絶望への序章
占星術。天体と星座の位置。対象となる人や自然現象に起こりうる未来を教えてくれる。
本来、占いは相手からの依頼で術者が占いを行う。私欲のために、仲間を占うのはどうなのか。
単なる好奇心だった。自分同様、最高の組織に属し、一人一人が持つ脅威的な力に絶対的な自信を持っていた。
人生上に起こりうる事象が全て安泰だろうと。
女は絶望した。それは知らない方が良かった未来。覗かなければどんなに幸せだったか。生命は死に絶え、世界は暗黒の帳に染まる。
世界の破滅。時は戻せない。自分の運命も管理され、支配下に体を預けられる。生きるのも死。死ぬのもまた地獄。眠せない身をいじられ、傀儡として歯車の一部として生き続ける。逃れられない。
視えた景色を描き直すには別の色に染めるしかない。全員に真実を明かせば全く別の絵になる。また別の情景が構築される。神が生み出した盤上を、シナリオを変えるには......演じるしかない。例え、裏切り者と揶揄されても、負の感情が襲いかかっても......自分が愛した者たちを守れるなら。
女は己の野望のために悪に徹することを誓った。来る日に向けて準備を開始した。
「自ら真実の答えを見つけ、私たちに話すなら。ま、良しとしましょう。でもね、私から...私たちから開示する必要はない」
オフィの人生は全て、仲間を守るため。そして、復活する邪神に立ち向かう力を残すために使った。
古城でオフィと戦った後、日記を読んだ。あの頃の私はクリア報酬アイテムの感覚だった。実際、日記の内容には将来私が会得する予定の魔法の理論が書き記されていた。『魔術師』や最上位魔法職の取得が必要不可欠だったが。他プレイヤーが知り得ない情報を獲得した。攻略サイトや掲示板でも明かされていない魔法の情報。でも、後半に連れてオフィの人生が載っていた。何故星霊を裏切ったのか、わざわざ石化封印だけしたのか。殺されまでのオフィの一生が日記には明記されてた。
疑問だった。星刻の錫杖イベントだとしても石像が五体満足で封印されていたことに。何百年も放置されていた石像にしては綺麗だった。風化は最小限で、いつでも復活しても動ける体となっていた。そして何より石化しただけという点。敵と対峙して相手を石化すれば、取れる行動なんて一つしかない。動けなくなった石像を壊す。下手な作戦も、魔法詠唱もスキル発動も要らない。ただ押すだけ。そうすれば石像は粉々になる。
「それに、オフィがヴァルゴの石像に一番近くの酒場にいたことも不思議だったわ」
「占い大好き酒好きオババをやっていただけよ」
「演じていた。星刻の錫杖が『暗然の洞窟』にあること、知っていたから為せること」
ストレージから縦長の紙を取り出す。
「大体、タロットカードを取り返して欲しいなんて依頼を出すのもおかしな話だけど」
ケンバーも頷く。
「私の守護者に余計な物を。それに、凶暴化させたのはお前さんの仕業だな」
「バレちゃった!!」
「ケンバーが修理したの承知のはず」
「未来の大戦になくてはいけないものだからね。私が直すよりも人間の可能性に賭けたのよ。叡智な人なら正しいことに使える、とね!!」
「それを知らないケンバーは、ボッチで修理していた訳か」
「うるさいな......興味と同時に悪用される危険性があった。だから洞窟で引きこもり、星刻の錫杖を封印した」
「星刻の錫杖が持つには人間で、魔法使いが条件。だけど、ただの魔法使いには用はないわ。魔法発動に欠かせない媒体の杖がなくても戦える強者。おばあちゃんの守護者と隠し扉にちょっとした細工を施したの」
通常、魔法使いがソロで戦う場合。自分の得意な魔法でモンスターを倒す。なんてことのない普通の手段。
誰も疑問に思わない。だけど、星刻の錫杖に相応しい者は一人でも邪神と戦える存在。最悪の未来を回避するために考えられた策。ラキのように逃げ出さない者も追加される、てか。
「ま、流石の私もゴブリンの毒瓶を使って倒すとは思わなかったけど」
「なぜ知ってる!?」
「私を甘く見ないことね!!」
「占いか......。てかさ、私の記憶が正しければ最後に放ったの魔法だよ。良かったの?」
「良いのよ。条件は『魔法』だけ使っていない魔法使い。そして巨人くんに致死量のダメージを別で喰らわせるだから」
【オフィ婆の占い】を受注した状態で、人族で魔法使い。そして洞窟のボス巨人を魔法と別の手段で倒せばいい。なんかな......
「アシリアを攫ったのも計画だね」
「正解ッ!! 誘拐事件がきっかけでユミナちゃんを愛してしまうとは思いつかなったけど」
「聖女の力はいつだって強大。石像が解除されるかもしれない。ユミナちゃんが封印を解くことに意味があるの」
「それと同時に、お前さんが誘拐犯になれば必然的にユミナが敵対関係になる。最後に死を選べる訳か」
「はぁ〜 オフィといい、ラキといい......死にたがりしかいないのか星霊組織は」
「アハハッ!!」
「後、『リリクロス』でも暗躍していたでしょう」
「それも、正解。邪神復活はまだまだだけど。力を貸してくれる魔物もいないとね」
あっさり白状したな。『リリクロス』にある国々には年齢の異なるオフィがいた痕跡が多かった。
「お前さんの言う、邪神の復活はまだなんだな」
「えぇ。奴は時間が経てば再度復活する。その前に星刻の錫杖を所持するユミナちゃんには力を付けてもらう」
オフィの話、そしてゲーム進行的に大規模のイベントになるだろう。流石に私一人、プレイヤーが扱うクエストの範疇を超えてる。オフィの未来占いでは、私が星刻の錫杖を持ってから三年以上経過して復活するらしい。なので、その間邪神関連は何も起きないとのこと。
「ユミナをさっさと最上級魔法使いにするか」
無理やり話が終わる。ユミナたちは密談に使った禁書庫から退出した。
階段を降りる。今日もコッテリと、ケンバーとオフィの魔法講義をやり切った。
一階にたどり着く。出入り口の大扉に向かう。
「図書館にベット入れようよ」
呆れるケンバーとオフィ。
「ユミナの私物じゃないぞ。この大図書館は」
「ユミナちゃんの寝相ほどどうでも良いものを目撃させられる身になってほしいわ」
「あんだとッ!? 私の寝顔は国宝級よ。崇めるだけでご利益あるの」
「自分の寝顔を国宝級っていう奴、初めて見たぞ」
「どうせ、ヴァルゴ基準でしょう。やっぱり素顔を見せて仲を深める作戦、失敗したわね」
「おかげで円満です」
「だったら早く仲直りするだわさ」
「うるさい......」
「自分の体に大層自信を持つユミナちゃん」
「なんか、トゲがある言い方」
「ヴァルゴと不仲になるのは私の計画に支障をきたす。だからさっさと告白して合体しなさい」
ユミナは辿々しい足取りとなる。荒いだ声を出す。
「お前っ!?!?!?!? 何言うのよ」
「どうせ、毎日襲われているんでしょう。後は言葉を言うだけじゃん」
「襲われていないわ!! それに、襲ってきたらいつも杖の餌食に......?」
ユミナから耳障りな弁解が忽然となくなる。前を飛んでいるケンバーとオフィは振り向く。
星刻の錫杖を眺めるユミナに首を傾げるケンバーとオフィ。
何かを思い出したユミナ。
「あっ!? ねぇ、オフィ」
「何よ、エロ魔術師ちゃん」
「誰が『魅力的な肢体』だ。じゃなくて......」
ユミナはケンバーとオフィに星刻の錫杖を見せる。
「色違いの杖、あったよ」
「『色違い』?」
「どういう意味だわさ、ユミナ」
「ケンバーもまだまだだね。支刻の獣塔の外で見たんだ。星刻の錫杖の類似品をね」
ユミナの言葉に感心するケンバー。
「ほぉ、知らなかっただわさ。杖一本じゃ万が一だしな。オフィもあらゆる策を巡らせていると言うことか。して、色はどうなんだ」
「赤黒色だったよ。形状は一緒なんだけど、黒一色で、宝玉部分が真っ赤のを見たんだ。私と同じ冒険者だったかも」
(人混みで顔までは分からなかった。それに頭上にプレイヤーネーム、表示されていたし......)
「で、ど......う......オフィ?」
ユミナが見たのは、絶望的な表情を浮かべるオフィだった。
「はぁ」
オフィの人生を決めてからサブジョブ、『占星術師』に決めた。




