天地を覆す王の武具
「ほへぇ〜」
「一応、成功だな。そいつは液体金属を用いたドレス」
変身完了したユミナは形成した純白のドレスを見る。
光り輝く白い装束。ロングではなく、膝までのスカートタイプだった。
白いガーターストッキングも穿かされた。
「鎖骨あたりが丸見えだけど、スースーしない」
大きく開いた胸元と鎖骨は肌が露出している。
同時に背中と脇も丸見えとなっていた。
「肌が見えるけど、ちゃんと薄い膜が保護してくれてる」
二の腕から手先までウエディンググローブが装着されている。
右手首には黄金のブレスレットは残っていた。
白いヒールで動き回る。
「動作も大丈夫みたい」
「そりゃあ、良かったぜ」
「でも、普通の白いドレスって印象なんだけど」
興奮した息遣いが聞こえる。
「フフン!! 星王の創造の真骨頂はここからだ。お嬢、火魔法をブレスレットに注いでくれ」
言われた通りに『フレイム』を星王の創造の宝石へ注いだ。
赤く輝く。宝石から赤い粘液が噴き出す。ものの数秒で全身を駆け巡る。
全身赤になったのではない。全身各部に赤色のエネルギーラインが配されてる。
「その赤色のラインには装甲が内包されている。戦闘時に、内部にある液体金属が最適な形状に形成していく」
「戦闘時?」
「双剣を装備していると防御は剣で攻撃を弾く、ダメージを受けないように回避するしかない。そこをカバーしてくれる。勝手に大きな赤色の盾が出現する、ラインから炎が放出され使用者を助けてくれる。もちろん、全身を炎の鎧にすることもできる。ただ問題もある。自由に動かすにはお嬢の意志が必要だから訓練するしかないねぇ〜」
「制限時間はあるの?」
「カラー変更に時間制限はない。それに星王の創造ドレスが破損しても地面に散らばった液体金属が集まっていく。流石に遠く離れた液体金属は戻ってくるまで時間はかかるがな」
タウロスの言ったカラー変更は、ユミナが持つ各属性魔法を注ぐと、それに応じた色合いのエネルギーラインに早変わりになる。加えてラインの色によって敵にも影響される。
例えば、火属性の『フレイム』のドレスなら、敵に与える炎攻撃に補正がかかる。
炎の盾で相手の攻撃を防ぐと触れた箇所が燃えたり、火傷の状態異常を与えることもできる。
「おぉ!? ブレスレットを再度二回叩けば元に戻った」
何度も宝石を叩き、変身したり変身解除した。
「【100/100】?」
「星王の創造に残っている液体金属量。遠くに液体があると数値は変動する。残量が少ないとドレスを維持できなくなるから注意な」
先ほどの属性ドレスの話に戻るけど、敵がユミナと同じ魔法使いの場合。
火属性が放たれれば、エネルギーラインに吸収される。
吸収したエネルギーを自分の液体金属量を増やすことも可能らしい。
「今、お嬢は一種類の属性魔法しか注入してねぇが、注ぐ種類に制限はない。初めから『火・水・風・土』。他の『氷・毒・雷・念・熱』なども付け加えられる」
「今度の戦闘では、初めっから付与するしかないか」
「そうでもないぜ。属性魔法を注がない純白のドレスにもちゃんとした効果がある」
「『効果』?」
「どんな人物にも姿にも変化ができる。今度お嬢は更に注目される。以前作った『純白の霊奏』でもごまかせるけど、一々装備変更も煩わしいと考えてな。星王の創造に組み込んだ。『創天威パンドラ』製のマスクも形成できる。防御力も高く、認識阻害効果も付与されている」
「本当ッ!!」
更にタウロスから、内包されてる液体金属を自白的に放出させることで自身のコピーを生成できると説明を受けた。現時点で最大”50”まで使える。”10”なら小学生、”20”なら中学生、”30”なら高校生、”40”なら大学生、”50”なら大人サイズのユミナを生成が可能らしい。
分身可としても、デメリットはある。コピーユミナに消費した分だけ装備している白ドレスの形状も変わる。それだけ防御力も低下。戦闘中・非戦闘中に使う量の振り分けを見極めることも頭に入れないといけない。
「自分で分身を生み出すのはなんだか、気恥ずかしい感じ」
「追いかけてくる相手から逃げれると考えれば安いモンだろ」
「おぉ!! 鎧も変化できる」
肩や脚に液体金属を集めれば鋭利な形状になる。ただ代わりにスカートが短くなった。
装甲の強度は状況に応じて対応するしかない。ある物だけで運用しろってことか......
「お嬢が『リリクロス』で集めた貴重な素材、宝石などを全て組み合わせたのが星王の創造。本来ならナノテクノロジーってもんを活用した装備を造る予定だったんだが」
「問題があるの?」
「研究所があっても、アタイには技術的に造れなかった。恐らくスコーピオンなら扱えれる」
タウロスの言うスコーピオンは蠍座の星霊。元々は科学者の職業にいたとか。
「それじゃあ、早く見つけないとね!!」
ユミナのやる気に自分も頑張るという了解で頷くタウロス。
「他にも試しに作ってみた」
タウロスから手渡されたのは、グレーのマスクだった。
首まですっぽり覆うことができる頭装備。装備なのだが多分、物好きしか被らないだろうとユミナは思った。
なぜならグレーのマスクは黒い双眸、頭部が膨張している造形。痩せこけたような顔面は、生気が一切で感じない。まんま宇宙人の顔だったからだ。
「これ、宇宙人顔。キモッ」
ユミナの率直な感想にタウロスは反論した
「キモくねぇだろ。黒い眼......」
それ以上何も思い浮かばず、苦悩し出すタウロス。
「ほれみぃ。タウロスも気持ちが悪いと思っているでしょう」
「『ゑヰ裏晏』わな。スゲェんだぞ。被れば全く人を寄せ付けない」
「まー。こんなキモい頭装備を装備していれば誰も近づきたくないよ」
「更に、暗視効果がある」
「スキルで大丈夫」
タウロスの熱弁も虚しく敗退。ユミナは何かに役立つだろうと一応、貰った。
悔しさが滲み出ているタウロス。なんか、ゴメン......
色々、お披露目ショーを一通り終わった。
幸運値が上昇する銀色のサークレットだったり、ピエロマスクだったり、新しい魔法棒貰ったり、最後が雅の装束なのは、アシリアが着物に興味を持った影響なのか。真実は謎のまま......
「これで最後?」
ユミナの質問に答えるが、その声は重い。
「後は......」
「どうしたの?」
苦虫を噛み潰した表情に顔を顰めるタウロス。
「お嬢、これから出す二種類の武器はアタイはオススメしない」
机に出されたのは片腕ガントレットと両端に刃が付いている薙刀。
鉤爪と黒色の籠手が融合した武器の使い方が不明なので、藍の薙刀を持ちくるくる回した。
薙刀は今までのユミナは使ったことはない。だから、新たな武器種を作ったことでタウロスも都合が悪い表情を出したと思う。
「問題なく扱えれるよ」
槍スキルは一つもない。が、得物が長いことはそれだけでも相手よりも有利になる。
「うん?」
ユミナは怪訝な顔を浮かべる。双薙刀の持ち手。ちょうど真ん中に切り込みのような線がある。
見た目は薙刀なのに、柄頭同士が連結しているように見える。握り部分、それも刀身に近い箇所にトリガーが両方にあるのも不思議。
「どうかした、タウロス?」
曇るタウロス。
「お嬢、その二種の武器。【捕食者の影爪】と【賊藍御前】はリリス様がアタイに託した武器。そして、お嬢が持つ【裁紅の短剣】と同じように『魔魂封醒』を有してる」
ユミナは何を言われているのか、理解できずにいた。
スコーピオン。
科学者。昔はクレオパトラだった存在。




