計画は時間をかけて
「......博物館?」
実際に博物館は行ったことがない。建物の入り口にいるので本当に博物館かわからない。
博物館と考えたのは、入り口付近には旗の内容が決め手。内容は《エヴァーラスティング・ジュエル》、《秘宝展覧》、《世界最大級の宝石》などなどが記されていた。
煉瓦色と白色が組み合わさった横長の建物。レンガ造りの博物館。建設されたのはもの凄く古いらしいが洋館の雰囲気にもマッチしていて古臭さを感じない綺麗な博物館となっている。
「ねぇ、みんな......ッ!?」
後ろには誰もいない。隣にいたヴァルゴすら姿がない。慌ててもみんなは現れない。
『どうぞ!』
博物館の中から声が聞こえる。入り口の扉が開く。
(来いってか......)
ここで突っ立ってても意味がない。歩を進める。
「月明かりが綺麗ね」
塔内部にいるのに変な事を言うが事実だ。ステージが変わったことで夜の博物館は惹きつけられる。上を向くのはやめ、ライトアップされた内部へ侵入した。
博物館の玄関ホール。中央に太い円柱。白いから大理石だ、となんとも安直な考え。柱の両隣には上へ続く階段。
「地図かな」
入り口に入って右側にカウンターがある。テーブルに紙で作られたガイドが束になっていた。博物館を全て廻るのも一興だけど、アシリアさんや行方の分からない従者達が心配なので、博物館の全体図が載っているアイテムはありがたい。一部とる。パンフレットを広げる。
「三階構成か」
元々、支刻の獣塔は十二階建。私が受注しているクエスト二つに《招かれざる猫、悲願への旅路》、《アシリア聖女、救出大作戦!!》。刻獣との対決では、クリアにならない。ネコ怪盗でもあるラキを捕獲し、アシリアさんを解放することでクリアになる。
「レベルが上がると思ったのに」
VS刻獣は終わった。本来の支刻の獣塔はこれにて終了。ステータスに変化はあると確認した。スキルは変化している。レベルは相変わらずLv.99のまま。
「私は、ラキの問題を解決しないと上がらないか」
落胆する。ラキが提示したクエストの攻略が分からない。とっかかりが見つからない。
『やぁ!!』
女性の声。塔に入ってから何度も聴いている声。ラキだ。姿は見せず、館内放送でもしているかのように話す。
『まずは、支刻の獣塔クリア。おめでとう』
周囲を警戒する。敵が来ると予想したからだ。
『ユミナにとっては、ここからが本番だ』
一層ではユミナ様だったが、”様”は消えていた。だからどうとは思わない。
柱の前に画面が投影される。椅子に座っているラキ。手にはマイクを持っている。
『最後のゲームだ』
「............内容は?」
『ユミナの勝利条件は、わたしを捕まえること。わたしの勝利条件は、博物館二階に展示されている《エヴァーラスティング・ジュエル》を盗み、脱出』
《エヴァーラスティング・ジュエル》? 入り口の旗に書かれていた宝石か。怪盗らしい。
投影画はラキの顔から博物館の図面へ。一階の図面。赤い点が目立つ。
『今映しているのは、博物館一階。察していると思うけど、赤い点はユミナよ』
次に映ったのは三階。左奥が「STAFF-ROOM」も文字。青の点が表示されてる。一階の状況を見るに。
『わたしがいるのは博物館の「STAFF-ROOM」。監視部屋も一緒ね。わたしのスタート位置はここから』
問題の二階。中央に王冠のマークが描かれてる。恐らく。
『分かりやすいように王冠マークにしたわ。改めて、宝石の名称は《エヴァーラスティング・ジュエル》。星霊が活躍時に採取されてた鉱物。武器や防具にするよりも指輪にする人が多かったわ。エンゲージリングって言えばわかるかしら? 《エヴァーラスティング・ジュエル》をはめた夫婦は離れることのない永遠の愛を。外せば、永久の不幸が降りかかるとされていたわ』
曰くつきの宝石。
それにしても、怪盗に珍しい宝石。定番中の展開ね。
『わたしは《エヴァーラスティング・ジュエル》を盗み、一階の出入り口から外へ出れば勝ち。ユミナはわたしを捕まえる。簡単でしょう!!』
画面は変わる。外? 博物館の裏手かしら?
映し出されたのは倉庫っぽい空間。画面の端に見えるのは積み上がったゴミ。ゴミ集積所だ。倉庫の中心に四角い部屋が二つ。前面がガラス張りで内部が見えるだけのなんの変哲もない部屋。
「なっ!?」
驚いた拍子に声音が上がる。
右側の部屋にいたのは、私の従者達とアシリアさん。画面越しだからなんとも言えない。全員無事だと思う。
ホッとするのも束の間、何故捕まっているのかに思考が移る。だが、考える暇も与えない状況が広がる。部屋は二つ。上には巨大な鉄球が二つ、ぶら下がっている。いつ落とされてもおかしくない。
そして、左側の部屋に目を向ける。
「ど、どうして......」
左の部屋には十二人の刻獣が。どう言うこと............?
ラキの表情は変わる。
『力を削いでくれて、助かったよ』
「どういう意味ですか......」
『私の計画には邪魔な存在だったからね』
「全部、貴女が......」
『刻獣たちは非常に優秀でね。その反面、一人一人孤独を抱えていた。自分たちは星霊のおこぼれをもらった存在に過ぎない。本当の救世主には慣れない。だが、使命のために塔に留まらないといけない』
「けしかけたのね」
『星霊は復活していたのを耳にしてね。姿を隠すのは得意なの。だから、隠れて星霊の真偽をはかった。本当に復活したのか、結果は今の状態こそが真実。次は刻獣。時が来れば君たちとの戦いの場を用意しよう、と相談した!! ただ、問題が一つあってね。君だよ、ユミナ』
「......私?」
『復活した星霊はほぼ全員、君の命令しか効かないんだもん。それに、塔攻略に来ても数名しか連れてこないだろ。戦闘職以外が居ても意味ないからね。全員は殺せない。そんな時、聖女がユミナに興味を持っていた事を思い出してね』
「............アシリアさんを誘拐されれば、必然と私が救出に向かう。人質がいる中、相手の提案に乗るしかない。私はまんまと敵に術中にはまったってことか」
拍手が画面越しでも響く。
『大正解!! 100点満点を君にプレゼント! 景品はないからゴメンね!!!』
「どうして、こんなことを」
『いらないのよ、傲慢な神代は。今更でしゃばらないでくれるかな〜 星霊も無能な刻獣も永遠に葬るしかない......。即死刑じゃユミナも可哀想だし、わたしも鬼じゃない。ユミナにはここまで付き合ってくれたから、チャンスをあげるわ!!』
部屋の外、水が放水され浸水していく。すぐに一杯になる事態ではないが危険な状況には変わりない。
これがチャンス。ふざけんな......。いや、違う。展開上、このあと......
『わたしとユミナの対決。勝者は部屋を選べる。選ばれた部屋の中にいる者たちは......』
悪魔の笑みだった。私の脳裏に刻み込まれる。そして、放った言葉は無機質で冷酷。
『死んでもらう』