【特別編】恋人とバレンタインデー
今日も、バレンタインデーです!
時系列気にしないでください!
よろしくお願いします!
弓永せつなが巻波白陽姫と義姉妹を経て、恋人になってから月日が流れていた。
2月14日。人類はこの日をあるイベントになると認知している。そう、バレンタインデーだ。
白陽姫ちゃんと恋人になってから、初めて訪れたバレンタインデー。当然プレゼントも考えてある。
「あれ? 白陽姫ちゃんは......」
制服に着替え、リビングに降りてきた。テーブルには朝食が置かれている。お義母さんが用意してくれた物だ。
「なんか、用事があるとかで先に行っちゃたわ」
私の前にコーヒーを置くお義母さん。
「白陽姫。なんだか様子が変だったけど、せつなちゃん知ってる?」
「ううん。知らない」
トーストを齧りながら、お義母さんの質問に答える。
白陽姫ちゃんとは恋人になってから毎日、一緒に登校している。時々日直や生徒会の仕事を手伝う関係で早い場合がある。が、今日はその予定は入っていない。これは本人から聞いた話だ。
(ま、学園に着けば会えるし〜)
深くは考えなかった。
「そうだわ!」
お義母さんが一拍し、私に耳打ちする。
「今日私たち遅くなるから......二人とも良いわよ♡」
「えぇ!!?」
勢いでお義母さんの方へ振り向く。
お義母さんは私と白陽姫ちゃんが恋人になったことを知っている。
女の勘は恐ろしいのか、夏休み明けから私たちの関係を怪しんでいた。お父さんがいない日に、早々家族会議でバレました。怒られると覚悟していた私たち。意外にもお義母さんは否定せず寧ろ祝福してくれた。
お義母さんには結婚する予定は今の所ないとハッキリ伝えてある。白陽姫ちゃんも同意済みだ。お互いやりたいこともある。将来に向けての勉強も進めている。まずは大学に入り経歴をつくる。その後は安定した会社尚且つ自分のやりたい仕事を見つけ入社する。社会に出てちゃんと自立した一人の女性に私たちがなれた時、結婚しようと決めた。
お義母さんも私たちの進路に否定しなかった。それがどれだけ嬉しかった事は。
で、話は戻すけど。恐らくお義母さんとお父さんはデートする計画を立てているのだろう。家に親がいない状況になるからある意味無法地帯。節度を守って楽しくデートをしてね! というお義母さんからの熱いメッセージ。
「は、はい......前向きに検討します」
「赤くなって。可愛い!!」
「も〜〜う。揶揄わないでよ!!!」
ブラックコーヒーがちょっぴり甘く感じたのは気のせいかもしれない。
携帯端末で放課後に行くイベントの情報を再確認しつつ、教室に入ると......
「はい。チョコレート」
真凪から小包を渡された。
「爆発しないよね」
「せつなは私をなんだと思っているのよ」
「だって、真凪だし」
呆れため息を吐く真凪。
「やれやれ。せつなの脳みそは焼き切れたようね。交換に出す必要があるわ〜」
「全身がウィルスの真凪さんから、謎の小包を貰わなければ新しい脳みそを用意する必要はないわ」
少し不貞腐れる真凪。
「......別に何も仕込んでいない。ただの......友チョコ」
「......ありがとう。開けていい?」
首を縦に振る真凪。
「キレイ!!」
宝石箱。箱の中身は四角や球体といった様々な形状のチョコレート、計6個。定番のチョコレート色に、珍しい鮮やかなピンク色をしたチョコまで。箱も美しかった。白をピンク色で統一された箱。表にもチョコ周りにも星座が所々に散りばめられ、蓋の裏の真ん中には天の川の意匠が施されていた。
「狙った」
「何の事か分かりません〜」
しらを切る真凪。星座に天の川。どう考えてもゲーム内の私を意識したチョコとなっている。
「じゃあ、私もお返しね!」
バックから取り出した物を見て、ダウナー真凪が超覚醒した。
「そ、それは!!?」
1Lの紙パック風の箱。パッケージは真凪が愛して止まない有名コーヒー牛乳。しかし今回は少し違う。
「げ、限定品の......チョココーヒー牛乳!!!!!!!!!!!」
公式HPでのみ購入可能な限定品。1Lの紙パックの中にコーヒー牛乳味のチョコがぎっしり埋め尽くされている。チョコに使われているカカオは最高級品。コーヒー牛乳もこのイベントの為に改良された特別品。限定一万個。完売1分。中々の戦いだったわ〜
「はい! 友チョコ。いつもありがとう」
震える手で紙パック風の箱を受け取る真凪。
「わ、わたし......無理だったのに」
SNSでは入手できなかった悲痛のメッセージで埋め尽くされていた。世界トレンド一位になったこともある。
#残念コーヒー牛乳チョコ、だったっけ。当時の真凪を慰めるのには骨を折ったな〜
「見たか! 私の豪運を」
運よくチョコを購入できた。ま、その後謎の高熱で学校を休むことになったのはここだけの話。
「ありがとう、せつな! 愛いている!!!」
いきなり飛び込むのやめてくれません。体幹が悲鳴を上げてるから......
その後、奏は四人分のチョコレート飲料。(少しお高めの)
みはるちゃんは手作りのチョコレートケーキ。(ホールで)
他にも仲の良い女友達とプレゼント交換しつつ、ちょっとしたパーティーが開かれた。
「あの〜 すみません」
私は昼休みに白陽姫ちゃんの教室に向かった。移動教室が多い関係で休み時間は白陽姫ちゃんに会えなかったからだ。私が教室によく遊びにくるのは白陽姫ちゃんのクラスメイトは知ってる。誰を探しているのかも。
「白陽姫いないわよ」
「えぇ!!?」
クラスメイト曰く、お昼休みになった瞬間に白陽姫ちゃんは教室から飛び出したとか。
いつもならありえない行動。巻波白陽姫は、学園の有名人。モデル並みのスタイル。顔も完璧。美人さんで成績はトップレベル。運動神経も高い。気立もよい。何故か恋愛相談もよく受ける。まさに理想の美少女。誰もが憧れる全てを兼ね備えた女性。
そんな白陽姫ちゃんに最近、恋人ができたと噂されている。速攻で私だとバレましたが。事実を知った全男子生徒は血の涙を流し、生きる屍をなっていた事は記憶に深く刻まれている。女性生徒は意外にも受け入れてくれた。恋人ができてからの白陽姫ちゃんの色気は凄まじく、女性生徒全員が身が保たないと後から聞いた。加えて寧ろあの巻波白陽姫が惚れた少女に注目がいっている。つまり、私。
そんな注目の恋人さん、私を置いて消えた白陽姫ちゃん。誰もが不思議がる。
「あれは?」
指差した方角にある机。机の上は異様に盛り上がっている。
「あれは全て白陽姫宛のチョコよ」
恋人ができても人気が衰えない白陽姫ちゃん。高等部の女子は勿論、中等部の女の子まで白陽姫ちゃんにチョコのプレゼントをしている。あの塊が形成して4回目らしい。
「アハハ......」
上手く感想が言えず乾いた笑い声しか出せなかった。
結局放課後まで白陽姫ちゃんの姿を見ることは叶わず。
「どったの?」
「ねぇ〜 真凪。私はもうダメかもしれない」
みはるちゃんに髪を弄られている真凪。コーヒー牛乳を机に置く。
「女性であることに?」
コイツ......
「冗談だよ。どうせ愛しの恋人さんの人気でしょう」
「知っていたけど、知らなかった」
「ま、でも......」
頭を撫でられた。
「せつなは選ばれたんだから。胸を張りなさい!」
「......真凪」
「あの巻波白陽姫が恋人として選んだのは、せつなだけ」
生徒みんなが”あの”と付け加えるのはちゃんとした理由がある。私と義姉妹になるずっと前から、白陽姫ちゃんは学園の人気者。学園以外にもファンがいる。超有名芸能事務所の社長自らスカウトするレベルに白陽姫ちゃんは世間に知られていた。一回だけの条件でファッション誌に載った時には異例の重版続き。電子版は存在せず紙媒体を持つ人は英雄扱いを受けている。その後の芸能界のアプローチは全てお義母さんが対処し、白陽姫ちゃんは普通の学園生活を過ごしている。
当然男女問わず告白されることも多かった。けれども、白陽姫ちゃんは誰に対しても丁重に断った。
「今でも、せつなが選ばれたのは分からないけど」
「超難問だよね」
「多分、恋愛専門を研究してる偉い教授さんも頭を抱える未解決問題」
なんだよ、恋愛専門教授って......
人を難問数学と一緒にしないでくれない。
「完璧超人の巻波白陽姫も恋する乙女って事か」
「愛の力は無限大ね!」
恋か〜〜 愛の力か〜〜
「......そうだよね」
カバンを肩にかける。
「私帰るよ」
「じゃね〜」
「バイバイ、せつなちゃん」
二人に見送られ私は下校した。
「ふ〜う。何とかゲットできた」
都内エキナカで開催されたバレンタインイベント。国内外の有名シェフがバレンタイン限定で製作した特別な商品。かなりの数のブランド店も出店した特大祭典。学校を休むのは論外。仕方がないので放課後に行くしかなかった。スイーツダイスキー、みはるちゃんはイベント初日にゲットした強者。グループチャットで購入した品々は速攻で完売したプレミアなチョコたち。
長蛇の列を得て、見事チョコをゲットしました!
手作りの選択肢はもちろんあった。白陽姫ちゃんに内緒でお義母さんにチョコの作り方を教わりながら。
だが、料理全てが黒炭になる壊滅ぶり。何かの陰謀なのか分からない。とにかく私には料理は不向きらしい。
「お義母さんの顔......」
試食してくれたお義母さん。あれほど渋い顔をするのは中々いない。白陽姫ちゃんのお父さんがかつて経営していた会社で敏腕秘書として活躍していたお義母さん。白陽姫ちゃんの両親が他界してから海外から来日した各業界の著名人の通訳さんとして働いている。お義母さんには時々お礼としてプレゼントが贈られる。中身は当然高級品ばかり。珍しい食べ物や料理も食してきたお義母さん。
食べ物の味を熟知しているあのお義母さんでさえ、私の料理はダメだったらしい。
白陽姫ちゃんにバレンタインプレゼントを何としてもあげたかったので、チョコを購入する手段を取った。
「あぁ、雪」
都内で雪が降るのは今日が初。パラパラと空から降ってくる。
首に巻いているマフラーを口元まで上げる。
神秘的な夜景を二人で見たかった......
真凪やみはるちゃんの前では無理やり元気を見せた。でも、本当は不安で今も苦しい。歩けているのだって奇跡だ。緊張と不安に苛まれ、お腹の中から何かが逆流するかのような錯覚まで陥っている。
内緒のプレゼント、というわけではない。いつもと変わらない楽しい会話。ドキドキしながら列を待ち、珍しいチョコを一緒に見て回りたかった。二人で購入したチョコを食べ、街の風景を眺めながら家に帰る。特別な日常を大好きな人......最愛の恋人と過ごしたかった。
けれども、全ては幻想。白陽姫ちゃんとは今日一度も会えなかった。メッセージを送っても簡易的な返事ばかり。しまいには放課後まで速攻いなくなる。
悲しくなってきた。胸が張り裂けそうになった。
滑稽だよね......バカみたいに一人で舞い上がってさぁ〜
色々変な考えをし出し始めちゃった。白陽姫ちゃんはきっと友達といるのかもしれない。もしくは新しくできた大切な人と。恋なんて一時の気の迷い。楽しかった日々は疎ましくなる。関係が冷めれば終わる。今までの愛情も。何もかも......
私たちの場合は義姉妹だから、どうしても顔を合わす回数が多い。お互いが気まずい関係を保ちながら、一年......十年......死ぬまで関係は続く。年月が経つにつれて私と白陽姫ちゃんにはそれぞれ、新しい大切な人が出来る。結婚するかもしれない。
けれども私は......
「あれ?」
泣きそうになりながらも気付けば、家の前まで帰ってきた。家の明かりが付いている。今朝お義母さんはお父さんと一緒に出掛けると言っていた。
一回家に戻ったのかな?
「ただいま〜」
玄関に入った瞬間、リビングで騒音が聞こえた。何かが爆発する音、物が床に落ちる音が入り混じっていた。
私は慌てて靴を脱ぎ、リビングに入る。
「どうしたの!?」
勢いよく扉が開いたことで中にいた人間は驚く。
「あ、せつな......」
「え、白陽姫ちゃん......?」
そこにはエプロン姿の白陽姫ちゃんがいた。全身煤だらけを添えて。
私と白陽姫ちゃんは黙々と掃除を始めた。騒音の後、家族グループチャットで両親は仕事帰りに合流して帰りは遅くなるとメッセージが届いた。なので、両親が帰ってくるまで家には私と白陽姫ちゃんの二人っきり。
「ねぇ、白陽姫ちゃん」
低い声に反応する白陽姫ちゃん。少し怯えた口調で返答していた。
「な、なに......」
「今日どうして姿を消していたの」
私の質問から間が長い。
ようやく口を開く白陽姫ちゃん。
「......チョコを作っていたんだ」
「別にチョコくらい私と一緒に作ればよかったじゃん」
私主体でやるとダークマターしか生み出さない。ならば、白陽姫ちゃん主体でチョコ製作すればきっと上手くいくはず。
「......恥ずかしかった」
「どうして? 白陽姫ちゃんなら......」
私の言葉を遮る。
「......料理がダメなんだ」
予想外の回答だった。何でも完璧にこなす白陽姫ちゃん。
私はあることに気づく。そういえば、白陽姫ちゃんが料理する姿、一度も見たことがない。
キッチンにいても精々、コーヒーをいれるくらい。エプロン姿なんてレア中のレアな光景。
白陽姫ちゃんの言葉を聞いてからキッチンの惨状を改めて確認した。
チョコがキッチンに飛び散っている。レンジで溶かしたと推測できる。チョコを溶かすのは湯煎が定番。
料理の手順が解明できないレベルで散乱している食材たち。色々手を伸ばして収拾できなくなったと考えられる。
調理器具もチョコ製作には必要ない物までキッチンにある......酷い有様だった。
「消えていたことは謝罪する」
「理由は」
「............瑞穂にチョコづくりを教わっていた」
白陽姫ちゃんの言う瑞穂とは、生徒会長を務める風見瑞穂さん。白陽姫ちゃんとは中等部から友人。私も何度か生徒会室に足を運んだ際、面識している。
今日一日の白陽姫ちゃんの不可解な行動は全て瑞穂生徒会長にチョコづくりを教わっていたから。朝早く登校したのは、家庭科室でチョコを作っていたとか。しかし、失敗。
白陽姫ちゃんの試作品チョコを食べて瑞穂さんも私の手作りチョコを試食したお義母さんと同じ反応していたらしく思わず、爆笑するところだった。
休み時間やお昼休みに消えたのは二人でチョコレシピを見て、白陽姫ちゃんでも作れる品を選んでいたから。
私に対して簡易的なメッセージだけだったのは、私にチョコづくりがバレないために無意識な行動だった。
そして、放課後。レシピは決まり、私が帰ってくるまでにチョコを完成させる作戦を取っていた。
「瑞穂さん。いないけど......」
「1時間前に帰ったよ」
「なのに完成していない?」
「あ、いや......その......返す言葉もありません」
珍しくゲンナリしてる白陽姫ちゃん。失敗の連続で心に深いダメージを負っているようだった。
「じ、実は......一応完成はしている」
「そうなの!?」
高校バックから取り出した小包。
巾着タイプの包み方。結んであるリボンはぐちゃぐちゃだった。
「開けていい」
無言で了承する白陽姫ちゃん。
リボンを解き、中に入っている四角い箱を取り出す。
「笑ってくれてもいいぞ」
形が歪なハート型のチョコ。白陽姫ちゃんは私に自分の作ったチョコを見られて、深く後悔していた。
「笑わないよ。私より出来良いし」
少し歪なチョコなだけじゃん。私なんて炭よ、炭。もしも私の手作りチョコを白陽姫ちゃんが見たら失神すること間違えない。
「美味しい!」
形は変だけど、中身はしっかりとした味。私が好きな味で最高!!
「これじゃダメだったの?」
モジモジし出す白陽姫ちゃん。顔が紅潮してる。
「大好きな人にチョコを渡す日に不恰好なチョコはダメだと思って......」
「それで、今まで試行錯誤を」
「恥ずかしかった」
「白陽姫ちゃん......」
「今までの私を見ているせつなに幻滅されたくなくて......」
私は白陽姫ちゃんを抱きしめる。
「せ、せつな......!!?」
「ごめんなさい」
「どうして謝る?」
「私が白陽姫ちゃんを............苦しめていたんだね」
「そんなことはない。私が勝手に......」
「でも、嬉しかった」
「えぇ?」
「私のために一生懸命。慣れない事に挑戦していて」
顔を近づけ、白陽姫ちゃんの唇にキスをする。
「ありがとう、白陽姫ちゃん。私、超幸せだよ!」
購入したチョコを入ってる袋を差し出す。
「恋人からのプレゼント。受け取ってくれますか」
心からの笑顔。袋を手に取る白陽姫ちゃん。
「ありがとう。大切に食べるよ」
白陽姫ちゃんの微笑みを見て、心臓の鼓動が早くなる。
そして、なんて魅力的な顔なんだ。私はバカだ。
学園にいる白陽姫ちゃんは決してこの顔を出さない。私にだけ向けられた、特別。
再確認できた、それだけで満足。でも、先ほどまで白陽姫ちゃんを勝手に侮辱してしまった。
だから......
「それとさぁ」
震えながら耳元で囁いた。
「夜まで二人とも帰ってこないよ」
私の意図が通じた。私の頬を撫でる。
「残念な恋人だよ」
私はまっすぐ白陽姫ちゃんを見つめる。
自分の想いを吐き出した。
「最高の恋人だよ!」
両手を広げた私に、白陽姫ちゃんは覆い被さる。
「愛してる、せつな」
「私も、愛してるよ」
キッチンの掃除を終わらせ、買ってきたチョコを白陽姫ちゃんの部屋で食べた後。
夜遅くまで二人だけの濃密な時間を過ごした。




