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嫁と愛人、修羅場タイム

 ヴィクトール魔法学園には月に一回行われるクエストが存在する。《魔法学園永住試験》。


 ヴィクトール魔法学園に入学を果たしたプレイヤーには避けて通れない絶対クリアしないといけないクエスト。開始時期は基本は明確な日程は決めていない。プレイヤーだって毎日ログインできる者もいる。それもあって月の中でどの日にちを受けても問題ない。月の終わりに受け、次の月の一日(ついたち)に受注するプレイヤーも存在する。


 《魔法学園永住試験》がクエスト不達成になると、ヴィクトール魔法学園の生徒としての資格を剥奪。再入学は不可能。抜け穴としてはデータを抹消すれば、ゲーム内で再度入学クエストを受注できる。しかし、造り上げたキャラをわざわざ消滅させるのは、中々にキツいものがある。なので、この方法をする者は限りなく少ない。


 ヴィクトール魔法学園に入れないだけで、隣接しているヴィクトール王国は入れる。しかし、NPCに補正がかかり『魔法』関連の会話がなくなる。


 永久追放されないように『魔法使い』達は今日もしのぎを削っている。







 色々あってリリクロス大陸に逃亡してから数日が過ぎていた。魔法学園の定期試験をすっかり忘れていたので、一時帰国した。


「おっ!! 流石のユミナも来たんだね」


 階段教室の一番奥隅で順番待ちをしている私に声をかけてきたのは生産職プレイヤーのカステラ。

 本来は鍛治師の彼女。服装も鍛治に最適な装備を普段から着ている。


 ヴィクトール魔法学園で採取できる薬草や鉱物などの素材アイテムは他街では高級品。流通があまりしていないのも理由の一つ。生産職としては素材がないと動けないしレベルも上昇しない。ならばどうするか。そう、自分で採取するしかない。カステラ以外にも生産職でヴィクトール魔法学園に通っているプレイヤーは大勢いる。


「カステラは今日にしたんだ」


「リアルスケジュール的に今日しかなくてね」


「ニッカも?」


 カステラの隣にいたのはニッカ。二人とも私の前に座る。


「そう。私は明日でも良かったんだけど。二人がいなくてね」


 ニッカの言う二人とは、剣士のナーデンと武闘家のカトリナ。三人で行動することが多い。


「どうしたの?」


 二人から変な視線を感じる。

 カステラが口を開く。


「いや〜 新婚生活はどうですか、ユミナ様!!」


 カステラの言葉に反応したのは教室内にいるプレイヤー。後は、廊下を歩いている大勢のプレイヤー。

 潜んでいて近づくなオーラを出していたが、ここにきて目立っている。フレンドなら問題ないし、純粋に仲良くなりたいプレイヤーなら歓迎する。でも、やたら情報クレクレ病の人たちは遠慮したい。ただ単純にめんどくさいからだ。なので、必要があるときだけ街に繰り出している。


「う〜〜ん。ぼちぼち」


 聖女と結婚は、『オニキス・オンライン』をプレイしている者には周知の事実。NPCの絵描きさん達が私とアシリアの婚姻風景を描き、それを目撃したプレイヤーは脳が焼かれたとか。


 今思えば、教会にやたら燃えている人がいたな......

 あの人だったか。貴族NPC達からも信用されていると説明を受けたので気にしていなかったけど。


「聖女ちゃん。寝てるの」


 ニッカの視線は私の左腕へ。私の左腕はアシリアの体と密着している。肩に頭を乗せ、寝息を立てているアシリアをニッカはお祈りポーズしていた。


「眼福ッ!!」


「起こさないでね」


 アシリアはまだ聖女の職を続けている。自分がしたいと申し出をしつつ、次の聖女の教育も自ら行っている。連日の業務で少々、お疲れ気味となっている。ちゃんとした寝室で休むべきかもしれないが本人立っての希望で魔法学園に着いてきた。私の番はまだなので寝かせている。


 二人の話題は変わる。


「そういえば、ユミナ」


「うん?」


「今日は、前に見たドレスじゃないんだ」


「あー。今修理中」


 クラスとの戦い、俗世間から離れている間の二日間で私のほとんどの装備品はボロボロ。ちゃんと機能しているのは星刻の錫杖(アストロ・ワンド)裁紅の短剣(ピュニ・レガ)のみ。星刻の錫杖(アストロ・ワンド)は月エネルギーさえあれば無尽蔵に動く杖だしね。


「これ、なんて言ったっけ」


 私が装備している服に見覚えがあるのか首を傾げるニッカ。


「あれだろ、軍服」


「正解。軍服ワンピースなんだ、これ!!」


 ヴィクトール魔法学園には魔法使いのローブがある。学園の生徒である以上制服を着るのは至極当然なのだが、プレイヤーは着用に制限はかかっていない。限定アイテムを装備するのも良し、お気に入りの装備を外さず我が道を征く者など様々。入学当初は私も限定品に目を輝かせ、カスタムしていた。でも、今はとある事情にタウロスに預けている。


 帝國ノ華闃(コノハナサクヤ)。黒を基調とした軍服。

 最近、タウロスが黒の装備品にご執心なのか、全体は黒色で赤線が入っている装備品となる。

 長袖タイプもあるが、私のは半袖の軍服。


 私の左腕にアシリアの体が押し付けられている。やわらかさのある感触。素肌を晒している腕で味わう。

 可愛い寝顔を相まって、絶賛癒されています!!


「軍服か。ユミナの鍛治師、やってんな」


「カステラが燃えてる」


 創作意欲を刺激されたカステラの体からメラメラオーラが放出されている。

 レオみたいな事するな......


「にしても魔法学園に軍服とは」


「初めは、新しいローブでも買おうかなって。後アシリアとペアルック的なことをしようと思ったんだけど」


 リアルでもクイーン(白陽姫ちゃん)とのペアルックしている。なので私は一切抵抗がない。


「断られたの。『そんなはしたないこと』って言われちゃった」


「純粋なんだね、聖女ちゃん」


 私たちが談笑していると、廊下が騒がしかった。群衆を掻き分け、現れた影。

 金色の髪を持つ魔術師のカレッタ・グランブ・ヴィクトール。NPCでヴィクトール王国の第一王女。

 ヴィクトール魔法学園もヴィクトール王国の所有物。ヴィクトール王家は代々魔法学園に入学している。


 高貴の身分に加え、魔術師としても優秀。魔法学園に入れないプレイヤーからもファンがいるらしい。

 アシリアが『オニキス・オンライン』のアイドルなら、カレッタは魔法学園のアイドル。


 私を見るや、早歩きをするカレッタ。


「ユミナ様。お隣、よろしいでしょうか」


 周りは『なんと勇気がある人なんだ』と心に思っているだろう。注目の人物が何故目立っているのか。本人は当然わかっているはずだ。にも関わらず果敢に攻めていく。


「良いよ!」


 私の了解も得て、モジモジしながらカレッタは右側に座る。


「両手に煌びやか黄金で、羨ましいですね〜」


 微笑みニッカ。


「やめてよ。まだ変な噂が広がるじゃん!?」


 声を荒げてしまった。アシリアが目を覚ました。


「むにゃ......ユミナ...の番?」


 まぶたを擦るアシリア。お目覚めの聖女を眺めた周りは昏倒し始める。

 アシリア...行動するだけで災害が発生するとは。恐ろしい子ッ!?


「ごめん。起こしちゃった」


 アシリアの頭を撫でる。手に捕まり、私の手はアシリアの頬へ。


「大丈夫......」

 頬擦りするアシリア。可愛い!!!



 アシリアの寝ぼけた顔が元の可愛い顔に戻る。


「ごきげんよう、カレッタ様。今日は魔法学園に入れてもらい誠にありがとうございます」


 カレッタに気づき挨拶する。


「ごきげんよう、聖女アシリア様。いえ、私は何も。学園長にお話を通しただけですので」


 微笑み合う両者。


「ご多忙ですね」


「えぇ、おかげさまで」


「ちゃんとした寝具でお休みになられた方がよろしいのではないでしょうか」


「お心遣い、ありがとうございます。ですが、私の伴侶が通っている学園に興味がございますので」


「ご心配には及びません。この通り、ちゃんとした学園です。ユミナ様に危険が及ぶ可能性は低い」


「施設は問題ありません」


「別の『問題』があると」


「どうでしょう」


 お互い睨み合う。火花を散らしている。中心にいる私は蚊帳の外状態。


「妻と愛人」


 ニッカさん。私をいじめて楽しいか......



人前で寝てるが、愛する者が守ってくれるから安心

嫁マウント

ペアルックは高度すぎるらしい

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