ハンドマッサージはストレスを緩和できるよ!! リラクゼーション効果って言うんだっけ。
試合当日。空はすっかり日が落ちていく時間帯。
「何、これ?」
闘技場へ向かう私は周りの光景を異様な目で見ていた。
まず、人が多い。これはアシリアの協力で実現したと過言ではない。
さすが聖女パワー!!
表面上は聖女の伴侶——つまり私だ。私が大衆の前で戦闘する、を公言したからだ。
一部のプレイヤーや貴族NPCたちからは私が実力者ではないと意見も多い。美人を引き連れているプレイヤーと認識されている。それを払拭するために宣伝したらしい。
『私の愛するユミナは誰よりも強いことを証明します』などと発表したとか。
瞬く間に『オニキス・オンライン』のプレイヤーに広まり、こうして多くの人が集まるまでに発展した。
本当の戦闘の意味は私と従者を奪う宣言したバシャと戦うためであるが他の人は知らなくていい。
「お祭り、ですね」
ヴァルゴは唖然していた。
闘技場へ続く大道。両端には屋台がズラリ。全てステラド王子が許可してくれた。
国王と未だに険悪な関係は続いていると話してくれたが私には応援してくれた。それだけ。他に何も言わなかった。
「ふあ〜」
手を口に当てるアリエス。相当眠そうな顔をしている。
「アリエス、大丈夫? やっぱり城で寝ているべきだと思うんだけど?」
シャッキと姿勢を正すアリエス。
「大丈夫です......。むしろアタシからすれば、二人の方が心配です」
アリエスの言葉を聞き、私とヴァルゴは目を合わせる。
お互い首を傾げる。どうやらわかっていないと判断したアリエスは口を開いた。
「昨日のヴァルゴ失踪事件についてです」
あー理解した。あのねアリエスさん、仕方がなかったんです。昨日はどちらの戦闘力が上かをそろそろ決めようとしたの。途中から全部見ていた皆がドン引きしたのは分かる。思い返してみれば、私とヴァルゴは何をやっていたんだろうと。
武器を置いて、顔面へ殴り合いを繰り広げたり。お互いの短所を言う暴言愚痴バトルをしていたはずなのに、いつの間にか相手の良い面を言い合う惚気話に発展したり。余談だが、惚気話を聞いた皆は糸が切れた人形のように倒れたらしい。
最後は音に反応した大量のモンスターを二人で狩った。背中合わせ、でね!!
「二人が仲直りできなの喜ばしいです。ですが、ハッスルしすぎかと」
「あの屍の山はお嬢様が実験と称してあのような大技を繰り出したのが原因です。私に罪はありません」
ヴァルゴさん。あんまりだよ。いやだって、本番で初始動は何かと不安があるの!!
発動条件もクリアしていたから、ちょっと試し撃ちしたら......。なんだか気持ちよくなったそのまま連撃してたな。
「私は楽しかったよ!」
私に向ける視線が恐怖の眼だった。
「ほら。やっぱりヴァルゴのせいですよ」
「私も反省するしかないですね。お嬢様の暴挙の原因は私への不満でしたか。いや、待ってください。アリエスも原因ですよね」
「はぁ!?」
「情報によれば、お嬢様に冷たく接したとか。腹パンする予定らしいだったと!」
ギリギリッ、と。歯を擦り音を出すアリエス。
「裏切ったわね。アイツら............」
「聖女も堕ちるとこまで堕ちましたね」
「悪魔に言われると......。なんでしょう、この胸に湧き出す感情は」
「私には絶壁にしか見えませんが。胸の概念がお有りで?」
「自分はユミナ様の一番の従者と自慢げに豪語していたにも関わらず、真っ先に離反しようとしたアホがいるって本当ですか????? ま、考える知能が全て胸に集約されているから仕方がないですが!!」
不敵な笑みを浮かべるヴァルゴとアリエス。次第に眉間に皺を寄せ、お互いを睨み始める。
目から火花が飛び散っているのは気のせいだろう。
雰囲気が変わる。二人の威圧に気圧され、倒れゆく周りの人々。初めて出会った時には、威力は弱かったけど、日が経つにつれて重い重しくなっていく。力が戻っていくのは喜ばしい。同時に宥めるのも苦労しそうと感じた。
私は毎日、星霊の威圧を浴びている。だから、耐性がついていた。ついてちゃダメだと思うけど。
ともかく、無言の圧力。空気まで濃密になる空間にいてもへっちゃら。
歩き、二人の手を取る。
浄化されたように空気の濃度が戻る。
「二人とも、手。柔らかいよね。私、大好き!!」
触っている私は快感を得ている。世の中にはこのような至高の揉み心地が最高な手が存在するのか、と。
マシュマロや雲を触っているような感触。いつまでも触っていたい。
「行くよ。二人とも」
手を離し、闘技場へ歩き出す。
レオたちはアシリアが用意した席にいるらしいから、初まる前に顔をだろうかな!!
ユミナが前を歩いている背後では桃色の空気が広がっていた。先ほどまで手を握られていたヴァルゴとアリエス。彼女たちはすっかり邪悪な圧は解除していた。
代わりに幸せいっぱいのオーラを迸っている。流れる幸せの気に触れる人々。
凛とした騎士の美女と可愛く清楚な美少女。頬を染め、手を置く。体は一人の女の子への言葉が心に残り、モジモジしていた。
妙に官能的な動きを見せる二人の女性NPCを目撃したことで倒れる人が続出。祈りを捧げたり、両手を広げ、天からの祝福に感謝する者ども。試合などどうでもいい。彼女たちを眺めようと行動を起こす者まで現れていた。
後ろの大惨事を知らないユミナは前だけを見ていた。
(なんか後ろがうるさいけど。まだ喧嘩しているのか、あの二人は......)




