レベルアップ解放へ
「再び、サングリエ到着」
時刻は深夜。本来ならもっと早く到着した。予期せぬ出来事の連続で予定よりも遅くなってしまった。
無事にアシリアさんとカトレアさんを聖教教会に送り届けた。アシリアさんからは、中まで案内を受けたが、時間も時間だったので「後日、私から行く」で解決した。
アシリア達と別れ、ユミナは『サングリエ』の街中を歩いている。
しかし、その足取りは重かった。
「渦巻から触手モンスターが出てくるとは」
前のアップデートで『リリクロス』が解放された。海に面している街から行けるはずだった。途中に全てを飲み込む渦の影響で、今まで誰一人渡ることができずにいた。常時落雷や炎の槍が雨のように降るなど異常気象の連続。アクエリアスが変化したクジラで偶々近くと通ったユミナたち。寄り道する気はなかったけど、ユミナがエヴィリオン・ヴィクトールから受けているクエストに登場する魔獣が海中に出現していたのでついでに、と寄ったのが選択ミスだった。
話は戻すが、どうやら、異常気象を発生させていたのが海の生き物が触手と融合したモンスターが原因だった。で、あろうことに四体の魔獣も取り込まれてしまい、否応なく海怪獣と戦う羽目になってしまった。
「海底は割れ、触手モンスターの呼び声で落雷や生きた雲が出てくるとは......」
「いい汗をかきました!!」
そう言ったのは清々しいお顔のヴァルゴ。久しぶりの強敵につい力が入ってしまったと供述していた。
「にしても、やりすぎだよ。触手をバッタバッタ切り刻むなんて」
「お嬢様には言われたくありません」
「はて、なんのことかしら? ユミナ、わかんない〜」
婥約水月剣さん、一生ついていきます。敵の水分を奪うとか、海モンスター特化武器だよ、本当に。海で戦闘する時は、黙って婥約水月剣を使う。人権武器、マジ最高!!
流石に婥約水月剣だけでは暗黒触手モンスターは倒せなかったので、お手軽破壊兵器裁紅の短剣さんで決着した。
「アクエリアスもありがとうね、投げてくれて!!」
暗黒巨大怪獣触手モンスターと同等のデカさを誇るアクエリアスも参戦してくれた。
裁紅の短剣の【魔魂封醒】には発動条件に敵との距離が必要になる。アクエリアスには敵を倒せる距離まで移動してもらった。私ことユミナを投擲した。人間を投げ飛ばす行動をしてこなかったアクエリアスは困惑していた。ユミナの真剣な瞳に感銘し投げ飛ばしてくれた。結果、退治することに成功し、ユミナの魔獣兼使い魔が四体増えた。
「あれは、奴が気に入らなかったから手伝っただけよ」
そっぽ向いているアクエリアス。
「アクエリアスも星霊の端くれってことですね」
「あのね、ヴァルゴ。奴は私の大好きな海を汚した大罪生物。平手打ちしないと気が済まないってだけ」
「アクエリアスの平手打ちで、あのモンスター一瞬、空中に浮いていたよね」
巨人サイズの平手打ちなんて早々ない。モロ喰らって、頬に赤い紅葉形になっていた時には、いたたまれない気持ちになっていた。敵同士の関係だけど、申し訳ないと戦闘中に思ってしまった自分がいた。
「ま、何はともあれ。みんなが『リリクロス』に行けるようになった、てことか」
「それが、そうでもないんだな〜」
第三者の声。声のする方角に顔を向けると。
「カステラ!?」
フレンドのカステラが手を振って、ユミナに歩み寄る。
「久しぶり、ユミナ。いや、ユミナ様!!」
カステラの口を勢いよく塞ぐ。
「やめてッ!? カステラで何百人目だから」
「ぷはぁ、死ぬところだった......。だって、ユミナ達のおかげで『リリクロス』に行けるんだから。感謝もするよ」
『サングリエ』から一部始終を見ていたプレイヤー達。遠くからなので、ユミナの詳しいスキルや武器は確認できなかった。ユミナの従者も同様。アクエリアスだけは身長の問題でずっと目に入っていたとか。障壁だった渦は消え、新拠点に行けると感謝された。歩くたびに詰め寄られ、若干ウザくなった。目立ちたくないのが本音。
「私は、自分が受注のクエストに必要なモノを回収しに行っただけだよ。てか、どうしてここに?」
カステラと最後に会ったのは、魔法学園。生産職でもカステラは当分、魔法素材集めに勤しむと言っていたけど。
「うん? ユミナもじゃなかったの。私はてっきりユミナもイベントに参加すると思っていたんだけど」
「『イベント』?」
「昨日のアップデートで、プレイヤーのレベル上限が増えることになってね。上限を上げるのは、『サングリエ』の奥にある、あの塔を制覇しないといけないんだ。『リリクロス』に行く前にレベルを解放してからでも遅くないってプレイヤーが多いんだ」
カステラが指差す方角に、白大理石を使った、ゴシック様式とロマネスク様式の塔が聳え立っていた。
アップデートするとはクイーンから聞いていたけど、内容までは知らなかったな。クジラの上にいて、ログアウトするようにウィンドウ画面が出てくるとは。思わなかった。
「なんか、あれを思い出す。イタリアの」
「ピサの斜塔に酷似しているよね。あぁ〜 なんて美しい建造物。ピサの斜塔と違うのは、レベル解放塔は十二階立てってこと。全てをクリアしないとLv.100には上がれない」
「『十二階』。やりたくない」
「でも、意外と楽って噂よ」
「なんで?」
「あの塔、一階層毎に配置されているモンスターは『一世』だから」
「『一世』って、何かの暗号?」
「ユミナも倒したじゃん。新しい街に行くために倒さないといけないエリアボス。あの塔にいるのはエリアボスの前任者。つまり『一世』」
「あっ!? だから、エリアボスの名称全てに『二世』て入っていたんだ」
エリアボス全てに共通する文字が明記ってどうなんだとは思ったけど、ゲーム知識もない。今までゲームを碌にやってこなかったユミナにはそんなものかと無理やり納得した記憶がある。
「私はこれから、『支刻の獣塔』制覇しに行くけど、ユミナは?」
「私はパス。疲れた......」
「そっか。それじゃあね!!!」
星霊達が『支刻の獣塔』を見ていた。
「どうしたの、みんな?」
代表でヴァルゴが口を開く。
「あの塔から誰か見ていた気がして。睨むような」
ユミナも『支刻の獣塔』を凝視する。
「遠くて、内部まで視えないか。本当に誰かいたの?」
「ただの勘......ですかね」
「ま、近々行くし今日は帰ろうっか!!」
カステラとも別れ、ユミナたちは人気のない場所を見つけ、我が城へ戻った。