過去に君臨した女王
落ちている《エヴァーラスティング・ジュエル》を回収。
安全としてストレージに入れる考えがあった。でも、できなかった。どうやら、ラキとのゲーム中は、しまうことがシステム上不可能なのだろう。
ラキを捕まえるまでは、博物館フィールドにオブジェクト化されるしかない。加えて、大きい宝石なので、フィールド内で隠せる場所は限られる。隠した場合でも、私の行動に先に対応するラキ。隠し場所は見破られる。一番、安全に対応できる手は必然と一つに絞られる。
「双剣を使う時は、慎重にならないと」
左右の手どちらかに《エヴァーラスティング・ジュエル》を持つ事。
一番安全とは言うが、一番確実な手ではない。故にデメリットも存在する。
「殺意、高くない?」
人の質問は答えるべきだ。人として......いや、獣人?
そんなことは後回しだ。
片手でラキのナイフ捌きを回避しないといけないのだ。同サイズの裁紅の短剣を装備するのもアリ。
だが、現状では星刻の錫杖を外すのは悪手。ただでさえ、デメリットの選択が更に状況を悪化させてしまうからだ。
刀身込みでもラキの持つナイフと同じサイズ感。ナイフなら行動を予測し、対処も容易になる。
でも、星刻の錫杖と違い間合いが短い。柄も長いからある程度ラキと距離を離せる。攻撃スキルは持っているが潤沢ではない。
自分でも時々忘れてしまいがち。本来の私のジョブは魔法使い。魔法こそ生命線。そのためにステータスポイントを振り分ける重要度はMATが一番高い。限定ジョブ【星霜の女王】。
星刻の錫杖を完全に外せば、【星霜の女王】は消えてしまい、能力も失う。
ラキをモンスター扱いするなら、明らかに「リリクロス」に生息する魔物と同レベル。いや......アイツらよりも格上と見て間違えない。正確な判断はできないが、私とのレベル差も100以上の開きがあると見て間違えない。
【煌めく流星】で回避をしているが、違和感がある。
「なんで、こうも捉えられているの?」
対人戦。ある程度考える知能を有し、二足歩行できる相手とはそれなりに経験をした。プレイヤーに対しても......PK集団と交戦して以来か。でも、ケンバーのクエストや「リリクロス」での知性ある種族と戦ってきた。
彼らの思考ルーチンは一般モンスターと違い、それぞれ独自で考え行動している。ゲームキャラが現実と同じに見えてしまうこの世界の住人。学習能力で今までの人生と塗り替えるレベル。
プレイヤーと会話、対戦を経て進化する存在。プレイヤーと違いゲームのキャラはプレイヤーに刺激され、行動を変化させる。
何度もキャラも入れば、たった一度。レア現象もある。交流とも言うべきか。
ゲームキャラが予測することは不可能に近い。現実に生きる者とは違い、生かされている。運営によって。
サーバーという小さい地球に。管理され、その中で変革を現す。勝手には動かない。そう、必ず外から来た異国者。プレイヤーに関心を持たないといけない。
話が変な方向にいってしまった。そうするに、敵との戦闘でも、会話であってもゲームキャラはプレイヤーの行動に驚くもの。
初見では高度なAIも対応が遅れる。私の怒りの殺人シュートはラキの行動に怯みを見せた。これが常識。
多分、次に同じ行動を取れば、ラキも対策を準備してくる。それはいい。私も負けじと対対策を取ればいいのだから。
宝石殺人シュートだけではない。【星霜の女王】も同じ定義。初見では反応できないはず。
なのに、ラキは驚きもせず、慌てるモーションも見せない。
獣の習性というのか。明らかに【星霜の女王】のスキルや魔法を熟知している行動を見せている。
星霊が復活した時に事実確認をしていたと話していた。さながら刑事顔負けの情報収集能力。スパイなどの諜報員に向いてるかも。
優秀なラキによってこのようなイベントが発生している。初めこそ、隠れて私の戦闘風景を目撃。集めた情報で対処していると踏んでいた。
でも、違う。ラキの攻撃や防御。
普通ではない。一朝一夕で体得できる代物じゃない。自分が長年使い、長所短所、クセや厄介な制約の弱点も知っているような動き。
自分の動きを完全にトレースされた気分。
「また!?」
【煌めく流星】は、言うなれば光速移動。光の速さで自身を動かしている。常時ってことはないけど、視覚を強化していないと目で捉えることはまず不可能。
専用MP、【ENERGY MOON】ありきではあるが使い勝手はいい方。勿論デメリットも存在する。
常に移動できるが、常に浮いている訳ではない。必ず足を地面に置かないといけない。背中に推進剤が搭載されているのなら別だけど。
これは自分でも動く時に気づいた事と第三者、ヴァルゴとが戦闘中に気付いた。ただ戦闘特化のヴァルゴでさえ、光速移動している私の足の動きは一瞬しか判明できなかった。
それだけ、刹那的着地。普通の人なら足が地面に着地したことも理解できない。だから、今まではデメリットと思わなかった。
でも、ラキは違う。
光速移動中に発生する足の着地を当たり前のように目視でき、そこから予想される私の行動。最適解を導き出し、迫る。
ラキは一気に私へと詰めてくる。喉を諦め、四肢破壊を目論んでいる。足にスキルを使っているがナイフにはない。攻撃スキルを持っていないのか条件が複雑なのか。こっちとしては幸運と言わざるを得ない。
星刻の錫杖の先端で防御。
「『フレイム』」
獄炎と化した放射。決定打ではないがダメージは与えた。やっとの気分。時間が経過するにつれて、隙が無くなり始めている。いつ不意に狩られるか心労が止まない。
ラキが燃えている間に、『月光からの愛』でHPとMPを全回復。消費した【簡易の偽月】で【ENERGY MOON】を......えぇ?
「どうして??」
【簡易の偽月】を発動しても月が出ない。
いつもは室内で、星刻の錫杖の回復要因でもある月が見えない時に発動できる【簡易の偽月】。
外では【簡易の偽月】は使えない。昼間なら使用できるが、薄暗いのが条件。夜であっても月が出ている以上、【簡易の偽月】を発動する必要はない。
てか、できない。月が例え雲に覆われても、欠けてほんの少ししか出現していなかったにしても、今まで回復できた。
本物の月がある以上、【簡易の偽月】は条件不達成で発動不可になる。
今私がいるのは博物館。四方は壁に覆われている。外の様子は確認できない。だから、【簡易の偽月】を使用した。でも、肝心の擬似月は出現しない。
「まずいって顔ね」
私の焦りを嘲笑うラキ。ラキの笑みは自分の作戦が上手く行った笑み。
完全にラキが何かしたと見て間違えない。でも、何をした......?
呪いや状態異常は私には効かない。ステータスには異常は見られない。私個人に罠を張ったのではないとすると、答えは一つ。
「博物館のほうか」
「正解!!」
こちらの考えを読んでいた......
「この博物館は私が作ったもの。貴方が不利になる状況も簡単に容易できる。今は博物館内部から月が見えるように仕組んでいる。でも、ユミナ自身も星刻の錫杖も感知できないように細工している」
「怪盗が優位に働く舞台って所か」
「獲物を簡単に盗むために怪盗はあらゆる準備をする」
「でも......」
「ユミナが不思議がるのも無理はない。どうして......月が出ないのかよりもワタシが何故、知っているのか。そうでしょう?」
「解答を求めても?」
「【煌めく流星】、【簡易の偽月】」
「どうして、名前を!?」
私は発声していないし、これまでは出していなかったはず。
「私を観察して得た情報?」
私の質問にラキは感情を出さず、淡々と喋る。
「観察って何のこと。ワタシは一度もユミナを観察した覚えはないけど」
「星霊復活時を見ていたって」
「あーあれは、街中で星霊を目撃しただけ。てか、いちいちユミナの動向に目を向けるほど暇じゃないのよね」
「じゃあ、お前は私や星霊を街中で見ただけ」
「......もしかして、街の外から常に監視していたと? どんな想像しているのよ、あり得ない」
なら、なおのことおかしい。どうやってラキは【星霜の女王】の存在を。
「逆にワタシが質問するわね。どうして、通常魔法しか使わないの? 『輝を射抜け、真なる青よ』は?
『十三人の禁断協調』や【仲絆の力】は............星霊が近くにいないから発動はできないけど、それでも、『宇宙最大の大いなる意志』を使えば、大陸中にいて活動中の星霊と交信ができるし、星霊の力を譲渡され、ワタシに優位に立てるのにやらない。
『月光からの愛』を無防備で使ったのは何故。【星なる領域】を戦闘中に再使用しないのは何故?
普通、『無限と夢幻』と同時に使えばいい。不思議ね〜」
私の解答を待たずラキは話進める。
「攻撃にムラがあった。星刻の錫杖を持っているのに『自我が消滅した静かなる殺戮者』を使っている気配すらない。
『自我が消滅した静かなる殺戮者』があれば、ワタシの攻撃も防御も対処でき、かつユミナの攻撃は全て必中になり今頃ワタシは死んでいる。
【煌めく流星】を使っているのに、同時に【新時代の万有引力】を使っていない。
【煌めく流星】のデメリットを補強でき、かつ重力操作や空間に道を造ってくれる。ユミナの行動は非常におかしい。ワタシならそうするし、かつての所有者もしていた定石」
知らない単語が飛び交う。ラキの口ぶりは相手でもある私が知っている前提で話を進めている。ラキの言った言葉、”ワタシならそうするし、かつての所有者もしていた定石”
「『星の力を受け継ぎし、君臨する女王』だけは例外だけど。それにしても、こちらを油断させる手かな。実に矛盾。いや......そうか!!」
長い霧が晴れた、スッキリした顔。
「知らないのね。習得もできていない。そうだよね、継承の儀を受けていないならユミナの行動にも納得がいく」
「あなた......誰?」
「構えないと!!」
ボトン、と床に落ちるモノ。さっきまで自分の体に繋がれていた右腕。胴体から切り離され、機能を失った腕だったモノ。持っていた星刻の錫杖も床に落ちたと同時に届かない所へ。
「くっ!!」
切断面を抑えながら、膝を床に。下を向く目も近づく影に移動していた。
「さっきのお返し」
ラキの靴裏が顔にあった。階段を転がる私。左手に持っていた《エヴァーラスティング・ジュエル》は一階出入り口まで移動する。仰向けになった私へと距離を詰めるラキ。階段を降りる音がゆっくりと近づく。
「最後だから、見せてあげるわ」
ラキの体は煙に覆われた。見覚えのある煙エフェクト。レオやアクエリアスが人型から別の生物に変わる時に出る煙エフェクトと同じ。
人型二足歩行のネコはもういない。立っていたのは、私と同じ人間だった。パープル色の髪、翡翠の瞳。シルクのドレス。
「わたしはユミナが持つ『星刻の錫杖』の前の持ち主よ」
★★★★★★
PN:【ユミナ】
Lv:99
装備欄
頭:誘惑の癒し・キャップ
上半身:誘惑の癒し・ワンピース →一部破損状態
下半身:誘惑の癒し・ストッキング
足:誘惑の癒し・シューズ
右武器:右腕欠損 ※装備不可
左武器:
装飾品
①:覇銀の襟飾
②:真竜の手袋
③:薔薇襲の荊乙姫
④:天花の耳飾り
【星霜の女王】
スキル:星なる領域⇨時間制限のある無敵結界
仲絆の力⇨パーティー内の星霊のステータスを自分に加算できる
簡易の偽月⇨本物の月がないときに生成できる満月
煌めく流星⇨ずっと空中に居られない光速移動
自我が消滅した静かなる殺戮者⇨淡々と敵を効率的に処理する
新時代の万有引力⇨反重力。空中歩行が可能。足を空中で固定できる
魔法:清浄なる世界へ⇨呪いや状態異常を完全に治す
月光からの愛⇨無防備な月型を破壊するとパーティー内の回復ができる
無限と夢幻⇨点と点の移動が可能。移動間の空間で過去を書き換える。
輝を射抜け、真なる青よ⇨青い高輝度光を発射。太陽よりも熱い
十三人の禁断協調⇨星霊十三人と融合できる。服従してないと体を乗っ取られる
宇宙最大の大いなる意志⇨大陸の情報を閲覧可。星霊と交信の可能
星の力を受け継ぎし、君臨する女王⇨全生命が死ぬ、自分含め。