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ビッグバン・インパクト

 

「貴方は、行かないの」


 私の隣にいるグッダグ将軍に尋ねた。彼以外は空中でカプリコーンと戦闘を始めている。カプリコーンと対峙している兵士たちの表情は険しいものだった。カプリコーンの放つプレッシャーに打ち勝つ精神力を持っているが、同時に繰り出される隙のない剣技に翻弄されている。一人また一人と戦場から離脱していく。


「貴様が、何をするか分からないからな。あの者があの様な姿で戦場を駆けている。強大な力を有しているなら、初めから実行すればよかったはず。なら、主でもある貴様の指示だろう。あの者に皆が視線を集めている隙に何かを行う、と踏んでいる」


 この将軍、気づいていた? なかなか鋭いわね。でも……


「その通り、正解です!!」


 満面な笑みをグッダグ将軍に見せる。


「随分、あっさりだな」


「生憎、嘘が嫌いなもので。正直者って奴です!!」



 手のひらに星刻の錫杖(アストロ・ワンド)を出現させた。

 咄嗟に三叉の先端を私に向けるグッダグ将軍。


「正直者なので、今から起きる事は全て真実の出来事!!」



 満面の笑みは徐々に不敵な笑みへ移り変わる。グッダグ将軍の殺意が伝わる。


「何をする気だッ!!」


 星刻の錫杖(アストロ・ワンド)を投擲と同時にグッダグ将軍の三叉の刃先が私に迫る。


 得物同士がぶつかりあう。けたたましい金属音が鳴り、火花が散る。

 婥約水月剣(プルウィア・カリバー)で突技を防御。



 グッダグ将軍の三叉、バハムートが青く輝く。


「剣を通して、貴様を行動不能にする」


 グッダグ将軍が発動したのはバハムート専用スキル『海吸(ドレイン)』。

 対象のHP、MPを吸収し、自分の物にできるスキル。『海吸(ドレイン)』の利点は、対象に直接、刃先を当てても発動する以外に対象が持つ武器経由でもスキルが発動できる点と三叉槍のどこかに武器が当てても発動できる点の二点がある。


 長槍に分類されているバハムートは、接近すると小回りの効かない武器なので、懐に入られたら対処が難しい。三叉槍は穂先が殺傷能力があるけど、それ以外の部分はあまり役に立たない。せいぜい、柄部分を敵に向かって、殴る位。


海吸(ドレイン)』はバハムート、元より三叉槍のデメリット部分を解消してくれるスキルとも言える。


「何故だ......」


 ユミナへ睨む目が濃くなる。

 時間が経過しても、囚人の女が倒れないことにグッダグ将軍は怪訝な顔をしてしまう。


「貴女の持つ武器、スキルは彼女から教えてもらっているわ」


 ユミナの視線の先にいる赤髪の女性。アリスを守る傍ら、ユミナが騒動発生後に渡しておいた、武器を使って、海棲人の兵士たちと交戦していた。


「エフェクトで分かったわ。それ、私の体力などを奪うスキルだよね」


 婥約水月剣(プルウィア・カリバー)の剣先とバハムートの穂先、鍔迫り合いはなくなり、お互い一定距離離れた。


「ふふう!!」



 ユミナのニヤケずらがグッダグ将軍の癇癪に触ったのだろう。バハムートの持ち柄を力強く握っていた。

 婥約水月剣(プルウィア・カリバー)が輝く。


「この武器、婥約水月剣(プルウィア・カリバー)っていうだ。能力は非常にシンプル。対象の水分を奪う、それだけ」


「俺のバハムートと似ている......」


「敵が私の何かを奪うなら、こっちも敵から奪おうってね!!」


「相殺されたっということか」


 納得した表情を見せるグッダグ将軍。このままユミナとやり合っても勝ち負けのない戦いにしかならない。


(警戒は解かないか......)


 ユミナもまた、目の前のグッダグ将軍に集中した。名前に”将軍”が含まれているだけあって、剣戟が始まってからの隙がない。婥約水月剣(プルウィア・カリバー)があるから、今のところ五分五分。


 突きの構えを取るグッダグ将軍。時間稼ぎさせ、すればいい。婥約水月剣(プルウィア・カリバー)を構え、パリィの......あれ?


 両手に持っていたはずの婥約水月剣(プルウィア・カリバー)がいつ間にかなくなっていた。同時に自分の腹部に穴が空いていたことに気が付く。倒れるまではいかないが、キツいのが本音。


「【海突(トライデント)】」


 つかつかと私の方へ歩いてくるグッダグ将軍。


「今の攻撃で倒れなかったのは賞賛する。だが、もう終わりだ」


「貴女には恨みはないけど......計画のために戦闘不能になってもらうわ」


「言う立場が違うのではないのか。これで終わりだ、【海龍(ドレイク)】」


 一直線に向かう蒼い光の矢。

 衝撃で発生した地面の石ころは風圧で吹き飛んでいく。蒼矢の矛先でもあるユミナの周りは煙しかなかった。


「何っ......!?」


 煙の中にある影は立っていた。自分が放った【海龍(ドレイク)】は対象に突きの構えをすることで発動できるスキル。必中のスキルであり、威力は絶大。もしも【海龍(ドレイク)】の攻撃を受けても尚、立ち上げる者がいるならそれは人にあらず。


 煙はなくなり、姿を現した囚人の女。目の前の存在にグッダグは冷や汗をかく。


 眩い白銀が女の周りに集約する。女の前には少し大きめのナイフがあった。紅く漆黒を纏う刃。ナイフで煙を斬る。煙が払われたことで女の両サイドに不可思議な模様が浮いていた。地上には海藻に似た物があるとか、”ショクブツ”と言うとか。ここにきた海賊たちに見せてもらったことがある。囚人の女を守るように置かれている二枚の何かは、その”ショクブツ”と類似している。同時に腹部が完全に塞がっていることに驚愕した。自分は夢でも見ているのか、そうグッダグは自身に言い聞かせていた。


 何処までは本当で何処から夢だったのか。もう確認する余裕がない。


「微調整しないと。てか、これ......使って良いのかな」


 目の前の女はこちらを警戒しているが、自分を見ていなかった。持っているナイフに話しかけているように見えた。何か仕掛けてくる。長年の経験から断言できる。あのナイフは()()だ、と......



(タウロス、なんてものを復活させたのよ)



戰麗(アドバンス)』になりつつ、アクセサリーの『薔薇襲の荊乙姫(ブラック・ローズ)』を使い、直撃してもなんとか耐えれるととができた。



 テキストに記載されていた通りに、私が受けたダメージ量に合わせた花びらの盾が生まれた。”1”ダメージ=”1”秒が活動時間。受けたダメージ量で換算すれば、10000秒は私の両サイドを守ってくれる盾が出来上がった。



 にしても、タウロスには感謝するしかない。実は、グッダグ将軍の攻撃が強力すぎて『薔薇襲の荊乙姫(ブラック・ローズ)』で全てをカバーはできなかった。そこで、タウロスが復活させた裁紅の短剣(ピュニ・レガ)を装備した。



 【裁紅の短剣】(ピュニ・レガ)は自分のHPを吸収、もしくは受けたダメージ分。つまり消費したHPをナイフに宿すことができる。蓄えられたHPを糧に発動できる能力がある。それが、【魔魂封醒(フリーダム)】。



 どうやら、裁紅の短剣(ピュニ・レガ)専用の攻撃手段らしい。しかし、私とクイーンは本当に運命を感じる。実は、私は一度だけ【魔魂封醒(フリーダム)】という必殺技を体感している。


 クイーンの持つ破王双藍(セウカ)金始刀【閃】(コーナ)。この二つの武器はクイーンだけがクリアしたユニーククエスト《決意なる三位一体(トリニティー・クロス)》の報酬武器らしい。中身は教えてくれなかったけど、報酬の武器はオンリーワンの性能をしているので、情報屋や他のギルドのプレイヤーなどが押し寄せてきたとか。


 よもや私も【魔魂封醒(フリーダム)】の力が宿っている武器を使うことになるとは......これも運命なのかな。



 【裁紅の短剣】(ピュニ・レガ)に蓄えられたエネルギーで十分だったのか、発動開始の画面が出た。後は、私が音声を発するのと、発動条件を揃える必要がある。



 後ろへジャンプする。追撃を行うグッダグ将軍を『戰麗(アドバンス)』で強化された足と『薔薇襲の荊乙姫(ブラック・ローズ)の花びらの盾で対処。武器を使っての防御もできるが、グッダグ将軍は発動した【海突(トライデント)】を警戒してのこと。手持ちの武器でグッダグ将軍の攻撃を回避できるのは裁紅の短剣(ピュニ・レガ)だけ。【裁紅の短剣】(ピュニ・レガ)が手元を離れれば、今度こそ詰む。最悪負けてもいい。私は少しの時間を稼げれば良いだけ。


印電量(ライジング)】がグッダグ将軍の横っ腹に直撃。怯んでいる隙に距離を確保した。十五メートルだが、問題ない。もっと距離を離した状態で【魔魂封醒(フリーダム)】を発動すれば、グッダグ将軍は死んでしまう。


「............将軍、一つアドバイスします。防御に全力を注いでください」


「何っ?」


魔魂封醒(フリーダム)————————起動」


 私の音声に反応した裁紅の短剣(ピュニ・レガ)。紅色の部分は血液の如く流動的に脈を打つ。空気が一変する。離散していく風は【裁紅の短剣】(ピュニ・レガ)の柄に集約される。


 裁紅の短剣(ピュニ・レガ)を構える。足に力を込めた。



 地面を蹴り、駆ける。加速する体。自分の体は『薔薇襲の荊乙姫(ブラック・ローズ)の花びら盾で守られているにしても、安全ではない。周囲に漂う風圧をかき集め、【魔魂封醒(フリーダム)】に転用している。バランスを崩れば、顔面から地面へディープキスする危険性がある。意識をしっかり持つ。尚も加速していく体。裁紅の短剣(ピュニ・レガ)の剣先をグッダグ将軍へ。



「————————【撃朱の剣(インパクト)】」



 瞬間風速がいくらか主観的なことはわからない。視認できる状況では、地面が抉れていることだけ。

 引っ込めた裁紅の短剣(ピュニ・レガ)を前へ突く。まとわりついていた風は一気に裁紅の短剣(ピュニ・レガ)の剣先に集まり、ロケット発射のように放出された。膨大なエネルギーは一気に地面も巻き込まれ、兵器のパーツとなる。全てを飲み込む。



魔魂封醒(フリーダム)】:【撃朱の剣(インパクト)】は突撃技。敵に向かって突撃をすることで、周囲に大爆発と破壊された物を吸収し、エネルギーへ変換される。自身のダメージの総量で刀身にエネルギーが溜まる。裁紅の短剣(ピュニ・レガ)装備時からエネルギーが蓄積されるシステムとなっている。


 もう一つ、【撃朱の剣(インパクト)】発動に必要なトリガーがある。それは、対象との距離。攻撃対象とどれだけ離れているかで【撃朱の剣(インパクト)】の破壊力も変動する。距離を間違えると自身も消滅してしまう超強力エネルギーの塊。


 建物も餌食になる大爆発。



 裁紅の短剣(ピュニ・レガ)から光がなくなり、灰色に変色した。【魔魂封醒(フリーダム)】と最大出力によるエネルギー枯渇。形が保たれているところから、修理すれば再活用ができる。こんな破壊しか生まない武器。今度も使って良いのか不安になる。


 私は周りを見渡す。グッダグ将軍と十五メートルしか離れていないのに、この有様。破壊の権化、崩壊の一途。目の前に建っていた建物は建物としての機能はなくなり、瓦礫と化した。隣接するいくつかの建物は壁やガラスに亀裂があるくらいのダメージ。もう少し距離を離していたら、どうなっていたのか。試したいようなしたくないような複雑な感情を抱えてしまった。


 徐々に視界を遮る砂埃がなくなる。目の前で防御の構えをとっていたグッダグ将軍。彼の鎧は半壊。持っていた三叉槍は穂先から崩れてしまう。地面に膝をつき、脱力顔。もうグッダグ将軍に戦いの意思は見えなかった。残ったいるのは私を刺す鋭い眼差しのみ。


「貴様、ワザと外したな」


「私は、元々、貴方の命を刈り取る予定はありません。時間稼ぎだけが目的ですので〜」


「『時間稼ぎ』だと......」


(もう、そろそろかな......キタッ!!)


 地面に灰色の破片が落ちてきた。色合いと材質、上から落ちてきた。それらを考えた結果、安心感が優った。


 裁紅の短剣(ピュニ・レガ)を解除する。


「武装を解除するとは......」


「生憎、私の目的は貴方を倒すことではありません」


 上から次々、破片が落ちてくる。グッダグ将軍の周りにも破片が落下してきて、見上げる。


「貴様......何をした」


 役目を終えた星刻の錫杖(アストロ・ワンド)が私の元へ戻ってきた。


「私の杖って、特殊で」


 剥がれたことで生まれた巨大な衣。海底都市の地に降り立ったことで、煙が周囲を覆う。

 幸運値はそこまで、上げていない。これは、リアルラックなのか、と私の内心はよっしゃー、ラッキー!!

 状態。ちょうど背後に落ちてきた落下物。横目で見ても当たれば即死級の落下物。落下したことで微ダメージは発生したものの、実害はそれほどない。瓦礫は残るシステムではなく、霧散していくのは知っている。ただ、霧散エフェクトが光色に位置しているから、地面に写る私の影がでっかい。



「どんな呪いも解呪できるのよ」


 いや、嘘をつきました。アリエスの呪い、未だに解呪できない。不甲斐ない主ですみません。



 空中? 翼を展開して最後の兵士を片付けたカプリコーン。彼女だけは少し口角を上げている。それ以外の、ミランダやアリス、周りの兵士たちも絶句。


 カプリコーンが私の隣に着地した。同時に【接触禁止(ミカエル)】もリキャストタイムに入った。


「成功ですね、ご主人様」


 カプリコーンはウェーブがかかったライムグリーンの髪の毛を見て、嬉しさが滲み出ていた。


「将軍さん」


 私の声に反応したグッダグ将軍。彼もまた今起こっている現象に絶句していた一人。槍だった棒状を下に向けていた。


「貴様は初めから......」


「神様の声、聞きたくありませんか?」


 石像から生きた人魚が出てきた。それだけでも驚愕の事実。加えて、巨大な人魚の容姿は、最古の文献の一部に記載されていたものと似ていた。上半身は女性の体、艶かしい鱗を帯びた下半身は魚の尾鰭となっている。緑がかかった豊かな髪に、白い肌、赤い瞳。胸につけているのは加工された貝殻なのだろう。


 ユミナとカプリコーン以外、言葉を失っていた。眠りから覚めた美女は、薄暗い海底都市に彩りを与えた。人魚を上位互換とも言える美女は、人魚の中の人魚。女王に相応しい肢体と引きつける魅力を持っていた。


 一同が、人魚姫に第一声を聴こうとする。石化が解かれた瞬間は、海棲人たちの歓声が上がっていたが、今はしっーんとしている。


「ちょっと、私も興味があるんだ」


 私が零した言葉に耳打ちをするカプリコーン。


「先に言っておきます、ご主人様。あまり、期待しないでください」


「えっ!?」


 台座から飛び出し、浮いている人魚。

 体を伸ばし、気だるそうな声を発した。


「はァ〜 よく寝た!! もう一回、寝よ」


 やれやれと額に手を置くカプリコーン以外、口を開き、微動だにしなかった。


「なんか、下が騒がしい。あれ?」


 人魚は首を曲げ、下を向く。昔、属していた懐かしい種族が変化していたことへの不安と、盟友の元気な姿に涙を流す。


「カ、カ、()()()()()!!」


 巨大な人魚の涙は普通の人間サイズには、死に直結する大きさ。カプリコーンはユミナを抱え込み、地面に落ちる水塊を回避した。安全な場所にユミナを降ろし、盟友と顔を合わせた。


「お久しぶりです、アクエリアス。それと、私はカプちゃんではありません」


「あのさ、どうして石抱にあっているんですか」

「死刑」

「フッざけんな!!」

「何処どの娘に【魔魂封醒(フリーダム)】を使わすなんて」

「いや......だってさ〜」

「自分が怪物を生み出したとは、考えないのか?」

「誰かと守る力だよ...」

「そっか......なら、いっか」

(相変わらず、チョイな)


魔魂封醒(フリーダム)】:【撃朱の剣(インパクト)

敵との距離で戦闘力が上昇。放たれるエネルギー塊の威力↓

0メートルから5メートル:不発

十五メートル:目の前の建物一つが崩れる。周りの建物が亀裂入る。

二十メートル:15平方キロメートルの地がクレーター&周囲は焼け野原。

二十五メートル:245 平方キロメートルが焼け野原

三十メートル:7777平方キロメートルが焼け野原



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