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護る力

 ラキが使用した『異端の女王(ジャンヌ)』。効果は発動者に対して攻撃をした者に受けた攻撃をそのまま返す能力。攻撃した相手に触れないと条件が発生できない。返した攻撃は与えた箇所に戻される。ラキが受けた攻撃は戰麗(アドバンス)で強化された足技。反射され、両足は攻撃に耐えれず破裂した。



「不恰好だから、左腕も切断しようか!」


 膝から下がない。先にもラキの攻撃で右腕は切断されている。残っている左腕がなくなれば私はダルマと同じになる。這いつくばるしかできない。加速スキルも再使用できるが戰麗(アドバンス)の影響でスタミナと俊敏値にデバフがかかり加速スキルを活用してもラキに捕まるのは明白。


 壁に背中を預けもたれかかっている。スタミナが回復しない以上、自ら動くことはもう叶わない。

 三箇所の切断面。血が流れるようなポリゴンが漏出していく。HPも加速度的に減り続けている。回復薬や回復魔法を使っても焼け石に水。


「痛ぶる趣味はないのよ............さようなら」


 敵を見逃すほど甘くない。言葉通り痛ぶられはしなかった。でも、床に伝わる恐怖は私には効果的だった。現実と類似している世界。恐怖が肌から内部へ。


 私を見下ろすラキ。言葉をかけられない。沈黙は人に憎悪を植え付ける。


 私は自問自答しだす。ここで終わっていいのか。嫌だ。今の四肢が欠損で何ができるのか。頭と胴体が使える。全ての攻撃になすすべない。だから、と諦めることは違う。自分みたいな者が、大それたことはできない。自分が今までやってこれたのは皆がいたからだ。一人じゃ何もできない。従者も刻獣、ラキを救うことはできない。まだあるはずだ、自分が見落としている真実が............


 ナイフの切先が迫る。気力を失った瞳を出してもラキには関係ない。戦った敵。HPが一割になっていたとしても油断できない。確実に仕留める。数秒のうちに私は死亡し、リスポーンする。プレイヤーは死んでも再出発できる。何事もなかったように。そう、元に戻るだけ。所詮はゲームだ。実際に私は死なない。従者だってデータの塊。本物ではない。私がラキに負け、ラキの指令で消滅されてもみんな、私のためなら本望と思うだろう。いなくなってもまた、従者を集めればいい。終わったんだ............







 残った左手を握る。歯を食いしばる。無機質になった眼に生気を宿す。


「ふざけるなぁあああああ!!!!!!」


 攻撃を弾かれ仰反るラキ。


「わ、私は............」


「どうして、貴様が()()を持っている?」


 最後に残った力で裁紅の短剣(ピュニ・レガ)を装備。ラキのナイフを吹き飛ばした。


「貴様、自分が何を持っているか分かっているのか。その剣は世界を破壊する。人間が持っていい代物ではない。イカれているわ」


「私の...大切な従者から託された。ラキが罵るのは勝手。でもね、裁紅の短剣(ピュニ・レガ)の存在をバカにするのは、私のタウロスを愚弄していること。許さないわ」


「タウロスが......みんながユミナを選んだ。ワタシには...」


 私に比べれば、ラキと星霊の方が長い付き合い。自分が認められていないと絶望しているかもしれない。


「予定変更だ。まずは剣を破壊する。次にユミナ。生きた事を後悔させる...」



「私は、諦めない!!」


 風前の灯だから何。「諦める」という言葉は私にはいらない。今までもこれからも私のやりたいことをやる。強大な壁が立ちはだかっても、自分のルールで打ち砕く。こんなところでへこたれている場合じゃない。


「やはり、今すぐにでも息の根を止めるしかない」


 動けない私に比べ、選択の幅があるラキ。当然、飛んだ武器を回収することも容易。


「そんな絶望的な状況でも......貴方は諦めないのね」


「当たり前よ。自分のやりたいことをやる」


「じゃあ、証明してよ。死ぬ寸前の状態から、ね」


 後一回なら、行ける。裁紅の短剣(ピュニ・レガ)を再び握る。







『くっくっく......。随分とボロボロだな......ユミナ』


 聞き覚えのある声と同時に黄色の魔法陣が出現。中から大きいぬいぐるみサイズのドラゴンが出てきた。


「............ドラン」


 私が契約したドラゴン。正式名称:覇天紀龍 ランペイジフリート・リベリオン ”GROOVY”

 主従契約しているが、ドランは自由に自分の魔力で出現できる。


「ユミナと話すから、貴様は邪魔だ」


 小さい手。睨む眼。私もラキも何をしたのかわからなかった。


「これで、お前と話せる」


 壁に磔になるラキ。大の字になっているラキは四肢を動かすが、全く動かない。逃げ出そうとしても無効化され、もがくラキ。口も塞がれているからしゃべることもできない。


「我が解除しない限り、安全だ」


「............ありがとう」


「にしても、ユミナ。なんだその無様な格好は」


 ドランは現状の私を上から下まで見ていた。呆れた言葉。わかっていたことだけど、面と向かって言われるのは心に響く。


「助かったと思ったか。勘違いするな。お前に提案をしにきた」


「『提案』?」


「考えが甘いお前の体を寄越せ。我があの敵を殺す」


「ま、待って......ラキは私が救う」


「『救う』だと。いつまでお前は我の顔に泥を塗るつもりだ」


 なんだと......。ドランに言われた言葉に怒りが込み上がる。


「お前の力なら、あのような奴に遅れをとることはないだろうに。お前の甘さが今を招いている」


「............私は、」


「彼奴がユミナの持つ杖の前任者であっても、所詮過去の存在。全てを顕現していなくてもユミナの方が戦闘経験が上だ。本来なら、負けることはない」


「私には、力はない。皆がいたからここまで来れた。いない今、名ばかりの女王よ」


「ユミナよ。お前、本当にそう思っているのか」


「......何が言いたいのよ」


「お前の城がある場所はハッキリいって地獄だ。人の身であるユミナは生き残ることは不可能。だが、お前は生き残っている、厄災しか産まない世界を」


「だから、それは......」


『リリクロス』は、自然だけではなく、生息するモノまで災害レベル。『スラカイト』から『リリクロス』へ渡航を試みことができるようになった。先発組が体験した出来事を掲示板や攻略サイトに明記されている。内容は悲惨しかない。降りてすぐ巨大化した魔物に戦闘不能にさせられた、常に自分の魔法やスキルが封じられたり、悪辣な環境が迫る。犠牲者は増えていく一方。ドランの言う通り、人が住む場所ではない。生き残れるのは本当に力を持つ者だけ。


「ユミナの従者。アイツらはお前に対して、過激な行動しか取らない。獣よりも盛っているが。まぁ、それを抜きに......いや、含んでもアイツらは『リリクロス』で余裕に活動できる」


「みんなは......優秀だから」


「戦闘に不向きなタウロスでさえ、我を軽くあしらっていた。タウロスのメイン武器の一撃、頭が砕けるかと思ったわい」


 リーナの時間操作でタウロスのウラニアの指輪は復活した。おかげでタウロスのメインウェポン、炎神の星槌(ヒノカグツチ)はタウロスの手元に戻った。


「ユミナは皆から技術を教わっただろう。自身のために。ユミナが強くなる分には我も大いに結構。だから協力した。力も授けた。だが、お前は見た者を全て救うために強大な力を使っている。ハッキリ言おう、お前はバカだ。それだけの力があれば、世界も征服できるのに。ユミナは一向に受け入れない」


「私の勝手じゃん」


「あまり、我を失望させるな。今回の事で自覚したであろう。自分が甘いと......。「敵が酷い人生を送った。助け自分の配下にする。だから、皆手加減して」。従者はお前の命令に従った。従った事で窮地に立っている。わかるな......己の甘さが原因で、慕っている者共が死にゆく運命にあることを」


 ドランの掌。”手を取れ”の合図とも読み取れる。


「我が自身の身体を改造したのは”強さ”を高めるため。勝ち負けは必要だ。個と個のぶつかり合いには絶対になくてはないらない(ルール)。でもな、お前の甘さで我よりも遥な強者がただ死ぬのは見過ごせない。最後だ............さっさと体をあけ渡せ。我がお前の体で(ラキ)を倒す。そうすれば、ユミナの従者は解放される」


 (ルール)。世界にいる以上、避けては通れない道。決して争うことはできない。(ルール)を破ることは、世界を敵にすることと同義。私はラキを倒さないと、ヴァルゴたちを救えない。ドランの言うことは正しい。従者を助けるのは、ラキを殺すしかない。私には力がある。でもね、ドラン。一つだけ認識のズレがある。


「ドラン。貴方を私が受け入れれば、確かにラキを殺せる。これがルール。抗うのは無意味」


 伸ばされているドランの手を払う。


「私は......女王だァ!! 私が往く未来(みち)こそが(ルール)。世界が敵? 上等じゃない!! 私の力は自分が護りたい者を守る力。私の邪魔をする存在、立ちはだかる敵を全て倒す! そのためにこの力を使う!!」


 ニヤリ、と口元を歪めるドラン。


「茨の道だぞ。お前は進むのか? ユミナが抱く理想を実現するには、敵が多い。今以上に想いが砕け散るぞ」


「かかって来なさい!!」


 腹を抱え、爆笑するドラン。


「フハハハハハ!! ならば、見せてみろ!! お前の力を!!」


 指を鳴らしたドラン。磔になっていたラキは行動が自由となる。


「ねぇ、ドラン。供物いらない?」


「お前は......まだ、根に持っているのか」


 ストレージから焼き焦げた書物を取り出す。数は五冊。正直、触るのも遠慮したい。


「ドランが暴れた結果でしょう! 主に舐めた態度を取った罰よ。喰べなさい」


「我の力は使わないのではなかったのか」


「それは貴方が私の体に憑依して破壊の限りをすることでしょう。この行動は、私の体内に眠っている力を解放させるための条件。それに、半達磨じゃラキの運命を変えることなんて出来ない。言わば必要な準備よ」


「............屁理屈な女王様だ。選んだ人間を間違えたな」


「表情や声音も悲しげにすれば説得力があったんだけど。微塵も思っていないでしょう!!」


 投げた五冊を丸呑み。ドランの身体が光だす。見る分には滑稽な光景。


「醜態を晒したのだ。負けたら()()()()()()()







 私の頭上に魔法陣。出現した魔法陣は私の体と重なる。通過した魔法陣は消滅。


 夜空の輝きが私を包む。温かく力強い光を受けていた。

 見た目が変更した後、拳を握りドランを殴った。


「ドランッ!! なんだこれはァァアアア!!」


「キーキー喚くな。新調した。似合っているぞ、ユミナ」


「恥ずかしくて、外にも出れないわ!!」


 ドランに五冊の魔術本を喰わす事で使用できる装備。『稀代の女王(イカロス)』。

 桃色の髪はなくなり、鮮やかな青紫色へ。全身は黒のパイロットスーツ。背には、ドランと同じ巨大な翼型の装甲が装着されている。


「ねぇ、前に着た時もっと胸部分とか装甲で守られていなかった。これどう見ても透けてるし、私体に自信がないんだけど」


 体のラインがくっきり浮かび上がるボディスーツなんだけど、今の私は欠損だらけ。不恰好もいい所。


 一度は着てみたいとタウロスに依頼しても当初は技術的な問題で断念。後にドランとケンバーの協力でスーツは完成した。初めて『稀代の女王(イカロス)』を見たヴァルゴ曰く、「魅惑のボディもバッチリです!! 身体にピッタリとフィットしているから、ボディラインがハッキリと出てます!!! お嬢様、今からもっとグラマラスボディになりましょう!!」、と息を荒くしながら絶賛の嵐だった。喧嘩売ってるのかと密かに思ったのは遠い過去。


「堂々としてれば誰も気にせん。無制限で使わせてやっているのだ。ゴチャゴチャ言うと向かってくる奴に倒されるぞ!!」


「後で......覚えておきなさい」


 背部のスラスターが噴射。飛翔した。背の翼を放射状に広角展開。


「ラキ、貴女を自由にしてあげる」


 青い炎が噴き上がり、全力で飛び出す。







PN:【ユミナ】

 性別:【女性】

 種族:【人間】

 職業:①:【魔導龍】

    ②:【魔術師】


〜装備欄〜

  頭:稀代の女王(イカロス)

 上半身:稀代の女王(イカロス)

 下半身:稀代の女王(イカロス)⇨欠損

 足:稀代の女王(イカロス)⇨欠損


 右武器:欠損

 左武器:裁紅の短剣(ピュニ・レガ)


 装飾品

 ①:覇銀の襟飾(ヴァイセ・エーゲン)

 ②:真竜の手袋

 ③:薔薇襲の荊乙姫(ブラック・ローズ)

 ④:天花の耳飾り



〜魔術本〜

・黎明の不死鳥【魔術本:No.1】

・ジェノサイド玉藻ノ前【魔術本:No.4】

・ライノ元帥【魔術本:No.5】

・美女とアリゲーター【魔術本:No.7】

・メガロドン帝国の逆襲【魔術本:No.9】

・クジラは老人に会う【魔術本:No.10】

・亀は見た【魔術本:No.11】

・キング・オブ・ディアー【魔術本:No.12】

・ヤミコウモリ伯爵三世の冒険鬼【魔術本:No.13】

・フェンリルの宝箱【魔術本:No.14】

・ミステリーCAT in black【魔術本:No.18】

・ジュラフは眠らない【魔術本:No.21】

・アルマジロの回転【魔術本:No.23】


ドランに【魔術本:No.1】、【魔術本:No.5】、【魔術本:No.12】、【魔術本:No.21】、【魔術本:No.23】を喰べ刺すことで特殊強化外装:『稀代の女王(イカロス)』を装着できる。


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