従者の口は災いしか起きない
コーヒーを一口、飲む。カップをテーブルに置くアイリス。
「ユミナよ、どうした?」
アイリスの前にはテーブルで脱力したユミナがいた。アイリスの隠居館にきてから十五分。ユミナはテーブルに突っ伏していた。
デバフはかかっていない。アイリスは理解している。ユミナには呪いや状態異常は無意味の代物。従者と何かあったのか。叫棺の洋館、アイリスの隠居館に来たのはユミナだけ。いつも四六時中ベッタリしているユミナと従者たち。にも関わらず、アイリスの前にはユミナしかいない。従者たちと何かあったからユミナは脱力している。これに尽きると判断したアイリス。
アイリスはユミナの側へ。ユミナの背中をさする。
「ユミナ、頑張れ。いつでもやり直しができる。だから......」
顔を上げるユミナ。ハテナ顔のユミナはアイリスを見る。
「何のこと?」
「従者たちと何かあったのだろう。だから、お前が疲れ切っている。違うか......」
”従者”の言葉に過剰に感応を見せるユミナ。アタリを付けたが、内容は違うらしい。
「顔、真っ赤だぞ」
「そ、そ......んなことは」
あっちか、と不敵な笑みを浮かべるアイリス。
「大丈夫だ。人は慣れる生き物だ。ユミナも......耐性がつく」
「まるで、観てきた顔ね」
「お前さんよりも経験している。当然、モノにしてきた数もな。その話はまた後日。で、話って?」
「実は————————」
話終えたユミナ。
「なるほど。ラグーン、ベイ。行っておいで」
「よろしいのですか、主様」
「構わん。少し前まで一人で生活していたんだ」
「あ〜 あの〜ゴミ屋敷〜ですね〜」
狼狽えるアイリス。
「何を馬鹿なこと行っておる!? ほれ、行った行った」
ラグーンとベイは、やれやれとした顔で移動する。
「短い間だけど、よろしくね!!」
「よろしくお願いします。ユミナ様!」
「はい! ユミナ様」
◇
ボルス城に着いたユミナたち。
「人、増えましたね」
ラグーンは関心した。
「いろんな所に行ったからね。そのまま成り行きで......」
「ユミナ様は本当に女性が好きですね」
ベイの言葉に意義を唱えるユミナ。
「みんなが私を溺愛してるから、勘違いしないで」
ラグーンとベイは同じ考えを持ち始める。
((どっちも同じでは!?!?!?))
準備した後ユミナは再び、支刻の獣塔に来た。
未だに長蛇の列。初めこそ、パーティーメンバーで作戦を考えていたプレイヤー。支刻の獣塔内部に入るのに時間はかかる。街中でログアウトできない。勿論、整理券は発行されてない。だから、時間を潰すように綿密な作戦を考えていた。だが、ある時から誰一人として会話しなくなった。最後尾の集団に目が入っていたからだ。誰もが釘付けになり、息をのむ。
「みんな、見てるね」
レオに乗っているユミナは言う。
ユミナの後続には、ユミナの従者が全員いた。ヴァルゴ、アリエス、タウロス、カプリコーン、レオ、アクエリアス、リーナ、コーラン、フェーネ、アリス。そして、一時的に従者となったジェミニたち。非常に目立つ集団。全員が魅力的で怪しげな色気を放つ。見た目などは違うが美女や美少女と形容するには十分。どこ産なのか未知の装備で構成されている星霊やユミナの従者たち。『オニキス・オンライン』でユミナを百合姫と呼ぶ所以。掲示板で知ってはいたが、実際に遭遇するのは初めて、というプレイヤーも多い。ケモナーが昇天する勢いのある愛くるしい使い魔や機械翼を羽ばたかせるドランも召喚すれば、パレードやアイドルのコンサートと同レベルで騒がれている。
「交代で食料買ってこようか」
空腹ゲージもあるので、飢餓状態で塔攻略は致命的。十三人もいる。交代で食糧を買うのもアリ。買い物以外にもせっかくの街。ぶらり旅もしてもいい。それだけ塔に入るのに時間がかかる。
「食べ物なら、ありますよ」
ユミナを見るヴァルゴの瞳は、捕食者。ヴァルゴの言葉にヒソヒソっと囁き声が聞こえる。
「ここで、襲ったら、縁切るから」
ユミナの顔を自分の胸に押さえ込むヴァルゴ。胸部分に鎧で覆われてるので柔らかくなく、痛い。
「いやです!!」
「ふ゛ん゛ぐぅ。ヴ゛ァ゛ル゛ゴ゛はがしぇてッ!!!」
「お嬢様を食べたことは、謝りますから」
「バカッ!? おまっ」
静寂が漂う。世界に人がいなくなったと表現できる。バグが発生し、プレイヤーだけではなくNPCも動かない。これは運営のサーバーが故障した訳ではない。公衆の面前で爆弾発言した女騎士が原因。
「ねぇ、アシリアさん見捨てる?」
アリエスが言う。
「ユミナ様。流石にどうかと思いますよ」
アイリスと同じように隠居生活しようか本気で考えたユミナ。
◆
支刻の獣塔:一層目
「随分、黄昏たお顔ですね」
口を開いたのはネコ怪盗のラキ。ラキが提示した条件を守ったことに喜ぶ一方でラキはユミナを心配する。
「人は羞恥を超えて、強くなる」
ユミナの言葉に分かったようで分からない素振りを見せるラキ。
「なるほど、だからユミナ様はそのような恥ずかしい格好でも堂々としているのですね」
ユミナの服装は、以前としてナース服。誘惑の癒しを装備している状態で移動すると、HPとMPが自動回復する。回復魔法を使用すると、パーティーメンバーの回復量が増加する。更にパーティーメンバー全員に一歩でHP:1、MP:1が回復されるバフがかかる。デメリットしては、一歩と認定されないと効果は発揮されない。真上にジャンプしても適用されない。前後に移動するは歩数に応じて効果が発動する。
「適材適所です。私の従者は脳筋ばかりなので、誰かが支援メインで働かないといけないので」
ユミナの後方から異議アリ!! 自分は脳筋ではない、信じてください。と言いたげな言葉を放つ集団。誰もが隣の者に罪をなすりつけている感じ。我が従者ながら醜いね、と考えるユミナ。
「ユミナ様はみんなを守る存在であると」
ラキの目が険しくなる。何か地雷を踏んでしまったのかもしれない。
だが、本心からの行動。自分を偽らない。
「みんなは私の従者であり、家族です。私は如何なる強敵が来ようとも、家族を護ります」
「なるほど。虚勢ではないか......」
ラキの言葉をうまく聞き取ることはできなかった。
「それで、勝負内容は」
ラキは微笑む。両手の掌を合わせる。触れたことで音が反響した。
「そうでしたね。簡単な話です。ユミナ様と従者は、わたしを含む十三人と勝負します。どちらが優秀かハッキリさせます」
「優秀ですか?」
「えぇ、初代刻獣が勝てばユミナ様の従者には初代刻獣になります」