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カノジョの笑顔

 

 ◇


 瓦礫だらけの一層目。通れるように道を作る。お城直行するべき。でも生憎、異空間転送の把手(安住の地へ)支刻の(しこくの)獣塔じゅうとう内部では使用不可。それに、アシリアの育ての親でもあるカトレアさんに無事の報告をしないといけない。


 扉が開く。太陽が沈みかかっている。


「反対側か」


 初めに入った扉ではない。最上階をクリアした者、失敗した者関係なく、入り口とは反対の扉から出される。今も入り口は長蛇の列になっているだろう。あまり目立ちたくないのでさっさと退出しよう、と歩を進めた。


 が、私の幸運は尽きた。






「なになにッ!?!?!?」


 鐘の音、ファンファーレが鳴り止まない外。耳を従者に塞がれる。塔の外装は無事。私専用ステージは使い物にならないが、他プレイヤーのステージは機能するので一応、安堵した。


 降りる階段は人混み。私を見るや、全員が駆けてくる。


「えっとー............皆さんも塔をクリアした方々ですか」


 まずはファーストコミュニケーション。これ大事。あくまでこの場にいる大勢のプレイヤーがクリアしたと前提で動く。


 に、しても鐘の音止まない。何処から......空?





 《全プレイヤーにお知らせです。たった今、支刻の(しこくの)獣塔じゅうとうが最速攻略が完了されました。プレイヤー名:ユミナ。単独でのクリア、おめでとうございます。繰り返します———》





 ヘェ〜 初のダンジョンなどはこうやって発表されるのか。”単独”が単語に引っかかるがNPCがパーティーに含まれてもプレイヤー名だけ言われるのか。なんか解せない。


 ......うん? 攻略報告アナウンス? 範囲はフィールド全部。



 はああああああああああ!?!?!?!?!?



 どういうこと、どういうこと、どういうことッ!?!?!?!

 意味がわからない、意味がわからない、意味がわからないッ!?!?!?!


 怖い、助けてクイーン!!




 ギラギラ眼で、私に詰め寄るプレイヤーたち。近くの人からは『攻略の情報くれ』。遠くから『編成』や『装備』などの情報を欲するプレイヤー。時折、『スキル』や『魔法』、『嫁は何人いますか』。色々質問攻めにあう。おいっ!? 誰だ、今変な質問したやつは。


 一気に飛び交う言葉。具合が悪くなる。ここから一刻も早く退出したいが、手が思いつかない。

 救いの手が私の前に立つ。


「クラス?」


「逃げましょう!! 運命の曲解(ラスト・マジック)


 ガン見していた人たちは目を見開き、驚愕顔。周囲のプレイヤーが行動を変更する。

 群衆は私達を探し出す。散らばる集団や誰かにメッセージを送る者。従者に見惚れ、スクショし忘れた哀れな者達。てか、プライバシー侵害。


「視えていない?」


「長く持たないから、今のうちよ!」


 クラス先導で聖教教会へ向かう。クラスの発言から、わずかな時間しか撹乱できない。私達の足取りは早かった。





「うん?」


 走るのに夢中だった。一瞬しか視界に映らなかった光景。向こうは私に気付いたのか、それとも気づいていないのか。足が止まる。見渡すが、周囲のプレイヤーに紛れ込んでいた。


(見間違い?)


「お嬢様?」


 急に止まった私を心配するヴァルゴ。


「ごめんごめん、今行くよ」


 再び歩き出す。

 頭にはこべりついた光景が残る。黒い杖、先端の水晶は黒みをおびた深く艶やかな赤色。

 所持している人物の顔を拝見することはできなかった。


(色違いだったけど。()()()()、私の......星刻の錫杖(アストロ・ワンド)に)











 ◇◆◇


「疲れた〜!」


「お疲れ様です、ユミナ様」


 私とヴァルゴは室内を出た。ボルス城、回廊を歩いていた。ゲーム内の結婚の契りだけは思いの外、簡単に終わった。私のプレイヤー名にブーケマークが出現した。これがゲーム内で結婚した証。説明ではNPCやプレイヤーでも同じマークが付くとか。いつかは、クイーンとも......


 しかし簡単に終わるはずの結婚イベントも今回ばかりは長丁場。聖教教会の聖女アシリアの婚礼。NPCの貴族が用意した祝いに出席。二次会はボルス城で行った。流石に初見の方々は遠慮したいので、私の従者達でパーティーを開いた。アシリアはカトレアと一緒にいる。彼女自身も疲れているだろう。


(アシリアのウェディングドレス姿、綺麗だったな〜)



 薄暗い回廊を歩き続ける。満月の光が私たちを照らす。


「今日も夜景が綺麗」


「そうですね」


「あのさぁ、ヴァルゴ」


 言葉が詰まる。でも、言わないといけない。


「ごめんなさい」


「急に如何なさったのですか。珍しい」


「———ッ!?」


 振り向くと微笑むヴァルゴ。


「酷くない」


「ユミナ様がおかしな言動を取られたからですよ」


「おかしくない!? って、そうじゃなくて.......」



 掌が視界を覆う。


「念の為に、お伝えしておきます。この場で『結婚しよう』は勘弁です」


 バレてたか.......。流石と言うべきか。


「だって......」


「今、了承すればアシリアにおこぼれを貰ったみたいで嫌です」


「......ごめん」


 ヴァルゴの手が私の頭に。優しく撫でられる。


「以前も申しました。『ゆっくり待ちます』、と」


 身を寄せ合い、見つめあう。


「仮に私が選ばれなくても、後悔しません」


「えっ!?」


 軽くキスされる。



「私が愛しているのは、この世でたったお一人。未来永劫、ユミナ様だけです。この想いは枯れることはありません」


 胸が張り裂けそうだった。一番私の近くにいる。ずっと隣に居てくれたヴァルゴ。こんなに私を想ってくれる存在を蔑ろにしてしまった。苦しめられる。痛い。胸の奥から罪悪感が支配してくる。私は............





 拍手が聴こえた。私とヴァルゴは周囲へ警戒する。自分たちしかいない。


『いやぁ〜 驚いたな!!』


 耳から離れない魔力。流れ込む声。拍手の音は上から。屋根に誰か座っている。私たちが気づいたのか、何某さんは降り立った。


 静かだった。着地したのに音がない。まるで彼女には音を出すのは御法度で空間が畏っていた。世界が彼女を中心に廻っているようだった。月も操作され、何某さんが纏う影を下から上へ消し去っていく。


「少し目を離していた内に、この地、変化しすぎね」


 玲瓏な声の持ち主は広げていた本を閉じる。


 黒がよく似合う人が私の率直な感想。美しい芸術品のようだった。黒絹のような長い髪。美を超越した顔立ち。男だけではなく女も虜にしてしまう肢体。高いヒールと黒で統一されているが高級ドレスを身につけた女性。


 深紅の眼で私を捉え、黒髪の女性は歩き始める。


「初めまして、女王ユミナ。ワタシは......えっとー......」


 黒髪の女性は首を傾げ、悩む。


「ねぇ、ワタシの名前。何だっけ」


 あれ? 私に質問してる? 新手のナンパか、と言い放ちたいが如何やら黒髪の女性が質問したのは私ではなく、ヴァルゴだった。


「どうして............貴女様がここに」


 怯えている。この世の者とは思えないモノを目撃したかの如く、酷く慌てていた。


「あれ? オーイ!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()。ねぇ、()()()()()? あっ!! ごめんね!! 今は、ヴァルゴだっけ!!」


 ヴァルゴをグレモリーと呼んだ黒髪の女性。確かヴァルゴが悪魔だった時の名前だっけ。スキル名にも明記されているし。因みにグレモリーはヴァルゴの真名ではない。ちゃんとした名前を持っている。未だに知らないのよね......


「それにしても、泣けるね。ヴァルゴが誰を好きになるなんて。一番はワタシと思っていたのに。残念!!」


「ヴァルゴ、大丈夫。あの、どなたですか」


 ヴァルゴは答えれない。代わりに私が質問した。


「ワタシは......『()()』、おぉ!!」


 ヴァルゴが発した二文字。何処かで聞いたことがある単語。勿論さまざまな存在が使う単語ではなく、ヴァルゴ関連という意味。


「先生も大事だけど、もう一個あるじゃん」


()()()様。どうして......」


 晴れた笑顔。思い出した表情を浮かべる。


「あー。思い出した、思い出した。では、改めて」


 分かった!! ヴァルゴが先生と言う人はたった一人。ヴァルゴを拾い、星霊を強制的に任命できる力を持ち、私以上にヴァルゴに多大なる影響を与えた存在。




「ワタシはリリス。全ての生命の祖であり、この地を創った、全宇宙の創造神。よろしくね、ユミナちゃん!!」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 時間が経つのはとても早いです。 この作品を読み始めてから約1年が経ち、終わりが近づいてきました。 [一言] この最後のステージでの幸運を祈ります
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