぁ、次は何がくるかしら。
天地をひっくり変えてからの強烈な蹴り。それとも首根っこを掴んでからの顔面叩きつけ。一回しか喰らっていないけど、足指に二振りの剣を挟みながら操り、空いた両手はボクシングスタイルで攻めてくるのもあったっけ......
空中に浮きながら両手両足で攻撃してくるとか、バカでしょう、と思った。奇妙な動きで笑いそうになったけど。いや、実際に大爆笑してしまってヴァルゴに首チョンパから頭が細切れにされるし、胴体は無数の打撲痕ができたし......酷い目にあったよ。
蹴りの威力も可笑しい。私の胴体分裂したよ。人間の上半身と下半身は簡単に割けるんだ、と当時は驚いたな......
音速越えの移動に対応できなくて、何千回と吹っ飛んだことか......
「うん?」
思い出に浸っていた私は我に帰る。
ヴァルゴの力が緩んでいたことに気がついた。
「どうやら時間みたいです」
全プレイヤーの前にウィンドウが表示された。内容は修正完了の告知だった。
「......ヴァルゴ」
「貴女は面白い。きっと未来の私は毎日が楽しいのでしょうね」
「............うん、そうだよ!」
「死ねないですね。ユミナと出会うまで......」
鐘が鳴り止んだ。
目を開けたヴァルゴはキョトンとしていた。
「あれ? ユミナ様?」
自分が置かれている状況に混乱している。何故、闘技場で棒立ちしているのか。
何も分からない顔をしているヴァルゴ。
「おかえり!!」
「......た、ただいまです??」
「訳は後で話すよ! 帰ろっか!!」
私が出した手を握るヴァルゴ。
「あぁ!! 覚悟してよ! みんなが私にした事を余す事なく伝えるから」
「あのぉ〜 本当に私、何したんですか?」
いつも通りに戻った私達。しかし、握った手はいつも以上に離れなかった。
「いやぁ〜 終わった終わった!!」
扉が開く。デスクで溶けている社長がいた。
「修正作業、お疲れ様」
コーヒーカップを手渡す。
「あぁ〜 沁みる。やっぱり貴女の淹れるコーヒーは美味しい」
「お粗末さまです」
「で、どうだった?」
「まぁ、クロの言う通り敵は宇宙人だったよ」
「やっぱり〜」
「先発部隊は全員ボコボコにしてきたから」
「さっすが!!」
「裁紅の短剣だけで、倒せるとは思わなかったわ」
「......友好的な関係を築きたかったな〜」
「実はね、友好関係を結びたい勢力とコンタクトが取れたよ」
「おぁ!! 流石できる秘書は違うわね」
「これから彼らと協力して敵対勢力を叩くつもり」
「もぉ、言っちゃうの?」
「......いつから、子どもじみた言動をするようになったの?」
「はぁ!?!? ワタシに比べれば貴女の方が子どもなんだけど〜〜」
「いじけ方まで子どもになってる......。はぁ、仕方がないわね」
耳元で囁く。
「クロの大好きなスイーツは準備万端よ♡」
「いただきます♡」




