支配
ユミナはアシリアの隣を歩く。
ユミナと星霊全員(ジェミニ除く)はアシリアの案内で、『サングリエ』を収めるブリジット王国に来ていた。
申し訳ない表情を出すアシリア。
「ごめんなさい、ユミナ」
「いいよ。第一王子からのご招待でしょう」
ブリジット王国の第一王子、ステラド・アウロ・ブリジットから個人的に聖女アシリアにお願いがあると聖教教会に手紙がきたらしい。
「ステラド王子とは、幼馴染だっけ?」
「はい。幼少の頃からですが」
「でも、いいのかな。私たちも一緒なんて?」
「テラーの手紙には、伴侶とご一緒にって書いてあったので」
アイリスが統治していた吸血鬼の国を含め、王族の城には行き慣れている。
ユミナは違和感を覚える。同伴の件ではない。ユミナと星霊に対して罪悪感のような感じだった。
わざわざ城に呼んだこと関係しているのか。ここで追求してもはぐらかされる可能性がある。
ユミナが様々な考えを巡らされている間に、謁見の間にたどり着いた。
「ようこそ、ブリジット城へ」
プラチナブロンド、碧眼で端正な顔のイケメンが出迎えてくれた。
アシリアよりも一つ年上のステラド。
満面の笑みで私たちを歓迎していた。
貴族ぽくない、それがユミナがステラドに抱く印象だった。
どこか温厚なお兄さんのような感覚。
「改めてご挨拶をさせていただくよ。ステラド・アウロ・ブリジットです。心より歓迎申し上げます」
お互いの簡単な自己紹介を終える。
「今日は、ごめんね。急なお願いで」
「テラー、くだけるの早いわよ」
「リア。君の伴侶は僕の兄妹のような存在だ」
「全く訳がわからないわ」
アシリアとステラドは会話を続けていた。
慣れ親しんだ間柄なのか愛称で呼んだり、王族と聖女の会話とは思えない内容を喋っている。
「ごめんなさい、ユミナ。私たちだけで進めてしまって」
「気にしないで。アシリアもステラド王子と話したかったんでしょう」
「誰がこんな奴と」
「アハハ! リアは相変わらず僕には厳しいね。ま、昔に比べればまるくなったか」
感慨深くうなづくステラド。
「そうなんですか?」
悪巧みを思いついた子どもの顔をするステラド。
「おや? もしかして、リアの幼少の頃を知らない」
「ユミナ。なんでもなかった、です。テラも余計な内容を言わないように」
「いいのかい。ユミナちゃんに隠し事して」
「もしかして、教会を脱走したお話?」
驚くステラド。
「カトレアから聞いているのかな。でも、まだ序の口だよ」
胸ぐらを掴むアシリア。動揺している。
「それで、全て。いいわね、『腹パン事件』や『ターザン事件』、『爆破事件』のことは絶対に知られちゃいけないの」
「......リア。口が緩くなったね」
「ええっ!?」
アシリアが暴露した物騒な事柄。お淑やかななイメージが根付いている聖女さんには一大スキャンダル。
週刊誌に載りそう。
「いいじゃないか。時効だろう?」
顔が赤くなるアシリア。
「だけど、ユミナには淑女として通っているから」
「そうだっけ?」
私含め、従者全員が疑問顔になる。
ボルス城での生活を見るに、淑女なのか疑わしい場面がいくつもあったが。
「ユミナの......バカ」
胸をポンポン叩かないで。あと、徐々に強まる拳力を緩めてくれるとありがたい。
「でも、良かったよ。リアが幸せそうで」
「どういう意味ですか?」
「本当だったら、僕と婚約するはずだったんだ」
目を見開くユミナ。
「そうだったの!? アシリア」
「......はい」
「その......ステラド王子」
ユミナが言葉を選んでいる最中に、ステラドが先に言葉にした。
「安心してよ。恨むとか微塵もないから。寧ろありがたい気持ちでいっぱいだよ」
「『ありがたい』?」
「こう言っては誤解されるけど、アシリアに対して恋愛感情はない。アシリアはいつまでも妹として見ているから」
『サングリエ』は聖教教会とブリジット王国が管理している。
ステラドは第一王子。跡継ぎを考え出す時期だったらしく、お相手で最も相応しいのがアシリア。
幼馴染で、両者の仲も良好。二つの勢力はお互いが納得のいく結論に達した。
「ユミナと出会うキッカケ。聖女としては最後のお仕事だったんです」
「リアが無事に仕事を終え、『サングリエ』に帰ってきたら発表する予定」
「ただ、私が誘拐されたり、各街の王国との外交などに注力していたので......延期になりました」
「実質、婚約破棄だけど」
「ステラド王子は良かったんですか?」
「リア本人に言われた。『私には心から愛する者に出会いました。彼女と共に過ごします』とね」
「......アシリア」
「そんな視線を向けないでください!? 恥ずかしい......」
「それに。リアの過去を知っているからね。ユミナちゃんの前で失礼な話になるけど。殴れば何事も解決する精神で過ごしていたリアと結婚なんて、僕の身持たないからね」
「聖女、みんな武闘派な件」
アシリアとアリエスを交互に見るユミナ。二人とも慌てふためく。
「最近はカトレアの教育で大人しくなったかと思えば、帰ってくるなりいきなり戦士並みの修行し出すし、幾つもの王国を牛耳るし。古傷が疼くよ」
お腹をさするステラド。腹パン事件の被害者はあなたでしたか。
優しい兄に、物理で応える妹みたいなもんか。
ステラドは首にかけているロケットペンダントに手を伸ばす。
「リアの覚悟を聞いて、僕の想いも喋ったよ。好きな人がいるってね!」
ステラドの好きなお相手は彼専属のメイドさんらしい。
アシリアとも知り合いで、何度か会う間柄らしい。
「リアの驚いた姿は、面白かったよ!」
「だって。メイレンと仲良さげな雰囲気を出していなかったし」
「彼女、仕事中完璧に給仕をやっているからね。僕の部屋にいる時は警戒を解くよ」
「もし、私と結婚することになってたらどうしてたの?」
「僕はこれでも、第一王子。嫁が何人いても大丈夫な地位にいるからね」
「テラーの口から、そんな下衆な言葉を聞くとは」
横目でユミナを見るステラド。
「君の伴侶ちゃんには言われたくないかな〜」
ユミナと見たのち、後ろに控えている従者を見渡す。
「彼女たちは......まだ」
「でも、もうすぐでしょう!! これでも人を見ることには長けているんだ!!」
「どんな事を視ているのよ」
会話は進む。ユミナがステラドに質問する。
「今日呼ばれたのは、ステラド王子とアシリアの関係についてですか?」
ステラドとアシリアは沈んだ顔をユミナに見せる。
切り出したのはステラド。
「実は、ユミナに報告があるんだ」
「『報告』ですか?」
「リアから聞いたが、君は特殊な石像を探しているんだよね」
「はい。訳あって人型の石像を探す旅をしています。でも、中々見つからなくて。あと五つあります」
「うん。他らなぬアシリアの頼みだったからね。僕も人を使って調査してもらったんだ」
「ありがとうございます。私、いえ。私たちにとって大事な石像なんです。早く解放しないといけないくて」
「石像の正体もリアから聞いている。で、手がかりを得たんだ」
「本当ですか!?」
ステラドの情報が正確なら、一気に星霊の石化を解くことができる。
なら、なぜステラドとアシリアは暗いのか。
「もしかして、石像が壊れていたとかですか」
「すまない。嫌な顔をしていたね。違うんだ、石像は無事だったらしい」
”無事だ”ではなく、”無事だった”。
「解放されているんですね、五人とも」
ユミナの言葉に反応を示す。
「そうなんだ。リアから石像の特徴も聞いていて、一致する者たちも発見した」
安堵する。星霊も皆同じ気持ちだ。あとは合流するだけ。
「ただ、問題がある。これはユミナに協力する内容にも関係がある」
「どういう意味ですか?」
「実は、僕の父でブリジット王でもある、ディスペンサー・アウロ・ブリジットが洗脳されている。ユミナには父を救う手助けをしてもらいたい」
「......洗脳ですか?」
「信じられないのも無理はない。でも事実なんだ。これは僕だけではなく、父の腹心も同意見なんだ。急に心変わりした様子だった。魔法の痕跡も確認された。父に恨みを持つ人間の仕業だと考えたが、彼らの行動が活発している様子はない」
「それじゃあ、国王だけが操られている。国家転覆とか?」
「はっきりとした動きはない。現に今の王国は無事そのもの。だが、いつでも滅亡の道を辿る恐れがある」
「誰が王様を操っているんですか」
「ユミナと同じ冒険者です」
アシリアがキッパリ断言した。
同時に謁見の間の扉が開く。鎧を着た筋肉隆々の男。その後ろには黒ローブを羽織る魔法使い。
魔法使いと断定できたのは、ユミナと同じような杖を所持しているからだ。
フードを深く被っているため、性別はわからない。だが、かの者が歩く度に足元に人骨がうっすら姿を現す。
冷気を纏う死者。”カノもの”の前では皆、命を掌握されているようだった。
「ユミナ。前を歩くのが僕の父だ。後ろにいるのがリアが話した冒険者」
ユミナの袖を握るアシリア。
「ユミナ。どうか落ち着いてください」
アシリアの言葉に理解できなかったユミナ。だが、アシリアの言葉の意味とも取れる答えはすぐやってきた。
黒ローブのプレイヤーの後ろから鎖の音が聞こえた。音は形となり姿を顕現させる。
「......なんで」
ユミナは理解した。
どうして星霊が見つかったのに重い詰めた表情を二人がしたのか。真祖の吸血鬼のアイリスでもやっと石化を解呪できたのに、誰かが簡単に呪いを解いたのか。黒ローブのプレイヤーが持つ杖が以前、一度だけ見たことがある形状だった。
ユミナが言葉を発するよりも先に変化が生じた。
星刻の錫杖が震える。同時にユミナの前にウィンドウが表示された。
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《星霊探しの旅》:現在:12/12
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目隠しと首輪に拘束具、鎖で繋がれ自由を奪われた星霊たちと再会した。




