一騎当千のユミナちゃん
よくもまぁ、仰々しいセリフを吐くドラゴンだこと。
やる気を出したのなら、問題ないか。
やれやれ、と顔に出しつつ私はゾンビの首を刎ねた。
バシャが召喚したゾンビ軍団。一体、一体の戦闘力はない。めんどくさいのは圧倒的物量。
男や女の造形をしたゾンビが走る。ゾンビは一斉に私へ向かう。召喚主への命令なのか次々と飛び掛かる。
闘技場内部が終末世界に染まる。生き残っているのが私くらいだと錯覚した。
捕食者の影爪でゾンビを叩きつける。振るモーション中に【リッキープレイド】を発射。最大三本しか出せない。
三本とも迫るゾンビの眉間に刺さった。膝を地面につくゾンビ。私はゾンビの膝を足場に、上へ。『戰麗』で強化された脚で顎を粉砕。
空中で体勢を変える。裁紅の短剣で別のゾンビを上から真っ二つに裂いた。縦に半身となったゾンビだったモノを掴み、手を前に出し進んで来るゾンビたちへ放り投げた。
体勢を崩した横一列のゾンビたち。肉薄し、脚に星王の創造で生成した液体金属を付与させた。鋭利な金属剣が足に生える。
「ふぅ!」
蹴りと一緒に金属剣はゾンビ共を切断する。倒れる胴体。宙を漂う頭部は群衆ゾンビの中へ。
「キリがない」
不満が漏らす。遥か先にいるバシャ。増え続けるゾンビ。
愚痴を出しても事態は収束しない。凶暴なゾンビへ走り出した。
『星刻の錫杖』に持ち替える。
「『フリージング・スパイラル』」
私が出した無数の氷の槍。雨の降る氷槍がゾンビどもの体を貫通させる。
ゾンビに当たらなかった氷槍は地面に刺さったまま。でも、役割はある。
「『アブソリュート・ゼロ』」
氷槍が溶ける。闘技場が氷結の世界へ生まれ変わった。ゾンビは氷に体を侵蝕された。動かない。氷漬けになったゾンビ軍団を確実に仕留めた。
各種魔法でゾンビどもを屠る。直撃しなかったゾンビには接近し、私の体中に生やした星王の創造製の金属剣で倒す。
「ッ!」
裁紅の短剣と捕食者の影爪に特別なウィンドウが表示された。
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・裁紅の短剣
・捕食者の影爪
《【魔魂封醒】:発動条件達成》
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自然と笑みが溢れる。
◆
ユミナの戦いに唖然とする観客。自分たちの主の豪快な戦闘ぶりに嬉々とするユミナの従者たち。
「傑作だぜ!!」
笑うしかない。レオの飲む酒の量が増えていく。
「タウロスも変なモノ、造りましたね」
アリエスはタウロスを見る。目線を合わせない。
「お嬢の助けになれば......」
本心からの言葉。闘技場では今もゾンビどもを一方的に蹂躙するユミナがいた。
「助けというより......暴力の権化になりましたね。笑いながら戦うのもその影響でしょう」
「大体、お嬢に戦闘技術を教えたやつが悪いだろう」
責任を押し付けられたヴァルゴ。
「お嬢様の戦う勇姿、最高です!!!!! それとは別に戦闘技術はまだまだ、です」
感情の緩急が激しい。我らのヴァルゴさん。
厳しい指導官。若干、引き始めるみんな。
「貴女には無かった攻撃手段ですね、クラス」
アクエリアスは後ろに座っているメイドのクラスに話しかける。
星刻の錫杖の前任者でもあるクラス。ユミナの従者として身を置くようになり、役割を与えられた。それがボルス城でのメイド仕事。ユミナ曰く、『執事入るけど、メイドさんいないから欲しい』とのこと。
ユミナの発言で、魂が抜けたジェミニたちには星霊たちが煽っていたのも良い思い出。
「”脱帽”の一言です。ユミナ様の戦闘は一旦、置いときます。私は嬉しいです。星刻の錫杖も良い主人と巡り会えた。それだけで私は満足です」
「クラス。えらい、えらい」
クラスの頭を撫でるアリス。身は震え、涙を流す。
「ありがとうございます。アリス様」
「なぁ、アリス。私も頭を...」
催促するフェーネ。
「人形が喋っちゃダメ!」
アリスの膝で痙攣している妖精さん。誰も何もいなかった。
「で、タウロス。まだ、私たちに言ってない技術ありますね」
カプリコーンの言葉に、気まずい表情を出すタウロス。
「ある。念のために言うが、運用方法はアタイの発案じゃない。お嬢だからな!」
全員が首を傾げる。
その隙にユミナは空中にいた。
◇
準備は整った。
『戰麗』はもうすぐ切れる。
飛翔し、空中へ。
体勢を変える。下を見た。今も増え続けるゾンビ。正直うんざりの極み。
「魔魂封醒、起動」
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※魔魂封醒:撃朱の剣が発動されました※
発動者:ユミナ
対象者:バシャとの距離、15メートル
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※魔魂封醒:硬朱の甲が発動しました※
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私の発音に応える二種の武器。裁紅の短剣は真紅に輝く。捕食者の影爪は鮮あざやかな黄色を光らせる。
「待ってなさい」
裁紅の短剣に集まる膨大な魔力。『戰麗』の効果で魔法攻撃力も上がっている。距離は稼げなかった。それでもいい。私の全力を思いしれッ!
突きの構え。私は降下した。
観客はパニックに陥る。濃密な魔力の塊が音もなく落ちてきた。
極大の真紅。自分たちを守る結界と言っても限度がある。降ちてくるミサイルには限度以上の威力があった。
近づく衝撃。
人々は恐怖する。観客席はパニックが頂点に達した。逃げ惑う観客に比べ、ユミナの従者は誰一人、動いていなかった。自分たちは無事と安心した顔ではない。主を信じている表情だった。
音速を超える紅き閃光。地面に近づくにつれ、観客席を保護する結界に亀裂が生じた。
遅れてやってくる轟音と衝撃波。強固な結界が無かったら、観客の体は消滅していただろう。
「【撃朱の剣】」
撃ち出された光球は闘技場を呑み込んだ。
地面は消えた。削り取られた。残ったのは深い空洞のみ。先ほどまで闘技場にいたゾンビは一掃された。バシャも消し飛んだろう。
結界はなんとか形を保っている。観客がユミナの攻撃で怪我を負わなかったのは奇跡でしかない。だが、衝撃は結界のてっぺんを突き破っていた。放出された煙は上昇する。キノコ雲に形成されていく。遥か遠くにいる人々にも目に焼き付く光景だった。
吹き抜けが終わった地面に立つ。
バシャが塵となったのならいい。少し心残りがある。
捕食者の影爪はより一層鮮あざやかな黄色を帯びている。いつでも発射OKの合図。
眼を凝らす。動く物体が一つ。
捕食者の影爪に力をこめた。
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※魔魂封醒:硬朱の甲、発動中※
吸収した攻撃:魔魂封醒:撃朱の剣
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「まだまだ...」
止まない笑み。一歩前に出る。一歩分の足音。ユミナの姿は消えた。




