キンセンカ
『わたしとユミナの対決。勝者は部屋を選べる。選ばれた部屋の中にいる者たちは......』
悪魔の笑みだった。放った言葉は冷酷。
『死んでもらう』
私の放心状態を抜ける。
「ふざけんなッ!!!!!!!!」
狂ってる。マジで言っているのか......。これもクエストの内容なら、発案者は正気ではない。
私が荒げても、笑みを辞めず話を進めるラキ。
『生き残った方は、後日ゆっくり一人ずつ始末するよ。楽しみは味わないともったいないからね!!』
「一つ、聞かせて......。私の従者になるじゃなかったの」
何を馬鹿なことを———そう表しているかのような表情を見せるラキ。
『あれ? 言いませんでした? 刻獣が勝ったら、星霊の代わりにユミナの従者になる』
「アンタも刻獣でしょう」
『誰もそのようなことを言った覚えはありませんが?』
えぇ、だって......
『刻獣は各街を守護する存在。そして、数は十二。十三人目はいないのです』
私が勝手にラキも刻獣と決めつけていた。クソッ!
『では、始めましょう。再度説明しますが。わたしは《エヴァーラスティング・ジュエル》を盗み、一階の出入り口から出れば、勝利。ユミナはわたしを捕獲する。それでは』
画面は消えた。デジタル数字が表示される。《10》。十時間? 十分? 十秒?
《9》に減る。となれば、十秒説が濃厚。ゲーム開始の目安だろう。しかし、私は時間よりもクエスト終了後に思考がいっている。
ラキは進む。「STAFF-ROOM」の扉、ドアノブに手をかける。
悲しげな声は一人でに語る。
「やっと、終わる......。万全を喫するために戦意をあげるか、わたしを確実に殺す敵意を。そうすれば、わたしは殺される。あと......少し......で......わたしは......死ねる」
扉は開く。計画は最終段階。演じるのだ、過去の過ちへの贖罪。未来の光へ、悪を教えるために。甘えだけでは選択を見誤る。自分が贄として、命を捧げる。これでいいんだ......
バタン、と扉は閉まる。
◇
目を惹くほどの建築物は人も魅了してしまう芸術品。普段と違う建築を鑑賞することでその場所だけ異空間にで入っているのかと感じてしまい美術品だけを見るより何倍もの楽しみが生まれる。
ダッシュ・ストーム、ターボ・チューニング、ニトロ・サポーターを発動。足が軽い。風に身を任せながら、博物館の二階へ。
展示物はどれも奇抜と表現してもいいのか困惑する位の力作がずらりと並んでいた。
絵画やお店のロゴを作りました、大きな野菜? 果物? 正体は謎だがそこそこの威圧感で想定されるお客さんを待ち構えていた感じだった。
「宝石だけでは味気ないってことか」
少々、奇抜な品々だけど中々興味深い美術品で私の心は高鳴りを見せていた。奥に歩き進めるとガラスケースで守られている宝石スペースにたどり着く。
パンフレットを広げる。
「あと少しか......」
まずは情報収集。目的の宝石、《エヴァーラスティング・ジュエル》がどのような鉱石かはっきりする必要がある。次にラキからの対策。
足取りが重い。スキルが解除されたのもあるが、このまま進んでいいのか。
ガラスケースが並ぶ。持つことはできない。ご丁寧に展示品の上にテキストが表示される。小さいからと侮ってはいけない。このスペースに置かれている展示品も力作の数々。
吸い寄せられるように、前へ進む。
「これか......」
展示されている物に比べて大きなガラスケース。台座の上。目的の宝石がある。夜空をイメージした青紫色、宝石の所々に星が意匠が成されている。
「綺麗」
思わずこぼしてしまった。
確かに《エヴァーラスティング・ジュエル》で指輪を作れば、夫婦お互い幸せになれるだろう。星霊活躍期に採掘できた代物。現在の『スラカイト』では、貴重な素材アイテム。自分の物になれば、かなりの戦力になる。
『気配探知』は起動している。が、敵は近づいていない。星刻の錫杖を装備している。星霜の女王スキル、『星なる領域』は敵がいれば、強制発動できる。
発動していないので、ラキはいない。早く来たのか、ラキが隠れている様子もない。だからこそ、周囲への警戒を怠らない。視界から得られる情報は膨大だ。
誰もいない博物館とはこうも、身が震えるものなのか。私とラキしかいない博物館なのだから仕方がない。加速スキルがガン積みしていたから私が早く着いた。
ラキの姿は一向に現れない。
異常ではないが、普通ではない。
二階の入り口に注意を向き始めたとき、足元が揺れる。
「良い宝石でしょう!!」
背中に、寒気を覚える。
後ろへ振り向く瞬間。ユミナの顔に白い手が覆う。
白い手はハンドボールを掴むようにユミナの顔を持つ。白い手の持ち主は体を回転。ユミナの体は浮遊感に苛まれる。遠心力で投げ出されたユミナの体は《エヴァーラスティング・ジュエル》が入っているガラスケースへ。
「......ッ!!」
ユミナの背中はガラスケースに叩きつけられる。激痛は背中から全身に走る。ガラスケースに亀裂が生じる。ユミナは床へ倒れ込み、ガラスケースは完全に粉々になった。
「拍子抜けだったか」
白い手の正体。ネコ怪盗のラキ。倒れているユミナにはもう興味もなかった。自信満々な態度。余程の自信があったのか知らないが、呆れしかない。罠や秘策があると少し潜んでいたがてんで素人。失望と怒りを通り越して期待はなくなった。
一歩、二歩と歩を進める。
ラキが無防備な《エヴァーラスティング・ジュエル》へ手を伸ばす。
「............!?」
ラキの視界に広がるのは、黒い稲妻。細い線はスローモーションのように太くなる。逃げる、回避を取る行動は鈍り、自分が蹴られたのは博物館の天井が瞳に移った時。
吹っ飛び、放物線にラキの体は後ろ。勢いがなくなったラキは床へ落ちる。怯んだ体を無理に起こす。顔面を蹴られたことに気づく。
「お返しよ!!」
立つ少女はラキを蔑む眼する。顔面を蹴った足は黒から赤いハイヒールへ戻る。
「わたしの顔に......っ!」
顔を抑え、私に向けた瞳は怒り。
星刻の錫杖を構える。
「............バカにするな」
立ち上がり、ラキは苛立ちの言葉を発する。
「生意気な......クソガキっ!」