選ばれたのは三人の女性
ユミナはニヤニヤしていた。ログインしてから幸福に満ちた顔を出している。ユミナの従者として、また、学習した高度なAIは容易に予測できた。
「お嬢様、お顔が気持ち悪いですよ」
ユミナがログインしたのは、ボルス城の王室。ユミナの寝室となっている場所。ベットの上には当然、ユミナはいる。だが一人ではない。必ず一人は従者が隣で寝ている。起きたユミナは頬が緩み切った顔で従者がいる広間に進む。
ユミナとヴァルゴが広間に入る。ヴァルゴ以外の従者達はユミナの表情を見て、暗転した。
アリエスはヴァルゴに詰め寄る。
「ヴァルゴ、遅かったですが、お楽しみだったのですか」
意味深な言葉。場の空気も凍る。いつもならユミナも猛吹雪のような環境に降参するが、幸せフィールドが展開されているので、打ち消された。
「こっちが聞きたいです」
アリエスはヴァルゴの顔を見る。自分が起こしたことではない。そんな表情だった。確かに不自然だ。ヴァルゴが何かすれば、いつも満足した艶のある顔になる。でも、今のヴァルゴは真逆。負のオーラを纏う復讐者の出立ちだった。
「じゃあ、あれは......」
ユミナは自分専用の椅子に座る。城の主でもあるユミナの座る椅子は決まっている。広間の奥、一際目立ち豪華な装飾があしらわれている椅子。王のみが座ることを許された玉座。
ユミナが座るや否や、腕を自分の体に巻き、くねくねしている。ユミナを溺愛している従者たちもこの時ばかりはキモいと考えたのだろう。全員引きつっていた。
ユミナの目が見開く。
「ねぇ、みんな!!」
声からも溢れる幸せ。熟練者であっても耐え抜くのは困難。幸せの眩しさに当てられ、視界を腕や手で遮る者もいた。
「これから、私のレベル上限解放に付き合って」
主の命令に従うのが従者の務め。皆が一斉に行動を起こし始める。
各々が準備をする。準備を怠った者は主に何されるかわからない恐怖に、より一層気合を入れてた。お互いがお互いを視界に入れず、己だけの空間を支配している。誰にも邪魔されない確固たる意志。一度入れば、命を落とす可能性が高い。
他人を寄せ付けない各従者たちに「待った」をかけるユミナ。
ユミナの声に反応し、頭をユミナへ向ける。
「行くのは、三人。今回は私を含めた四人パーティーにするからくじ引きで決める」
従者達は自分以外に視線を向ける。皆考えることは同じ。
((((行くのは自分だっ!!!!!!!!!!!))))
刺々しい空気。何も知らない一般人が入れば、見えない刃物で全身切り刻まれるような雰囲気。
唯一と捉えていいのか定かではない。血気盛んな従者達は自分の分身と呼ばる専用武器を一切出していない点。ここでクジで自分が当たる確率を増やすために邪魔者を消す素振りを見せれば、一発で主でもあるユミナに消される。だからこそ、従者達は目線だけで留めた。
時間にして十分。ユミナのお供は以下の通り。
①:ヴァルゴ
②:タウロス
③:リーナ
広間は、阿鼻叫喚の光景だった。女性が出していい声ではない叫び。遥か年上の従者達は、お菓子を買って貰えないスーパーマーケットにいる子ども。もしくは、賭け事に全部負けた者たちのようだった。ある者は床を拳で叩く。ある者は蹲って泣きじゃくる。またある者はデカい柱を殴り始末などなど。
ボルス城を作ったロリ吸血鬼の女王曰く、隕石が降って来ても破壊されないらしい。本当かどうかはこの際どうでもいい。我に帰ったユミナは目の前に広がる光景に身震いする。
「みんな、大丈夫」
選ばれた三人はユミナの下へ。
「気にしないでください、お嬢様」
ユミナが座る玉座は従者達がいる広間よりも目線が高い。数段段差があるので当然。だから、ユミナの下に集まる選ばれた者たちは自然と視線が下がる。
「負け犬の遠吠えだぜ」
不敵な笑みを溢すヴァルゴとタウロス。こっちもこっちで、生命体がしていい表情ではなかった。作戦が上手くいき主人公を恐怖のどん底に落とした悪役。そんな表現が非常に似合うヴァルゴとタウロス。
「ユミナ様、よろしくお願いします」
吸血鬼のリーナは、悪役二人とは違いユミナと冒険に出れる嬉しさでいっぱいだった。元々リーナがユミナの城でやっかいになるのは、まだ見ぬ景色を見るため。いわゆる見聞を広めるため。それもあってかリーナは上機嫌。
ユミナは立ち上げる。ここにいても悲惨さが伝わるだけ。出るタイミングを忘れれば一生、残った従者の醜態を見続けてしまう。何か言おうと精一杯の言葉を投げかける。
「みんな、留守を任せます。しっかりね!!」
ユミナ、ヴァルゴ、タウロス、リーナは広間を退出した。扉が閉まる。閉まった直後、内部から怒号が響く。応援団の応援並みの声量。どこから声を出しているのかわからないがやる気を出してくれたことにホッとするユミナ。
後ろを向く。
「......じゃあ、行こっか」
豪運ヴァルゴ。ことユミナが関わると途端に運気が上がる。