一泡吹かせる
足技スキル、【印黒量】。足で攻撃時、威力上昇。クリティカル時、敵に【獄炎上】の状態異常を与える。一つ欠点としては、【印黒量】発動中は足が黒くなり、稲妻が放出されている。つまり、敵視点だと怪しさ満載で警戒されてしまう。ラキが宝石に夢中だったのは幸運。おかげで、苦労せずに攻撃技を繰り出せた。
ラキに攻撃を当てたのに、私の気分は晴れない。
ラキと睨み合う。自分でも不思議なほど、相手に対して挑み掛かるような、キツい眼差しを向ける。
どういうカラクリで背後にいたのかは、後々判明する。思考は目の前の敵に集中している。
体の中から湧き立つ怒り。ゲーム内だから、仮想体。それは十分理解している。だが、感じる。血が全身に過剰に巡る。今にもマグマのように噴火する勢い。
怒りとは、長時間も維持できない。冷めたことで状況を整理する。
目的の前に立つ警備員。今回は私だけど。目に留まらない早業で無力化。気づく隙すら与えなかった。華麗な奇襲。間髪入れずに戦闘不能にする攻撃。敵に抵抗すらさせなかった。最終目的でもある《エヴァーラスティング・ジュエル》を守る防護壁も同時に破壊。後は楽々、盗む。なるほど、怪盗を名乗るだけのことはある。少々、強引な盗み方だったが。
ラキの攻撃で、私のHPは半分になっていた。攻撃を受ける前までは、誘惑の癒しだった。防御力は高い。ドランと契約したことで、【魔導竜】のジョブを獲得している。ジョブ性能で私のステータスは全てプラス”1000”が付与されてる。十二人の刻獣での戦闘では、『星なる領域』の効果がなくなってもHPは八割をキープできた。それだけの防御力を有していた。
ラキは私を投擲してガラスケースが崩壊させた。ガラスは粉々。私のHPは叩きつけられたことで発生したダメージ。HPが半分きったのは久々。だからこそ、考える。ガラスがかなりの耐久力があったのか。ラキが私を投げる隙に何らかのスキルを発動したのか。でなければ、現状のステータスでここまでHPが減ることはない。
周囲を警戒する。
ラキの手に武器が出現する。裁紅の短剣と同等の大きさのナイフ。
「楽には死なせない」
瞬きの隙。距離を詰められる。鋒の向きは、私の喉元までに達する。的確な一撃。相手を本気で殺す動きだった。
火花は散る。得物同士がぶつかり合う。
星刻の錫杖の柄を前に出したことで私の首は切断されずに済んだ。鍔迫り合いはラキが優勢。武器の性能がラキが持つナイフの方が高いのか、私のステータスを超えるステータスを持っているのか、定かではない。だが、確実にこのままでは力負けする。
「......くっ!」
「まずは、称賛するわ」
敵を褒めながら悪意ある力が入るラキ。のけぞる形となる私。足で支えられる力が抜けていく。体勢が崩れる。
「だ、だったら......緩めてくれないかな」
「勘違いしないで。よっぽど、死にたがりなのね。そう、評価したのよ」
後退する体。自分の意思とは関係なく動かされている感覚。
「死にたがりでもないし、叩きつけられる覚えもない」
こっちからしてみれば、いきなり顔を掴まれ、ガラスケースに叩きつけられたんだ。そりゃあ、恨みの一つもある。
「怪盗だから、華麗に宝石を盗むと。残念ね......。いや、そう思い込んでいた。だから、対応が遅れ、無様な格好になったのか。納得したわ」
片膝が床につく。それでもやめないラキの抑えこみ。過重の重力が乗り掛かかる。
「あーったまにきたッ!! 覚悟しなさい、お前の顔面に消えない傷跡残してあげる!!」
「じゃあ、今から、貴女の体を切り刻もうかしら。泣き喚き、地べたを這いつくばる姿が見ものねぇ!!」
【命装武を纏いし存在】起動。押し合いを制した。ラキのバランスが一瞬崩れたが、即座に次の一手。ナイフ攻撃。横薙ぎの姿勢。ラキの狙いは依然として私の首。首狩族かッ!?
「あっぶ」
少々無理な回避をした。片手だけで後方へ。魔法を放つモーションに入るが、逆さまでバランスが悪い私へ、蹴りを入れる。星刻の錫杖で防御。発動予定の魔法はキャンセルとなった。【命装武を纏いし存在】が適用されている状況でも、体を支える場にいない。
「良しッ!」
【煌めく流星】を発動。ラキの脚を軸に回転し、回避。着地したのち、《エヴァーラスティング・ジュエル》がある台座へ。目的は宣言通り。速さに慣れない者には、瞬間移動している様に私は見える。だから、目が追いつけて......。
「えぇ!?」
ラキは私を当然の如く、捉えている。台座の上へ乗ったと同時に前屈みで接近してきた。
「......ッ」
冷酷な暗殺者気取りだった様だけど、動揺しては無意味な行動。でも、驚くのも分かる。
「くらえ!!!!」
ラキ目掛けて放たれたのは魔法でも投擲された武器でもない。夜空をイメージした宝石、《エヴァーラスティング・ジュエル》だった。
相手に一瞬でも、隙をつくる。そのためには、思い切った行動をするしかない。私の取る選択が読まれている以上、私が元々持っておらず、尚且つ、敵が驚くことを実行しないといけない。
《エヴァーラスティング・ジュエル》をサッカーボールのように蹴った。
これが僅かな時間で取れる最良。敵がどう思うがお構いない。キャッチされ、逃走される可能性だってある。対決はラキが宝石を盗み、博物館の出入り口から堂々と退出すること。戦闘を長引かせる必要はない。ラキの思考は、私に主導権を握らせず、一直線に敵を葬ること。でも、その思考に邪魔を入れればどうなるか。ほんの一瞬。時間にしても数秒いくかどうか。ラキのAIがどのように搭載されていようが、パターンを変更するのにラグが生まれる。急に行動をキャンセル、即行動は処理できない。
「ビンゴ!」
蹴られた《エヴァーラスティング・ジュエル》。加速を緩めるラキ。武器の構えは解かれている。台座から跳躍。ラキへの宣言。もう一発喰らわせないと気が済まない怒り。感情が爆発し、力と成る。高い位置から斜め下へ飛び蹴りを繰り出す。《エヴァーラスティング・ジュエル》が死角となり、対処が遅れた。技名も叫ばない。スキルも多用していない。先にも伝えた宣言を実行しただけ。
《エヴァーラスティング・ジュエル》はラキの手に収まらず、顔面に命中。硬い宝石と威力を上げたキック力。吹っ飛んでいくラキに私は、笑い言葉を送る。
「ざまぁ!!」