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リリス様はエロい

 私は、新しいモノに毛嫌いはしない。新しいモノ、自分とは異なるモノを受け入れることで今とは違う自分に馴れるのを知っているからだ。初めての姉、初めてのゲーム、初めての女王プレイ、初めての従者、初めての彼女、初めての結婚。自分で言うのも変だ。割と勇猛果敢に飛び込んだな、って思う。


 出来るだけを伸ばすのも自由。ただ私はそれはつまらないと思っている。勿論、自分だけの世界を維持する人を卑下しない。するだけの人生を歩んでいないのもあるが、人には人の生き方、自由がある。


 長々と変な事を語っている。自分でも不思議だ。自分ではないのかもしれないと考えたこともある。夢かもしれない。だが、否定される。目の前の事実は夢ではない。


 異質なモノに直面すると尻込みしてしまう、と人は語る。私はまさにその沼にハマっている。

 どこから戻ればいいのか。支刻(しこく)獣塔(じゅうとう)をクリアした私たち。ネコ怪盗兼元星霜の女王のクラス含め、十三人を従者として向かい入れた。少し巻き戻しすぎた......えっとー。


 ユミナはNPCのキャラと婚姻を結んだ。これだけ見れば、ゲームでNPCと結婚するのもプレイヤーのプレイスタイル。実際に自由度の高いVRゲームでは可能となっている。プレイヤー同士でも普通に結婚できる環境だ。生きているNPCなら別に結婚しても問題はない。アシリアのウェディングドレス姿、綺麗だったな。


 美女と野獣は存在する。プレイヤーはキャラメイクして、男が女へ。女が男に変更できる。ゲームの中でも現実と同じ顔、身体で過ごすのはゲームの世界への没入感が少々、欠ける。精神は今まで通り。(ガワ)を変えることで自分は別の生き方を楽しめている快感を得られる。


 ただ一つ誤算がある。ゲームの世界ではプレイヤーはある意味不死身。データの塊。本当の肉体は寝たきり。ゲームで無数の死を経験しても、プレイヤーにとっては痛くも痒くない。だからこそ、無茶ができる。ゲームの世界にすでに存在するNPC視点からは蛮勇のプレイヤーは野獣と思われている。自分の命をなんとも思わず、到底勝てないモンスターへ突撃戦法を取るイカれた者達。これを野獣と表現して何が悪い。


 プレイヤーにどっぷり浸かっている私、ユミナもその野獣の一味。野獣に美女と結婚するとどうなるか。

 そう、好奇な目を向けられる。美女もそこら辺の野生の美女ではない。『オニキス・オンライン』にただ一人しか存在しない聖女。顔良し、身体良し、服装神秘、仕草可愛い。生き物ですか? 女神様と間違えていませんと思わせるようなNPC。アシリアのウェディングドレス姿、綺麗だったな。


 あり得ないことだけど、残った事象が真実。野獣、ユミナちゃんと美女の聖女アシリアは結婚しました。

 アシリアのウェディングドレス姿、綺麗だったな。何度目だろう...まぁ、いいか!!


 結婚パーティーも終わり、一番の従者と自宅のお城を歩いていた時。見知らぬ女性が舞い降りた。

 ここまで思い出し、私はテーブルに置かれたカップを持ち上げる。


「えぇ、凄ッ!!」


 出されたコーヒーを飲んで驚く。見た目は普通のコーヒー。ステータスを覗くと魅力値が僅かに加算されていた。淹れてくれたメイドに話しかける。


「ラグーン。このコーヒー、美味しい!!」


 アイテム名は『()ピルアク』。ボルス城で採取できるコーヒー豆から抽出されたコーヒー。

 私からの賛辞に深々とお辞儀するメイド。メイドは双子の少女である。一人はラグーン。もう一人のベイは私の対面に座る女性へ給仕していた。私とは異なり、紅茶を飲んでいた。


「本当に美味しいわね。いいわね、ユミナちゃん。いつもこんなに美味しい飲み物を飲んでいるのね」


 縦に長いテーブルで、対面にいる筈の女性は小さく見える。だが、彼女が息を吸う、紅茶を飲む姿だけで存在感を発揮し、時間が静止している。その証拠に全員が件の女性に視線が吸い寄せられていた。邂逅からお茶会をして時間はそれなりに経過している。


 重ね重ね言うが、目の前の女性が一つの仕草———カップが唇から離れただけで時間は静止した。これは勿論、ゲームのバグやラグが発生しているわけではない。もしも不具合があれば、運営から緊急のメッセージが飛んでくる。


 カップが置かれる。女性は呟く。


「ユミナちゃん、そんなに見詰められても困るんだけど」


 エ、エロい。数多くの女性NPCの声で耳が死んでいる私の耳は昇天した。


「気持ち良すぎる」


 身体が幸せに満ち、脱力した。持っていたコーヒーカップが手から離れる。

 床に当たり割れたコーヒーカップ。カーペットに染み込んだコーヒー。


「ご、ごめん...ラグーン」


「ユミナ様が目移しするのもわかります」


 トレイにコーヒーカップだった残骸を回収。室内から退出したラグーン。


「さてと、改めて自己紹介しましょうか。ワタシはリリス。永劫に在り、世界を創造する者」


 うん? よくわからない。

 とりあえず、人智を超えた絶世の美女が口を開けばお花畑も生み出せるのか......メモメモ。


「可愛い〜!!」


 ニコニコしながら言うリリス様。意識していないが、なんとなく”様”をつけたくなる。


「お嬢様、お顔が崩れています」


 耳打ちするヴァルゴが指摘する。


「おっと、失礼。はぅ...」


 ダメだ。分かってても魔性の色気に抗えない。


「お嬢様、すみません」


 私の頭に振り下ろされた手刀が直撃。


「あー............っあぁ」


 悶絶した。頭が割れる。ヴァルゴの手刀なんて洒落にならない。下手したら、体が半分っ子星人になるところだった。剣を使用しての一刀両断で山が真っ二つするパワーを持つのに。剣を装備していないことに感謝。


「な、何するのよ......」


 呆れ顔のヴァルゴ。


「惚けているお嬢様が悪いのです」


 見惚れていたのには別の理由があるけど。


「じゃあ、ヴァルゴはどうなのよ」


 おい、こっち向けッ!? しっかり色香に惑わされているじゃん。

 しゃがめ、そして顔貸せ。愛の鞭を与えてあげる。


 愉快な笑い声が響く。声の主はわかりきっている。リリス様だ。


「本当に、面白いわね!! あぁ〜、涙出てきた」


 美女の涙。最上級のアイテムに違いない。ください、私が大切に保管しますから。決してやましいことには使用しません。お願いします!!!!!!!!!!!



 今日も私はNPCに夢中である。ごめんなさい、こんな駄文しか思いつかなくて......



 ◇


 部屋の壁に立つのは、ユミナの従者たち。一列に立っている。主のユミナと聖女アシリアが結婚し、ボルス城で宴会をしていた。休憩しに外に出たユミナとヴァルゴがすぐ戻ってきたのに一同、困惑していた。でも、原因が判明し即座に全員、立っている。


 タウロスがアリエスに話しかける。小声だ。仮にも主のユミナとあのお方とのお茶会。本来なら終わるまで無口を貫き通すのが従者の在り方。でも、主の器と神伝(ヒトずて)から聞いた話、親類からの情報を複合した。多分、会話しても大丈夫だろう。


「あの方って、”先生”だよな」


「一度、お見かけしただけですが間違えありません。間違えたら首を刎ねられますよ」


 退職のクビではない。捻りもないただの切断を意味する。

 星霊、という種族を創造したのはリリス様だ。襲名された星霊が一同に会する時に登場するお方。前任の星霊たちからも毎分、呪いの如く記憶されている。『普段は、大らかなで聡明なお方だ。決して粗相をしないように』『リリス様に逆らう者、無となる』『我々のような下賎な卑しい存在にも分け隔てなくお話をしてくれる神様だ』『性別も変更できる』『抱いた数は星の数』『百年相手しても常に満足できる腕前』『世界を書き換える超越者』『和気藹々と会話していいが、”先生”の話を遮れば、首が飛ぶ。無になる』


「ヤバいかもな」


「武器ですか」


「本来、親父が復元するはずだったのに...」




 アクエリアスがレオに釘を刺す。


「お姉ちゃん。ダメですよ、戦っては」


「アクエリアス。お前は俺をなんだと思っているんだ」


「無茶無謀が大好きな人。ポセイドンと同類」


「否定はしない。だは、流石に相手は選ぶ。”先生”に戦いを挑むなんて、自ら死にに行くもんだ」


「簡単に死ねるだけ、まだ救いだよ。その気になれば、永遠の死の世界へご招待されるんだから」


 アクエリアスの袖を引っ張るアリス。

 ホムンクルスのアリスは当然、知らないお方。これはちゃんと伝えないと自分たちの命もない。


「あくえりあす、あのひとだれ?」


「アリスちゃんのママの大切なお方なの。いいこと!! 絶対に粗相しちゃダメだからね」


「そそう、ってなに?」


「ママを怒らすこと。約束守れそう?」


「わかった。ありす、ままにおこられないようにする」


「偉いわ!! アリスちゃん」


 レオはため息を吐く。


「どっちが母親か分からなくなってきたぜ」



 労いの言葉をかけるカプリコーン。


「お疲れ様です、ヴァルゴ」


「ありがとう、カプリコーン」


 顔だけ痩せこけているヴァルゴ。早々見られるものではない。


「お嬢様が、夢中になるなんて」


「”先生”ですので仕方がありません。いつ見てもお美しい。カブリエルやラファエル、ウリエスが懐かしい」


「カプリコーン以上に”先生”にお熱でしたっけ」


「大天使の仕事を放棄して”先生”と百年コースに行った時には、殺そうかと考えました。三人で結託して私に業務の全てを押し付けやがって」


「邪気が漏れているわよ。この場で堕天は......できないか」


「そういうヴァルゴは話さないのですか?」


「お嬢様の前で私が”先生”と話するのは」


「でも、星霊の中では一番付き合いが長いのよね」


 バツの悪いヴァルゴ。


「付き合い自体は長いですが......”先生”とは。そんなに......」


 カプリコーンはそれ以上、会話を膨らませる行いはしなかった。

 ヴァルゴに関しては”先生”とは特殊の中の特殊な関係。



 ヴァルゴは自分の胸に手を置く。

 念じた。祈るしかできない。願い続けることしか手段がない。

 心の中で叫び続けた。


(ユミナ様。どうか”リリス様”を好きにならないでください。私が耐えられません............)

リリス。

今は女として生きている。

抱いてきた数は不可説不可説転。

男にもなれる、女にもなれる。動植物、魔物にもなれる。全てを知り、全てを知ったモノ。

(今は、一人の女の子にしか興味がない噂が......)


メジャーからマイナーな神々は一生、頭が上がらない存在。


『オニキス・オンライン』では現実に記されている神々は確かに存在する。しかし遭遇率は極端に低い。

サービス中に会える可能性は低い。神々の名前が与えられた武具はかなりの数が存在する。


リリスはゲームのラスボスではない。

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