争奪戦は騒々しい
「それで、勝負内容は」
ラキは微笑む。両手の掌を合わせる。触れたことで音が反響した。
「そうでしたね。簡単な話です。ユミナ様と従者は、私を含む十三人で勝負します。どちらが優秀かハッキリさせます」
「優秀ですか?」
「えぇ、刻獣が勝てばユミナ様の従者には刻獣になります」
突拍子もないことを。
「なぜ、そうなるのよ!?」
「後ろにいる刻獣達は全員、合意しています」
合意するな。もっと自分の人生を大切に。
「あぁ、いや......。そうではなくて、私の同意......」
「もちろん、現従者はそのままでいいですよ。お城で雑用なりお仕事をしてください。ユミナ様との冒険は刻獣が努めます」
勝手に話が盛り上がる。血相を変えたヴァルゴが前に出る。
「先ほどから、勝手な事を」
「ご不満ですか? では、月に一回だけユミナ様と同行を許可します」
「人質がいるからと......。我慢の限界です」
言ってやれ、ヴァルゴ。追撃とばかりにユミナの従者は野次を飛ばす。
いつの間にか女たちの熾烈な言い争いへと発展した。渦中のユミナはそろりと退散する動きを見せるが、止まられた。
ラキは、悪い笑みを浮かべる。
「骨董品よりも新品の方が、ユミナ様を楽しませます。戦闘から、夜の伽まで......」
私は目を丸くする。私以外は対抗意識バチバチの目力。
ラキが話終えると刻獣の目は潤んでいた。刻獣はまんざらでもない顔だった。
従者がユミナと再合体する。前すら見えない。胸が大きい従者はユミナの頭に置かれた。押し付けられ、埋まるユミナの顔。ユミナは危うく窒息死する寸前。残りはユミナの四肢にくっつく。超強力接着剤にでも使用したのかユミナから剥がれない。
モテモテのハーレム野郎っと、揶揄されても仕方がない。現在進行形で動けない。目のやり場に困る。何せ窮屈にも関わらず、自己主張が激しい。なんとか顔だけ脱出できた。
従者達の瞳は、媚びた色に潤んでいた。
「ユミナ様の従者は、やる気ですね」
「えぇ......」
従者達から威圧が放たれる。
「いいでしょう。その勝負、受けて立ちます」
「何、勝手に受けているのよ!? キャンセル」
ユミナの命令に誰も従わない。
「では、誰がどの階層を担当になるか決めてください。何人でも構いません」
「全員で、でもいいの?」
ユミナ含めて十三人。多勢に無勢とはこのこと。
「どうぞ。ですが......」
ラキはユミナに張り付く者達を見ていた。
「皆さん、自分だけで解決しようとしておりますよ。それと、ユミナ様は全てに出場してもらいます」
こうしてなのか、わからないがユミナ争奪戦が幕を開けた。
◇
ユミナ達はステージ客席で作戦会議をしていた。ステージには大幕が張られている。一階層目が誰か判別できないようにするためだろう。
ユミナは目を細める。
「全く......」
ユミナの体は心地よい。ユミナはタウロスとレオのダブルベット? を枕にしてみんなを見ていた。ユミナの言葉は、ため息まじりに口を開いていた。
「アシリアさんが人質にいる以上、こちらに選択権はないけど......」
全員がユミナを宥める。
「お嬢様がおっしゃったではありませんか」
「うん?」
「『過去がどうであれ、今は私の従者。私の従者が誰よりも強いのは、私が知ってる。それに信じてるから。みんなは負けない』と。なので、お嬢様のお言葉を証明して見せます。私たちは誰にも負けない、と」
ユミナの声真似が上手いのか、違和感はなかった。
「こういう時だけ、前向きなんだから......。で、どうするの、手番は」
ユミナは全階層強制出場は決定している。問題は従者。
「オレが行きますか」
ユミナの頭に手が置かれる。上へ見上げるとレオが人型でいた。
「いいの?」
「ま、切込隊長もやっていたからな。それに......」
持ち上げられるユミナ。人型になったレオの肩に乗る。
「ち、ちょっと!?」
「何かあれば主の言うことを聞くし」
「......了解」
戦いの場に向かう前。ユミナは従者に宣言した。
「一人一人のやる気はどうしても長く続かない。だから、私からご褒美を用意します」
全員が耳を傾ける。
「二つ、条件がある。刻獣を戦闘不能にすること。命は奪ってはいけないから。そして、みんなが勝利すること」
「ユミナ、流石に......」
「レオ。刻獣だって、ただ敵に倒される存在ではないと思うの。一人勝手な事だけど。刻獣も星霊同様に幸せになる権利がある。アシリアさんを救った後、私専用の刻獣はこの塔から一生、抜け出せず、ずっと塔の中にいることになる。だから......」
「敵を殺すのでなく、自分の新たな仲間として向かいいれる。ウチの主は甘いな」
「レオ......」
「ご褒美は期待していいのか」
ユミナはゴクリと生唾を呑み込んだ。
「私を好きにしていいから!!!!!!」
手が上がる。
「具体的にどこまで」
「私が出来る範囲で全てOKにするわ」
レオはステージへ進む。
「ユミナ。行くぞ!!」
あれ? 意外と普通の反応。ユミナ自身も困惑しながらレオを追う。
(結構、勇気を振り絞って言ったのに。もしかして、欲望が薄れたのか)
振り返ってもレオ以外の従者は静寂そのもの。いつのなら、大喝采なのに。
それもそうか。星霊だって知性ある生き物。人と同義。いつまでも一つのモノに執着するのは少ない。
ステータスを確認。NPCの好感度に変化はない。落ち込む必要はないが、何かアクションがないとこっちも言った言葉に悶えるしかない。
ユミナの装備は依然として誘惑の癒しのまま。プレイヤーはユミナだけ。十二階も登り、戦うのであれば、回復は必要不可欠。
ステージには刻獣の一人が立っていた。干支をモチーフにしている刻獣。他プレイヤーと同じでランダムで各階層を守護している。ユミナとレオの相手は————————。
「イノシシ?」
亥って言うんだっけ? ユミナは己の知識の泉から掬い上げた。
ただ、イノシシが女性になった姿。レオよりも頭一つ少ない身長。猪の毛皮をメインに使用されている風貌。見た目はまさにバイキング。露出度が高いデザインとなっている。両腕にはガッチリと腕全体を覆うほどのガントレット。
ポーア、と表示されている。あれが彼女の名前なのだろう。ユミナとレオを見るなり、ポーアは構える。
「こちらの事情に巻き込んでしまい、申し訳ないと思います」
勝手なイメージで、刻獣は星霊に対して、憎しみや怒りを込めており、即攻撃を仕掛けてくると予想していた。塔の形式上、戦うのは仕方がない。だからこそ、やりにくい一面もある。
レオは頬をかく。
「あ〜 オレは周りに合わせるって苦手でな。言いたいことは言っちまう。すまないな」
レオはユミナの頭に手を置く。
「ウチの大将は渡さない。それと、オレが..................オレ達が負けるのはあり得ない」
「随分と威勢がいいことで。そうでなければ、今まで生きてきた意味がないですね」
両陣営の中央に数字が表示される。〈5〉。カウントが〈5〉って意味。ユミナの星刻の錫杖は準備完了。
カウントが一つ減る。〈4〉。両陣営に緊張感が走る。ユミナの緊張も体全体に広がる。強張るユミナにレオは話しかける。顔は見ていない。声だけユミナへ向けた。
「ユミナ、悪いな」
〈3〉
「えっ」
急に弱気になったかとユミナはレオに思った。だが、レオの言葉はマイナスではなかった。
〈2〉
「すぐ終わる」
「はぁ!?」
〈1〉
意味が分からなかった。突然の告白。ポーアを見ずにレオに問いただそうと動くユミナ。
〈0〉
カウントが〈0〉。運動会でリレーが始まる時に使われるピストルの音がステージに響く。
誘惑の癒し。ナース服で色気マックス。従者の好感度、爆発。刻獣への対抗意識。
ユミナが少しでもタイミングが悪かったら、窒息死していた。その際、ボルス城に戻り、再び塔を目指さないといけない。難儀な体だね、ユミナちゃん〜!!
仮にラキや刻獣が仲間になれば、ユミナは何人と......屋根裏さん以上の存在になる。
ポーア イノシシを模した女性。
獣突種の中でも喧嘩っぱやい性格と持つ。他よりも強いと自他共に認められていた。獣突種の集落の長を務めていた。刻獣試験:亥では、得意の突進、突進により生まれた推進力で敵を圧倒させる。元々は斧を使っていた。まっすぐからしか来ない、長時間の突進攻撃は体に負担がかかり、短期決戦しかできない。左右に避けられる、防御スキルを積めば簡単だと敵に露見されてからはお荷物気味だった。一時期ややさぐれ状態だったが、人種の武術を目撃し、自分の持つ特性と格闘技を組み合わせることを思いつく。メイン武器であった斧を破壊。斧だった物を素材として使ったガントレットを装備するようになった。
〜装備欄〜
頭:亥突猛神
上半身:亥突猛神
下半身:亥突猛神
足:亥突猛神
右武器:大闘剛牙 MARK-Ⅴ
左武器:大闘剛牙 MARK-Ⅴ
装飾品
①:亥の刻章
②:魔猪の腕輪