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『もう、終わりですか?』

 大歓声の中、私とバシャが向かい合う。

 闘技場に来るのは初めて。砂嵐が舞う広大な楕円形のフィールド。

 観客用には薄い膜が張られている。戦闘の余波が当たらないようにするための処置だと思う。


 上には巨大モニターが浮かんでいた。魔法で作り出したスクリーンには私とバシャのプレイヤーネーム。下にはHPとMPが表示されている。更に下には文字が記載されていた。


『本日、行われるユミナ様、バシャ様の決闘。特殊ルールを設けます』


 アナウンサー役は聖女アシリア。自分から立候補したらしい。

 特殊ルールと言っていた。私は一度もこの闘技場を利用していないから詳しくは知らない。

 頻繁にこの闘技場でプレイヤー同士が決闘している。基本は勝ち負けルールを適用。本来、プレイヤー同士の決闘ではストレージから落ちるアイテム類は、勝ったプレイヤーの物になる。でも、この闘技場で負けてもアイテム類は落ちることはない。そのまま自分のストレージに残る。この闘技場での決闘はあくまで、相手を倒す。名誉のみ、だとか。


『今回、勝った者は負けた者の星霊を全て連れていく。お二人の同意で実現した特殊ルールです』


 会場がざわつく。いきなりの内容だったなのか、”星霊”と呼ばれる種族を初めて知り驚いたのか、わからない。

 でも、一気に観客が私たちを見る意識が変わった。


「一個、聞いていい?」


「何かな?」


「貴方が支配したNPCは後ろにいる子たちで全部?」


 バシャは後ろへ振り向き、再び私を見る。

「そうだよ。でぇ?」


「私が勝ったら、星霊以外も連れていく」


「ふん。バカか、君は。俺が負けるとは思わないが。どうして星霊以外を渡さなくちゃいけないんだ」


「星霊だけを連れて行っても、意味がないと思ってね。それに、貴方が選んだだけあって皆美人だし」


 腹を抑えながら、爆笑するバシャ。

「流石ッ!! 百合姫って世間で呼ばれているだけあるな!! 賭け増えた。それじゃあ、俺は追加でお前に要求できるな。何にするか......」


 バシャが新たな要求を考える前に私が言った。

「私が持つ、アイテム全てを賭け皿に乗せましょう!」


「生憎、俺は女性装備に興味ない。なので、それは......」


 続く言葉を遮る。


「私の装備品、全て『()()()()()』の素材でできている」


 目を見開くバシャ。観客も同じだろう。

 暫しの静寂。しかしそれも長くは持たなかった。



「「「「「はぁぁあああああああ!?!?!?!?!??」」」」」



 バシャは目の前の、観客はスクリーンに映る私を。全員が私の装備品をじっくり見始める。

 身に纏う帽子。ドレス。ヒール。各部装飾品。バシャが私を凝視している。私の後ろからもの凄い圧がきた。

 いくつも......。一体、誰たちだろう〜


 でも、案の定、食い付いた!


「私の根城、『リリクロス』にあるの。未だに誰も手に入れていない素材やアイテム。欲しくない?」


「......本当だろうな」


 少し訝しげるバシャ。ま、疑うのは妥当か。

 ストレージから素材を一つ、取り出す。


「これ、あげるわ」


 私が投げたアイテムを拾い、テキストを見る。

 バシャの口角が上がるのは確認した。醜悪な笑みを見せる。


「予め言っておくね。私の『星刻の錫杖』はシステム上、相手に渡せない・奪われない様になっている。だから、貴方が勝った場合『星刻の錫杖』以外の全てのアイテム・素材を入手できる。どう?」


「............いいよ。アイツらを奴隷して初めて良かった。幸運は俺に向いている。ラッキー! お前以外が誰も持っていない『リリクロス』のアイテム。こんな美味しい事が次々と起こるなんて。早くお前をなぶり殺したいぜ!!」


 自分一人で語り、狂喜乱舞している。

 に、してもバシャにあげたアイテム。ボルス城近くで拾った石アイテムなんだけど。そんなに嬉しい物なのか。

 タウロスに聞いても、武器には使えない素材と判断された。


 投擲として使おう、とストレージにしまっていたけど一度も使用していないな......

 絶対に『リリクロス』のモンスターにダメージ入らないと確信している。

『リリクロス』基準で攻撃力プラス”1”の価値しかない。

 ま、嬉しいならいくらでもあげるよ。みんなの『ウラニアの指輪』に沢山入っているから。



 スクリーンに文字が追加された。


 これで、準備はできた。タウロスたちから貰ったアイテムを賭け皿に載せるのは少々、心が痛む。

 それに、私以外『リリクロス』内部には到達できていない。多くのプレイヤーは、『リリクロス』の陸に降りた瞬間に待ち伏せモンスターたちに船ごと蹂躙されているらしい。今までは誰も素材すら回収できていない魔境。そんな魔境のアイテムを多く所持しているプレイヤーが現れた。誰もが好奇な目で見ること間違えない。ほぼ100%で私を追う者たちが増えていく。それを見越して、タウロスが用意したのかもしれない。


 私は()()()()を触る。


(良かった......。ちゃんと機能している)


「始めましょう、バシャ」

 笑顔で決闘を促した。




 ◇


 試合開始の合図と共に、ユミナはバシャの攻撃を受けた。

 魔法攻撃だった。暗く淀んだ大きな球体。疾い直線状に放たれた攻撃。第三者からも分かりきった回避が不可能。直撃したユミナは圧倒的質量を持つ闇魔法攻撃の爆発で吹き飛ばされた。


 地面に横たわっているユミナに隙を与えないバシャ。四方からの無数の射撃。逃げ場がない。迎撃はさせないバシャの行動に同調したのか、放たれた魔法は確実にユミナへ向かう。


 沈むユミナの体に浴びる攻撃魔法。砂埃が激しく舞う。観客もスクリーンで注意深く見ても何が起きているのかわからずにいた。だた、ハッキリしたことがある。


 あれだけ啖呵を切ったユミナは口だけだったと。決闘終了後、ユミナは観客席にいるプレイヤーたちから非難を受けるだろう。一部のプレイヤーは黙って戦闘を見ていた。



 ユミナがいる場所には絶えず、爆発が鳴り響く。相手をなぶる、それこそがバシャがVRMMOでゲームしている行動原理。愉快な笑みで魔法を連発させる。


 加重の攻撃で巨大な爆破が巻き起こる。激しい爆風には流石のバシャも驚く。自分が手に入れた『征服者の錫杖』はNPCを奴隷にできる能力を持つ。それ以外には興味ないと思っていたが、自身の魔法威力も高める性能を有していたことに心が躍っていた。


 同時に奴隷を増やすタイミングで魔法威力も上げればと後悔しているバシャ。


 そんな考えは後の楽しみに取っておこう。今は、目の前のユミナにありったけの魔法をぶつけることに心血を注いだ。





 ◆


 一方的な蹂躙を見せられていた観客はあることに気づいた。


『なぁ、あれ......おかしくないか』


 一人が上を見る。上空に浮かぶスクリーンを。誰が言ったのか分からない。でも、これは反芻し広がりを見せる。一人、また一人と上のスクリーンを見る。上にあるスクリーンはユミナとバシャのHP・MPが分かる内容物となっている。


 現在は、バシャの魔法攻撃はユミナに向かいダメージを与えている最中だ。当然、ダメージを受ければ、受けた者のHPは減る。それが、今目の前で繰り広げられる光景も例外ではない。


 バシャは攻撃を受けていないため、当然無傷。HPバーは動いていない。魔法発動にはMPが必要不可欠なので、急速にMPバーが減っている。これは仕方がない現象。


 だが、バシャのステータスなど今は関係ない。問題があるのは対戦相手のステータスだ。

 全員が息を呑んだ。ゾッとするプレイヤーもいた。自分は......いや、自分たちは何を見ていたのか。


 戸惑い、混乱する観客。ユミナへの罵倒はなくなる。恐怖に駆られていた。


 そんな観客の動揺は戦闘中のバシャにはわからない。バシャは肩で息をする。

 魔法連発で疲れたのか。MPを一定数回復するための行動なのか、攻撃を一度中止した。


 上のスクリーンが見始めるようとする。自分の視界に広がる砂埃と爆風で状況がわからないからだ。その点、スクリーンにはバシャとユミナのHP・MPの状況が載っている。ユミナの生死を直接、見れない以上。上のスクリーンで確認することは当然。


 会心の笑みを浮かべるバシャ。

 結果は分かり切っている。あれだけの魔法攻撃を十分以上、直撃したのだ。トッププレイヤーでも敗北する。


 確信があった。だからこそ、事実を確認した。


「はぁ?」


 スクリーンの内容を見て、一度目を擦る。そして、もう一度。今度は目を見開く。限界いっぱいに。

 だが、バシャの視界に映る光景は紛れもない事実しかなかった。


「なんで......」


 狼狽え始めるバシャ。一気に疲れた出たような脱力感がバシャを支配した。

 バシャが見た事実。観客が目撃した答え。


「何故、減ってない......」


 ユミナのHPは一切、減っていなかった。焦るバシャ。未だ止まない砂埃と爆風へ再度、魔法攻撃を開始した。

 一定数、発射後に確認する。でも、一ミリも減っていない。ユミナのHPバーはずっと、変化がなかった。


 何かの間違えだ、そう判断したバシャ。


 魔法攻撃と同時に敵に状態異常を付与する魔法も放った。自分の職業は『屍術師(ネクロマンサー)』の効果で敵に与える状態異常の威力は上がっている。加えて、度重なるプレイヤーキルで有効だった『呪い』を発動。


 受けた者は身体が腐敗、出血を与える状態異常。『腐敗』は身体を醜くデコレーションするため。『出血』はゲームの年齢制限上、吐血するなどグロい描写を入れないためにHPだけが減る仕様となっている。


 より明確的にユミナのHPが減るのが確認できる。








 だが、バシャの行動は虚しくユミナのHPはずっと、変化がなかった。


 次第に運営のミスだと気づく。こんなに攻撃を喰らってもダメージが入らないのはどう見てもバグでしかない。本当は、とっくにHPがゼロになっているんだ。そうに違いない。

 事実なら、自分は勝ち。オレが勝者。


 頭の中で解決したバシャ。自分でも不思議なくらいに取り乱していた。

 安堵するバシャに前方から声が聞こえた。決して聞こえるはずのない声。




『もう、終わりですか?』




 立ち尽くすバシャ。


 爆発の煙は吹き飛ぶ。

 声の主でもあるユミナは何事もなかったように立っていた。光の膜に覆われながら。


 光の膜は上から崩れていく。ガラスのように。全てがなくなり、ユミナを自由になった。

 戦闘開始時に強制発動する【星霜(せいそう)の女王】専用スキル。【星なる領域(スターリースカイ)】。

 効果時間が切れたのだ。ユミナにとっては日常。


 そういえば。状態異常の攻撃が来たから『清浄なる世界へ(ヴィム・エブリエント)』を発動したけど。

 特色のない状態異常攻撃だったな......

『リリクロス』のモンスターは即効性と発射スピードが桁外れ。それに比べれば、弱く、発動速度も遅かった。



 あれほど魔法を放っていたバシャが無防備なのか、ユミナはわからなかった。あまりに隙だらけ。何か罠があると考える。だが、相手が硬直しているのなら話は早い。


 ユミナはウィンドウを展開。装備を変更した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 頭:沈黙の古代帽子(エンライトメント)

 上半身:幽天深綺の(ファンタズマ)魅姫(・ドレス)・エクシード:【月下気紫(ミラージュ)

 下半身:幽天深綺の(ファンタズマ)魅姫(・ドレス)・エクシード:【月下気紫(ミラージュ)

 足:救世の光(アークレイ) 


 右武器:裁紅の短剣(ピュニ・レガ)

 左武器:捕食者の影爪(シャク・ロドエ)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 右手に持っていた『星刻の錫杖(アストロ・ワンド)』を外す。右には片手剣に分類されるナイフ、『裁紅の短剣(ピュニ・レガ)』。左には初お披露目のガントレット、『捕食者の影爪(シャク・ロドエ)』。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ①:覇銀の襟飾(ヴァイセ・エーゲン)

 ②:神龍の手袋

 ③:薔薇襲の荊乙姫(ブラック・ローズ)

 ④:天花の耳飾り

 ⑤:星王の創造(ステラ)

 ⑥:聖女の誓い

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 加速スキル。【勝利翔(ニケ)】、【宵明星(イシュタル)】、【天空(ディオネ)】。

 瞬間的な速度でユミナは、バシャと距離を詰める。バシャの顔に、動揺が走る。


 バシャが対策を取る前に、私は拳をバシャの顔面を鋭く打ち込んだ。

 バシャの顔面に打ち込んだ拳を捩り込む。笑顔のまま、捕食者の影爪(シャク・ロドエ)の黒い拳を勢いよく放った。


 バシャの体は闘技場の壁に激突。

 次なる攻撃のために準備する。捕食者の影爪(シャク・ロドエ)の手の甲部分から蓄えた三本の黄色の爪を生やした。


 拳を引く。バシャに訊いた。


「もう、終わりですか?」



ユミナと一緒にプレイしたプレイヤーにだけ分かる。

ユミナのスキルや魔法を少しでも知っている者には、分かる。

戦闘開始から時間が経過しても、大量の魔法攻撃を受けても、無傷のユミナがいる現状に。


捕食者の影爪(シャク・ロドエ)は左腕限定拳武器ではない。

右腕に装備する場合、指の位置も変更される。ある意味、両腕拳武器。


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