貴女の事が知りたい...これが私の気持ちです
クラスの魔法で四肢は復活。ドランも手乗りサイズへ戻った。
博物館は消える。新たなフィールドはみんなが幽閉された部屋。
「水、出ていなかったんだ」
「放水演出はユミナを慌てさせるための手段」
投影された映像しか見ていない私。ラキが細工したのだろう。騙された、と口には出さず心で完敗する。
「どうして、私に宝石を持たせたの?」
人間に戻ったクラスは困惑しつつ質問した。
「あの宝石———《エヴァーラスティング・ジュエル》は、クラスがずっと持っていたアイテムだよね」
クラスは、小さく頷いた。
「うん。捨てれなくて...」
「クラスは、殻に閉じこもっている。ならクラスを縛る宝石と籠っている塔、両方を破壊すれば解決するかなって〜」
作り笑いをなくした笑い。涙を流し、笑いこげる。
「おっかしいな、ユミナは」
「これが今の女王ですよ、先輩!!」
「ねぇ、ユミナ。お願いがあるんだけど............ユミナの配下にして欲しい。教えなきゃいけない事、やりたい事、いっぱいある。ユミナの下じゃないと実現できない。だから......」
私はクラスの手を握った。
「良いよ! 歓迎します!!」
私の前にウィンドウが表示された。《招かれざる猫、悲願への旅路》、《アシリア聖女、救出大作戦!!》のクエスト、完了のメッセージだった。
「クエストクリア!!」
談笑していた私達。前にある二つの部屋。両方が壊れた。内部からの物量攻撃。耐えきれず崩壊。
煙を抜ける影の集団。一つはボロボロの人型獣集団。十二人いる初代刻獣だ。
もう一つは—————————ひぃ!?
別の意味でボロボロのケモノの集団。疲労困憊。全部で十三人。
恐る恐る手を挙げる。助けに来た合図だ。
「みんな、お待たせ!!」
私を取り囲むのはアクエリアスとアリス以外。逃げれない。前にも後ろにも右も左も。上は......美人さんたちの顔が立ちはだかる。下は流石に誰もいない。でも、足は迫る。完全に包囲された私。
「ユミナ様」
代表のアシリアさん。砂埃が装備に付着しているが、目立った外傷はない。安心した束の間。抱きしめられた。
「ありがとうございました」
肩越しから聞こえるすすり泣き。まだ自分のせいで私を危険に晒した自責の念だろう。我慢できる私に抱きついた。
「こんなに......ボロボロになって」
私の装備を見て、悲痛に叫ぶ。稀代の女王がなくなった私の装備は、幽天深綺の魅姫。
ドレスは切り取られ、焦げている。四肢と一緒に切断されたり爆散したりと巻き添い喰らった証拠。ボルス城に帰ったらタウロスに修復依頼出さないと。
「アハハ......。実際、顔と胴体、左腕以外は消し飛んだんだけどね」
私からすれば解決した事案。体が元に戻ったから笑い話で済んでいたが、みんなは違った。
アシリアさんと同じように抱きしめられた。もう誰に何処を触らせているのかわからない。
私の頭から足まで従者に捕まっている。
待てよ、この後の展開は考えると—————————。
ヴァルゴ、カプリコーン、レオが真っ先にクラスへ武器を向ける。
私はみんなから逃げ出す。クラスの前に立つ。
「退いてください、お嬢様」
「もう良いの。私の勝利で終わったんだから」
うっ、目が怖い。目だけで生物を殺めそう、ってくらいのオーラ。私を前にしてもやめないところを見ると相当、怒っているな。
「みんな。警戒を怠ったよね」
一瞬にして、動揺する従者。全員が目を逸らす。
「つまり、クラスに負けたってことよね、私以外。怒ってくれるのは嬉しい。だから、引き分けってことで幕を下そう」
「知っております。観ていましたから」
「戦闘を!?」
言葉を出さず、クラスに目を向ける。クラスは”ごめん”と。
それもそっか。もし私とクラスの勝敗でどちらを残すか決定する。
クラスが勝つと残った陣営を狙う。狙われた陣営は怒りを植え付けられる。
お互い殺す相手を知らないといけない。
クラスは映像を垂れ流しにしていた。
ただ私との会話も流れてしまったことで、幽閉された両陣営はクラスの全てを知ってしまった。
「お嬢様が勝利したことも確認しました。同時に確かめたいことがあります」
星霊がクラスへ集まる。
「これからどうするのですか」
「............私は、生きる。自分のために。私を救ってくれたユミナのために。見捨ててしまった星霊にもう一度、寄り添うために」
「ここにいる星霊は総意して、貴女からの謝罪を受け取らない方針です」
下を向くクラス。
「ですが、今度ともお嬢様に仕え、貴女が幸せになった時に......謝罪を受け取ります」
「............ありがとう、ございます」
私の方へ顔を向ける星霊たち。
”これで良いですか”と言われた気がした。
頷く。私は刻獣に近づく。
十二人の刻獣はどうしたらいいか不安な面持ち。
「刻獣の皆さん。もし良かったら......私の城に来ない?」
私の提案に目を見開く刻獣たち。
「皆さんは私専用の塔守護者。この『支刻の獣塔』には用がなくなったし」
レベルが解放された私には支刻の獣塔に足を運ぶ必要はない。
このまま、支刻の獣塔に残っても本当の意味で全て救ったことにはならない。
「我々も宜しいのでしょうか」
「もちろん。女王の私が言うんだから、みんなは反対しないわ」
私の言葉の答え。片膝をつく刻獣たち。
私の従者は新たに十三人も増えた。
(役職、何にしよう...)
掠れた声で私を呼ぶアシリアさん。
私達はいたたまれない雰囲気になる。最後の特大のイベントが残ってる。
「あ、あの......ユミナ様」
「...アシリアさん」
胸の前に手を握り、真剣な眼で言った。
「この先もずっと、貴女といっしょに...いたいです」
何を言えば良いのか。落ち着けッ! 対策を考えなくては。まずは............
いや、変な考えを巡らせるのはやめよう。
「アシリア」
「は、はい!?」
「ずっと、私の傍にいてくれますか」
私が想う胸の内を曝け出した。湧き上がる感情。
NPCであっても私を愛してくれる人。愛してくれたことに応えないと女が廃る。
赤面した顔になるアシリア。声を震わせ言った。
「不束者ですが......よろしくお願いします」
抱擁し、唇を交わした。アシリアの柔らかい唇。時間に数秒。しかし私達に流れる時間は永く遠い。いつまでも幸せなひとときは突如として現実へ戻す。
変な圧がかかる。一つではない。複数が私とアシリアを視ている。目を開け、発生源へ。
「何?」
みんながジーッと目を細めていた。
「お城に帰ったらね!!」
お幸せに。さて、残るは...