【特別編】ユミナとヴァレンタイン作戦
今日も、バレンタインデーです。パート2
よろしくお願いします!
魔法学園は現実の学校と同じように開始と終わりにチャイムが鳴る仕様。授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。
「ふむ、この鐘はいつの時も残っているな」
ケンバーは大図書館から鐘の音を聞いて懐かしむ。
ケンバーことエヴィリオン・ヴィクトールはヴィクトール魔法学園の創始者で、賢者の称号を持っていた女性だ。今は故人の設定である。私の周りを飛んでいる本は生前ケンバーが所持していた魔術本。ケンバーの魔力が生命残滓として魔術本に残っていた。濃密な魔力が充満してるヴィクトール大図書館に私がケンバーの魔術本を所持したまま入室したことで、魔術本が活性。結果、魔術本が開きっぱなしの状態限定で生き返った。
「ケンバーが作ったの?」
私はとある目的で大図書館にいる。
「知り合いの職人にな」
ページを捲る。まだ載ってないか......
「へぇ〜」
「おぬし、自分で質問しておいてつまらなそうな返事するでない」
「ケンバーが制作したら、興味があったんだけどね。結局職人頼りのオチで面白みない。以上!」
「実体があったら、何百回殺していただわさ」
「へぇ〜」
驚愕の顔を浮かべるケンバー。
読み終えた本を戻る。プンスカケンバー無視して壁一面に積まれている書籍を眺めていた。読んでいた本に目的モンスターの情報が記載されていなかった。
「お、おぬし......何故効かぬ。偽者か」
「あのエヴィリオン様。ユミナ様は探し物しているようですし」
ケンバーを諭すのはカレッタ・ヴィクトール。魔法学園の女性NPCだ。
ケンバーとカレッタは先祖と子孫の関係。今はカレッタの魔術の師匠。因みにカレッタは私の妹弟子。ケンバーの一番弟子はユミナちゃんである!
「ところで、ユミナ様。一体何を探しているのですか?」
私が広げている本を興味津々で見つめるカレッタ。
「ちょっと、ね。2体のクマを......」
「熊ですか?」
「あった!!!!」
ようやく探していたモンスター情報を見つけ歓喜した。1時間も読書するとは......
「ひぃ! ユミナが踊ってる」
ケンバーはこの世とは思えない生物の生態を目撃したかのようにユミナをドン引きていた。
「ユミナ様! 今日もお美しいです!」
反対にカレッタはユミナの優雅な踊りを拝見し、頬を赤らめる。
「何故、あのような珍妙な姿を見てうっとりしているのだ!!?」
自分の子孫が取り返しの効かない人間になり、絶望していた。
「じゃあ、私は出てく」
「ほい。はよ消えよ」
もう諦めるケンバー。今のユミナは無敵状態。こちらが罵倒しても物ともしない。
「あぁ、カレッタ」
「はい!!?」
急に名前を呼ばれて、体がビクッとするカレッタ。
吐息を漏らし、胸を抑えているがケンバーは見なかった事にした。
「探していたのは熊でも、ただの熊じゃないの」
本を広げた。内容は黒のクマと白のクマの生態と絵、出現場所の位置。
「毛皮部分がチョコで出来てる特殊なモンスターなの!!」
颯爽と消えたユミナの後ろ姿を見るカレッタ。首を傾げる。
「チョコが珍しいのですね」
◇◆◇
私がやってきたのは商業都市、ムートン。
その商業ギルド。生産職のNPCが運営している施設だ。生産職プレイヤーはまず、この商業ギルドに入らないと生産職系統の職業が取得できない。素材や製作したアイテムを売ると、何割か増大する。お店を持つための土地を教えてくれたり、出資もしてくれる。生産職のみしか知りえない情報がわんさか集まる。
「ブッシュ。お待たせ!!」
静寂になる。ギルド内にいたプレイヤーは徐々に身体を動かす。まるで電池を入れ替えた機械のように。
生産職以外も施設自体は入れる。だが、入室したのが私だと状況は一変する。
飢えたケモノ。目的は桃髪にオッドアイと特殊すぎるアバター。生産職ではない彼女よりも地形が頭に入っているプレイヤー陣。速攻で捕縛し、強い意欲(お前の持つ情報を教えろ)。ついでに欲望(貴方様の従者にお会いしたいです)。
等、目を見ただけで分かりやすい生態の持ち主達。それが生産職のプレイヤーだ。
おぼつかない足取りは、進むたびに早くなる。目をギラつかせ、興奮状態。
「ヤバいヤバい。逃げるよ」
ブッシュの腕を掴み、全速力で商業ギルドを後にした。
私とブッシュが逃げた先はとある一室。
「ここまでくれば......」
「なんで私まで......」
「生産職の連中から質問責めに遭うところだった......」
「ユミナちゃんが毎回、はっちゃけるからでしょう」
「いやぁ〜 照れますな!」
「褒めてない」
「ソファー座るね!」
疲れたから高級ソファーに座る。
「良いな、このソファー。私も欲しいよ〜」
「そうだね、座り心地最高。家具専門のフレに教えようかな。作ってくれると思う」
「教えても良いけど、ブッシュ。女帝に消されるよ」
私とブッシュが座っているソファーはムートンのカジノパークを全て牛耳ってる女帝の持ち物。
「......やめておこうかしら」
「あの〜 ユミナさん」
私に話けかるのは黒いド派手なドレスを着た女性。
ニコニコ顔がよく似合う美女、ヴェラ・モヘング。
「私は、ユミナさんのお友達は消しませんよ」
私たちが逃げた先はムートンのカジノパーク最上階。カジノのオーナー、ヴェラ・モヘングの部屋だ。
ムートンでの安全地帯。私はヴェラ直々からVIP待遇を受けているから、顔パスで自由に入れる。
警備をしている強面なゴツい黒服NPCさんたちとも知り合いでもある。私に対して物凄く低姿勢だけど......黒服のお兄さんたち。他の人はすぐボコボコにするのに。
てか、聞いていないフリしたけど。消さないの私の友達限定なんだね。
「それに私は普通のカジノオーナーです」
「ムートンの色々な事情に精通してるんだっけ? 裏の住人とも仲良しでしょう」
「さぁ〜 なんのことでしょうか?」
「ねぇ、ユミナちゃん。私売り飛ばされないよね!!?」
「大丈夫。ヴェラはそんなことしないよ」
「当たり前です。ユミナさんのお友達にちょっかいをかけた時には......」
震え始める。若干顔が青白くなっていた。
「裏社会の女帝なんて呼ばれていますが、思い上がっていました。世界には知らない方がいいことがあるのですね。大変勉強になりました」
「本当に、何したの? ユミナちゃん」
「私は特に何もしてないよ」
正確に言うと、私の従者がナニかをした......らしい。
「この部屋で行われた惨状を抜きにしても......」
ヴェラが私をまっすぐ見てる。
「命の恩人に無礼は働きませんよ」
ブッシュは納得顔になる。
「なるほど、ね〜」
高級テーブルに本を置いた。
「ブッシュ、例の本」
瞳をキラキラさせるブッシュ。
「やったー!!!!! 遂に叶うのね」
「素材全部あげるから、作ってよね」
「任せなさい!!」
「何が書かれているのですか?」
ヴェラも興味津々だった。
「チョコ探しよ」
「”チョコ”ですか? 私が愛用してるチョコレートのお店、教えましょうか」
流石、女帝様。そういう情報も持っているとは。しかも女帝御用達のお店は、イコール最高級品質に違いない。
念の為に、後で場所を教えてもらおうかな。
「ホワイトポーアーとブラックベアーか」
白熊獣、黒熊獣と書いてホワイトポーアー、ブラックベアーと言う。この2体は通常、魔法学園周辺で1体ずつしか出現しない。素材も毛皮や骨等のしか落ちない。至って普通の熊型モンスターだ。でも、条件が揃うと特定の場所で2体同時に出現。素材も変わる。
ホワイトポーアーがホワイトチョコレート。ブラックベアーはブラックチョコレートがドロップするらしい。
「正午から1時間しかでないなんてね~」
魔法学園から北へ。私たちは傾斜高めの山をのぼってる。
「生産職と魔術師の2人パーティーじゃないと出現しないとは」
目的のモンスターは別種。出現条件は料理系統をメインにした生産職と魔法使い系統をメインにしてるプレイヤー1人ずつ揃え、正午までに頂上にある花畑に到着しないといけない。
「ドロップアイテムがチョコになるのは良いけど、魔法使いが必要とは~」
「2体は魔法攻撃が弱点だからね! 私に言わせれば料理系統のジョブが必要になるとは思わなかったよ」
「料理人入れば食材に早変わり~ 私もジョブ性能と称号が入手できるから今回の申し出ありがたいよ」
「お菓子と書いて”スイーツ”だっけ?」
ブッシュのジョブは【お菓子】。料理人系統のジョブから派生したユニークジョブ。
「そう! お菓子を食べれば、能力が解禁するの! お菓子モチーフの武具を纏えるし、スイーツ好きには堪らないジョブね」
「お菓子モチーフのジョブね~ イメージつかない」
「チョコ素材を入手できればバリエーションが増える!」
「...チョコ主体じゃなくてもオプションで活用されるから意外に重宝されるよね」
「ユミナちゃんの目的もバッチリ! NPCにはバレンタインデーの習慣がなかったね」
「だね! NPCの中でも大富豪にいるヴェラや大貴族のカレッタもハテナマークだったし」
歩いて30分が経過した。
目視でも確認できるお花畑。絶景ポイントとしてデートに最適な場所になるかもしれない。しかし今から行われるのは、獰猛と欲望が入り交じった戦闘場。
草むらと土面で分かれてる。一歩でも足を踏み入れば、目的の熊が出現する。
ブッシュは飴玉を食べる。食べた後、ブッシュの身体はピンク色に染まる。
「飴玉の硬さをイメージした鎧?」
ブッシュの身体は分厚い鎧に身を纏い、両腕に縦長厚い盾、タワーシールドが生成された。
「そうだよ! 私が持つお菓子の中で一番の防御力を誇ってるよ。加えて防御スキルもかける」
「お菓子によっては疑似ジョブになれるのか。今はタンク並みの分厚い鎧になってるし」
「NPCとプレイヤーメイドのお菓子では性能が異なるの! 食べた桃味のキャンディーは私が製作したね。NPCのお店で売られる桃味の飴玉を食べると、ランダムで一ヶ所飴の装甲が生成されるの」
「ブッシュも準備完了したし、行きますか!」
ジョブを【賢者】に変更。【星霜の女王】は魔法使い系統のジョブではない。王様系統のジョブだ。別種のホワイトポーアーとブラックベアーを出現させるのは魔法使い系統のジョブが必要。今回は【星霜の女王】になれない。
星空の姫神を装備して、フィールドへ足を踏み入れた。
◆◇◆◇◆◇
用事を全て片付けた。目的のブツ、加えてヴェラ情報で高級品も買え揃えた。
「みんな!! ただいま!」
ボルス城の大食堂。4卓の超絶長いテーブル。天井にシャンデリア。夜空が流れてる。
食堂には従者が全員揃ってる。
「あの~ ユミナ様」
「何、アリエス」
「今日はどういった理由で...」
スコーピオン謹製の無限インベントリから目的のモノを取り出す。
「私からみんなへプレゼント!!」
巨大なチョコレートケーキ。十段の特大サイズにイチゴが乗ってる。ブッシュと乱獲したことで大量のチョコをゲット。素材を全てブッシュに提供。依頼したチョコケーキを製作してくれた。
テーブルには豪華な装飾の箱。中身は高級チョコ。
周りが騒然となる。主からのプレゼント。嬉しい反面何か思惑があると考える。
「...何で微妙な顔を出すの?」
「また、何かしましたか?」
「していません。失礼しちゃうわ、ただ......」
「愛する人たちに、私の気持ちを伝えたくて。大好きだよ、みんな!!」
ユミナからの感謝&告白。従者全員は顔を真っ赤にする。感動のあまり涙を流す者、恥じらうユミナを見て興奮する者、中でも鼻血を大量萌出する者など様々。
パーティーは次の日まで続いた。パーティーの様子をスクシュして、試しに掲示板に投下。掲示板はかつてない盛り上りを見せる。件の掲示板はゲーム内外に拡散され、無事プレイヤー等全員は死んだ。
本編次話、月曜日朝6時に投稿します!




