朝からイチャつく
部屋の扉が開く。中から人が出てくる。部屋から誰かが出入りするのは当たり前。何も不思議がる事はない。
しかし、出入りしている者たちが恋人同士で一夜が明けたのなら話は別だ。
「大丈夫か、せつな」
ワラワラと心配を隠しきれていない様子の白陽姫ちゃん。今の私の状態を見れば、誰だって動揺する。
壁に顔を密着させ、腰を抑えながら、ズルズルと自室に戻る私。
夜を満喫できた。少々、白陽姫ちゃんの理性がぶっ飛んでいた。嬉しさで頬が緩んでいる。あの白陽姫ちゃんがヤキモチ&嫉妬の嵐で、いつも以上に私を楽しませてきたんだから......
両親がいない時は、激しさしかない。予め親のスケジュールを知っていたから成せる技。起きた時間に驚愕していたが、どうやら私は気絶に近い状態で就寝をしてしまったらしい。
長時間のゲームプレイをログアウトした後に白陽姫ちゃんに呼べれたのが原因。疲労と悦びが混在してしまった。
「だ、大丈夫......今日は部屋で横になるよ」
本音を言えば、大丈夫ではない。女子高生で腰をヤったと本気で焦った。数時間身体を休ませれば大事に至る。残り少ない夏休みを自室に引きこもるのはどうかと思うが今後への自己投資と考えればいい。なんて不純な考えとため息を漏らす。
「しかし、せつなも悪い」
おっと。私の恋人さん。全ての罪を私になすりつけてる。これは恋人会議をしないといけない。
「せつなは、また新しい女性をハントした」
私の部屋で会話を続ける。
「過失」
「いや、あれは故意だろ」
「だから、あんなに嫉妬まみれだったのか」
「知ってるか。塔にいたせつなの新しい女性NPCを見たケモナーが屍になったて」
「何それ!?」
白陽姫ちゃんが言うのは、あの時、刻獣を目撃した生粋のケモナープレイヤーは一心不乱の塔内部を駆けて行ったらしい。百合姫が出会ったケモ耳っ子と出会えるかもと。しかし出現した各階層の刻獣は巨大な獣。街と街の間を護っているエリアボスが魔改造に強化され、より一層凶暴化した姿。ケモ耳っ子に会いたいがために対策を怠ったプレイヤーの末路はお察しの通り。
本来、人型の刻獣は私のみのユニークNPC。限定クエストだ。条件は星刻の錫杖を所持し、星霊を従えている時に発生する。詳細を知らないプレイヤーは大勢いる。それでも強行をやめないプレイヤー。最終的には塔付近で倒れるプレイヤーが続出してしまった。『会いたい』、『触りたい』と呪文のようにつぶやくながら......
「一同、生きた屍に合掌したよ」
「こ、怖いな」
「せつなが忽然と消えたから、みんな血眼になって捜索しているよ」
聞きたくない言葉をありがとう。
「支刻の獣塔を全クリしてるの。今のところ、せつなだけだし」
「えぇ、そうなの!?」
それは素直に驚いた。参加条件を満たしているプレイヤーは多いと聞く。にも関わらずクリア者が私だけなのは意外だ。
「その様子だと、せつなだけ違うルートだったのかな」
白陽姫ちゃんの説明では、一層ごとに戦闘開始直後にデバフはかけられたり、バフスキルや強化魔法も打ち消された状態でプレイヤーを戦わせたり、悪辣な環境ステージで戦闘したりと悲惨な攻略らしい。
「それってゲーム性的に大丈夫なのかな」
「危惧している者もいる。けど、みんな気にしてないよ。むしろ、鬼畜ゲー万歳だとか。レベル解放イベントがもう少し後だったら、引退するプレイヤーもいたとか」
私が言えた義理はないけど、他プレイヤーも大概だね。『リリクロス』に入ったらどうなるんだろう。
人外魔境が更なる発展をするよね。
「ところで」
甘い色気を感じる唇が近づく。昨晩あんなにしたのに、もう欲しくなるなんて。
目を瞑り、重ねようとした。
でも、触れ合ったのは白陽姫ちゃんの唇ではない。私の唇は白陽姫ちゃんの手の甲と。
「やる前に教えて欲しい」
口元に手を当てている白陽姫ちゃん。細い目だけで訴えている。
「せつながキスしたいのなら、私の質問に正確に答えてほしい」
誰が欲求不満人間だッ!!! 私の体力を根こそぎ奪うのはどっちですか????
「で、質問って」
「聖女との結婚生活どうかな」
「ナンノコトカナ......ヨク、ワカラナイ」
くそっ。やっぱり、その話だったか。昨晩は叡智の頭脳で回避した。だが、何度も使える手ではない。
誘惑して話を逸らすか。ダメだ。朝からブーストするなんて今度こそ、私は死ぬだろう。今白陽姫ちゃんに醜態を晒すのは、危険。これをネタに何されるか。
「そんなに考え込まなくてもいいんだが」
しょんぼりする白陽姫ちゃん。
「私はただ......せつなが」
「降参です。聖女とは仲良くしてるよ、ユミナとして」
「そ、そうなんだ......そうなんだ」
「ただ、白陽姫ちゃんんが思っているような行動はしていません。年齢制限がかかっているし」
せいぜい抱きしめ合うまでだろうな。
「安心するべきなのか。恋人としては複雑だな」
後ろから抱きしめられた。首筋を白陽姫ちゃんの鼻先が撫でる。
「ち、ちょっと......」
「やっぱり、落ち着く。こうして肌を重ねていると私の運命の相手はせつななんだと」
「大袈裟じゃない」
「せつなにとっては、そうかもしれない。でも、嘘偽りなく私は今が幸せだ」
「............白陽姫ちゃん」
「学校が始まれば、日中は会えない時間も増える。その間にせつなが誰かを口説いていたら、私はどうにかなってしまいそうだ」
「口説かないと」
「ユミナとしての行いをしっかり見てきたから」
「いやぁ......ま、その通りなのですが。てか、そうだよ!?」
「どうした?」
「学校が始まるなら、私たちの関係......世間に知られてしまう」
白陽姫ちゃんと付き合うようになったのは夏休みから。当然、誰も知らない。
新学期から仲睦まじい雰囲気を出せば、勘の良い人は気づく。
顔を手で覆う私に、微笑む。
「そこは大丈夫じゃないか。お互い恋人同士なのは事実だし。嫌味を言うものがいても気にしないし護ってあげる」
「白陽姫ちゃんって、私以外の攻撃からは強いよね」
「君がいつも、私の情緒をかき乱すからだろ。毎日脳が混乱するよ」
「だったら、安心して。私を好きになる人なんて白陽姫ちゃんしかいない」
「無自覚とは恐ろしい。わからないのか。せつなは世界一、魅力的な女性だって」
「いや、全く自覚ないけど」
「不味いな。せつな一人、肉食獣の檻に置いていくことになるのか。理事長に言って、クラス替えを強行しよう」
流石にそこまでしなくても。てか、理事長と普通に会える仲なんだ。
「学校生活か」
高校二年生は何かと忙しい。体育祭、学園祭、修学旅行。私と白陽姫ちゃんは部活をやっていないけど、二年が主体の部活動になる。
「楽しみだね!!」
「首輪をつけて鎖で繋ぐしか。フェロモンたっぷりの身体に防護服を着させて学校生活を過ごさせるしか方法はない」
物騒な単語が聞こえたが、気のせいだろう。束縛系はちょっと......
拳を握り宣言した白陽姫ちゃん。
「任せてくれ。せつなは私が死んでも守る!!」
「死ぬな!?」
私の頬に手を添え、すくい上げるようにキスされた。
軽い口付けではない。舌を入れる濃厚で愛情たっぷりのキス。
「ん...んっ、んん」
私のキスは遮った癖に......強引なんだから。
艶のあるリップは私の唇から離れていった。
「せつな、愛している」
「唐突だね、いつもいつも」
「君はどうなんだ」
「好きです」
「私の胸に顔をうずめながら言われても嫌なんだが」
「察してよ」
「私は目を見て、ちゃんと告白したぞ」
くぅ、うううう!!!!
「あ、」
「『あ』?」
「貴女の事を......あ、愛しています」
うん? あれ? 目も動きもおかしい。その手はなんだ!?
声を荒げるな。まだ朝だぞ。少しはセーブしろ......あっ♡
再び目が覚めた時には、夕方になっていた。
白陽姫は理事長と仲良いし(世界線が違っても〜)(作者以外誰も知らないよ)(ま、体だけは出会っているから)
ま、真面目に話、恋人が例えゲームであってもNPCと結婚してしまったんだ。おかしくなるのは当然だよね
せつなと白陽姫はネコでもタチでも出来る。(お互いどっちも興味があったから)
白陽姫ちゃん、もう少し手加減したら......
掲載から半年以上経ちましたが、作中では未だに夏休み。
一章は六月〜七月の半ば
二章は七月の終わりから八月の初旬
三章上下は八月中旬に入る直前
シーズン2は二章までが八月中旬〜第三週くらい
最終章は夏休み最後の一週間
多分......