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真名

 落ち着け、ユミナ。

 状況を整理しよう。


 私は、ヴァルゴに呼び出された。”大切なお話があります”と。

 真剣な瞳だった。これは余程の事態だと直感した。

 だから、私とヴァルゴ二人っきりで話すためにボルス城を離れた。

 邪魔されたら、終わりだから。

 静かな場所へ移動した。


 良しッ! ここまでは思い出した。

 問題はここからだ。

 何故、ヴァルゴは不満100%の顔をしているのか。

 おかしい。非常におかしい。


『愛しています』


 そう、ヴァルゴに言われた。

 だから、私も『愛している』って応えた。

 何度、ヴァルゴから言われても心地よい。

 胸が張り裂けそうな気持ち。

 アシリアや、私の従者から。そして、白陽姫ちゃんから——————


『愛している』


 この言葉は、私の心を奮い立たせる。

 勿論、VRゲームのアバター。

 仮想体だ。

 本当に身体上が真っ赤に火照るわけではない。

 脳内に......って、今はそんな小難しい話はなしッ!


 恐る恐るヴァルゴの顔を見る。

 表情は変わらずのまま。


 ハイライトが消えた瞳。

 咲く草花に視線を向け、ボーッと眺めている。

 口からはため息。しかも、長い。

 肺活量どうなっているんだ!?

 と、思わせるくらいに非常に長い。

 身体から溢れる邪気は無くなっている。

 いつもは敵を威圧しなくて迸っていた。

 でも、今は何もオーラ的な圧を感じない。

 全くの脱力状態。

 生気を奪われたような状態だった。

 虚無感と表現した方が適切なのか。


 以上が、ヴァルゴの現状です。


 はい、ここで問題です。

 私は何をやらかしたのでしょうか?


 私の体が小刻みに震えている。

 まずい。これは、非常に不味い事態だ。

 何か言葉をかけないといけない。


 でも、この場での適切な言葉が見つからない。

 この状況を生み出した真犯人でもある私は、歯がゆい気持ちを募らせていた。


「ユミナ様......」


 ゾッ......!


 ぎゃああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!

 めっちゃぁぁあああああ!!!!!!!!!

 低い声だよ、ヴァルゴさん。

 怒りが頂点に達している。


()()()()。私も好きです!」


「はい。私もユミナの事が好きです」


 機械的な音声になるヴァルゴ。

 ならば、次だ。挫けるな、ユミナァァアアアアア!!!!!


「私は()()()()の事、大好きです!」


「はい。私もユミナの事が大好きです」


 少し、生気が宿った声に戻る。でも一レベル上がっただけの印象。

 道のりは遠い。


 へこたれるな、わたしッ!!!


「私は()()()()の事、(あい)している」


「はい。私もユミナの事を()()()()()()


 静寂の湖で高らかに告白のメッセージを叫ぶ私。

 対照的に低音ボイスで事務的な会話をするヴァルゴ。


 草花が揺れる音だけが響く。

 私とヴァルゴの間には静寂しかない。


 きっと、次だ。確証はない。

 でも、次。私が言う言葉を間違えれば、終わる。

 候補としては、私の首と胴体が分離する。

 もう一つは、怒りのまま周りを破壊するヴァルゴ。


 最悪な状況はヴァルゴが私の前からいなくなる。


 考えろ、きっとどこかに答えはある。

 うん?


 そういえば、『私は()()()()の事、愛している』と私は言った。

 その返事として、ヴァルゴは『はい。私もユミナの事を()()()()()()』と応えた。


 おかしいぞ。ヴァルゴの顔が機能停止する前にも同じ内容を言い合った。

 確か......あっ!?


『ユミナ..................私は”ラブ”です』とヴァルゴは言った。

 その返事に、私は『ヴァルゴ......私も貴女のことを(あい)している』と応えた。


 さっきと似たようなシチュエーションだ。

 この後から、ヴァルゴは無表情になっていた。


 何が違うんだ。『()()()()()』と言われたから『(あい)している』と返事した。何も間違っていない。


 無意識に私は上を向いた。


 自然界のど真ん中。

 人工の明かりはボルス城のみ。

 なので、満天の夜空が広がっている。

 点在する星々も綺麗。

 夜をなくした高度の発達した現実(リアル)では味わえない景色。


 星......星座......星霊............種族......うん?

 何か頭に落ちてくる。もう一息だ。

 種族......?

 別に私にとって、星霊は特別珍しくない。

 みんな、強いし私に対して忠義心がカンストしてる。

 みんなはそれぞれ、黄道(こうどう)十二宮(じゅうにきゅう)星座と同じ名称を与えられる。


 そういえば、ジェミニのラグーンとベイ。何でアイリスに真名を未だに教えないんだろう?

 宴会でも仲睦まじく愛し合っていたのに......


『真名』か。懐かしいな〜

 ヴァルゴと出会った時。宿屋でヴァルゴに初めての命令したよね〜

 なんだっけ?


 あー思い出した!

 確か......『貴女の真名(真なる名前)を教えてください』だったはず。

 その後、すぐヴァルゴ。顔を紅潮し始めたっけ。

 凛としたデキる女性が崩す可愛い表情。ご馳走様でした!

 いい思い出だよ......あれ?


 待てよ。待て待て待て待て待て待て待て待てェェエエエエエ!!?!??!?!?!?


 ヴァルゴはちゃんと私に説明してくれた。

『星霊は自分の真名を教える相手は必ず、()()()()()()


 マナ、ヲ、オシエル、アイテ、アイスルモノ......



 ヴァルゴが愛しているのは私だ。つまり、『愛する者』は私に該当する。


 真名(真なる名前)

 つまり、星霊の本当の名前。

 ヴァルゴも含まれる。

 星霊たちは自分が決めた『愛する者』以外、誰にも知らせてはいけない。

 とても重要な言葉。


 何故、ヴァルゴが不機嫌になったのか。


 何故、二人っきりで話をするのか。


 何故、自分でも嫌な姿になってまで私に告白したのか。



 そして、私はヴァルゴの言葉を勝手に変換してしまったのか。


 その答えはただ一つ!!



「あの、ヴァルゴさん......」


 畏まった声でヴァルゴに話しかけた。

 返事がない。


「もしかして......先程、仰っていた()()()は」


 プイッ


 直視されない。視線を合わせてくれない。感情のない顔。ダメだ。終わった......


 ヴァルゴにすがりながら謝罪する。


「お願いします。私の顔を見てください。謝ります。土下座します。見捨てないでください。なんでもします。必ず埋め合わせします。ヴァルゴの要望は全て叶えます。私は醜い主人です。従者の一世一代の大イベントを台無しにしてしまったダメな女王です。本当に申し訳ありません。ねぇ、もう一回私にチャンスくださいませんか。ちゃんと言います。私の全身全霊をかけてヴァルゴの告白に向き合って見せます。だから......!?」



 軽いキスをされた。

 私とヴァルゴの唇は離れる。


「少し、落ち着いてください」


「はい......」


 私は正座した。


「すみませんでした」


「まったくです。人の気持ちも知らないで......」


 どすっ!


 ヴァルゴの言葉が刃物となって私のお腹を一突きした。

 ゴア表現はない『オニキス・オンライン』。

 でも、私は感じる。

 口には血がつき。お腹から大量の血が垂れ流されていく感覚が。


「......ごめん」


「私の本当の名前。ユミナ様しか知りません」


「うん? それは星霊だからでしょう?」


「いえ、そうではありません。私が生まれ、多くの者を殺してきた今まで誰も知りません。勿論、リリス様も私の真名はご存じないです」


「えぇ!? き、聞いても......」



 ヴァルゴは話した。自分の過去を——————





 ◆


 彼女の真名をつけてくれた両親は、彼女を産んですぐこの世を去った。

 神々の戦争に巻き込まれたんだ。

 生き延びた彼女は、自分だけの力で今まで生きてきた。

 激化する戦争の中を一人で駆けて行った。実力もつき、力も得た。

 そんなある日、1000年にも及ぶ長き戦争は幕を閉じた。

 しかし、残ったのは凶暴な『力』を持った”悪魔”だった。

 周囲は彼女を拒絶した。

 彼女もまた、自分には『力』しかないとわかっていた。

 だから、より『力』を欲した。

 いつしか、彼女は自分の名前を自分には相応しくないと悟り、自ら、名前を封印した。


 その後は、悪魔界でも荒れた大地。強力な悪魔でさえ、逃げ出すのが魔界と呼ばれる魔境。

 魔界でも彼女は恐れられていた。

 誰も彼女を倒せる者、心を開く者はいなかった。


 彼女はずっと、一人だった。


 そんな魔界での生活で、彼女は一人の女性と出会った。

 黒き髪を持つ、超越者。誰であっても決して勝てない存在。

 彼女は嬉しかった。

 自分以上の存在がいたことに。

 だから、彼女は惨敗しても悔しくはなかった。

 あの人を超える。今の彼女の生きる目的は、たった一つだけになった。


 リリス様の『グレモリー』を与えられた。

 生きる目的を増やしてくれたリリス様。

 リリス様に恩返ししたい。

 グレモリーは、己が与えれた名に相応しい存在になるべく研鑽していった。

 しかし、世界は、そこに棲む者たちは彼女を否定した。

『力』しか持っていない彼女は、拒んだ。

 それでも、彼女は耐え続けた。

 こんな自分でも、己を変えれる。そう信じて......


 リリス様から『星霊』に任命してくれた。

 彼女の実績を見て判断したからだ。

 今、思えばリリス様は観ていたと思う。

 自分が持つ能力で。

 どの時代に誰を星霊にするのか。

 その後の運命も......


 新しく『ヴァルゴ』を頂いた。

 だが、既に彼女は絶望していた。

 理不尽な現実。渇いた生命。あるのは闘う力だけ。

 そこから、彼女は誰にも靡かず、人を寄せ付けない圧で生きてきた。


 彼女は自問自答した。


 それでいい。自分の側に誰かがいることは未来永劫ない。

 彼女は自分で殻に閉じこもった。

 誰にも心を開かない。

 悪魔として、戦うことしかできない醜いケモノとして、生涯を生きていくことに......





◇◆



「後は、ユミナ様が知っている通りです......」


 話終えたヴァルゴ。


「ユ、ユミナ様ッ!?」


 私はヴァルゴの胸に飛び込んでいた。

 オロオロするヴァルゴが唯一、できた行動は抱きしめるだけだった。


「ユミナ様が悲しむことはありません」


「言わないでよ......」


「これは私の過去です......。もう、終わったこと。でも、私は嬉しいです。私が視ている景色は全て華やかに彩られています」


「......ヴァルゴ」


「全て、ユミナ様のおかげです! 私は今、幸せです!」


 ヴァルゴは笑顔だった。

 心からの幸せ。自分はちゃんと生きている。

 めぐり巡って、ようやく大切な人に出会った。


 私は、ヴァルゴの手を握る。

 柔らかく、温かい手は驚いていた。


 私は、うわずった声で言った


「......ラ、ラブ......」


「ッ!?」


 呆然とするヴァルゴ。


「......私、ラブの事を一生守っていく。ラブ、愛しています!」


 ヴァルゴから涙が溢れ始める。

 泣く姿が、愛おしかった。

 おかしな気分だった。こんな状況で。


 私は手を伸ばした。

 ヴァルゴの涙をぬぐった。


「......ユミナ」


 ずっと、涙を流していた。

 泣きじゃくるヴァルゴに言う。


「ラブ、泣いてる顔も綺麗だね。私と同じだよ」


「み、見ないでください......恥ずかしい、です」


 頬が薔薇色に染まっているヴァルゴ。

 優しく頭を撫でた。


「私が生きている間は、悲しませない!」


「ほ、本当に......あ、あ、貴女は......私の......光、ですね!」


 誓いの口づけをした。


「末長くよろしくお願いします、ユミナ」


「こちらこそ、よろしくね。ラ、ラブ......さん」


「どうして、敬称をつけるのですか?」


「いや、冷静な状態で口に出すと......恥ずかしくて」


「徐々に慣れてください。私も『お嬢様』と『ユミナ様』を使い分けるの苦労しました」


 頭を抱える。


「そうだった!」


「どうしました?」


「あ、いや。これから、呼び名には気をつけないとな〜」


 星霊が今まで守り抜いたルールだ。

 私が打ち砕くのも罪悪感がある。

 しかし、名前を呼びたい。


「決めました!」


 ヴァルゴが周りに人がいる時、私を『お嬢様』と呼び、二人っきりの時は『ユミナ様』と言っている。


 このアイディアを活用した。


 みんながいる時は、いつも通り『ヴァルゴ』と呼び、二人っきりの時は『ラブ』と言う。


 私の提案にヴァルゴはうなづいた。


「私も”様”を取るべきでしょうか」


「好きに呼んでいもいいよ。まー本音は敬称なしで言ってほしいけど」


「わかりました。少しずつ努力します」


「よろしく!」


私たちは肩をくっつけ景色を眺めていた。


「ラブが泣き止まないから......もう少し、ここにいないとね!」


 今の状態で城に戻れば、みんなから野次が飛ばされる。

 もしくは、今度こそ、腹パンされる未来しかない。


「そうですね。今日は、ユミナと、もっと一緒にいたいです」




 私たちは二人だけの、特別な時間を大切に過ごした。


お二人とも、お幸せに!!


次回、シーズン2最終回でーす!



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 《星霊探しの旅(サイン・セクスタント)》:現在:12/12


 ・乙女座(ヴァルゴ):種族:【星霊】

 職業:MAIN:【剣星】SUB:【悪魔】


 ・牡羊座(アリエス):種族:【星霊】

 職業:MAIN:【星聖】SUB:【聖女】


 ・牡牛座(タウラス):種族:【星霊】

 職業:MAIN:【星匠】SUB:【炎鍛治神】


 ・双子座(ジェミニ):種族:【星霊】

 職業:MAIN:【星導】SUB:【時幻】


 ・山羊座(カプリコーン):種族:【星霊】

 職業:MAIN:【星天】SUB:【大天使】


 ・獅子座(レオ):種族:【星霊】

 職業:MAIN:【星闘】SUB:【傭兵】


 ・水瓶座(アクエリアス):種族:【星霊】

 職業:MAIN:【綺羅星】SUB:【人魚姫】


 ・蟹 座(キャンサー):種族:【星霊】

 職業:MAIN:【超兵星】SUB:【機械人形】


 ・射手座(サジタリウス):種族:【星霊】

 職業:MAIN:【弓星】SUB:【狩人】


 ・蠍 座(スコーピオン):種族:【星霊】

 職業:MAIN:【栄星】SUB:【錬金術師】


 ・天秤座(リブラ):種族:【星霊】

 職業:MAIN:【妖星】SUB:【森人妃】


 ・魚 座(ピスケス):種族:【星霊】

 職業:MAIN:【溟星】SUB:【海竜帝】

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