遊郭っていいよね!
『ここにいたか』
教室に入ってきた女性。和服を着た妖艶な美女が近づいてくる。
重厚感たっぷりの黒と赤色を基調とした着物。紅葉柄があしらわれていた。
「どうだった。魔法学園は」
キセルを口から離す。
「なんとも神秘的な場所だ。妾にも魔力があれば良かったのだが」
「カグヤには妖術があるんだし、良いんじゃないの」
「妖術よりも魔法の方が面白い」
「クシナダさん、怒るよ」
私の頭に豊かな胸が重くのしかかかる。
「あぁ〜 疲れた」
「重い...」
「女に重荷はない。襲うぞ」
「だったら、頭のホルスタイン、退けて」
「あぁん!」
カグヤの吐息が漏れる。周囲はカグヤの色気に当てられる。
「ひがむな、ユミナもいずれ妾のようになる」
「僻んでないわ!? あと着物、ちゃんと着てよ」
着崩した格好。襟や裾を大きく広げている。肩をさらし、胸も上部分がむき出しとなっている。
白い肌、豊かな胸、艶かしい太もも。
スタイル抜群なのはわかったから。少しは自重してもらいたい。
私の注意に、笑みをこぼすカグヤ。
「なんだ。今更だろう。妾の肌を余すところなく見たのに」
「誤解を招く言い方やめてよ」
「誤解ではなかろう。賭けに負け遊女として妾の下にいたくせに」
「数時間だけだけどね」
私とカグヤが会話している中、恐る恐る質問するニッカ。
「ねぇ、ユミナ。そちらのセクシーな女性は?」
「ごめんね。これはカグヤ」
「おい。”これ”とはなんだ」
「和ノ國、ヨシワラの花魁NPCだよ」
キセルで叩かれた。
「『太夫』だ」
「どっちでも良いじゃん」
「禿のユミナちゃんにはしっかり教育をしないとな」
「その見習いに下剋上され、私の従者になったのはどこの誰だっけな」
プレイヤーに多く知れ渡った後、『リリクロス』で隠居生活をしていた。
メンバーも増えたから、本格的に『リリクロス』を探索するしているときに見つけた国。
それが和ノ國。江戸時代がモチーフの街並みだった。和ノ國を統治しているクシナダさんと知り合い、『ヨシワラにいる”カグヤ”を連れ出してきて欲しい』とクエストを受けた。
和ノ國は”ヨシワラ”だけには手が出せない領域。独自の法で支配されていた。和ノ國の忍者などのスパイ的な存在は全て知られている。だから、初めて入国した私たちに依頼を出した。美女美少女軍団だったから問題なく潜り込めるはずだ、と言われた。
”ヨシワラ”の名の通り、あれな場所。『リリクロス』ので、知性ある魔物や魔族などが主なお相手。純粋な人間は私だけだった。
「あの場では、ユミナの従者になる選択肢が一番生き残れる可能性が高ったからの」
”ヨシワラ”を支配する妖怪と戦い、無事勝利を掴み取った。その後、”ヨシワラ”は和ノ國がちゃんと管理すると約束してくれた。事情がある遊女や妖怪たちは全て私が面倒を見ることにし、みんな同意してくれた。その長として選ばれたのが、私の頭に胸を置いて寛いでいるカグヤ。
「不思議なのが、みんな女性だったことかな」
遊女さんたちは仕方がない。でも、妖怪の方は女型だけが私の下に集まった。
男型さんたちは、和ノ國に逃げていったとか。
「安心せい。皆ユミナに感謝しているからな」
煙い。
「新たな居住区はどう?」
「あそこまで開放的な場所は初めてだ。落ちないようにしないとな」
「落下したら、湖に叩きつけられるからね」
睨み合う両者。アシリアが私とカグヤの話に参入する。
思い出した顔をしながら。
「ユミナ」
ジト目のアシリアを見ないように心がけている。カレッタと見つめ合う。カレッタの頬が赤い。
後ろから手が出てくる。私の頬に白い肌が触れる。強制的に振り向かされた。
「こっちを見なさい」
顔は回避できなかった。でも、最後の”目”だけは見ずに済んでいる。
段々怒りのオーラを放出させてくるアシリア。
「解決してませんよね」
「勝手に多くの人を招いた事はすみません」
「そのことではありません。連れて来られた皆様、ユミナに感謝していました。救ったことに怒ってはいません。ユミナが遊女になったことに怒っているのです」
「いや、遊女と言っても見習い。カグヤの雑用をしていただけで。お相手はしてない」
年齢制限がかかっているから無理な話だけで。アシリアには関係ない。
「働いたのは事実ですよね」
目が怖い。
「ユミナ。自分が女性を惹き付ける身体をお持ちなの。ご存知ですよね」
「えっと...だから、本当に」
「他の者から聞きました」
裏切ったな、アイツら!?
仮にも私の従者なのに...
「......はい。その通りです」
白旗を上げました。逆らえません。
「カグヤさん」
自分の名前を呼ばれてドキッとするカグヤ。
「着物を着させて欲しいです」
「かしこまりました。アシリア様」
カグヤ......。私には”様”なんてつけない癖にアシリアには敬称をつけるとは。いい度胸。
お城でお仕置き確定。
「では、失礼します」
アシリアとカグヤは教室を後にした。
「ユミナ」
ニッカとカステラが親指を立てる。グッとポーズだ。
「頑張れ!!」
右ストレートを喰らわせようか真剣に考えた。
女性妖怪、レベルだと100オーバー