『私を怒らせた罰よ』
少女は優しかった。
自分を好いてくれる者たちと一緒に過ごせれば良かった。
もしも、愛する者たちに脅威が迫っているなら。
少女は、自分が得た『力』を行使する。
◇
前から迫るゾンビ。
騒がしい足音、荒い息遣いが聞こえる。
両手を前に出し、ユミナを掴もうとする。
が、掴まれるより、ユミナの移動速度が速かった。
先頭を走る数体のゾンビは首を切断された。
体を捻り、周囲のゾンビへ攻撃する。
両手の剣と両足に装着されている液体金属刃。
その場で空中回転。
四肢を切り落とされたゾンビたち。
無力化されていく。
大柄のゾンビが倒れ込む。
ユミナを押し殺そうとしているのだろう。
回避は間に合わない。
「大柄相手なら、こっちは巨大な拳よ!」
ユミナの背中から四本の剛腕。
星王の創造に内包されている液体金属が腕を形成。
倒れる行動をキャンセルされる大柄ゾンビ。
二本の腕でゾンビを拘束。残り二本で連続パンチ攻撃。
スピードと巨大な拳を無抵抗で受けたゾンビは吹っ飛んでいった。
足に装着されてる刃も展開。全てを駆使して、ユミナはゾンビに対抗した。
ユミナは稀代の女王のピチピチパイロットスーツを着ている。
防御力を上げるために、四肢や大事な部位に星王の創造が機械的モジュールが装着されている。
余った液体金属で武器を生成に成功した。
両手、両足、背部の剛拳。全てが属性魔法を纏っていた。
ユミナが新たに取得した職業、『魔導剣士』。
『魔導剣士』の性能はシンプル。魔法を武器に付与する効果。
”剣士”と明記されているが、武器種は何でも魔法を付与できる。
これだけ見れば、わざわざエヴィリオン・ヴィクトールが取得に協力しない。
付与を維持するのに膨大なMPが必要になる。
加えて、付与できる魔法の種類は、複合魔法のみとなる。
魔法の重ね掛けに耐え得る強靭な器と融合された魔法を強く想像できるか。
ま、大変できた。ケンバーもノリノリで教鞭するし、立ち直ったオフィからも魔術地獄コースを受けてたし。
何度、本を燃やそうかと思ったことか。
ユミナの溜まっている怨みに同調した星王の創造。
四本の剛拳は、超高速連続パンチ攻撃で殴る。ゾンビの頭を掴み、持ち上げ、無造作に放り投げる。
拳は形を変え、鋭利な刃へ。
刃状のアームは触手の動きを見せる。
鞭のようにしなって四方から迫るゾンビは切り裂かれた。
「ゲェ!」
遠方から黒い塊が降ってくる。
塊の正体はゾンビをかき集めてできた球体。
接着剤もないのに......よくやるわね。
黒い塊は崩れた。ゾンビの雨だ。
豪雨の様に降り注ぐ中、背部のスラスターを噴射。
落ちてくるゾンビを空中で縫うように回避した。
ユミナは飛行に集中。四本の刃でゾンビを対処。
あらゆる方向から落ちてくるゾンビ。
その全てが三枚おろしされた。
「あぁ!?」
地上では走ってくるゾンビ。上空からは落下ゾンビ。
僅かな死角ができていた。
ユミナが右手に持つ濃藍の矛がバシャの魔法弾に当たる。
弾き飛ばされる濃藍の矛。
砂煙が舞うフィールド。
まぎれた濃藍の矛は、目視では発見できない。
ユミナの顔に黄昏の様な光が映る。
バシャが魔法を発動する準備をしていた。
『征服者の錫杖』の能力なのか、ものすごい速さで極大の魔法弾が生み出された。
いくら『稀代の女王』でも回避は間に合わない。
「散れッ」
恨みのこもった声で魔法を放とうとした瞬間——————
「がぁッ!?」
バシャはよろめく。
怯んだことで魔法はキャンセルされた。
背中を抑えるバシャ。
顔を後ろへ向けると、バシャの背中には剣が刺さっていた。
藍色の剣は自ら、バシャの背中を離れた。
自分が飛ばした剣が何故、背中に?
「なんでだぁぁああああ!」
バシャは狂気じみた叫びを上げる。
剣が意志を持つなどあり得ない。
予想外の出来事で思考が乱れていく。
バシャを切り裂いた藍色の剣はユミナの手元に戻っていく。
「これはね、決して離れない双刃剣なの」
濃藍の矛、鉄藍の刀は二つで一つ。片方が吹き飛び、拾えない距離にあっても、必ず戻ってくる。時には反発し、時には一緒に戦う。強力な磁石のように。決して離れない絆の象徴。
片方がない時、もう片方の持ち手にあるトリガーを引くことで、自動的に所持者がいる位置まで戻ってくる。
それが、濃藍の矛、鉄藍の刀の性能。
そして、濃藍の矛、鉄藍の刀にはもう一つ、ギミックが存在する。
互いの柄が合体し、ユミナの身長より少し長い薙刀のような武器が出来上がっていた。
槍のようなに長い柄に片方は刃が展開。三叉の矛のようになる。
反対側は刀で静型の双薙刀武器になる。
銘は、賊藍御前。
ユミナは賊藍御前を回し、なりふり構わず突っ込んできるソンビを薙ぎ払う。
賊藍御前はいつでも分離が可能。双刃剣それぞれのトリガーを引けばいいだけ。
ユミナは賊藍御前を投擲する。もちろん、自分側にある剣側のトリガーを弾きながら。
発射された鉄藍の刀は垂直へ。鉄藍の刀に貫かれるゾンビ。
鉄藍の刀は数秒後にユミナの元へ戻ってきた。
ユミナが掴むと同時に特殊なウィンドウが出現した。
確認するや、ユミナは飛翔。
見下ろす姿勢へ。
「結構、倒したと思ったけど......??」
バシャに群がるソンビたち。
ゾンビに侵食されていくバシャ。体が大きくなり、冥い瘴気を放つ巨人が誕生した。
「これで、貴様を倒せる......」
巨人の顔がユミナを見る。
「あれが......奥の手か」
ユミナは僅かに笑った。
「捻り潰してやる!」
巨人は両腕で、ユミナに掴み掛かろうとする。
巨人は手を開く。感触がなかったからだ。
辺りにはユミナはいない。
ならば、と。
巨人は上を見上げる。
遥か上空へ静止していたユミナ。
『稀代の女王』の速度には追いつけない。
青く輝く賊藍御前を分離。
濃藍の矛、鉄藍の刀を両手それぞれで持つ。
「無数のゾンビがくっついている集合体みたい......」
巨人の表面を注意深く見ると、ゾンビは黒い異形態の鱗だった。生きているが、動けない。
人間の顔を作りたかったのか、瞳や鼻、口に至るまでゾンビが材料になっている。
空気が震える。
「魔魂封醒......」
機械音が唸る。
濃藍の矛、鉄藍の刀の刀身が青く輝く。
「速朱の流!!!」
双剣を振り下ろした。
振り下ろされた濃藍の矛、鉄藍の刀。
剣身から剣圧が生まれ、細い線は下にいる巨人へ。
初めは細い線だった。流れ星の様な一筋の線。細い線が近づくにつれて大きく刃状に形状を変える。
巨人は瞬時に場所を移動し、紙一重で回避を成功した。
だが、回避も無駄になっていく。
初めに落ちてきた細い線の後に次々、何本の線が降りてきた。
夜空を彩る流星群。
刃状線が全て巨人を両断する威力。刃一つ一つに”恐怖”が纏っているようだった。
強い閃光を放ち、落下していく斬撃の雨。
巨人に激突していく斬撃もあれば、通り越して地面にいく斬撃とある。
降り注ぐ強力な攻撃が巨人に迫る。
太い腕で、ゾンビを投擲や防御しても追撃が続く。
防ぐことはできなかった。
濃藍の矛、鉄藍の刀。賊藍御前。
これらに搭載されている魔魂封醒。それが、速朱の流。
速朱の流は広範囲攻撃。
発動中は無限の斬撃を発生でき、ターゲットされた全ての対象へ発射される。
条件はある。
一つ目は、膨大なエネルギーを貯めるためにキル数を稼がないといけない。
100体倒して、やっと一回発動できる。
しかも、キル数は一戦闘が終わるとリセットされる。
なので必ず、一戦闘でキル数を稼ぎ、魔魂封醒を発動しないといけない。
二つ目は、賊藍御前の装備者は女性あること。
三つ目は、キル数を稼げる対象は男型やオスモンスターでなければいけない。
仮に女型モンスターを賊藍御前装備中に倒してしまうとキル数はリセット。
賊藍御前自体の機能が停止してしまう。
クッッッソ重い仕様となっている。
私は賊藍御前のテキストを見て、当然思ったよ。
『どんだけ、男嫌いな武器なんだ』、と。
男性に対して、これほど憎悪している武器が他にあるのか。
タウロス曰く、『リリス様が預かる前の使用者が無類の男性嫌いだったらしい。怨念が武器に染み付いてしまったからだって』。
いや、怖いよ。
武器にまで怨念を込めるほどって余程だよ!?
ま、お陰でこの決闘で大活躍を見せている。
しかも、この速朱の流。
武器を振ることで無数の剣圧を飛ばして攻撃が可能。
剣圧の数は簡単に言えば無限。
敵が倒れるまで無尽蔵に放たれる回避不可能の攻撃。
無尽蔵といっても、エネルギー消費が膨大なので時間は限られている。
実は、この無尽蔵の剣圧が酷いの一言。
剣圧に当たり、倒されたモンスターは当然、男型。
当然、キル数は蓄積する。
減ったエネルギーが即充填される。
再度、速朱の流を発動できる。
今回の敵は増殖していくゾンビ。ご丁寧にゾンビさんたちは無防備。
確実に必中になる。
よって、敵を葬るための永久機関が完成された。
私が放った斬撃でゾンビや本体の黒い身体が切断されていく。
大抵の敵なら、いい。細切れになるだけだから......
問題は相手が不死の場合だ。
相手からしたら、地獄でしょう。
再生したら、即死亡。そのループになるから。
初めは、使う気はなかった。
でも、私の怒りが頂点に達してしまい、躊躇なく発動した。
胸部分のゾンビが剥がれる。
漆黒の球体が露出した。
あれが巨人の核と予想がつく。
私は急降下する。
濃藍の矛、鉄藍の刀を頭上に大きく振りかぶりながら後ろへ引く。
球体に触れた瞬間——————
剣身から迸る鮮青の無限の閃光。
超至近距離からの速朱の流。
黒い球体に無数の剣圧が刻み込まれる。
球体は崩壊した。
鮮やかなオレンジ色の閃光が放たれた。
蓄積されたダメージに耐えれなくなり巨人の身体は爆散する。
素体となったバシャも身は砕け、消え去った。
爆炎の中、ユミナは静かに大地へ降り立つ。
大爆発を背にユミナは着地した。
「私を......怒らせた罰よ」
双刃剣:濃藍の矛、鉄藍の刀
双薙刀:賊藍御前
必殺技:【魔魂封醒】:【速朱の流】
→無限の剣圧を飛ばす。
巨大籠手:捕食者の影爪
武装鉤爪:【リッキープレイド】
必殺技:【魔魂封醒】:【硬朱の甲】
→自他のあらゆる攻撃を吸収し、防御・回避不可能な無法反射攻撃
片手剣:裁紅の短剣
必殺技:【魔魂封醒】:【撃朱の剣】
→長距離ほど、絶大な威力を放つ殲滅攻撃。




