カップルの朝は早い
「白陽姫ちゃん、離してよ」
せつなの朝は白陽姫に抱きしめられている所から始まる。
恋人になってから、せつなは毎日、白陽姫と寝ていた。外では非常に理知な雰囲気を醸し出している白陽姫。しかし今は、せつなにしか見せない真逆のスタイルとなってる。
白陽姫は、せつなのブラウスを離さず、同時にせつなの背中に鼻をこすり嗅いでいる。だらしない声を出し、せつなの要求に拒否する白陽姫。
「いやぁ〜 ほっとくと愛人をつくるじゃん」
可愛い。凛とした白陽姫ちゃんも好きだけど、こう私にだけ見せる素顔は、胸が高ぶる。
白陽姫にとって、せつなは行く先々で女性を口説きセフレをつくる人と認識されてる。全くもって不名誉と反論するせつな。
「誰もそんなことしないよ」
完全に目を開いていない白陽姫。脳の覚醒はまだ時間がかかる。反対に腕の力は強まる。脊髄反射と表現していいのかわからない。せつなの腰に通された白陽姫の腕はコスセットの如く。締め付けられるせつなの腰。流石に女性高校生の腕力で内臓は出ない。行動の制限はつくし、昨日の出来事で少々汗をかいている。ベットから出て汗を拭いたい素振りをするたびに逃がさない白陽姫の力。
「タオルを取るだけだから。後水分を......」
ナンパ師の話し方をするお眠の白陽姫。
「お嬢さん。よかったら私の汗を貴方の服で拭ってもいいですか。クリーニングするために一度私の家に来ませんか。大丈夫。同性なんですから!!」
「殴っていい?」
親指で他の指を抑えるポーズをする。拳をグーにした。白陽姫が朝からおかしなことを言うようなら、ゲンコツをする。せつなの拳が白陽姫の頭に当たる寸前で固定されてる。せつなの拳はいつでも殴る準備がされてた。
「どうです? 一緒にサウナをしませんか。安心してください、防音はバッチリです。これを言うと恥ずかしんですが、一目見た時から貴方のこと......。目が離せないんです。だから、このような事をしてしまいました。軽蔑しますか? でも、もしよかったら......貴方の体に私を刻み込んでいいですか」
鈍い音が響く。鈍器で殴られた音。せつなの腰を離さなかった腕は白陽姫の頭へ。即座にベットから脱出するせつな。逃げられたが朝から強烈な一撃を喰らった白陽姫の頭は痛みでそれどころではないかった。
「恋人にぶたれた!! DVッ!!」
「白陽姫ちゃんがこんなにアホだと思わなかった」
恋人が同棲して、初めてお互いの価値観を知り喧嘩する様子を自分が味わうとは思わなかったせつなは困惑してる。リアルでもゲーム内でも、自分が憧れた女性達が次々、豹変する様を見せられる。落胆しかないとため息を吐くせつな。
起き上がり、ベットに座る白陽姫。ブランケットは白陽姫の体へ。
「白陽姫ちゃん、ブランケット返してよ」
「嫌だ。せめてもの抵抗。端末取って」
ペットボトルやタオル類、そして二人の携帯端末は机に全て置かれている。ベットにいる白陽姫と机にあるペットボトルを持つせつな。どちらが近いか一目瞭然。
白陽姫のお願いに、目を細めるせつな。
「ダメッ」
キッパリと言われる白陽姫。せつなの言葉は続く。
「白陽姫ちゃん、端末で私を撮ろうとしてない」
核心を疲れたことで、動揺し始める白陽姫。目は泳ぎ、口も水槽に入ってる金魚のようにパクパクしてる。
「なんのことかな。朝イチの株でも見ようと思ってただけ」
「すぐ見抜かれる嘘をつくとは......」
言い訳がめんどくさくなったのか白陽姫は、己の欲望を吐き出す。
「だって、朝日に照らされた恋人の肢体を撮りたいのが夢なんだから」
「『夢』って。言ってくれればいつでも、やってあげたのに」
せつなの言葉に衝撃を受ける白陽姫。頭に落雷が落ちるような。
「......それじゃあ!?」
「でも、ダメ。さっきの私に対する変な妄想をしたから」
電光石火。白陽姫のたどたどしい歩き方。人はこの行動に名を与えるならよちよち歩き、と命名するだろう。本来小さい歩幅で移動し、速度も遅いはず。だが、白陽姫の行動は矛盾している。言い換えるなら名前を言ってはいけない黒光の生物を狙うアシダカ先輩。
(その例えで行くと、私......。言ってはいけないアレ? うんなバカな)
ブランケットは宙に舞う。視線を誘導された。目線を下に向け直した時にはせつなの胸あたりに白陽姫の顔が埋まっている状態が出来上がった。
「ねぇ、今日は......。いつも以上に甘えたがりじゃん」
せつなと白陽姫の間柄は義姉妹で恋人同士。同学年。誕生日の関係上、白陽姫が姉。せつなが妹となっている。せつなは一人っ子だった。なので、姉を言う存在は妹を激愛するのは初めて知った。しかしここまでの行動をする姉への対応を変えないといけない。
白陽姫はせつなの胸に顔を埋めているので籠った声になっている。白陽姫から放たれる声と風がせつなにはむず痒かった。
「だって、せつな。『サングリエ』でまた新しい女性、つれてたじゃん」
せつなと白陽姫は同じVRゲームをやってる。白陽姫は古参プレイヤー。せつなは白陽姫と仲良くするために始めた。白陽姫はギルドに所属し、せつなは自由気ままにゲームをしてる。ひょんなことからプレイヤーネームをお互いが知り、時々冒険しているまで至った。
「もしかして、アクエリアスのこと」
クイーンは『サングリエ』を拠点にしてる。昨夜到着したユミナは探せなかった。でも、非常に注目を惹く。新たに従者になった水瓶座。巨大人魚が街中を飛行していれば目を引くのは当然。星霊はみんな知っている様子だったが、何も知らないユミナはアクエリアスに水中のように空中を漂う原理を聞いたことがある。答えは非常にシンプルなもの。アクエリアスのスキル。分かっていたが、そんとも言えない心境だった。
「白陽姫ちゃんも近くにいたんだ」
「ギルドがあるからね。それにレベル解放イベントの攻略のためにギルマスとメンバーたちで会議していた」
「声かけてよ!!」
「流石に、バカでかい人魚に気を取られてた。先日、聖女が結婚すると言ったのに別の女性を連れているんだ。気が休まない。それに......」
白陽姫の声が詰まる。
「私は、せつなの従者みたいに魅力的じゃないから......。恋人を満足させることができない。だから......」
せつなは白陽姫の髪を触る。
「あのね、白陽姫ちゃん。二つ訂正があります」
せつなは指を上げる。人差し指は上へ。
「一つ目。私の従者だけど、それはユミナであって、せつなじゃない」
次に中指を上へ。ピースサインの出来上がり。
「二つ目。私は白陽姫ちゃんが好きです。だから恋人になった。それに、白陽姫ちゃんに触れられてると私は素直になるの。身体は正直ってやつ。私はちゃんと満足しているよ、今の白陽姫ちゃんに」
「......せつな」
「自信と持ってよ。せつなの心は貴女のモノです」
自分で言うのも恥ずかしいけど、恋人のため。腹を括るせつな。
解放されたせつな。意図しては定かではない。せつなの飲みかけのペットボトルに手を伸ばす白陽姫。間接キス。好きな者同士でしか成立しない出来事。カップルなら尚更。
(白陽姫ちゃんが水を飲む姿......。妙に官能的。って、何を想像するのよ私の脳細胞は)
消えろと念じながら、上を手で仰ぐ。珍妙な動きをするせつなの傍ら、ペットボトルを机に置き、白陽姫はベットに戻る。
「なら、証明させて......」
ベットの上で手招きをされた。心臓の鼓動が身体中に響く————————。
「............いいよ」
せつなの体はそのまま招かれた。二人は手をからめる。唇を閉じたまま、お互いの唇を確かめ合うようなキスをする。唇を近づけたり、遠ざけたりしてお互いの唇を確かめ合う。愛情表現を楽しんでいると言えばいいのか。考えても仕方がない。今は目の前の相手に夢中。
時刻は朝7時。せつなと白陽姫は二度寝を決め込むのだった。